Taken
96時間 (テイクン) (2009年2月)
Taken
96時間 (テイクン) (2009年2月)
元熟練したセキュリティ・エージェントのブライアン (リーアム・ニーソン) は、今では前妻レノア (ファンケ・ヤンセン) と別れ、金持ちの男と再婚した妻が娘キム (マギー・グレイス) の親権も持って育てていた。離れてはいてもいまだに娘を溺愛する気持ちは変わらないブライアンは、たっての願いにほだされ、キムが友人と二人だけでパリに行くことを渋々ながら許可する。しかしキムがパリに着いたその日、何者かによってキムは誘拐される。ブライアンはすぐにパリに渡り、自分がこれまでに培った経験を総動員してキムの居所を突き止めようと奔走する‥‥
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ケイト・ウィンスレット主演の注目作「愛を読むひと (The Reader)」と「レボリューショナリー・ロード」の2本が同時に公開されており、どちらもそれなりに評価が高いが、先週「愛を読むひと」を見て、今週またウィンスレット主演のシリアスなドラマを見ようという気にどうしてもならず、ここはひとまずリーアム・ニーソン主演のアクション「テイクン」ですかっとすることにする。
近年、パリを舞台にしたアクション・ドラマが定期的に現れ、印象を残す。これはまず、リュック・ベッソンの出現が最も影響していると思われるが、その後登場したヤマカシ、および「ボーン」シリーズによって、パリがアクションの舞台としても矢面に登場してきた。007の「カジノ・ロワイヤル」ですら舞台はパリではなくてもヤマカシをフィーチャーしていたくらいだから、今やパリは単に恋人たちだけの街ではなくなったという印象を受ける。そのベッソンが製作、そしてヤマカシをフィーチャーしたアクション映画「アルティメット (Banlieue 13/District 13)」のピエール・モレル演出で、またまたパリを舞台に描くアクションが、「テイクン」だ。
ニーソンが演じるのは、セキュリティ・エージェントという仕事に没頭するあまり妻と別れることになった男性で、妻と別れることになっても一人娘とは別れ難く、仕事を引退した後もLAの前妻と娘の近くに未練がましく住んでいる。ある時娘キムが、友人と二人でパリに行きたいから親の承認書にサインしてくれと頼んでくる。最初は断るブライアンだったが、結局はまめに確認の電話を入れることなどを条件にサインする。
しかしキムと友人アマンダはパリに着いたその日に、滞在するアパートまで初対面の男とタクシーに相乗りし、結果として男に滞在するところを教えてしまう。その男は旅行中の若い女性をさらって人身売買するヒューマン・トラフィッキングの片棒を担いでいた。キムとアマンダが部屋で一息入れる間もなく屈強な男たちが部屋に押し入り、二人は誘拐される。男たちに身柄を拘束される前にブライアンにかけた電話を元にブライアンはすぐにパリ入りし、キムの行方を探し始める‥‥
近年、特に東欧から西欧に出てきた出稼ぎ系の裕福ではない若い娘たちを誘拐したり人身売買したりするヒューマン・トラフィッキングがかなり問題になっている。2、3年前にはそのものずばりの「ヒューマン・トラフィッキング」というミニシリーズがライフタイムで放送されてミラ・ソルヴィノが主演していたし、その後もCBSの「CSI」やNBCの「ロウ&オーダー」フランチャイズではヒューマン・トラフィッキング関係の話を何度も見た。最近の一話完結型の刑事ドラマでは、なんらかの形でヒューマン・トラフィッキングがプロットに絡まない番組を見つけることの方が難しい。
これらは組織的な犯罪として確立されており、近年ではかどわかされる子女が貧乏な者たちだけでなく、ごく一般家庭の子女から金持ちの子女もそのターゲットになるようになった。犯罪が組織化してその手口が洗練されて完全に法の目から逃れられるようになれば、むしろ見映えのいい金持ちの子女に手を出そうとする者が増えても当然だろう。「テイクン」はそういう背景を土台としており、それなりに話自体に説得力はある。
ニーソンで演じる父親ブライアンは、それなりにフランス語をしゃべっていたとはいえ、基本的に右も左もわからない異国で、ただ娘を無事にとり戻すためだけのために法律や交通ルールをまるで無視して悪人どもの懐にせめぎ入るのだが、その掟破りの活躍がまったく痛快。いわば記憶をなくしたわけではないスーパーエージェントのジェイソン・ボーンが、中年になって目的意識を持ったらこんな風になるのではないかという感じだ。
一方、娘のためなら何でもする父親像というのは、親の鏡のように聞こえないこともないが、別の視点から見れば、実はブライアンはいい歳してまだ子離れのできていない父親に過ぎない。ハイ・ティーンになればたとえ女の子であろうと一人で、あるいは友人と海外旅行、留学なんてやって当たり前であり、未開の国や戦地に行くのならまだしも、パリに行くことに、まあ、都会だからこその危険や誘惑もあろうが、しかしそんな事言ってたらなにもできやしない。そのくらいの娘の行動を渋るブライアンは、やはり子離れができていない。働いている時に仕事で始終家をあけていたため、娘とあまり一緒にいられなかったことに対する反動もあろうが、私が娘なら、こんな父親嫌だろうなと思う。
作品としては、そういう娘以外に周りが目に入らない父親がちゃんとスーパーヒーローとして感情移入できるように造型されており、そのほとんど荒唐無稽とも言える活躍に思わず喝采を送ってしまうところがキモだ。ブライアンは娘のためなら何でもする。それは時に法を破ることになるが、そんなことは気にしない。むろんそれくらいの方が見ている方も面白いのだが、彼の昔の商売敵で今はフランスの防衛関係の要職についているジャン-クロードが何か隠していると見ると、彼の妻を撃ってもジャン-クロードの口を割らせようとする。さすがにここまで来ると正義の味方とは到底言えないが、しかしそのジャン-クロードも何か後ろ暗いことがありそうなので、ブライアンの行動を正当化している。しかし、彼の妻は何も知らない第三者だろ、それを撃ってしまうのはまずいのではという気はしないでもない。
ニーソンは近年のアクション系の出演作品では、「スター・ウォーズ」や「バットマン」、「キングダム・オブ・ヘヴン」等、自分が主人公ではなく、ヒーロー主人公の手助けをしたり導師的立場となったりする脇の方が多かった。まあ歳を考えるとそんなものかなという気もするが、しかし「テイクン」ではばりばりのアクション主人公であり、うまく役柄にもはまっている。アメリカではめったに経験しないことだが、上映が終わった後、スクリーンに向かって拍手をしていた者が結構いたということは、リーソンの活躍ぶりにすかっとした者が多かったということだろう。
娘キムに扮しているのはマギー・グレイスで、ABCの「ロスト」では鼻持ちならない甘やかされた女性シャノンをうまく演じていた。「ロスト」では結局ほとんど銃の暴発のような形で撃たれて死んでしまったわけだが、「テイクン」でも同様にわりと甘やかされて育てられた娘という役どころだ。ただしここではそれが好感を持たれるように役が造型されている。確かにただのわがまま娘では、ブライアンが我が身を忘れてパリまで赴いて娘を探そうとすることに説得力を持たせられまいとは思うが、しかしそれをちゃんとうまく演じている。キムをいい子に見せるために置いたもう一人のわがまま娘アマンダの出し方もうまかった。
演出は「トランスポーター」の撮影を担当し、「アルティメット)」で監督デビューしたピエール・モレル。「アルティメット」はアメリカでは劇場公開してなく (と思って調べたら、マグノリア・ピクチャーズが配給で2006年公開になっていた。知らなかった。いずれにしてもせいぜい単館だろう)、私はいつぞやたまたまつけたTVでインディペンデント専門チャンネルのIFCあたりでやっていたのを偶然目にして、それからあのヤマカシ・アクションに引き込まれて見た。
映像的にはまったくアメリカのスラムを舞台にしているようだが、登場人物がどう聞いてもフランス語をしゃべっているミス・マッチのような感覚が新鮮だった。なんというか、昔ハリウッドのアクション映画漬けになっていた時に、いきなり何の前触れもなくオーストラリアから「マッド・マックス」が現れた時の衝撃、というほどでもないが、それに近い驚きがあった。「テイクン」ではまたヤマカシ路線で行くわけにもいかず、正統的にアクションを撮っているが、きびきびした演出で充分楽しませてくれる。フランス・アクションもなかなかやる。