Insidious


インシジャス (インシディアス)  (2011年4月)

学校教師のジョシュ (パトリック・ウィルソン) とルネイ (ローズ・バーン)、まだ幼い息子のダールトン (タイ・シンプキンス) とフォスターのランバート一家が引っ越してくる。しかし間を置かずして、家の中で不思議な出来事が起こり始める。ジョシュに不安を告げるルネイだが、ジョシュはとり合わない。そしてダールトンの言動がおかしくなり、ついに昏睡状態に陥ったまま眠りから覚めなくなってしまう。なんとかダールトンを目覚めさせようとジョシュの母ロレイン (バーバラ・ハーシー) が連れてきたのは、霊媒のエリース (リン・シェイ) だった。ジョシュは一笑に付すが、藁にもすがる気持ちのルネイは、ジョシュを説得して降霊術を試みる‥‥


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ホラーは製作予算に関係なく、アイディア次第で一発大ホームランが期待できるジャンルだ。一昨年の「パラノーマル・アクティビティ (Paranormal Activity)」は、そのことを如実に証明して見せた。チープさを逆に雰囲気作りに反映させることのできる唯一のジャンルなのだ。


まあ、一発当たる作品が出れば柳の下の二匹目のどじょうを狙う作品が出てくるのは世の習いだし、既に「パラノーマル・アクティビティ2」もできている。とはいえ2作目が前作を凌ぐというのは稀だし、なんとなく展開が読めるので、「2」はパスしていた。


というところに現れたのが、「インシジャス」だ。やはり「パラノーマル・アクティビティ」系の一軒家ものらしく、普段ならほとんど一瞥してパスなんだが、予告編を見ると、パトリック・ウィルソンとローズ・バーンが出ている。マスコミの評価を見てみると、意見は割れているが誉めている媒体もあり、ちょっとそそられた。


「インシジャス」は、しかし、「パラノーマル・アクティビティ」のように、徹頭徹尾一軒家の中で話が展開するわけではない。必要最小限ではあるが、外にも出るし、病院へも行けば学校も映る。魑魅魍魎どもが跋扈する異界のような場所もある。とはいえ、やはり「パラノーマル・アクティビティ」同様、製作規模よりアイディア、という印象を受ける類いの作品であることは確かだ。


話もわりかし単純で、とある夫婦の幼い息子が原因不明の昏睡状態に陥る。時を同じくして説明不可能の現象が彼の周りで起こり始める。いったい彼の内部何が起こっているのか、何が魔界の者どもを引き寄せているのか‥‥という話だ。


実は実際に見て出演者であっと思わされたのは、主演のウィルソンでもローズでもなく、息子のダールトンを演じるタイ・シンプキンスだったりする。ふわふわブロンドの、ちょっと無口で思わず抱きしめて頬ずりしたくなるようなタイプで、この子、つい最近も見たぞ、さて、どこでだっけ、と考えて、思い出した。「ザ・ネクスト・スリー・デイズ (The Next Three Days)」でラッセル・クロウの息子を演じていた子だ。口数が少なくて、自分の世界に入りがちで、ややもすると自閉の子に見えなくもない、という感じが印象的だったのでよく覚えていた。


まったく同系統の印象を持つ子に、ホラーのクラシック「ザ・シャイニング (The Shining)」の少年、あるいは「オーメン (The Omen)」の少年がいる。そういう、あっちの世界に行ってしまいそうな感受性を感じさせる子なのだ。いずれにしても、思い立ってシンプキンスのキャリアをチェックして驚いた。既にハリウッド・スター顔負けのキャリアなのだ。まだ10歳にもならないだろうに、これまでに「宇宙戦争 (War of the Worlds)」「リトル・チルドレン (Little Children)」「プライド・アンド・グローリー (Pride and Glory)」、「レボリューショナリー・ロード (Revolutionary Road)」等々、錚々たる作品に出演している。「宇宙戦争」の時なんて物心ついているかすら怪しい。


いずれにしてもこれまでに共演した面々は、トム・クルーズ、ケイト・ウィンスレット、ジェニファー・コネリー、エドワード・ノートン、コリン・ファレル、レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ等々だ。これらの綺羅星の如くのスターの子役として抱かれていたわけね。うちウィンスレットとウィルソンとは2度共演し、ウィルソンとは2度とも親子役だ。こりゃ将来のダコタ・ファニングだな、と思って、考えたらそのファニングの弟役として既に「宇宙戦争」で共演しているのだった。末恐るべし。


「インシジャス」は「パラノーマル・アクティビティ」を彷彿とさせるホラーであるわけだが、その中身はというと、実は印象はかなり似て非なるものだ。まずオープニングの、必要以上に大音量のこけ脅し音響もそうなら、特に「インシジャス」の印象を決定しているのが、中盤以降登場して幽霊/スピリッツの存在を確かめようとする、二人組キャラクターの存在だ。


この二人、ダールトンが異界に連れ去られたと思われるため、カメラや録音機やガイガー・カウンターのようなギミックを用いて、家に霊が存在するかを科学的に検証するために雇われた。要するにディスカバリーの「ゴースト・ラボ (Ghost Lab)」もしくはSyFyの「ゴースト・ハンターズ (Ghost Hunters)」がやっていることだ。これらはシリアスな番組なのだが、別の作品で同様のキャラクターが登場するとどうしてもおちゃらかされてしまうというのが、この手の存在が一般的にはどういう風に受け止められているかがわかる。


さらにオーヴァー・リアクション演技の霊媒役のリン・シェイ、これまたオーヴァー・シリアスなバーバラ・ハーシーという存在のため、「インシジャス」は後半かなりの部分、ひねったブラックな笑いのオブラートをまとう。そのため、「インシジャス」と印象が似ている作品というと、サム・レイミの作るホラーということになるんじゃないかと思う。レイミ・ホラーからひねった笑いとぐろいパワーを3割がた薄めた感じと言えるだろうか。それにしてもハーシーも、バレエ・ホラーの「ブラック・スワン (Black Swan)」に続いてのホラーもの。周りが目に入らない痛い思い込み中年女性を演じさせたら、ハーシーか、イザベル・ユッペールが双璧という感じ。


演出は「ソウ (Saw)」シリーズのジェイムズ・ワンで、実は私は視覚的に痛いのがあまり見れないので、ワン作品で私が見ているのは「デス・センテンス (Death Sentence)」しかないのだが、今回チェックしていて、たぶん日本ではそのままお蔵入りになるだろうと思われた「デス・センテンス」がいつの間にか公開されていて、邦題が「狼の死刑宣告」になっていた。確かに「デス・センテンス」は「死刑宣告」なのだが、日本語にしてしまうと、なんか雰囲気変わる。さらに「狼」がついただけで、ほとんどまったく別の作品になってしまったような気がする。これじゃまるでチャールズ・ブロンソン主演のアクション映画だ。


いったいどこから狼が来たのだろうと思っていたら、原作がそのブロンソン主演の「狼よさらば (Death Wish)」のブライアン・ガーフィールドであることから強引に狼づけたようだ。「Death」絡みもあったんだろう。いずれにしてもそのため、最初、ふうん、ワン、知らないうちに新作撮ってたのか、しかもこれ、知らないからたぶんヴィデオ・スルーの作品なんだろうなと思っていた。「デス・センテンス」だったか。


たぶん「狼の死刑宣告」はまだ「ソウ」に近いものを持っていたと思うが、「狼の死刑宣告」と「インシジャス」では、かなり印象が違う。ほとんど同じ演出家が撮った作品とは思えないくらいだ。「狼の死刑宣告」を見た時、たぶんワンはハリウッドでも充分やっていけるだろうと思ったが、今回の力を抜いた作品でも行けるのを見て、そのことを再確認した。ホラーにアクション、それに力を抜いたコメディ系 (とは完全には言えないかもしれないが) も撮れるとなれば、鬼に金棒だ。








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