The Next Three Days


ザ・ネクスト・スリー・デイズ  (2010年12月)

コミュニティ・カレッジで英語を教えているジョン (ラッセル・クロウ) の妻ララ (エリザベス・バンクス) が殺人罪で逮捕される。彼女の上司が殺され、彼女が近くで目撃され、さらに彼女の福には血がついていた。多少酔っていたララの記憶は曖昧で、状況証拠からララは有罪を宣告され、刑務所に収監される。しかし夫と息子と離れての刑務所暮らしは、ララを段々追いつめていく。3年後、自殺を考えるララにジョンは、これ以上再審のチャンスは待てないと決断、自力で刑務所破りを決行してララを救い出すと決心する‥‥


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ラッセル・クロウとメル・ギブソンのキャリアは、かなり似ているところがある。二人ともオーストラリア出身で、基本的にアクション・スターとして売り出しているが、演技力も評価されている。クロウは演技で、ギブソンは演出でという違いこそあるが二人ともアカデミー賞を受賞している。


そしてなによりも二人が似ていると感じさせるのが、その素行によるスキャンダルだ。クロウはニューヨークで、ギブソンはLAで逮捕歴がある。ホテルで従業員に当たり散らしたクロウ、酒酔い運転の上、警官に暴言吐いたギブソンとそれぞれ業上は異なるが、あまり面目いいものではないことはもちろんだ。


なんてことを連想したのも、クロウの最新主演作「ザ・ネクスト・スリー・デイズ」公開とちょうど同じ時期に、ギブソン主演の最新作「ザ・ビーヴァー (The Beaver)」のプロモーション・ヴィデオが、芸能情報番組で最近よく紹介されているからだ。クロウはギブソンのように完全にキャリアに傷がつくほど痛手を被ったわけではないが、それでもこの二人、つい比較してしまう。


クロウは「グラディエイター (Gladiator)」「ロビン・フッド (Robin Hood)」みたいな、いかにもヒーロー・タイプを演じることも多いが、一方で体重を増やして一見冴えなく見える腹黒いタイプの男も演じている。「インサイダー (The Insider)」や「ワールド・オブ・ライズ (Body of Lies)」のような作品だ。「ネクスト・スリー・デイズ」はそれらの作品とも異なり、近年では最も普通の人っぽく見える作品と言える。


クロウが演じるのはコミュニティ・カレッジの英語教師ジョンだ。美しい妻と愛する一人息子がおり、まずまず幸せな家庭を築いていると言える。もし何も問題が起きなければ、そういう生活のまま定年を迎え、孫に囲まれて一生を終えることになんの不満もなかったろう。それがある時激変する。妻の上司が殺されるが、妻がその犯人とされる。妻の服に上司の血がついていたが、その時酒が入っていた妻は記憶が曖昧でうまく釈明できず、有罪の判決を受けてしまう。妻の無実を信じるジョンは再審請求に奔走するが事態ははかばかしくなく、弁護士も諦めるようにジョンを諭す。しかし諦め切れないジョンは、妻を脱獄させる決心をする。


ジョンは一介の教師に過ぎず、それまで犯罪とは無縁の生活を送ってきた。それが刑務所破りという非常手段に訴える決心をする。しかし、彼には伝手も手段も金もない。すべて一から始めなければならない。決行には武器が必要でそれには金が必要で、首尾よく成功して海外に逃げるためには偽造のパスポートも必要だ。ジョンはこれまで何度も刑務所から脱獄した経験を持つ男に連絡をとる (因みにこの1シーンだけカメオ的に男を演じているのはリーアム・ニーソンだ。)


もちろん犯罪者の知人などいないジョンは、ほとんど手探りで計画を進める。勝手知らない世界だ、時には騙されて有り金全部騙しとられたりぼこぼこにされたりしながらも、少しずつ前に進んでいく。刑務所内のエレヴェイタの鍵のコピーを作ろうとした時はもう少しで事が発覚しそうになり、そのプレッシャーで吐いてしまう。


クロウはやはりカリスマ的なヒーロー・タイプが最も似合っていると思うし、業界でもそう思われているのだろう、こういう一般人を演じるクロウを見る機会はあまりない。しかしここではこれから自分が行う事が犯罪だと知りながらも、すべてを犠牲にしてでも無実を確信している妻を助け出そうとする普通の夫という役どころを意外と好演している。脇もなかなかよく、妻ララを演じるエリザベス・バンクス、ある程度息子がやろうとしていることを知りながらも、黙ってサポートするジョンの父を演じるブライアン・デネヒーなどが特に印象に残った。


なかなか意外な拾い物という印象の映画なのだが、この作品、単にTVで予告編を見てクロウが出ているアクションものということで、まあ面白いだろうという軽い気持ちで見に行ったに過ぎない。そのためほとんどまったくと言っていいくらい前知識がなく、本編が終わって最後のクレジットが流れ始めて、これがリメイクだと知った時には驚いた。フレッド・カヴァイエ演出、ヴァンサン・ランドン、ダイアン・クルーガー主演の2008年フランス映画「すべて彼女のために (Pour Elle/Anything for Her)」のリメイクだ。


フランス映画はジャック・オーディアールの「ア・プロフェット (A Prophet/Un Prophete)」、ギョーム・カネの「テル・ノー・ワン (Tell No One/Ne le dis à Personne)」のように、犯罪ものを撮らすと下手に小手技に頼らないリアリスティックできりりと締まった佳品に仕上げる。ハリウッド作品のように最初にアクションありきでなく、まずよくできた人間ドラマとしてあり、それにアクションがついてくる。きっとオリジナルもそういう作品だったに違いない。


しかし私にとって本当に驚きだったのは、この作品がリメイクだったということよりも、このリメイクを撮ったのがポール・ハギスだったことを知った時だ。スクリーンに映ったハギスの名を見て、思わず自分の目を疑った。これって、ハギスが演出していたのか。今後自分の作品は自分で書いたものだけを撮ることにしているに違いないと思っていたハギスが、人の書いたもの、それもつい最近既に一度作られている作品のリメイクを手がけるなんて、まったく夢にも思わなかった。それだけオリジナルに感心したかそれても演出を断れないなんらかの事情があったか。確かに最後のどんでん返しはいかにもハギス好みであり、その辺でハギスを疼かせるものがあったかもしれない。それでもハギスの名は、クロウ演じるジョンの刑務所破りの顛末と同じくらいは驚いた。








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