Revolutionary Road


レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで  (2009年2月)

1950年代ニューヨーク郊外。フランク (レオナルド・ディカプリオ) はパーティでエイプリル (ケイト・ウィンスレット) を見初め、二人はつき合い始め、結婚する。野心に燃えるフランクと女優志望のエイプリルだったが、結局二人とも現実の重さをわからされる形で、最終的には郊外に家を構え、二人の女の子をもうけ、それなりに平安な家庭を築いていたように見えた。しかし、特に面白くもない仕事に身を入れる気にもならないフランクは秘書課の子と浮気し、一方、単に家庭にいることを潔しとしないエイプリルも煮詰まり、二人は些細なことで諍いを起こすようになる‥‥


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「タイタニック」のカップルとして、人が覚えているスクリーン上の恋人同士としては史上1位なのはまず間違いないと思えるレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが再びタッグを組んだ「レボリューショナリー・ロード」、今度は怖いもの知らずの若い者同士ではなく、成長して世間の波にも一通り揉まれ、喜びも倦怠も体験した一組のカップルとしてまた我々の前に登場する。


さらに演出は現実のウィンスレットの夫として、過去、既に「アメリカン・ビューティ」という傑作をものにしているサム・メンデスであるなど話題性も充分だ。一つ気にかかる点があるといえば、超知名度のあるカップルを主人公にしているといえども、その内容は地味な50年代を舞台とする家庭劇という点で、二人が乗っている船が沈没するわけではなく、大きなアクションという点では期待できない。それにしたってこの二人に対抗できるカップルは、たぶんブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーくらいしかいないだろう。


しかし、ここで思いもしなかったことが起こった。地味な作品とはいえ評は悪くなく、そこそこの興行成績も期待できなかったこの作品に思わぬところからライヴァルが現れた。それがウィンスレットが主演している「愛を読むひと (The Reader)」だ。この作品、少なくともアメリカでは昨年末まではほとんど聞いたこともなかったのだが、それが各種映画賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞ではウィンスレットが「レボリューショナリー・ロード」で主演女優、「愛を読むひと」で助演女優賞と、ダブル受賞する快挙を成し遂げた。それと共に、それまで注目されていた「レボリューショナリー・ロード」とは別に、では、その「愛を読むひと」ってなんだと、人が注目し始めた。


それまで喧伝されていたためにある程度内容も知られていた「ロード」に較べ、ドイツを舞台とし、ミステリ仕立ての戦後ドラマ「愛を読むひと」が、俄然注目され始めたのだ。そのわりを最も食ったのが、同じウィンスレットが主演している「ロード」だったというのが皮肉といえば皮肉だが、ほとんど同時公開の「愛を読むひと」と「ロード」で、ではどちらを先に見るかというと、人が「愛を読むひと」を優先したのは納得できる。私もそうだったからだ。そして「愛を読むひと」を見てしまった観客が「ロード」を見ないで終わった確率は、非常に高いと思う。


実際、両者のポスターを見比べてみると、白地に淡い写真を配したセンスもほとんど一緒で、これではどちらかを先に見てしまうと、それだけで満足してしまいそうだ。「ロード」がディカプリオ、ウィンスレットの熱演にや作品のできにもかかわらず、途中からいきなり人々が話題にしなくなったのはこういう経緯が大きく関係していると思う。アカデミー賞ですらディカプリオだけでなく、ゴールデン・グローブをとったウィンスレットまで少なくともこの作品では無視され、「ロード」からは助演男優のマイケル・シャノンがノミネートされるに留まった。シャノンのノミネートに異議を挟むものではまったくないが、しかしこれではディカプリオとウィンスレットが可哀想だ。ウィンスレットはまだいい、「愛を読むひと」で主演女優賞とったし。しかしディカプリオは本当にがっかりだろう。


「レボリューショナリー・ロード」の熱が冷めたのは、その上、その内容も関係していると思う。「ロード」も「愛を読むひと」も悲劇なのだが、第二次大戦の後遺症を背景に歴史的悲劇とも言うべき大きなドラマを構築した「愛を読むひと」に較べ、「ロード」は徹底してドメスティックで、そのため時代物といえども我々の実生活に関連しやすく、よけいにやり切れない気持ちにさせた。メンデスが「アメリカン・ビューティ」で見せたように、シニカルでブラックなコメディ・タッチで悲劇を突き放して見せるのではなく、もっと親密でドメスティックな悲劇を見せるものだから、観客は第三者的に作品を楽しむというよりも、逃げ場のない罠に絡めとられるような気持ちになったのだ。そのため、「ロード」を友人知人に推薦するという気にもならなかった。そしていつの間にか「ロード」は段々話題に上らなくなった。



(注) 以下、両作品の重要なプロットに触れています。


ウィンスレットは両作品で悲劇の主人公 (ゴールデン・グローブで「愛を読むひと」で助演としてノミネートされたのはほとんど納得いかない。これはやっぱり主演だろう) を演じているわけで、しかも両作品とも最後には自殺する。「ロード」では特に明確に意識しての自殺というわけではなく、自分で子供を中絶しようとしての事故死という感触の方が濃厚だが、それだって自分が死ぬ可能性を考えなかったわけはない。胎児を処理した後、虚ろに外を見渡すウィンスレットの表情から「愛を読むひと」で首をくくる決心をした老境のウィンスレットの表情を連想せざるを得ないため、「愛を読むひと」を見た後で「ロード」を見ると、これはもう決心した自殺にしか見えない。


ただし両方とも自殺とはいっても、その印象はかなり異なる。「愛を読むひと」のハンナの自殺は、自分はこの世界でやることはやった、もう思い残すことはない的な、悲劇ではあるけれども、その事実がマイケルになんらかの影響を与え、そしてマイケルの行動が次世代に続いて行くという、儚くはあるけれども一種の希望のような余韻を残す。しかし逃げ道を塞がれて行き詰まった挙げ句、中絶しようとして死んで行くエイプリルにはほとんどなんの救いも感じられない。ただただ陰々滅々と索漠たる気持ちになるだけだ。


それにしても、こういう役を連続で演じるウィンスレットって、とてもじゃないけど本人の気持ちが強くなくてはやっていけないという気がする。草食民族にはやっぱり無理なんじゃないか。こういう役を現実の妻にやらせるメンデスも大したもんだ。特に自分の妻にディカプリオ相手にラヴ・シーンをやらせて、ほんとに寝とられないか心配しないんだろうか。


ラヴ・シーンで気になることを思い出したが、ウィンスレットって、ラヴ・シーンを演じているのを目にする機会が結構あるが、なぜだかそれが全部揃いも揃って時間的に短い気がするのは気のせいか。だいたいいつも、相手の方が早く果ててしまうのだ。セックス・シーンばっかり見せるのを嫌って早く終わらせようとする演出家のせいというのは当然あるだろうが、それだけでもないような気もする。特に今回、隣家の夫君シェップとのカー・セックス・シーンでの短さは特筆もので、シェップがどんなにエイプリルに横恋慕していようとも、大の大人があんな三こすり半でいってしまうってことがあるのか。話よりなにより、あっという間に終わってしまったそのことの方がよほど強烈に印象に残った。あれじゃエイプリルだって不満だろうに。


さらにウィンスレットはベッドの上以外でのメイク・ラヴも多い。「愛を読むひと」ではまだ普通にベッド上が多かったとはいえ、「リトル・チルドレン」で最もよく覚えているのは地下室の洗濯機の上、本作ではキッチンおよびカー・セックスと、どうも普通じゃない場所でのセックスで刺激を得ているようだ。そのため相手も興奮して果てるのが早いのかもしれない。いずれにしても本当に巷ではウィンスレットに色気を感じる男の方が多いようだ。私の方が少数派だったか。


それにしてもウィンスレットの男運のなさは、特筆ものというよりは異常なくらいなのだが、そのわりにはその相手は今をときめく男優陣だったりする。近年だけでも、「ネバーランド」でのジョニー・デップ、「エターナル・サンシャイン」でのジム・キャリー、「リトル・チルドレン」でのグレッグ・エデルマンとパトリック・ウィルソン、「愛を読むひと」でのデイヴィッド・コスとレイフ・ファインズ、そして今回と忘れてならない「タイタニック」でのディカプリオと、そのすべてで恋は成就しないというか、悲恋、悲運で終わる。


これだけいい男に囲まれながらこれだけ不運な結果しか得られないのは、もしかしたら彼女の方にこそ何か問題があるのではという気にさせる。どんな男優も彼女と相対するととたんに零落してしまうのだ。そうじゃなかったのは、ウィンスレットがまだ女優としての評価を定着する前に共演したディカプリオとの「タイタニック」くらいだろう。しかしそのディカプリオはウィンスレットを仕合わせにするために自分の命を犠牲にしなければならなかった。そしてそのディカプリオですら、「ロード」ではウィンスレットを満足させることができず、最後にはただの悲嘆にくれる男になりさがるしかない。もしかしたらウィンスレットこそ稀代のヴァンプだったかという思いが頭をかすめるのだが、まだ結論を出すには時期尚早だろう。








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