Paranormal Activity


パラノーマル・アクティビティ  (2009年11月)

ケイティ (ケイティ・フェザーストン) の周りでは昔から心霊現象がよく起こるというので、ボーイフレンドのマイカ (マイカ・スロート) はそれを記録しようと、ヴィデオカメラを回しっぱなしにしてケイティを撮影する。最初は半信半疑だったマイカだが、実際、ケイティの周りでは不思議なことが連続して起こる。家に呼んだ心霊の専門家は、悪魔祓いは管轄外としてとっとと帰ってしまい、一方心霊現象はどんどんエスカレートして来る。なんとかしなければと焦るケイティとマイカだったが‥‥


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本当はジョージ・クルーニー、ユワン・マグレガー、ケヴィン・スペイシーといった錚々たる顔ぶれが出演する「ザ・メン・フー・ステア・アット・ゴーツ (The Men Who Stare at Goats)」を見に行こうと思っていたのだ。この映画、なんでも冷戦期に本気で超能力戦争の可能性を探っていた軍関係者を描くブラック・コメディだそうで、あまりにもバカらしくて面白そうだと思っていたら、実物は本当にバカらしいだけであるようで、ありとあらゆる媒体からけちょんけちょんに貶されている。ここまで貶されている作品を、貶されていると知りながら見に行って本当に面白くなかったりすると本気で腹が立ってしまうので、ここは諦める。もしかしたら批評家だけは貶すが実際に見た一般人は異なる意見を持つという可能性もあり、来週諦め切れずにやはり見に行くかもとも思うが、今んとこはパスだ。


一方、「ゴーツ」と異なり、既に公開が始まってかなり経つが、こちらの方は評はともかく、興行成績という点では大成功を収めているホラー、「パラノーマル・アクティビティ」がある。「ザ・ハングオーヴァー (The Hangover)」をこれまでのところ今年最大のハリウッド映画のスリーパー・ヒットとするならば、「パラノーマル・アクティビティ」は、インディ映画、外国映画をも含めた今年公開された全映画で最大のスリーパー・ヒットと言える。とにかく、低予算のインディ・ホラーのくせに、というか、だからこそというか、いきなりどこからともなく現れて、話題をさらってしまった。


インディ映画のスリーパー・ヒットといえば、だいたいホラー映画と相場が決まっている。むろん「パラノーマル・アクティビティ」もそうだ。ついでに言うと、さらにその中でも、登場人物がヴィデオ・カメラを持ち、作品がそのカメラで撮られたドキュメンタリーであるという設定で思い出すのは、これはもう一にも二にも「ザ・ブレア・ウィッチ・プロジェクト (The Blair Witch Project)」以外にない。このギミックはその後、「クローバーフィールド (Cloverfield)」「クアランティン (Quarantine)」等に受け継がれ、現在に続いている。その最新の例が「パラノーマル・アクティビティ」だ。


この設定における製作上の最大の利点は、画質が粗いことが許されることにある。なんせ普通の民生カメラで撮った作品という建て前であるので、画質がいいわけがない。値段の張る35mmフィルム・カメラを使わずに済み、しかも画質の悪い大義名分が立つ。さらに画質が粗いという質感が、逆にホラーだと効果的だったりする。誰も手持ちぶれぶれのカメラでラヴ・ロマンスを見たいとは思うまい。


ところで私は「パラノーマル・アクティビティ」を、落成して商売を始めたばかりの新マルチプレックスに見に行った。新しい劇場なので、設備がいい。音もいいしスタジアム・シートで椅子もいい。できれば背もたれが高いタイプよりは私は頭を乗せて見ることのできる背の低いタイプの椅子が好みなのだが、いずれにしても設備のいい劇場で見るのは気分がいい。それになによりもスクリーンや映写機が新しくて、非常に綺麗に絵が見える。


そしたら、当然のことであるが、「パラノーマル・アクティビティ」が始まったとたん、この画質の悪さはなんだと愕然としてしまった。それまでの予告編の綺麗さとは雲泥の差だ。こちらも最初からフィルムと同等の画質なぞ期待していたわけではないが、それでもあまりもの違いに唖然とした。こんなに違うのか。民生カメラを使用しているとはいえ、程度の低いHDTVくらいだろう、それならまあ許せる範囲だろうと思っていたのだが、これだけ歴然と違いを見せつけられると、この絵に金を払っているのかという気分になった。


私も今ではうちでも一応42インチのパナソニックのHDTVでTVを視聴しているのだが、一度HDTVに馴染むと、もうスタンダードのTVには戻れない。なんでこれくらいの暗さで黒がつぶれてしまうんだと思ってしまう。要するにそれと同じことで、直前まで見ていた綺麗な絵が、本編が始まったとたんに画質が落ちると、これはがっかりする。気をとり直してスクリーンに向かい直したのだが、しかし、この設定のインディ・ホラーを見るのもこれまでかと思ってしまった。


ホラーというジャンルという点以外で「パラノーマル・アクティビティ」が「クローバーフィールド」を思い出させる点として、作品が始まってかなりの間、何も起こらないということがある。「クローバーフィールド」では知人宅でのパーティに集う人々をとらえる描写がわりと長時間続き、見ている者がそろそろ何か起こらないのかとじりじりして集中力が切れ始めた時に、いきなりどかんと事件が起きる。それからは一気だ。


「パラノーマル・アクティビティ」にいたってはもっと悠揚迫らぬというか想像力に訴えるというか、もっと何も起こらない。最初の30分間はほとんど何も起こらず、いい加減そろそろ何か起こってくれないと退屈だぞと思い始めた頃にやっと、誰もそばにいるわけではないドアが、ゆっくりと開閉する。鍵が開いてドア・ノブが回ってドアが開くというわけではなく、元々開いている2階の寝室のドアが、少し閉じてまた開くという、たったそれだけなのだ。30分待たされて、やっと起こった超常現象がたったこれだけという、そのことにほとんど感動を覚えるくらいちまい。


ついでに言うと、それまであまりにも何も起こらないので、そばに誰がいるわけでもないのにドアがちょこっと開閉するだけというそのことが、わりと効果的であることは認めざるを得ない。今時、人を怖がらせるために隠れてドアを開閉するなんてことは小学生ですら考えないだろう。しかしこれだけ待たされると、ただそのことが一つの事件になるのだ。


その後もちっちゃな、地味というか事件と呼ぶのは憚られるようなちまい事件を少しずつ積み重ねていく。これがハリウッド映画だったら本気で怒りたくなるようなちまさを、なかなか金がないなりに考えて作っているなと思ってしまうのは、実際に金がない奴らが作っているという前知識を持って見に行っているからだ。いきなり何も知らずにこれ見せられたら、十中八九途中で劇場を出ると思う。


「パラノーマル・アクティビティ」が成功しているのは、この貧乏くささと内容が完璧にマッチしたというこの一点に尽きる。なんせ舞台は最初から最初まで一軒の家の中で、冒頭の戸外と途中の庭の描写以外、まったくカメラは家の外に出ないのだ。ロケーションゼロ、しかも民生カメラ、登場人物は主人公のカップルの二人以外はその友人と霊媒、都合4人でほぼ全編を乗り切る。ギャラもほとんどかかっているまい。これ以下の製作費でできる作品はこの世に存在しないだろう。


たぶんまがりなりにもCGもしくは特撮を使っているのは最後の数シーンだけだろう。それも最近のCGのレヴェルからすれば初歩の域を出ない程度でしかない。しかし、それまでロウ・テク、スロウな展開に慣らされてしまった観客は、最後のクライマックスでかなり怖い思いをするのではないか。正直私もあのシーツにはどきどきした。


演出はオーレン・ペリで、この手はもう二度と使えないだろうとはいえ、作戦勝ちというのは言えるだろう。この作品、スティーヴン・スピルバーグの口利きでエンディングをいくつか用意して、最終的に最も怖いと思えるものを採用したそうだ。別のエンディングはDVD化した時の特典映像か。DVDを買ってまでそれを見る気はさすがにないかな。








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