Hell on Wheels   ヘル・オン・ホイールズ

放送局: AMC

プレミア放送日: 11/6/2011 (Sun) 22:00-23:00

製作: エンタテインメント・ワン、ノマディック・ピクチュアズ

製作総指揮/クリエイター/脚本: ジョー・ゲイトン、トニー・ゲイトン

出演: アンソン・マウント (カレン・ボハノン)、コモン (エラム)、ドミニク・マッケリゴット (リリィ・ベル)、コルム・ミーニー (トマス・「ドク」・デュラン)、ベン・エスラー (ショーン)、フィル・バーク (ミッキー)、エディ・スピアーズ (ジョゼフ)


物語: 1865年アメリカ。ボハノンは南北戦争に従軍している間、妻を何者かに惨殺された。復讐を誓うボハノンは、妻を殺した者を突き止め、復讐を遂げるために、急ピッチで建設が続いているユニオン・パシフィックによる大陸横断鉄道の敷設工事に参加する。東部の実業家、デュランはこの工事でほとんど人権無視で労働力を酷使し、わざと鉄道を迂回させるなどして莫大な利益を上げていた。しかし建設にかかわる測量で派遣した技師のベルがシャイアン族に殺され、妻のリリィだけが傷だらけになりながらもなんとか生き延びる。一方、ボハノンは鉄道敷設の前線で工事監督をしながら、復讐の相手の一人である現場責任者のジョンソンを張っていた。しかしジョンソンからその他の仲間の名を聞き出す前に、黒人労働者から恨みを買っていたジョンソンは首を掻き切られて殺されてしまう‥‥


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Hell on Wheels


ヘル・オン・ホイールズ   ★★★

「マッド・メン (Mad Men)」「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」「ザ・キリング (The Killing)」等で、オリジナル番組製作ではケーブルで最も注目されているAMC、その最新作が、「ヘル・オン・ホイールズ」だ。


「マッド・メン」は、本来ならもう最終シーズンと予定されている第5シーズンが始まっていてもよかった。しかし番組を最大限に有効活用したいと考えているAMCが、番組内に入れるコマーシャルの数を増やし、その分正味時間を減らそうと考えて番組プロデューサーのマシュウ・ワイナーと揉め、折り合いがつかず、番組製作が延び延びになっていた。このほどようやく合意して2012年3月から最終シーズンが始まるという談話が発表になった。


しかし、番組の第4シーズンの最終話が放送されたのは、2010年10月だ。1年半も新エピソードの放送がまったくない。その間、他の仕事もしながら待っている俳優、そしてなによりも辛抱強く待っている番組ファンって、気が長いというか余裕があるというか。こんな突発する暴力の事件ばかりが発生している国で、なぜだかTV視聴者は時々場違いなくらい辛抱強い。


その「マッド・メン」を筆頭に最近の活躍ばかりが取り沙汰されるAMCだが、実は「キリング」は正直言って食わせものだった。1シーズンをかけて一つの事件を追っていくスタイルをとっており、非常によく書き込まれたレヴェルの高い番組だった。評判、注目度が高かったためにAMCは第2シーズンの製作を決めたのだが、そこで困ったことが起きた。


どうやら製作陣は第1シーズンで犯人を挙げるのではなく、そのまま第2シーズンに引っ張っていこうと画策、強引に辻褄の合わないシーズン・フィナーレにしてしまった。ABCの「ロスト (Lost)」ですらここまで非常識なことはしなかったというくらい言語道断のシーズン・フィナーレで、私だけでなく、番組を見ていた視聴者のほとんど全員の怒りを買った。断言してしまうが、「キリング」の第2シーズンは誰も見ないだろう。


AMCには、他にも「ルビコン (Rubicon)」という失敗作がある。できとしては特に悪かったわけではないが、いかんせん視聴者にアピールしなかった。つまり、たとえ傍目には飛ぶ鳥落とす勢いと見えるAMCだって、製作する番組がすべて成功するわけではない。しかも今回編成する新番組は、西部劇だ。


ただし、AMCと西部劇の相性は悪くない。かれこれ5年以上前に放送され、AMCの視聴率記録を持っている番組こそ、ウォルター・ヒル演出、ロバート・デュヴォール主演の西部劇ミニシリーズ、「ブロークン・トレイル (Broken Trail)」だ。ただし私はこの番組を、主演のデュヴォールよりも、当時「サイドウェイズ (Sideways)」の成功によって名が売れ始めたトマス・ヘイデン・チャーチと、芯の強い娼婦を演じたグレタ・スカツキによって覚えている。


とはいえ、ロマン、とか壮大、抒情とかいう形容で括れる「ブロークン・トレイル」と、「ヘル・オン・ホイールズ」は、かなり中味の異なる番組だ。同じジャンルというのが憚られるほど似て非なる番組で、「ヘル・オン・ホイールズ」のリアルで痛そうで過激なヴァイオレンス描写は、実は「ブレイキング・バッド」や「ウォーキング・デッド」の方によほど近い。端的にジャンルとして最も近いのは、かつてHBOが製作放送した「デッドウッド (Deadwood)」だろう。


番組タイトルともなっている「ヘル・オン・ホイールズ」とは、西部開拓時代、ならず者、荒くれ者どもが蝟集した大陸横断鉄道の最前線の建設現場、およびそういう者たちを目当てに営業していた賭場や酒場、娼館等の施設を総称してそう呼んだ。


気の荒い男たちばかりが集まっている場所だから、当然揉め事や殺傷沙汰が絶えない。番組の中で、そういうできたてほやほやの町の境界に立てられた看板には、町の名と共に、「人口: 毎日一人減」と堂々と書かれている。自分がその減っていく人口に数えられないことを祈るばかりだ。


番組は、かつて南北戦争に従事したものの、家に戻ってみると妻は殺されていたという元兵士が、西部のヘル・オン・ホイールズに足を踏み入れ、復讐を果たしていく様を描く。さらに当時のアメリカの勃興の象徴であった大陸横断鉄道を絡ませ、その施工主で権力欲、金欲の塊であるドク・デュラン、鉄道敷設のための測量技師であった夫と行動を共にしていたが、その夫をインディアンに殺され、命からがら逃げ出したリリィを横軸に話は展開していく。


主人公カレン・ボハノンを演じるのがアンソン・マウント。CWの前身のWBで、ティーンエイジャー向けのソーピーなドラマ「ザ・マウンテン (The Mountain)」に出演していたそうだが、むろんこの手の番組は見ていない。それよりも問題は、カーティス・ハンソンの「イン・ハー・シューズ (In Her Shoes)」にもそれなりの役で出ていたらしいのだが、こちらの方もまるで覚えてないこと。もしかしたらキャメロン・ディアズに寝取られたトニ・コレットのボーイフレンドだったとか‥‥うーん、覚えてない。もうちょっとアクが強ければ、ヴィゴ・モーテンセンみたいになって印象も強まると思うが。むしろ主人公のボハノンよりも、悪役として振る舞うドク役のコルム・ミーニーの方が記憶に残る。しかし、まあ、ボハノンは寡黙な男として造型されているようだから、きっと話が佳境に入る後半が見せ場なんだろう。


とまあ、見どころも大いにある「ヘル・オン・ホイールズ」なのだが、肝心の人気という点では、「ウォーキング・デッド」や「ブレイキング・バッド」に数歩譲る。「マッド・メン」は実際の人気よりは評価先行で、まず批評家が誉めるので視聴者もそこそこ見てはいるという程度で、特に視聴者受けしているわけではない。その「マッド・メン」にも視聴者数で及ばない「ヘル・オン・ホイールズ」は、将来は怪しいというのが正直なところだ。「デッドウッド」もHBOが大金を投じた意地で数シーズン続いたが、特にこれといった成績を残せたわけではない。リアル、痛い系の西部劇のシリーズ化は難しそうだ。









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