Rubicon    ルビコン

放送局: AMC

プレミア放送日:  8/1/2010 (Sun) 20:00-21:00 (スニーク・プレヴュウは6/13/2010 (Sun) 23:00-0:00に放送済み)

製作: シティ・エンタテインメント、ワーナー・ホライズンTV

製作総指揮: ヘンリー・ブロメル、ジェイソン・ホーウィッチ、ジョシュア・モウラー

共同製作総指揮: ケリー・オレント

製作/監督: アレン・コールター

クリエイター/脚本: ジェイソン・ホーウィッチ

撮影: ジョナサン・フリーマン

美術: ヘンリー・ダン

編集: デイヴィッド・ロイ

音楽: ピーター・ナシェル

出演: ジェイムズ・バッジ・デイル (ウィル・トラヴァース)、ジェシカ・コリンズ (マギー・ヤング)、ローレン・ホッジス (ターニャ・マクガフィン)、ダラス・ロバーツ (マイルズ・フィールダー)、クリストファー・ウェルチ (グラント・テスト)、アーリス・ハワード (ケイル・イングラム)、ミランダ・リチャードソン (キャサリン・ラマー)、ロジャー・ロビンソン (エド・バンクロフト)


物語: ウィルは9/11で妻子を亡くしてからというものの、ほとんど生きる屍のようになってただ淡々と日々の業務をこなしていた。彼は秘密裏に暗号文書を解読する政府のエージェンシーで働いていた。義父のデイヴィッドはウィルの上司でもあり、なにかにつけて目にかけてくれていたが、かといってそれで心の隙間が埋まるものでもなかった。

ある時、ウィルは暇つぶしに手当たり次第に新聞のクロスワード・パズルを解いていて、ある場所で政府のエージェンシーに関連する答えが連続して現れることに気づく。デイヴィッドはそれを偶然として却下するが、しかしそれは明らかに何かを意味していた。

翌日、出勤途中のデイヴィッドが乗る列車に別の列車が正面衝突し、デイヴィッドは死亡する。ウィルがデイヴィッドのオフィスで呆然としているところに電話が鳴り、チェスの駒の動きを言って切れる。デイヴィッドはオフィスで、電話でチェスを楽しんでいたのだ。その相手がエージェンシーで暗号解読の天才と呼ばれていたエド・バンクロフトであることを知り、自宅を訪れるが、ウィルがクロスワードをことを持ち出すと、とたんに態度が変わり、ウィルを追い返す。

ウィルはデイヴィッドの後任の役職をオファーされていたが、最初、エージェンシーを去るつもりでいた。しかし考え直したウィルは、デイヴィッドの後任に収まり、隠されている陰謀を暴こうと決心する‥‥


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編成のほとんどが昔の映画の再放送で占められているベイシック・ケーブル・チャンネルのAMCが製作するオリジナル・シリーズは、たったの2本だ。そしてそのたった2本のドラマ、「マッド・メン (Mad Men)」「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」のみで、ほとんどアメリカTV界に君臨している。


実際、今年のエミー賞のドラマ部門は、「マッド・メン」と「ブレイキング・バッド」がなかったら、まったく別物になったに違いない。それくらいこの2本の影響は大きかった。そして今、AMCが送り出す最新のドラマが、「ルビコン」だ。


「ルビコン」は、いわゆるコンスピラシー・ドラマ、スパイ・謀略ものだ。とはいっても「ボーン・スプレマシー (The Bourne Supremacy)」「007」シリーズ、あるいはTVの「エイリアス (Alias)」のような、スパイ・アクションではない。どちらかというと、映画なら「ザ・グッド・シェパード (The Good Shepherd )」、TVならTNTの「CIA: ザ・カンパニー (The Company)」辺りが印象としては近い。いや、それらよりもアクションはもっと少ない。アメリカ産ドラマと言うよりは英国産ドラマ、ロバート・ラドラムではなくジョン・ル・カレといった印象のドラマが、「ルビコン」だ。


「マッド・メン」が放送を始めた時、60年代を舞台とするほとんどセリフ劇に、成功を疑問視する声は多かった。「ブレイキング・バッド」が編成された時も、ドラッグを自家製造する教師という内容に、顔をしかめる者も多かった。これらの番組は、そういったネガティヴな先入観を覆してヒット作として確立したわけだが、しかし、「ルビコン」は両番組よりもさらに定着は難しいという印象を受ける。


なんとなれば「ルビコン」は、「マッド・メン」よりさらに悠揚迫らぬといった感じの、ほとんどゆっくりというペースで話が展開する。しかしそこには「マッド・メン」が持つスリリングな会話の応酬、パワー・ゲームという要素はあまりない。コンスピラシー・ドラマだからもちろん謎や疑惑、発言の裏読み、敵との攻防、獅子身中の虫といった妙味や見せ場はなくはない。しかしその頻度やペース配分は、やはりスロウ過ぎやしないかという気がする。これで視聴者の興味が持続するだろうか。


視覚的に印象に残るアクションの多い「ブレイキング・バッド」と比較すると、その差はさらに顕著だ。面白くないわけではないのだが、もうちょっとなんか、盛り上げようがなかったかと思う。しかし、たぶん製作者が狙っているのが心理的なサスペンス・ドラマであり、肉体派アクションではないだろうから、これは無理な注文とも言える。だいたい、主人公がやっていることが、基本的に一日中机に向かって資料の整理や判読、分析をすることだ。たぶん時にはほぼ一日中誰とも会わず、口を利かないことだってあるだろう。それを考えると、このゆっくりとした展開はしょうがないとも言えるかもしれない。


主人公のウィルに扮するのがジェイムズ・バッジ・デイルで、先頃HBOの第二次大戦の太平洋戦を舞台にしたミニシリーズ「ザ・パシフィック (The Pacific)」で主人公に扮していたのを見たばかり。裏のありそうな上司ケイルに扮するのがアーリス・ハワード。番組冒頭で自殺した資産家の未亡人キャサリンに扮するのがミランダ・リチャードソン、ウィルに淡い恋心を抱く同僚のマギーをジェシカ・コリンズが演じている。


ウィルの勤めるエージェンシーは、たぶん、ロウワー・マンハッタン界隈という設定のようだが、場所は特定されていない。そのため、時として同じ場所のはずだが、背景がマンハッタンになったりブルックリンになったりする。こういうのは実際に場所を知っている者から見れば一目瞭然なため、こういう現実の地理をないがしろにするのはちょっと気に入らない。とはいえ、その場所は特定されているわけではないため、むしろわざとぼかしていると言えないこともない。


番組のそもそものオープニングでは、たぶん、ウィルが気づいた新聞のクロスワードに隠されたメッセージによって、何者かが拳銃で自殺する。しかしプレミア・エピソードでは、それが誰かということすら明らかにされない。その事実や関係者の素性が明らかになるのは第2回以降であり、要するに、第1回ではまだプロローグすら終わっていない。導入部の途中でしかないのだ。予告編で主人公のデイルと共に喧伝されていたリチャードソンなんて、番組第1回ではスクリーン・タイムは合計しても1分にも満たない。彼女の出番はこれからなのだ。


世界が進むペースとはまったく無関係にとろいこのペースで仕事しているのが、世界中の情報を収集して解析分析する部署であり、登場人物たちだ。ほとんど誰からも気づかれることなく、迷信深く、毎日同じ服を着て同じ飯を食って、外見上はどこにでもいるその他大勢と一緒か、それ以上にむさくるしい奴らが、実は縁の下で世界を動かしている。この差異に妙味を持つことができれば、かなり番組を面白く見れると思うが、しかし、このテンポのスロウさは、やはり一抹の不安が残る。


たぶん「ルビコン」は、「マッド・メン」が始まった時同様、最初批評家主導で、そしてもしかして来年のエミー賞でなんらかの賞にノミネートされることができたら、徐々に視聴者を獲得していけるかもしれない。しかし、それにはまず、とにかくそこそこの成績は収めて、なんとか第2シーズンまで継続しないことには話にならない。それには第1シーズンの後半、どこまで盛り上げることができるかがポイントだろう。








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ルビコン   ★★★

 
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