The Bourne Ultimatum   ボーン・アルティメイタム  (2007年8月)

モスクワにおける追っ手の追及の手から逃れたボーン (マット・デイモン) は、パリに入る。そこで自分自身の記事を目にしたボーンは、記事を書いた記者と接触を図るべくロンドンに移動する。しかし当然ボーンの行動を予期していていたCIAも、ニューヨークのヴォーセン (デイヴィッド・ストラザーン) の采配の下、ボーンを捕えるべく罠を網の目のように張り巡らせていた‥‥


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ロバート・ラドラム原作のボーン・シリーズ第3弾にして最終話の「ザ・ボーン・アルティメイタム」、ついにボーンが自分自身が何者かを発見するのか。しかしふと気がついたんだが、今年は人気作のシリーズの第3弾というのが多い。「スパイダーマン3」「オーシャンズ13」に続いてこの「アルティメイタム」で3作目だ。さらに来週には「ラッシュ・アワー3」も公開される。そのうち「オーシャン」と「アルティメイタム」の2本に主演か準主演級で出ているマット・デイモンの人気のほどが窺える。


デイモンはさらに今年だけでもその他に「ザ・グッド・シェパード」にも主演、昨年末の「ディパーテッド」から合わせると、ほぼ半年強の間に主演、準主演作が4本も相次ぎ、露出度という点では他に例を見ないほど活躍している。同じ「オーシャン」にも出ていたドン・チードルも今年「再会の街で」「トーク・トゥ・ミー」と主演作が相次いでおり、今のところこの二人が今年を代表する顔という感じがする。


映画は冒頭、ボーンがモスクワで追っ手から逃げのびようとするシーンから始まる。そういえば前回の「ザ・ボーン・スプレマシー」はモスクワのカー・チェイスが作品のクライマックスになっていたが、ところでどういう終わり方をしたんだっけ? 実はもうよく覚えていない。なんとなくモスクワで無事難を逃れて続く、みたいな感じで終わったような気がしていたのだが、いきなりよくわからなくなってきた。逃げ切ってなかったのか。うーん、3年前から同じ時間軸が続いていたとは。復習しておくべきだったかしらん。


「ボーン」シリーズは元々アクションが売りだったわけだが、「スプレマシー」で徹底して矢継ぎ早のアクションに注力するという姿勢が大成功を収めたため、今回も引き続いてポール・グリーングラスが演出している。もうこれ以上アクションばっかしなんて作品は作りようがないんじゃないかと思えた「スプレマシー」が、「アルティメイタム」ではさらにグレード・アップしたアクションになっており、このサーヴィス精神というか、徹底したプロフェッショナルぶりには感心するしかない。とにかく最初から最後まで見せ場の連続なのだ。


「ボーン」は英国を代表するシークレット・サーヴィスの007に対するアメリカの返答という感じが大いにするが、年季があってあまりにも人間離れしすぎた感のある007が、昨年の「カジノ・ロワイヤル」では初心に帰れとばかりに、強さよりもより人間的な弱さを獲得することで復活して新たな魅力と人気を獲得したのとは裏腹に、「ボーン」は作を重ねる毎にますます強くなっている。この強さは尋常じゃないのだが、それでも「ダイ・ハード4.0」で主人公のブルース・ウィリスがほとんどマンガの世界に片足突っ込んでいるのとは異なり、ボーンはちゃんと現実世界に足をつけながら嘘くさくなく強いという、微妙なバランスを構築した上で強い。そのことにまず感心する。「ザ・グッド・シェパード」だってデイモンが演じたのはCIAエージェントであったのだが、あのひょろひょろと弱っちい頭でっかちのエージェントが、ここでは無敵のスーパーエージェントだ。よくここまで役幅広げられるとまたまた感心する。


「ボーン」シリーズが007シリーズと似ているもう一つの理由として、両シリーズとも主人公が世界中を股にかけて活躍するため、期せずして (半分は意識しているだろうが) 世界旅行案内みたいな感じでも楽しめることにある。「アルティメイタム」ではまず冒頭のモスクワの後、パリ、ロンドン、タンジール、ニューヨークと飛ぶ。「スプレマシー」ではインドもあった。これは骨格としては007が得意としている話の組み立て方に他ならない。


さらにカー・アクションがある。007も「ボーン」もカー・アクションが目玉と言えるセールス・ポイントだが、「ボーン」では「ザ・ボーン・アイデンティティ」のパリ、「スプレマシー」でのモスクワに続き、今回のクライマックスはニューヨークでのカー・チェイスだ。ここまでヨーロッパを主要な舞台にしてきたわけだが、やはり締めは当然お膝元のニューヨークだ。「ダイ・ハード4.0」ではワシントンD.C.と銘打っておきながら撮影は別場所であり、最後はヘリコプタと車が衝突炎上なんていう、リアリティとはかけ離れたところでやんやの喝采だったものが、「アルティメイタム」ではあくまでも現実のカー・アクションがこれでもかというばかりに展開する。これ、本当にニューヨークで撮ったのか。いくらなんでも全部が全部そうじゃないんじゃないだろうか。


特にこのカー・チェイスのクライマックスのテンションの上がり方は尋常じゃなく、このシークエンスが終わった瞬間、緊張から解放された劇場内がどよどよとしたざわめきとも溜め息ともつかぬもので満たされた。私も思わず女房と顔を突き合わせて、すげえな、これと感嘆せざるを得なかった。正直言ってコンマ何秒で連続するカット、編集の技術や音響に乗せられたというのはあるが、しかし、それでも近年で最も印象に残るカー・アクションということに異議を唱える者はまずいまい。その後、あんな派手なクラッシュを起こしておきながら立ち上がってその場を後にするボーンに、不死身かお前という突っ込みを入れるのも完全に忘れてしまった。いや、もうこれくらいやってもらえれば何も言うことないです。


車を使わないアクションでも、ロンドンの駅構内での狙撃シーンとか印象に残るシークエンスは多々あるが、特筆すべきはタンジールでの家から家へ渡り (跳び) 歩いてのアクション・シークエンスで、道幅が狭いことを利用して隣りの家に跳び渡りながら展開するアクションはこれまでに見たことがなく、面白かった。まったく無断で関係のない家の窓ガラスを破って飛び込んでいくわけだが、そうするとなぜだかどこでも青少年が自室のベッドに腰掛けていたりする。ああいうところって、なんだか実際いつも少年がベッドに腰掛けているような感じがして笑えた。


恋人でボーンを助けてきたフランカ・ポテンテ演じるマリーが前作で死んでしまったため、今回は基本的にボーンは前半はほぼ一人で動き回り、後半からシリーズ・レギュラーの一人であるジュリア・スタイルズがボーンを手引きする。で、スタイルズって角度によってはかなりポテンテにそっくりで、これは最初に「アイデンティティ」を作った時、二人が似ていることを利用した二人一役やそっくりさんを将来話に絡めて展開することを見越したキャスティングだったのではないかと改めて思った。いずれにしても、一応一つの話としてはボーンが自分自身の出自を発見したこれで終わりとはいえ、当然まだ作ろうと思えば続きを作れる含みを残していた。私も、ここまでフランチャイズを展開したからにはこれで終わるのはとてももったいないと思う。なんてったってあのアクションが今後見られなくなるのは痛い。新しいストーリー展開でまた続きが作られることを期待する。   







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