放送局: ESPN

プレミア放送日: 7/9/07 (Mon) 22:00-23:00

製作: トリン/ロビンズ・プロダクションズ

製作総指揮: マイク・トリン、ブライアン・ロビンズ、ジョー・ダヴォラ、ジム・ソロモン、ゴードン・グライスマン

製作: ジェレマイア・チェチク、ビル・ジョンソン

監督: ジェレマイア・チェチク

原作: ジョナサン・マーラー

脚本: ジム・ソロモン、ゴードン・グライスマン

撮影: ダグ・コッチ

美術: マリオ・ヴェンテニラ

編集: ジェリー・グリーンバーグ

音楽: トリー・アダムズ

出演: ジョン・タトゥーロ (ビリー・マーティン)、オリヴァー・プラット (ジョージ・スタインブレナー)、ダニエル・サンジャタ (レジー・ジャクソン)、ケヴィン・コンウェイ (ガブ・ポール)、ダン・ローリア (ジョゼフ・ボレリ)


物語: 1976年。ニューヨーク・ヤンキースは十何年ぶりにペナント・レースを制するが、ワールド・シリーズではいいところなく、レッズを相手に4たてを食らう。激昂したオーナーのジョージ・スタインブレナーはその時フリー・エージェントだったレジー・ジャクソンと契約することを強硬に主張、監督のビリー・マーティンは一発屋でムラのあるジャクソン雇用に反対するが、ほとんどスタインブレナーの独断により、ヤンキースはジャクソンと契約する。翌77年シーズン、案の定マーティンとジャクソンは対立、チーム内の空気は悪化し、首位攻防でもレッド・ソックスに後れをとる。一方、世間では夜な夜なサムの息子と呼ばれる連続殺人鬼が出没、ブロンクスはほとんど不穏な空気に包まれていた‥‥


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スポーツ専門チャンネルのESPNは、たまさかではあるが、スポーツの中継やニューズ解説だけでなく、スポーツをテーマとしたオリジナル番組も製作放送している。2003年に放送されたその最初のオリジナル・ドラマ・シリーズ「プレイメイカーズ (Playmakers)」は、NFLを題材にドラマ化したもので、より耳目を集めるために、NFLプレイヤーは皆わがままでドラッグをやっていて女に目がない、みたいな描き方をしたため、そのNFLから抗議されたという経緯がある。


一昨年放送された「ティルト (Tilt)」は、ラスヴェガスのポーカー・プレイヤーを主人公としている。実はポーカーがスポーツかどうかはともかく、ESPNはポーカー中継にも力を入れている。それだけでなく、先頃も中継した恒例の「ホット・ドッグ早食い競争」「スペリング・ビー」等、かなりスポーツとは言い難い類いの勝負事等も中継するなど、オリジナル・ドラマだけでなく、様々な分野に食指を伸ばしている。スポーツとしては、勝ち抜きボクシング・リアリティの「ザ・コンテンダー」の権利をNBCから譲り受けて、第2シーズン以降の製作もしている。


そのESPNの最新のオリジナル番組である「ザ・ブロンクス・イズ・バーニング」は、1977年の大揉めに揉めたニューヨーク・ヤンキースを描くミニシリーズだ。話は1975年、ヤンキースの名物オーナーであるジョージ・スタインブレナーが、無理を言ってビリー・マーティンを誘ってヤンキース監督に据えつけたところから始まる。翌1976年、マーティンは期待に応え、ヤンキースを十何年ぶりかでペナントを獲得させるが、ワールド・シリーズではレッズに4たてを食らってしまう。激昂したスタインブレナーは、ほとんどマーティンや代表のガブ・ポールの意見に耳を貸さず、独断でその時フリー・エージェントだった長距離ヒッターのレジー・ジャクソンと契約する。


翌77年。ムラっ気のあるジャクソンとマーティンの不仲ぶりは誰の目にも明らかで、ある時は試合中にもかかわらずほとんど取っ組み合いのけんかに発展せんばかりだった。にもかかわらず、それなりに期待に応えたジャクソンの活躍もあり、この年、ヤンキースは再びペナントを獲得する。この年、ニューヨークにはサムの息子と呼ばれる連続殺人鬼が跋扈しニューヨークっ子を恐怖に陥れ、夏には大規模のブラックアウトが勃発して暴動まがいの騒ぎに発展、ニューヨーク経済の麻痺を抑えるためにシティは多くの職員を解雇する。


世情は不穏であり、ヤンキースのペナント2連覇と、それに続くワールド・シリーズは単にスポーツとしてだけではなく、ニューヨークっ子の期待と希望を一身に背負っていた。そしてワールド・シリーズは始まり、第2戦、中継のABCが映像をヘリコプタからのカメラに切り換えると、ブロンクスのヤンキース・スタジアムの近くで、大きな火災が発生していた。そこで実況の名物キャスター、ハワード・コゼルが言ったセリフ、「視聴者の皆さん、ブロンクスは燃えています (There it is, ladies and gentlemen, the Bronx is burning)」こそこの番組のタイトルであり、その元となったベストセラーのタイトルでもある。


もちろん私はこういう裏話を今回番組を見るついでに調べて知ったのであって、特にベイスボールのファンというわけでもない私にとって、実は番組の内容が特にアピールしたわけではない。まず何よりも私がこの番組に興味を惹かれたのは、内容よりも、監督のビリー・マーティンに扮したジョン・タトゥーロの姿を目にしたからに他ならない。やたらと目につくでかいつけ耳をしてマーティンに扮するタトゥーロは、ちょっと、もう、見逃すわけには行かないと思わされた。実在のマーティンが特に耳が大きいという風にも感じないのだが、それでもなぜだか特大耳になってマーティンに扮するタトゥーロは、マーティンというよりはどっちかっつうと別のよく知られている元ヤンキースのヨギ・ベラの方によほど似ている。あるいはトッポ・ジージョか (こいつはわれながら古い。)


とにかく正直言って、このカリカチュア振りは、ほとんどギャグのノリに近い。それを大真面目に演じているのだ。タトゥーロは今年、「ザ・グッド・シェパード」「トランスフォーマーズ」と、連続してどこかずれている政府職員という役どころを演じていたが、ここでは役柄自体はずれていると感じさせるわけではないが、その外観は完全にずれている。マーティンが生きていたら、絶対これは私ではないと言ったに決まっている。


そのマーティンと対立する一方の名物オーナー、ジョージ・スタインブレナーに扮するのがオリヴァー・プラットで、こちらもほとんどオーヴァー・ザ・トップの、劇画というよりはギャグ・マンガに近いスタイルで演じており、話の中心となるこの二人がほとんどカリカチュア化されている。それなのに、この二人以外はやたらとシリアス・タッチで話が進む (タトゥーロは演技自体はシリアスなのだが、そのためいっそう視覚的な戯画化が誇張されている。) 特にサイド・ストーリーとなるサムの息子の話などは、「ゾディアック」ほどとは言わないが充分不穏な怖さを醸し出しており、そのためいっそうタトゥーロとプラットの二人が話から浮く。まったく不思議な番組だ。


タトゥーロとプラット以外にもう一人重要な役を与えられているのが、レジー・ジャクソンに扮する「レスキュー・ミー」のダニエル・サンジャタ。こちらは特にマンガチックというわけではないが、やはり特に実物に似ているわけでもない。いずれにしても実際のプレイ・シーンでは彼に最もスポット・ライトが当たるため、バッティング・フォーム等は当時の映像を見て研究したと思われる。


毎回番組の最後にはジャクソンやスタインブレナーを筆頭とするまだ存命の人物が出てきて当時を述懐すると共に、その時の映像を見せるし、番組内にも当時の実際の映像が挟まるのだが、タトゥーロもサンジャタもプラットもあまり本人に似ていないため、特に実際のゲーム・シーンと新しく撮った映像が交互に挟まったりすると、かなり違和感がある。過去の画面の粗さと現在の映像の手触りの違いもそうなら、似てないということも大きい。どう考えてもなあ、特にタトゥーロのあの耳はギャグにしか見えない。


私の考えでは、現存の俳優で誰をマーティンとして起用するかということに関しては、まずスコット・グレンしか思いつかない。ピーター・コヨーテもいい線行くかと思うが、グレンならどこから見てもマーティンに似ると思う。もちろんタトゥーロのマーティンが見てて楽しいのは事実であるが、やはり、何度も言うが、あのつけ耳はギャグにしか見えない。スタインブレナーならケン・ハワードなんてどうだろうか。


番組は1時間の8回ものであり、結局数多のごたごたの中、ヤンキースがついにワールド・シリーズを制するところで終わる。ところが番組のバック・グラウンドを知るためにちょこちょこと調べていたら、この「ブロンクスは燃えています」という名セリフを生んだ77年シーズンも確かに面白いが、またもやスタインブレナー-マーティン-ジャクソンという三つ巴の確執が火を噴き、マーティンがスタインブレナーから何度も解雇されまた再雇用され、7月に首位のレッドソックスに14ゲーム差つけられていながら追いついて、シーズン終了時点で同率首位になり、前代未聞の1試合のみのプレイオフでレッドソックスを破って優勝した翌78年のペナント・レースも、77年に勝るとも劣らないドラマを演出している。ベイスボールというスポーツそのものだけに焦点を絞った場合、こちらの方こそ面白いんじゃないかという気もする。ああ、そういえば今、またもや春から夏にかけて最下位に落ち込んでいたヤンキースが、レッドソックスを猛追しているんだった。さて、歴史は繰り返すか。






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The Bronx Is Burning


ザ・ブロンクス・イズ・バーニング   ★★★

 
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