ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ

放送局: FOX

プレミア放送日: 9/7/2004 (Tue) 21:00-22:00

製作: エンデモルUSA、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズ

製作総指揮: ポール・ブリエリ、ジョー・リヴェッキ、オスカー・デ・ラ・ホヤ、リチャード・シェファー

ホスト: オスカー・デ・ラ・ホヤ


ザ・コンテンダー

放送局: NBC

プレミア放送日: 3/7/2005 (Mon) 21:30-23:00

製作: マーク・バーネット・プロダクションズ、ドリームワークスTV、ローグ・マーブル

製作総指揮: マーク・バーネット、シルヴェスタ・スタローン、ジェフリー・カッツェンバーグ

ホスト: シルヴェスタ・スタローン、シュガー・レイ・レナード


内容: ボクシング勝ち抜きリアリティ・ショウ2種。


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昨年、FOXはライヴァル・ネットワークが製作を発表した番組企画を先取りし、そのネットワークより先に同様の番組を製作して放送してしまうという仁義にもとる行為を3回繰り返した。ABCの「ワイフ・スワップ」に対して「トレイディング・スパウスズ」、同じくABCの「スーパーナニー」に対して「ナニー911」、そしてNBCの「ザ・コンテンダー」に対する、「ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ」である。最も早くから対立が始まったのは、昨年7月、9月にそれぞれ放送の始まった「スパウスズ」と「スワップ」なのだが、この種の諍いとして最も話題を提供したのは、今回のNBCの「コンテンダー」vs「チャンプ」の対立だろう。


「コンテンダー」、「チャンプ」は、共にボクサーによるボクシングの勝ち抜きリアリティ・ショウである。「ロッキー」のシルヴェスタ・スタローン、「サバイバー」製作のマーク・バーネット、5階級制覇の元チャンプ、シュガー・レイ・レナードが共同で製作する「コンテンダー」は、なかなか注目度も高かった。そこに目をつけたFOXは、すぐさま、こちらはオスカー・デ・ラ・ホヤを口説き落とし、ホストとして迎え入れて「チャンプ」を製作した。


「コンテンダー」も「チャンプ」も、勝ち抜きリアリティとはいっても、その実際の勝ち抜きは、「サバイバー」のような参加者の投票ではなく、参加者同士のボクシング試合の結果によって決定する。当然勝てば居残り、負ければ去る。参加者の肉体的負担が大きいのはもちろんであり、「コンテンダー」は、その辺もちゃんと斟酌して、できるだけ参加者の負担を小さくするよう、試合日程の間隔を余裕をもって設定したり、カリフォルニアのボクシング評議会とも連絡をとって、あくまでもスポーツということを第一義として番組を製作した。


後からやってきたFOXには、そんな余裕はない。いちいち試合日程に余裕を見ていたら、「コンテンダー」より先に「チャンプ」を放送できない。というわけでほとんど参加者のことは顧みずに試合の強行日程を組んだ。当然ボクシング評議会から待ったがかかる。スタローン、バーネットらのプロデューサーもFOXを訴えた。FOXは「チャンプ」のプレミア・エピソードの放送を9月10日に予定していたが、裁判所はもしなんらかの措置を行う必要があった時のために、公聴会の日取りをそれに先立つ9月8日に決めた。そしたら、FOXはなんと「チャンプ」のプレミア・エピソードを9月7日に再編成してしまったのである。


いやあ、前々からFOXは汚いとは思ってはいたが、この時ばかりは本当にFOXって腹の中までどす黒いんだなと思ってしまった。FOXの「チャンプ」放送が道義的、時宜的に問題ないかを確認するはずの公聴会を待たずに既に番組プレミアが放送されてしまったなら、公聴会を開く意味はまったくなくなってしまう。FOXはこの番組再編成は、あくまでも同ネットワークの他番組との兼ね合いによるものであり、裁判とは関係ないと外野の非難を突っぱねたが、もちろん本当の思惑がそんなところになかったのは明白である。FOXはそうやってなし崩し的に番組存続を図ったんだろう。


しかし、法廷は再度それに反応し、公聴会は繰り上がって8月27日に開かれた。今度はFOXはまだ編集も終わってない番組の開始時期をこれ以上早めることができなかった。というか、その時日程を再度いじらなかった本当の理由は、これ以上裁判所を怒らせたら本気でまずいという当然の判断が働いたからだろう。いずれにしても結局裁判所は、「チャンプ」が法に触れているという明確な根拠はなく、番組放送を差し止めることはできないと判断、「コンテンダー」側の訴えを却下した。うーん、こんなことがあるからFOXが図に乗るんだ。


しかし、その点ではFOXはうまく立ち回ったんだが、どっこいそれと番組の確立自体は別問題である。こんなに問題を起こして、その点では「目立つが勝ち」という広告原理の立場から言えば、話題性もあり、注目度も高かった「チャンプ」の視聴率はかなりいい線行くのではないかと思えたが、そうは問屋が卸さなかった。


「チャンプ」は、まず、それなりに経歴のあるボクサーを一堂に集めて、懸垂やら腹筋やらの体力勝負を行う。それで最下位になった者と、そいつの指名によるもう一人が毎回番組の最後でリング上で戦うという構成になっていた。もちろんそれで負けた者は去り、勝った者は残って、最後まで残った優勝者が多額の賞金を獲得する。ドラマとしてのスポーツ、ドラマとしてのリアリティ・ショウを提供するというわけで、番組の狙い自体は面白く、FOXが人真似と言われるのを覚悟の上で番組を製作しようと思ったのもわからないではない。


ところがこの番組、これだけ話題を提供したわりには、視聴率の上では最初からほとんど惨敗に近い成績だった。大山鳴動してねずみ一匹という感じで、私も、あれ、こんなものなのと思ったくらいで、話題や前評判が即成績に結びつくわけではないことをはっきりと証明してしまった。


しかし、これは考えれば無理もない。スポーツと勝ち抜きリアリティ・ショウのいいとこどりのように見えた「チャンプ」は、よく考えれば、スポーツとしてもリアリティ・ショウとしても中途半端である。スポーツのドラマ的部分を強調しなくても、スポーツの最もエキサイティングな瞬間にドラマがつきものであることはスポーツ・ファンなら誰だって知っているし、別にわざわざリアリティ・ショウとして演出されたボクシング試合なんか見なくても、ボクシングの醍醐味はスポーツ中継としてのボクシングを見ていれば充分だ。プロ・スポーツそのものがアスリートの一生がかかった大きな賭けである時に、それを勝ち抜きのリアリティ・ショウにする意味なんかない。


第一、この番組に出ているボクサーは、皆、自力で勝てないからこんなTVに出て、手っ取り早く金と名声を得ようと思ったんだろう? そういうニ線級のボクシングを見る意味がどこにある? はっきり言って、おっとり刀で製作したにしては、実は番組自体は一応のレヴェルに達してるんではないかと私は思ったのだが、ごく一般的な視聴者の方はそうは思わなかった。


慌てたFOXは、「チャンプ」を数回放送した後、番組放送を取り止めた。番組をキャンセルしたのではなく、FOXというネットワークの基幹チャンネルでの放送を諦め、FOXが持つ姉妹スポーツ専門チャンネルのFOXスポーツ・ネット (FSN) で残りのエピソードを放送した。FSNは十いくつもチャンネルがあるスポーツ・プロパーのチャンネルで、世界中のプロ・サッカー・リーグの放送権を持つことから、特にサッカー・ファンにお馴染みのチャンネルである。


そのFSNで「チャンプ」は残りのエピソードが放送されたのだが、十いくつあるチャンネルのどれで放送されるかよくわからず、毎回時間帯が異なる上、プライムタイムはその時に行われているスポーツの生中継が優先されるため、当然「チャンプ」は平日の日中や夜中という、ほとんどスポーツ・ファンには無縁の時間帯で放送された。こんなんじゃ追っかけてまで番組を見ようと考える者はいない。第一、FSNというマイナーもいいとこのチャンネルなんて通常TVガイドに番組編成なんて載らないし、これじゃ番組を追っかけようがない。というわけで、「チャンプ」は一応は最後まで放送自体はやったようだが、たぶん全回見たというのは関係者だけだろう。


こういった視聴者の冷たい反応に怖れおののいたのがFOXだけでなく、NBCもまたそうだったというのは想像に難くない。NBCとすれば「チャンプ」が一足先に人気番組になることは避けたい事態だったに違いないが、「チャンプ」が見るも無残な成績で失敗するのを見るのは、さらに避けたい事態だったに相違ない。なぜならば、ほとんど同じ番組である「コンテンダー」が失敗するのもほぼ確実になってしまうからだ。


「コンテンダー」は、当初11月に放送が予定されていたが、「チャンプ」失敗に、これはやばいと思ったNBCは翌2005年1月まで放送を延期した。とにかくほとぼりが冷めるまで待つつもりだったんだろう。しかし、NBCは1月になったら今度は2月、2月になったら今度は3月と、さらに何度も放送を延期している。さらに日曜8時の定時枠に落ち着くまでに、月曜、木曜と曜日を変えて放送し、とにかく露出度を高めようと色々と画策している。よほど自信がなかったに違いない。


その間に、もしかしたらNBCに有利な展開になるかと思える一つの事件が起こった。「コンテンダー」参加者による自殺事件がそれだ。その男、ナジャイ・ターピンは、番組プレミアが間近に迫った2月14日のヴァレンタインズ・デイに、車の中でガール・フレンドと2歳になる娘の養育権をめぐって言い争いになり、ガール・フレンドが去った後、銃で自分の頭を撃ち抜いて自殺した。なんでも色々と神経過敏で激しやすい男だったらしく、その時点では既に撮影は終了していた番組とは無関係だったらしいのだが、当然マスコミは番組との関係を取り沙汰した。悲劇ではあったが、そのせいで番組に対する関心が増したのは否定できない。


そうこうしているうちに「コンテンダー」はついにプレミア放送を迎えた。しかし結局、NBCの危惧は的中してしまったと言わざるを得ない。延期に延期を重ね、タービンの自殺が一時的に世間の耳目を集めても、結局番組そのものの梃入れにはならず、やはり視聴者はボクシングを勝ち抜きリアリティ・ショウとして見ることに抵抗を示した。タービンが登場して試合をしたエピソードですら大した視聴率を稼ぐことはできず、早々と「コンテンダー」の失敗も誰の目にも明らかになった。


さらに「コンテンダー」の場合、スポーツとしてのボクシングとしては致命的なのが、演出過多の試合中継だ。なんとなれば、試合が白熱してきて、一方のボクサーが繰り出した左のジャブが相手のあごにヒットする、その瞬間にスロウ・モーションにしてしまう演出は止めてくれと思ってしまう。そのパンチが相手にクリーン・ヒットすることを事前に視聴者に教えてしまうことにしかならないからだ。それは確かにドラマではあるだろうが、その瞬間にスポーツであることをやめている。次のパンチが確実に当たることがわかっているボクシングを見るボクシング・ファンなんかこの世にいない。


どうしても演出して盛り上げたい気持ちはわからんではないが、これはあくまでもボクシングの試合であって、「ロッキー」じゃないのだ。たぶんスタローンが執拗にスロウを入れるべきだと場違いの主張を押し通したんじゃないだろうか (それにしてもスタローンのあのつるつるで引き攣った肌を見ていると、彼もボートックスをしているのは間違いないだろう。) 結果として、初期のシルク・ドゥ・ソレイユのTV中継の「ドラリオン」と同じように、クライマックス・シーンをわざわざスロウ・モーションにしたために、かえってスポーツとしての臨場感を台無しにしてしまうという愚をここでも犯すことになってしまった。怪我をしながら本気で殴り合いをしているボクサーには悪いが、ボクシングをテーマにしている番組としては、「コンテンダー」はドラマに重点を置きすぎたために、「チャンプ」よりも失敗していると言わざるを得ない。


とはいえ上にも書いたが、番組をリアリティ・ショウとして見ると、「チャンプ」同様「コンテンダー」も別に面白くないわけではない。参加者はマジで殴り合いを演じているわけだし、そこに現れる血も涙もエモーションも本物だ。しかし、スポーツ・ファンなら、それらすべてがより高次元で現れる現実のタイトル・マッチの方に重きを置くであろうことも、これまた容易に理解できる。単純に、スポーツをテーマとした勝ち抜きリアリティ・ショウは、見かけはともかく、現実には相容れないのだ。今回のFOXとNBCの泥試合は、結局、そのことを関係者に納得させるだけにしかならなかった。現在、アメリカのリアリティ・ショウを代表するプロデューサーのバーネットだって、製作する番組すべてがヒットするわけではない。






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ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ   ★★1/2

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ザ・コンテンダー   ★★1/2

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ザ・コンテンダー

 
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