The Singing Bee/ザ・シンギング・ビー 

放送局: NBC

プレミア放送日: 7/10/07 (Tue) 21:30-22:00

製作: ジュマ・エンタテインメント、ザ・ガリン・カンパニー

製作総指揮: フィル・ガリン、ボブ・ホロヴィッツ

ホスト: ジョーイ・ファトン


Don't Forget the Lyrics!/ドント・フォーゲット・ザ・リリクス

放送局: FOX

プレミア放送日: 7/11/07 (Wed) 21:30-22:00

製作: ブラッド・ラックマン・プロダクションズ、アップロフ・エンタテインメント、RDF USA

製作総指揮: ジェフ・アップロフ

ホスト: ウェイン・ブレイディ


内容: カラオケ歌詞当てリアリティ・ショウ2種。


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近年、ネットワーク間でほとんど同一の番組と言っていい番組が編成され、競争やいざこざ、確執が起きた場合、だいたい必ずと言っていいほどFOXが絡んでいた。ABCの「ワイフ・スワップ」に対する「トレイディング・スパウスズ」、同じくABCの「スーパーナニー」に対する「ナニー911」、NBCの「ザ・コンテンダー」に対する「ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ」等がそれだ。


これらの番組はすべて他のネットワークが企画製作した番組を聞きつけたFOXが、その物真似番組を他局に先駆けて製作して放送してしまったというものだ。あくどいFOXの名に恥じない振る舞いで、そんなことをやっているから一流のネットワークになれないんだと思わせてくれた。最近はそういう所業も聞かなくなって少しは大人になったかなと思っていたが、やはりFOXはまたやった。それが今回のNBCの「ザ・シンギング・ビー」に対する「ドント・フォーゲット・ザ・リリクス」だ。


「ビー」と「リリクス」はどちらもカラオケ歌詞当てリアリティ・ショウだ。途中まで歌詞を見せながらカラオケでヒット曲を歌わせ、途中から歌詞を消す。そこで間違いなく正しい歌詞で歌えれば賞金を得られるという根本の構造は両番組共同じである。NBCは「ビー」を今秋編成予定の新リアリティ・ショウとして、既に放送が始まって人気が定着しているゲーム・ショウの「1 vs 100」と交互に放送を予定していた。ところがそれを見たFOXは、いきなり7月11日に同様のカラオケ・リアリティの「リリクス」の放送を始めると発表した。同様の番組が2種並ぶ場合、先に放送を始めた方が圧倒的に有利なのは言うまでもない。もし「リリクス」がヒット番組として定着してしまった場合、数か月後から放送開始になる「ビー」がかなり苦戦を強いられることは必至だ。


それでNBCも事態に即刻反応せざるを得なくなり、「ビー」のプレミア放送日を、「リリクス」が放送を始める前日の7月10日に設定し直した。この、たった1日だけ早い日というのが微妙というかせこいところだが、同種番組が一日おきに放送されるという話題のおかげで、「リリクス」だけでなく、「ビー」にもかなりの注目が集まった。こういう諍いはある種の無料パブリシティにもなるメリットも否定できず、その点ではNBCもあまり文句は言えまい。


さて、カラオケ、アメリカ流に発音するとカラオキは、今では立派にアメリカでも市民権を獲得している。郊外のレストランやバーに行くと、だいたい何曜日かの夜はカラオケ・ナイトで歌い放題、みたいなシステムにしているところが多い。特にFOXの「アリーmyラブ (Ally McBeal)」で一時、毎回番組の最後に登場人物がカラオケで歌うシーンで終わるのがお約束だった頃から、一気に全米に普及したという印象がある。つまり、今ではカラオケは完全にアメリカ人の生活にも根づいている。そのカラオケを題材にリアリティ・ショウが製作されるのは、だから不思議でもなんでもない。遅かれ早かれ誰かが同様の番組を企画しただろうと思う。


とはいえ「ビー」と「リリクス」は、両番組共カラオケで歌いながらオリジナルの歌詞を当てるという同様のテーマのゲーム・ショウではあるが、その内容、番組進行は大きく異なる。「ビー」は最初、ステュディオ内の観客から6人をステージに上げ、予選的歌詞当てを行う。昔のヒット曲の1フレーズを歌わせ、歌詞を間違いなく歌えた4人が次の段階に進む。とにかくここでは次の段階に進む4人を選ぶことの方が重要なので、何度間違えようと正しく歌えた者が4人出るまで何度でも交代でチャンスが与えられる。


次のステップでは4人が1対1で2組に分かれて優劣を競う。ここでも正しい歌詞を当てないといけないわけだが、正しく歌わなければいけない歌詞部分は気持ち長くなり、演奏がカラオケ部分になると、TV画面上 (たぶん会場では場内のスクリーン上) に一語一語バラバラになった歌詞が現れる。それをとっさに見て正しい順番に組み直して歌うわけだ。見ていると、知っている曲でもかなり難しい。結構歌詞なんてうろ覚えだからだ。これも回答者のどちらかが正答するまで続けられる。そして勝ち残った二人で決勝を行い、それに勝った最後の一人がファイナル・カウント・ダウンと呼ばれる最終段階に進む。ここでは7曲のカラオケを歌わせられ、一曲正解する毎に5,000ドルが与えられるが、3回間違えるとその時点で失格だ。5曲正解した場合の賞金は5万ドルで、途中失格になった場合はそれまでに正答した分の賞金が与えられる。


一方「リリクス」の場合、挑戦者は最初から選ばれている。その一人が連続して歌詞を間違えずに歌っていくことで賞金がどんどん上がっていく。最初の曲を間違えずに歌えたら5,000ドル、そして9曲連続して間違えずに歌えた場合の最高獲得賞金が100万ドルというので連想するのは、かつてABCで放送され全米を席巻したクイズ・ショウ「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア」に他ならない。


実際番組の進行を見た場合、「リリクス」が似ているのは「ビー」ではなく「ミリオネア」の方だ。回答者が途中で歌詞がわからなくなった場合、「ミリオネア」であった親類知人にヘルプを求めたり、歌詞の一部分を教えてあげたり選択肢の中から正しい歌詞を選ばせるなんていうバックアップが、「リリクス」でも設けられている。つまり「ビー」では番組のそれぞれのエピソードがまったく新しい独立したエピソードになるが、「リリクス」の場合、回答者が正解し続ける限り続いていくので、残りはまた次回ということもある。「ビー」、「リリクス」、共に基本的に30分番組だが、60分の場合もある。その時は「リリクス」ならただ同じことを続け、ある回答者が失格になったら次の回答者に移ればいいだけだが、「ビー」の場合は途中の予選段階が水増しされ、やはり60分で1エピソードが終わる。


番組として見た場合、どちらが面白いかはともかく、どちらが難しいかという点に関しては、まずほとんどの者が「ビー」の方が難しいと言うに違いない。「ビー」では最初から勝ち抜きで競争させられる上、歌詞を思い出す時間というのがほとんど与えられない。カラオケで歌っていて、歌詞の部分が途切れた瞬間に反射的に残りの歌詞が出てこないとまず勝ち残れない。「リリクス」ではそうなった場合に、考えたり誰かに訊いたり、あるいはその他のヘルプが与えられている。


「ビー」では回答者が歌っていて歌詞をミスると、その時点でブザーがなって、では次の人、という感じでテンポよく番組が進むが、「リリクス」では、歌い終わった回答者とホストが、さて、今のは正解だったか、とじらして緊張感を盛り上げる。今歌った歌詞で勝負するか、それとも自信がない場合、これまで獲得した賞金で満足して降りるかの決定は回答者が決めるという、そこもまるで「ミリオネア」だ。それにそのため、一人の回答者の出番が終わるまで結構時間がかかる。


また歌わされる歌も、「ビー」では最初から決められているのに対し、「リリクス」では例えばガール・バンド、80年代、カントリー、ローリング・ストーンズという風に選択肢が与えられ、回答者が得意な方を選べる。その後さらに、例えばそれがR&Bだった場合、1984年のスティーヴィ・ワンダーの「I just called to say I love you」か、1974年のシャイ-ライツの「Have you seen her」のどちらにするかを回答者が選択する。つまり、かなり回答者有利だ。それなのに、競争に勝ち、歌詞を正答して獲得できる賞金は、「ビー」が最大で5万ドル、一方、「リリクス」の場合は100万ドルなのだ。圧倒的に「ビー」の方が難しく見えるのにである。この差はなんだ。3大ネットワークの一角であるNBCともあろうものが、いったい何をそうけちけちしていると言いたくなる。


番組ホストは、「ビー」が元イン・シンクのジョーイ・ファトン、「リリクス」が近年はABCのゲーム・ショウ「フーズ・ライン・イズ・イット・エニウェイ (Whose Line Is It Anyway)」でよく見た黒人パーソナリティのウェイン・ブレイディだ。ファトンの場合、先シーズンの「ダンシング・ウィズ・スターズ」での健闘で名前を売ったことが、ホストに抜擢された大きな理由だろう。要するに落ち目の芸能人が誘われると出演を断らない「スターズ」の本当のメリットは、こういう、番組出演その後にキャリアの道が開かれる可能性があるということにある。


実際の話、見ているとファトンのホスティング技術はほとんど大したことはない。形容詞は「スイート」と「クール」ぐらいしか知らないのかという感じで、他にもっとうまいホストは大勢いるだろうにと思われる。しかし「スターズ」で売った知名度、それに自身が元アイドル・グループのシンガーで、歌の分野で造詣が深いと言わないまでも、本人がそれなりに歌って踊れることは大きなポイントなのであった。


一方の「リリクス」のブレイディは、「フーズ・ライン」以降最近で最も記憶に残っているのは、これはもう「シャペルズ・ショウ」でのバッド・ガイにとどめを刺す。それまではミスター・グッド・ガイという印象の強かったブレイディが、「シャペルズ・ショウ」出演以降、ぐっと役幅が広がったという印象を与えたのは事実で、本人もいつぞやインタヴュウで「シャペルズ・ショウ」以降、世界が広がったとしてシャペルに感謝していたのを見たことがある。明らかに機に応じて的確にコメントやギャグを挟むという技術に関しては、ファトンよりブレイディの方が上だろう。話は変わるが、「フーズ・ライン」は、このほど次期「ザ・プライス・イズ・ライト」のホストが正式に決まったドリュウ・キャリーがホストを担当していた。キャリーは現在、CBSの「パワー・オブ・テン」という新ゲーム・ショウでもホストを担当しているなど、「フーズ・ライン」出身タレントが現在活躍している。


その他の番組進行で最も異なるのは、カラオケの歌の部分の扱いにある。「ビー」も「リリクス」もステュディオ内にバンドを入れ、回答者の歌の伴奏をさせるのだが、その際、「ビー」では専属のシンガーおよびザ・ハニー・ビーズと呼ばれるシンガー/ダンサー・チームが歌詞が伏せられていない部分に関しては回答者と一緒に歌って盛り上げ、サポートする。一方の「リリクス」ではそういうバック・シンガーはおらず、すべてを回答者一人で歌う。時々ブレイディも一緒に歌って盛り上げたりもするが、要するにこちらの方がいかにも素人が歌うカラオケっぽい。


とはいえ素人の歌だけになるその「リリクス」が歌番組として面白くないかというと、特にそんなこともない。むしろ下手なやつらが楽しそうに歌うというカラオケの本質を見事に体現して、逆に笑いをとったり微笑ましくしている部分も見逃せない。あるいは、「ビー」のシンガーだって、そりゃセミ・プロ級だろうが、別にホイットニー・ヒューストンやスティーヴィ・ワンダーが歌っているわけではない。正直言ってあれくらいなら「アメリカン・アイドル」の予選通過者だってできるだろうという程度でしかない。だったら、別に最初から最後まで素人回答者に歌わせてもいいじゃないかと思うのだ。


要するに「ビー」と「リリクス」では、クイズ・ショウとしては「ビー」の方が難度が高くて挑戦のし甲斐があるだろうが、「リリクス」は回答者に感情移入して楽しめる。ただし、現時点では両番組においては「ビー」の方が僅かだが視聴率が高い。たぶんカラオケ・ショウとしてではなく、クイズ・ショウとして番組を見ている視聴者の方が多いから、こういう結果になるのだと思う。いずれにしても、大したヒット番組のなかった今夏のリアリティ・ショウにおいては両番組共健闘しており、今後も継続が決まっている。最初はどちらが生き残るかなと思っていたが、見てみると両番組はほとんど別ものだ。そのため、たぶん「ビー」も「リリクス」もそれぞれ固定ファンをつかんで、お互いを邪魔することなく共存できると思う。 






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The Singing Bee
ザ・シンギング・ビー   ★★1/2
Don't Forget the Lyrics
ドント・フォーゲット・ザ・リリクス   ★★1/2

 
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