放送局: FX

第2シーズン・プレミア放送日: 6/21/2005 (Tue) 22:00-23:00

製作: アポストル、ザ・クロードランド・カンパニー、ドリームワークスTV、ソニー・ピクチュアズTV

製作総指揮: デニス・リアリー、ジム・セルピコ、ピーター・トラン

製作: ケリー・オレント

共同製作: レスリー・トラン、トム・セリッティ

監督: ピーター・トラン

脚本: デニス・リアリー、ピーター・トラン

撮影: ジョナサン・フリーマン

美術: アンドリュウ・バーナード

編集: レスリー・トラン

音楽: クリストファー・ティン

出演: デニス・リアリー (トミー・ギャヴィン)、マイケル・ロンバルディ (マイク・「プロービー」・シレッティ)、ジェイムズ・マッカフリー (ジミー・キーフ)、ジャック・マッギー (ジェリー・ライリー)、スティーヴン・パスカーレ (ショーン・ガリティ)、アンドレア・ロス (ジャネット・ギャヴィン)、ダイアン・ファー (ローラ)


物語: マンハッタンのトラック62で消防士として働くトミーだったが、9/11で従兄や知人を亡くして以来、いったんは絶っていた酒をまた飲み始め、従兄の亡霊が見えるようになる。妻のジャレットとは気持ちが離れてしまい、トミーはまだ未練を持っているのだが、妻の方が既に新しい男とつき合っており、それが我慢ならないトミーは子供たちを買収して相手の男の素性を探り、それがばれてよけいに妻から愛想を尽かされる始末だった。職場でも素行が怪しくなったトミーはついにマンハッタンからスタテン・アイランドの消防署に飛ばされ、さらに自宅に帰ったトミーは、家から家財道具一式がなくなり、妻が子供たちを連れて出て行ったことを知るのだった‥‥


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2001年9月11日に起こった、いわゆるナイン・イレヴンと呼ばれるテロリスト・アタックがニューヨーカー、並びに全アメリカ国民、引いては世界中の人々に与えた影響については、今さら言うまでもない。特に一般市民のみならず、倒壊した貿易センター・ビルの下敷きとなって、多くの警官、消防隊員も命を落としたことは、その時、消防隊員を追って貿易センター・ビル内に来ていたノーデイ兄弟のドキュメンタリー、「9/11」にも詳しい。


歴史的にニューヨークの警官および消防隊員、特にファイアファイターと呼ばれる消防隊員は、アイルランド系が多い。現在では昔ほど排他的ではなくなったとはいえ、やはり東海岸の都市でアイリッシュの占めるファイアファイターの割合は、他業種と較べると段違いに多い。彼らの持つ、正義感が強いという美点や、単細胞、酒飲み太鼓腹という欠点という一般的なアイリッシュのイメージが、ニューヨークのファイアファイターの印象を形成する上で大きく影響しているのは論をまたない。したがって、9/11で人種的に最も大きく影響を受けたのは、イスラム系を除くと、アイルランド系だとひとまず言うことができる。


もちろん「レスキュー・ミー」製作主演のデニス・リアリーもアイルランド系だ。リアリーは元々コメディで世に出てきた人間で、自身の舞台を収録した「ノー・キュア・フォー・キャンサー (No Cure for Cancer)」で認められ、「サイレントナイト (The Ref)」の癖のある悪役で印象を決定づけた。短命に終わったが、ABCの「ザ・ジョブ (The Job)」という野心的なコメディもあった。


そのリアリーが一転して、9/11後のニューヨークのファイアファイターをスーパーシリアスに演じるドラマが、「レスキュー・ミー」だ。これまで、ストーリーに9/11を絡ませた番組というのは既に多数出現しているが、こういう風に、9/11を主要なテーマとして扱った番組はなかった。実際にどこに焦点を置くか、どういうバランスで描くか、製作者の立場としてはかなり気配りを要求され、難しいんじゃないかと思う。それでも、昨年の第1シーズンは、こういう、9/11後の人々の本当の生活をリアルに描いたドラマということで、かなり評判になった。


元々私生活に問題があった上に、さらに9/11で多くの縁戚知人を亡くしたトミー (リアリー) は、アルコールに溺れ、死者を幻視するようになる。むろん職務にも支障をきたすようになる (なんでこんなに平日昼日中から働かないで外を出回ることができるんだ。) 夜は夜でやはりバーをはしごしたりしているのだが、よくいざという時に消火活動に間に合わせることができるもんだと思う。女房との仲は既に決定的な亀裂が入っているが、しかしそこはカトリックのお国柄、トミーの頭の中には離婚という文字はない。実際未練があり、子供たちをスパイに仕立て上げて妻の様子を探れば探るほど妻からは愛想を尽かされるのだが、かといって何かしないではいられない。とまあ、番組はこういう状況のトミー、並びに、同様に9/11から大なり小なり影響を受けているその他のアイルランド系を中心としたファイアファイターを描く。


さすがにここまで好き勝手していると、いくらなんでも上司や同僚からも見放され、第1シーズンの終わりでは、トミーはついにマンハッタンから、ニューヨーカーの目から見れば僻地のスタテン・アイランドの消防署に飛ばされる。むろんトミーがそれを心地よく思っているわけはなく、久し振りに会った元同僚に対して、最近スタテンであった最も大きな火事は、間違ってマッチを2本一緒に擦ったことだった、とくさす。こないだ読んだニューヨーク・タイムズでは、こういう差別意識は地元 (スタテン) の人々を不愉快にしている、なんて書いてあった。もちろん部外者の立場から言えば、こういう自分には被害の及ばない差別意識は結構笑える。


実際、元々リアリーのコメディの作風は、真面目ヅラしてきついジョークを飛ばすところにあり、「レスキュー・ミー」でもそういった手触りは健在だ。つまり、「ジョブ」はその天秤を心持ちギャグの方に傾け、「レスキュー・ミー」ではドラマの部分にちょっと重心を移しただけで、その本質はほとんど変わらないという気がする。「ジョブ」を見ていると、なかなかドラマとしてもよくできているなと思うことが多かったが、「レスキュー・ミー」だと、トミーや周りの人間の行動が常軌を逸していたりするため、今度は申し訳ないがかなり笑えたりする。人間が真面目に悩むという行為は、第三者の目から見るとかなり無様で、憐憫や哄笑の対象になってしまうのだ。それをちゃんとわかって、時にシリアスに、時に笑いを計算して挟むことのできるリアリーの手腕には感心する。


さらに第2シーズンでは、トミーは妻のジャレットや子供たちと別れて暮らすつもりなぞないくせに、それでも新しいガール・フレンドを作っていい仲になってしまい、当然心はここにないために関係はうまく行くはずもない。セックスしている時以外はだいたいいつも怒鳴りあってばかりだ。一方禁酒も決心したのはいいが、思い立ってすぐアルコールが断てる人間がアル中になるはずもなく、AA (禁酒自助グループ) の集会でも揉め事を起こしてばかりいる。


トミーだけでなく、消防署の周りの人間も多かれ少なかれ皆何か問題を抱えている。若いやつらは恋愛問題がうまく行かなかったりするし、まだそんなに歳でもない妻がアルツハイマーになったりするし、よりにもよって息子が、昔気質のカトリックの親父にしてみれば断じて許すことのできないゲイになってしまったりもする。たった一人、むさ苦しい男ばかりの根城に入ってきた紅一点ローラの存在もなにかと目障りだったりするのに、結局はファイアファイターの一人とできてしまう (演じるのは「ジョブ」にも出ていたリアリーの盟友ダイアン・ファー。) とにかく誰一人何一つ思うように事は運ばない。


いささか気がかりなのが、こういった微妙なバランスの上で感心させたり驚かせたり笑わせたりしてくれる「レスキュー・ミー」が、今後どういう方向に展開していくかだ。このテンションを維持したままマンネリに陥らずに今後もずっと続けていくのは、言うは易く行うは難いだろう。まあリアリーのことだから、この手の番組が陥りやすいナルシシスティックな自己憐憫に耽ることにはならないとは思うが、まずはお手並み拝見というところである。


話は変わるが、番組のテーマ・ソングであるヴォン・ボンディーズの「カモン・カモン (C'mon C'mon)」が番組と妙にマッチしており、最近、ふとした拍子に頭の中で「カモン、カモン、カモン、カモン‥‥」とこの曲がいきなり流れ出すことがある。結局、なんやかや言いつつこの番組、結構よく見ているのだった。






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レスキュー・ミー   ★★★1/2

 
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