放送局: ニックトゥーンズ Nicktoons

プレミア放送日: 11/18/2006 (Sat) 21:00-22:00-22:30

製作: メソッド・フィルムス、ナイン・ストーリー・エンタテインメント

クリエイター: マシュウ・デラポルテ、エマニュエル・ゴリンステイン、アレクサンダー・デ・ラ・パテリエール

監督: エマニュエル・ゴリンステイン

脚本: オリヴィエ・ペロウズ、アーヴ・ペロウズ

音楽: ポール・インツォン

声: ティム・ハマグチ (マハド)、フィービ・マッコーリー (レイナ)、アレックス・ミラコート (ミラ)、ウィリアム・コルゲート (ヴェクター)


物語: 23世紀。地球は大小のブロックになって大気圏に浮かび、人々はその上で暮らしていた。そのため最も重要な資源は水であり、強大な組織スフィアの司令官であるロボットのオズロが水と人々を支配し、その手先のガーディアンが人々を監視していた。人々は、太陽の光を力に換えてテレキネシスを使うことのできるセイジンと呼ばれる者たちを筆頭に圧政に反抗していたが、圧倒的な力を持つスフィアの前には歯が立たなかった‥‥


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ニコロデオン (Nickelodeon) といえば、人々が真っ先に思い浮かべる番組は、一昔前なら「ラグラッツ」、今ならまずなにはともあれ「スクエアボブ・スクエアパンツ」だろう。これらのアニメーション以外にも、「アンファビュラス」「ゾーイ101」等、子供にも安心して見せることのできる番組を揃えたニコロデオンは、子供のみならず親からの人気も高い。ディズニー・チャンネルと人気を二分する家族/子供向けチャンネルだ。


そのニコロデオンのアニメーションばかりを集めたチャンネルがニックトゥーンズで、ディズニーが同様にアニメーションばかりを集めたディズニートゥーンズを立ち上げたように、膨大なアニメーション番組のライブラリを有効に活用するために生まれている。したがって、これらのチャンネルで放送される番組は、基本的に基幹チャンネルのニコロデオンやディズニーでまず最初に放送され、しばらく経った番組をリサイクルして再利用するという形が普通だった。


そのニックトゥーンズで放送の始まった「スカイランド」が特殊なのは、番組が再放送ではなく、アメリカにおけるプレミア放送の番組だということにある。これは「スカイランド」はカナダ-フランスの共同製作番組で、企画からニコロデオンがタッチしているわけではなく、放送権を買って放送しているだけという事情もあろう。番組の権利をすべて所有しているわけではないから、このチャンネルでまず放送して他のチャンネルでまた、という使い回しが効かないと思われる。


ヒットしても使い回せない、二次利用できない番組を大々的に放送するのもしゃくだ、しかし、番組自体の質は高く、地味に放送するのももったいない。というわけで、普段なら再放送番組ばかりで、まずどこからも注目されていないニックトゥーンズの目玉番組として放送し、あわよくば番組だけでなくチャンネル全体の人気の底上げにも繋がる一石二鳥効果を狙ったのが、今回の番組のニックトゥーンズにおけるプレミア放送という編成になったと思われる。


実際、「スカイランド」は子供向けというよりも、どちらかというとそれよりも上の世代を狙ったCGアニメーションだ。内容といい絵柄といい、デフォルメを利かした一般的なアメリカ製作のアニメーションよりは、むしろ日本のアニメに近いと言える。そもそもの番組の設定をかなり念入りに細部まで考えた跡が窺え、いわゆる10代前半までのトゥイーン層だと設定を完全に理解できるかどうか疑問だ。むろん子供だってアクション・シーンを楽しめることは楽しめるだろうが、やはりこの番組はハイ・ティーン以上の視聴者の方がより楽しめるだろう。


その内容および絵柄は、かなり和製アニメの影響が窺える。一見しただけだと登場人物はどちらかというとアメリカン・アニメーション的デフォルメが施されており、CG技術による背景や動き等も、和製アニメというよりはアメリカン・アニメーションだ。番組冒頭の空中バイク・レースで人が連想するのは、当然「スター・ウォーズ」だろう。しかしよく見ると、その細部、裏側、思想等、根本的なところで連想するのは和製アニメだ。


まず空に浮かぶ数々の島、その上で暮らす人々、そしてなによりもロボットのガーディアンの造形から人が思い出すのは、これは誰でも宮崎駿の「天空の城 ラピュタ」だろう。圧政に苦しめられている人々は、セイジンというスーパーパワーを用いる一握りの者たちを擁してスフィアに抵抗する。腰だめでその力を貯め、相手に向かって光の玉を投げ飛ばすその能力は、「スター・ウォーズ」のフォースというよりは、どう見ても「ドラゴンボール」である。その力を使うためには日の光を浴びていなければならないという設定も、私が知らないだけで実はマンガやアニメで既に使われていてもおかしくはないと思う。


番組第1回では、主人公のスクーターの運転に長けた17歳のマハドと、まだテレキネシスの練習中のレイナと共に暮らす母のミラの元に、ガーディアンが現れる。勝ち気なレイナはガーディアンに反抗してしまい、しかもちょうど帰宅したマハドが同様に歯向かったため、ガーディアンたちは本気でレイナとマハドを拘束しようとする。そこを救ったのは、それまで強力なテレキネシスを持っていたことを隠していた母のミラだった。しかしスフィアの追っ手から逃げ通すことはできないと知っていたミラは子供たちを逃がし、自分だけが捕らわれの身となるのだったという展開で私が思い出したのは、白土三平の「サスケ」だ。さすがにこれは実際にフランス語圏のアニメーターたちが実際に見ているかは疑問だが、それでも、この種の和製アニメ的な手触りはいたるところにある。今現在のアニメ・ファンならいたるところで類似点を指摘できるだろう。


面白いことに、ヨーロッパ、というかアメリカを含めた西洋全般で最も日本人と近しい感性を持っているのは、どうやらフランス人のようだ。かれこれ3、4年前になるのだが、休暇でパリを訪れた時、空港からの列車の中やメトロのプラットフォーム待合椅子に座り込んで、フランス語に訳された日本のマンガを一心不乱に読んでいるティーンエイジャーと思しき若者を大勢見た。オリヴィエ・アサヤスの「デーモンラヴァー」は日本のロリ・アニメの配給権を獲得しようと躍起になる話だ。一方、そのフランス版オタクの代表といえるミシェル・ゴンドリーの人気はアメリカよりも日本での方が大きいのは間違いところを見ると、やはり日本とフランスの親和性は高いと思える。因みに昨年ロンドンに行った時は、マンガのマの字も目にしなかった。この違いはどこから来るのか。


「スカイランド」を私が結構面白く感じたのは、実はそういうフランス文化と近いものを私自身も感じているからかもしれない。「スカイランド」は一見してはともかく、その内容は明らかに基幹チャンネルのニコロデオンやディズニー、あるいはカートゥーン・ネットワークが放送しているアメリカ製アニメーションとは異質だ。


ただし、とはいえ「スカイランド」が日本の一般的視聴者にアピールするかというと、それはまた別問題という気がする。通常アニメ・ファンは、絵から作品に入る。主人公が可愛い、格好いいというのはほとんどお約束であって、まずこの点をクリアしないと人気は得にくい。「スカイランド」の場合、一見しての主要登場人物の造形はかなりデフォルメされているが、マンガチックというわけではない。たぶん日本人一般の印象としては、マハドとレイナは特に見場がいいとは映らないだろう。絵が古くさいという印象を受けるんじゃないだろうか。そこで主人公に感情移入するのに手間どるんじゃないかという気がする。


一方、そのジャパニーズ・アニメはどんどん先鋭化というか広範囲化しているようで、先頃スパイクTVでプレミア放送された「アフロ・サムライ (Afro Samurai)」はサミュエル・L・ジャクソンがプロデュースして声を吹き替えているのだが、まるでアメコミのようにデフォルメの効いた絵柄のくせして、実際の製作は日本のゴンゾー・スタジオとフジTVが担当している。黒人サムライが刀片手に戦国時代かはたまた未来の文明が滅びた後の日本で活躍するという奇想天外な話で、とにかく意表をつく。しかしそそられるものがあるのは確かで、アニメーションにしては珍しく大きなスペースを割いてニューヨーク・タイムズが番組評を載せていたところからも、注目されていたことが窺える。


黒人アニメーションといえば、元は新聞ストリップの「ザ・ブーンドックス」も明らかに絵はマンガの影響を受けているし、逆に日本でもラップやヒップ・ホップ文化が根づいているように見える。また、「アフロ・サムライ」を放送しているスパイクTVは、何を隠そう「風雲! たけし城」こと「MXC」をアメリカ人に知らしめたチャンネルとして知られている。「トリビアの泉 (Hey! Spring of Trivia)」は残念ながら外したようだが、「MXC」は現在でも放送されており、「アフロ・サムライ」中にやっていた番組予告によると、いまだに新しく吹き替えた新エピソードが投入されているようだ。さすがに日本人の目から見ると、たけしや軍団の顔や髪型が古くさく、乗りも既に過去のものという感がするのは否めないが、アメリカ人にはいまだに受けているというのもなんだか面白い。


その日本オリジナルのアニメ、しかも新しいタイプのアニメは、今ではかつての定番コースだったカートゥーン・ネットワークやCW (旧WB) 経由でアメリカに紹介されるのではなくなってきている。これはたぶん、TV放送に頼らずしてアニメのDVDが広く入手できるようになったことも理由の一因と思われるし、他のTVチャンネルもアニメに食指を伸ばし始めていることも関係しているだろう。実際の話、近年、最もアニメ放送に力を入れているのは、実はインディペンデント映画専門チャンネルのIFCで、昨年だか「サムライ7 (Samurai 7)」の放送を始めたと思ったら、先頃「ガンスリンガー・ガール (Gunslinger Girl)」と「バジリスク (Basilisk)」を抱き合わせで放送を始めてしまった。こうやってどんどん文化の垣根は低くなっていく。 






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Skyland


スカイランド   ★★★

 
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