放送局: TNN (現スパイクTV)

プレミア放送日: 4/19/2003 (Sat) 21:00-22:00

製作: TBS (東京放送)

製作: 桂邦彦

監督: 三角英一、渡辺香、岩原貞雄

出演: ビートたけし、石倉三郎、谷隼人、柳沢慎吾、ストロング金剛、丹古母鬼馬二、岡田正典、大念寺誠、渡嘉敷勝男、城みちる、そのまんま東、大森うたえもん、ガダルカナル・タカ、つまみ枝豆、ダンカン、井手らっきょ、松尾伴内、柳ユーレイ、ラッシャー板前、グレート義太夫、おぼっちゃま、キドカラー大道、サード長嶋、宮内鎮雄、他


内容: 日本で1980年代後半にTBSで放送され、人気を博した「風雲! たけし城」を吹き替えて放送。


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アメリカのベイシック・ケーブル・チャンネルの一つ、TNNは、古くはザ・ナッシュヴィル・ネットワーク (The Nashville Network) と称しており、その名の通り、ナッシュヴィルゆかりのカントリー音楽専門チャンネルだった。しかし、米通信放送界の巨人の一人であるヴィアコムが資本参加したことで、そのヴィアコム傘下のもう一つのカントリー専門チャンネル、CMT (Country Music Television) とバッティングすることになった。


カントリーはアメリカの演歌と言えるものであり、あの、時代錯誤のカウボーイ・ハットやブーツといい、男性歌手のヘンに裏声じみた歌い方といい、大の大人がいつでもめそめそしている歌詞の内容といい、私ははっきり言って積極的に嫌いな音楽なのだが、アメリカの田舎では、いまだに人気がある。


とはいえ、いくらなんでもカントリー専門チャンネルがいくつも成功するほどファン層が大きいわけでもなく、ヴィアコムは、より人気のあるCMTは手つかずのまま残し、TNNはカントリー音楽専門から、男性視聴者を視野に入れた新しいチャンネルへと大きく生まれ変わらせることにした。それが新TNN (The National Network) だ。


新しいTNNの目玉はプロレス中継の「WWEヒート」で、それにたまさかのNASCARレース中継、人気ドラマ「CSI」や「スタートレック: ザ・ネクスト・ジェネレーション」、「ベイウォッチ」の再放送等が編成の中心であり、まあ、確かにある種の男性視聴者層には受けるだろうが、しかし、どうでもいいと思われることの方が多そうなチャンネルである。かくいう私もそう感じる一人で、普段は滅多にチャンネルを合わせることなどない。その中では、「スラムボール (SlamBall)」が、かろうじて一応それなりに面白いかなという程度だ。


「スラムボール」は、リングの周りにトランポリンを配し、身長がないプレイヤーでもダンク・シュートが打てるようにした新種のバスケット・ボールだ。トランポリンを使って大きく弾みながらのプレイなので、時としてプレイヤー同士の空中肉弾戦みたいになって、結構面白い。自分でもやってみたいと思うスポーツの一つだ。とはいえ、TNNで私がたまにでも見る番組といえば、これくらいしかなかった。


で、結局、やはりあまり視聴者がつかなかったのだろう、TNNはこの6月からまたチャンネル名を変え、今度は「スパイクTV」としてまた再出発を期すことになっている。やはり男性視聴者を狙うチャンネルであることには変わりないが、今度は再放送番組よりもオリジナル番組に力を入れるようで、その方がいいと私も思うが、さて、どうなることやら。


そのTNNでこの4月から新しく始まった新番組、「モスト・エキストリーム・エリミネーション・チャレンジ」というタイトルを見て、それがいったいどういう番組かを想像できた者は少ないだろう。私が事前にこの番組に関して知っていたことは、日本で放送され、人気を博したヴァラエティ番組を吹き替えたものということだけだった。私は91年に渡米して以来、日本の番組とはほとんど無縁だから、オリジナルの日本語のタイトル名を調べてもどうせ私がは知らない番組だろうと思って、別にそれ以上気にすることもなく、ほっておいた。というか、完全に忘れていた。


それが、アメリカのTV番組が最もつまらない土曜の夜、何か面白い番組はないかと思ってリモートを片手にチャンネルを次から次へと切り替えていた時、いきなり見知った顔が変な時代劇衣装を着た姿が目に飛び込んできた。これ、ビートたけしじゃないか。なんでたけしがこんな時間にアメリカのこんなほとんど誰も見ていないようなチャンネルに出てるの!? しかも、このたけし、まだ髪もあって、結構若い。いったい、いつの何という番組なんだ?


そしてそれに続いた本編を見て、これが日本ではTBSが放送していた「風雲! たけし城」だということを知るのに、さほど時間はかからなかった。実は、私は日本にいた時はそれほどTVを見ていなかった。それなりに映画は見ていたが、TVはニュースとスポーツだけあればいいと思っていたので、86年から89年にかけて放送され、人気を博していたこの「風雲! たけし城」も、実はまともには一度も見たことがない。それが今、15年後にここアメリカで見てみると、面白いじゃないか。最近、和もの洋ものを問わずTVを見てこれだけ笑ったのは、MTVの「ジャックアス」と「ジ・オズボーンズ」以来くらいのものだ。これだけの番組が既に15年も前に日本で放送されていたのか!


しかし、多分、今ではもう同様の番組の製作は無理だろう。危険すぎる。だからこそ思いもがけないアクションが羅列して面白いのだが、今、こういうことを素人にやらせようというプロデューサーは、少なくともアメリカにはいない。出演者が怪我したら訴えられるのはこちらで、しかもほとんど勝ち目はない。だからアメリカでこの種の番組が製作されると、「ジャックアス」みたいに内輪で、番組関係者だけがアトラクション/アクティヴィティに挑戦することになり、番組冒頭には、必ず、真似はしないようにという但し書きがつく。それを考えると、「たけし城」はよくやった。えらい。多分、似たような番組だったと思われる「筋肉番付」では、収録中の事故で放送中止に追い込まれたと聞いた。それを考えると、今後、日本ですらもう二度とこんな番組はできないだろう。


惜しむらくは、「モスト・エキストリーム‥‥」の場合、言葉が吹き替えなので、完全にはニュアンスはとれていない。というか、どうにも訳せないようなやりとりが多いのだろう、わけのわからない大胆な意訳が多く、オリジナルでなんと言っていたのか、まったく想像もつかないような言い回しをしたりする。まあ、セリフよりも視覚的なものが勝負だから些細なことと言えるかもしれないが、しかし、藤村俊二似の彼の言い回しに合わせて、英語でも似たような、癇に障る喋り方で、しかもほとんど意味のないせりふ回しをされるくらいなら、せめて字幕にしてしまえと思う。そうしたら、せめて日本語ネイティヴなら何言ってるか理解できるだろうに。


「料理の鉄人」の英語版「アイアン・シェフ」放送しているフード・チャンネルの場合、基本的にこちらも吹き替えではあるが、ところどころ日本語の発言がそのまま残っているところもあり、そういった処理は「アイアン・シェフ」の方がまだ一枚上手であるという感じがする。しかし、まあ、日本人ですら時々何言っているのかわからないたけし軍団のギャグを英語に置き換えるのは、ほとんど無理があるというのはよくわかるけど。しかし、たけし本人の紹介で、名前がヴィク・ロマノ (Vic Romano) とテロップが入るのは、いったい何だ。吹き替えしているやつの名前か? あの顔のいったいどこがロマノなんだ。


実は「モスト・エキストリーム‥‥」は、TNNのホーム・ページを見ても、番組紹介がない。スケジュールにだけは土曜夜9時からと日曜夜8時から「Most Extreme...」とちゃんと出ているが、ではその内容は、と思っても、調べようがない。「たけし城」は全部で129話あるそうなのだが、TNNが放送権を買ったのはたった13話だけなそうなので、それだけしか放送しない外国産の番組の番宣のために、いちいち時間を割いて専用のページを作る暇なんかないということか。しかし、チャンネル内ではばんばん宣伝しており、どうもよくわからん。そういう一貫性のないところが、やはり弱小チャンネルという気がする。


それにしてもこんな番組が15年も前に既に日本で放送されていたというのは、やはり驚きである。私はヴァラエティ番組、アメリカ風に言うとリアリティ・ショウに関しては、アメリカよりも日本の方が進んでいるのではないかと常々思っていたのだが、今さらながらその感を強くした。実際、アメリカで「サバイバー」が流行るより前に日本では「電波少年」が似たようなことを既にやっており、「エキストリーム・メイクオーヴァー」より前に「ビューティ・コロシアム」があり、「ジャックアス」より前に、既に「たけし城」があった。願わくはTNNがもっと「たけし城」の放送権を買いとって、吹き替えどころか字幕すらなしでいいから (さすがにそれはありえないか)、続けて放送してくれるととても嬉しいんだが。



追記: 2004年4月


願いが天に通じたか、「MXC」(いつの間にかこう短縮されて呼ばれるようになった) はじりじりとカルト的人気を獲得し、今ではTNN改めスパイクTVの主軸番組となりつつある。スパイクTVはさらに新しいエピソードの放映権を獲得、今では一日中「MXC」を放送する「MXC」マラソンまで放送されている。


ところで、リアリティ・ショウは、ヒットすると外国においてもマイナー・チェンジが施され、リメイクされるのが常だ。というのは理解していたものの、80年代に製作され、現代では日本ですらもう製作はできまいと思っていた「たけし城」のリメイクが、ついにアメリカで製作された。元々アメリカで放送されている「MXC」は、映像自体はオリジナルの「たけし城」を用いてはいても、勝手にセリフを捏造して、2チーム対抗戦に模様替えさせられている。今回は、そのチームにキャプテンを配して、本当の対抗戦として、一回こっきりの特番として製作された。


その対抗戦、「オタク (Geek)」チームのキャプテンは、なんと全ティーンエイジャーのアイドル、スケートボード界の歴史に燦然と名が輝く、生きた伝説トニー・ホウクで、一方の「友愛会 (Fraternity)」チームのキャプテンは、スノウボーダーとして知られるタラ・ダキデス。実はこれには少々びっくりした。ダキデスはつい最近、デイヴィッド・レターマンがホストの深夜トーク・ショウ「レイト・ショウ」にゲストとして招かれ、マンハッタンの53丁目に特設されたチューブで得意のスノウボーディングの妙技の真っ最中に失敗してアスファルト上に転落、確か足を骨折したはずで、この事故でこの日のショウは収録中止、晩には急遽昔のエピソードが再放送された。


この事件はニュースにもなったから、ニューヨーク近辺でこの話を知っている視聴者は多いだろう。ついでに言うと、ダキデスは数日後の「レイト・ショウ」に松葉杖をついて現れ、レターマンとお喋りをして帰っていった。それが確か1月頃だったはずで、もう骨折はよくなったのか。それまではスノウ・スポーツを嗜んでいる者以外はほとんど知らなかったはずのダキデスは、これでお茶の間の話題に上る有名人になったわけだ。私も「レイト・ショウ」を見ていなければ、ダキデスがどこの誰だったかなんて皆目知らなかったろうから、ある意味で身体を張ったこの怪我は、文字通り怪我の功名にはなった。そのダキデスが、こともあろうに「MXC」でホウクと共同キャプテンを務めることになろうとは。両者とも新しめのエキストリーム・スポーツ出身というところが買われたんだろう。


さて、この「MXC: オールモスト・ライヴ (Almost Live)」のタイトルは単なる冗談で、もちろんライヴなんかじゃまったくない。なんでもフロリダのユニバーサル・スタジオで収録したそうだが、背景に見えるニコロデオン・チャンネルのパビリオンのロゴが、TV画面上でぼかされているのがなんともおかしい。ニコロデオンは、「MXC」を放送しているスパイクTVとは姉妹チャンネルの間柄にあり、共に親会社はヴィアコムだ。因みに言うと、ネットワークのCBSとも姉妹チャンネルの関係にある。姉妹チャンネルなら逆にいい宣伝にもなり、ロゴをぼかすことなく、そのまま放送しちゃえばいいじゃないかと思うが、もしかしたら、部外者には窺いしれない内部事情というものや、ライヴァル意識、あるいは著作権のような話が絡んでいるのかもしれない。


いずれにしてもアメリカ版MXCは、「竜神池」や「ローラーゲーム」等の、「たけし城」で最も人気のあるアトラクションをわざわざユニバーサル・スタジオ内に新設して競技を行っているのだが、これがどうも面白くない。「未来日記」をリメイクした「デイティング・エクスペリメント」や、「料理の鉄人」のリメイク「アイアン・シェフUSA」でもそうだったが、日本の番組をアメリカでリメイクすると、なぜだかオリジナルが持っていた、それこそが人気の秘密だったキッチュな乗りが雲散霧消してしまうのだが、それはこの「MXC」も例外ではない。


特に、参加者が派手に失敗して落ちることで笑いを誘っていた「ローラーゲーム」なんか、怪我人が出ることを怖れたんだろう、オリジナルのローラーに較べると、どうしても回転が遅そうなローラーになってしまい、これじゃまったく面白くない。無事向こう岸に渡る成功者が連続して何人も出るし、最後、両チームが同点となって、では、キャプテン同士による「ローラーゲーム」によって勝負に決着をつけるという段では、ホウクもダキデスも二人共難なく向こう側まで渡りきってしまい、もう、これでは何をかいわんやである。見ていてまったくつまらないし、がっかりしてしまった。これじゃリメイクする意味がない。それこそオリジナルの「たけし城」よりももっと滑りやすく、回転の速いローラーを製作して、怪我人続出、オリジナルを超えたと誰でも思えるようなリメイクを製作してくれ。







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風雲! たけし城   ★★★

 
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