放送局: スパイクTV

プレミア放送日: 11/11/2004 (Thu) 21:00-21:30-22:00

製作: フジテレビ、オートマティック・プロダクションズ

製作総指揮: アキフミ・タクマ、アンディ・カディソン

製作: ジョディ・ハーヴィッツ

出演: タモリ、カツミ・タカハシ、ノリト・ヤシマ、他


内容: フジテレビの「トリビアの泉」の英語吹き替え版。


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「ヘイ!: スプリング・オブ・トリヴィア」こと「トリビアの泉」を放送しているスパイクTVは、「風雲! たけし城」の英語吹き替え版である「モスト・エキストリーム・エリミネーション・チャレンジ」、略して「MXC」を放送しているチャンネルだ。「MXC」は現在カルト的人気となって、スパイクTV躍進の影の功労者となっている。


実際、スパイクでかろうじて人気がある番組というと、まず第一にプロレス中継の「WWEエンタテインメント」、あと「CSI」と「スタートレック」の再放送で、それに「MXC」を加えてしまうと、ほとんどの者はそれ以外にスパイクTVで放送している番組なんて知らないんじゃないか。なかでも、スパイクTVという名を暇なオタッキーな男性視聴者だけでなく女性視聴者にも浸透させた「MXC」の功績は、多大なものがあると言えよう。


そのスパイクTVが柳の下の二匹目のドジョウを狙って投入するのが、「ヘイ!」だ。ただし今回は、勝手に登場人物の喋るセリフを捏造して、少なくともゲーム以外の部分はまったく別の番組に改竄してしまった「MXC」とは異なり、基本的に喋っている内容に手を加えることなく、セリフはほとんど逐一英訳して、ヴォイス・オーヴァーとして上から被せている。たぶん「MXC」のセリフ捏造については、かなり苦情が来たんじゃないかと想像する。さらに実際問題として、製作側の立場から見ると、新たにセリフを捏造するよりも逐語訳する方がよほど簡単だと思う。とはいえ確かに「MXC」は、結局セリフを逐語訳しても意味が通じたかは疑問ではあるが。


さて、いずれにしてもこの「ヘイ!」という番組タイトルについては、オリジナルを知っている者にとっては一抹の不安を覚えざるを得なかった。なんとなれば、オリジナルでゲスト・パネラーが、そのくだらなくも意外な新事実に多少間抜けな感嘆の念をもらすのがこの「へえーっ」であって、それは、「ヘイ!」という勇ましい、どちらかと言うと呼びかけや返事に用いられる相槌のような言葉とはまるっきり語感が違う。口をあんぐり開けて「へぇーっ、そうなんだ」というのが正解であり、「ヘイ! ヘイ! そうかわかったぜ!」ではない。しかし英語版の番組タイトルから連想してしまうのは、まったくそれなのだ。


そういうわけで多少の心配をしながら見始めた「ヘイ!」であるが、別に思ったほど違和感があるわけではなかった。ヴォイス・オーヴァーとはいえ、パネラーがボタンを叩いた時のへぇーサウンドは生きており、ちゃんと聞こえる。ヴォイス・オーヴァーによる「ヘイ!」発音も、思ったほど威勢がよすぎるわけではなく、本当は、やはりもうちょっと間抜けに発音して欲しいとは思うのだが、だからといってすべてをぶち壊しにするほどずれているわけでもない。まあ、あんなものではなかろうか。


それよりも気にかかったのが、実は「たけし城」ですらかなりその気はあったのだが、時として画面全体を支配するかのような、文字情報の羅列である。昨今の日本のTV番組、特にヴァラエティ番組は、ほとんど文字放送かと間違えるほど画面上に文字を羅列しており、それは「ヘイ!」も例外ではない。もちろんこれは耳の不自由な人のための便宜を図っているわけではなく、この手の番組では往々にしてパネラーやゲストが登場して銘々好き勝手に発言するため、視聴者が発言を聞き逃したり聞き取れなかったりすることがよく起こる。収拾がつかなくなって、え、あれ、今、この人、なんて言った? なんて考えたりしているうちに話が先に進んでしまったり、発言の主旨を見失ったりする。そのためのサポートというのがまず第一の理由だろう。


もちろん料理番組のレシピや懸賞応募番組の宛て先等、現実問題としてこのような文字情報が必要不可欠の番組もあるだろうが、基本的にこの種の番組のこの手の文字情報は、単なる意匠、強調くらいの役割しか担っていない。あるいは、ほとんどながら視聴をしている視聴者が、一瞬、あ、今、なんか面白いこと言った、と思って画面を見ると、そこにまだ発言が文字情報として残っていれば、発言を再確認できる。要するに、そういうTVの見方が定着してしまったことが、この種の文字放送まがいの番組になってしまった最大の理由ではなかろうか。つまり、近頃は誰も真面目にTVに向かっているのではなく、面白いポイントを抑えようとしているだけだから文字情報も必要になっているのではないか。


特に文字情報がこのように多いと、日本人の目から見てもうるさいと感じるのに、それを文字として認識できず、単なる意匠としてしか判別できない外国人の目から見た場合、ほとんど邪魔なんじゃないかという気がする。最近、日本語や漢字がなぜだかアメリカの若者の間でかなり流行しており、漢字やカタカナを一つの意匠としてとらえ、意味はわからずともデザインとしてお洒落に利用する者がかなり増えた。もしかしたらそういう下地があるから思ったほど気にはしていないのかもしれないが、それでも、TVで画面上に読めない文字がうじゃうじゃ出てきたら、うざったいと思う者も少なくないだろう。


とまあ、不必要と思われる文字情報はうざいくらい現れるのに、一方で、外人でもこの人たちが誰か少しは気にするんじゃないかなあと思えるパネラーの氏名が、日本語のままで、アルファベットでは紹介されない。たとえば、「草刈民代」と出されてもアメリカ人にはどこの誰だかさっぱりわからないだろうが、「Tamiyo Kusakari」だと、今、ちょうどアメリカでもリメイク版「Shall We Dance?」を公開中のことでもあり、映画好きならかなりの人間が、彼女がオリジナルの「Shall We Dacne?」に出ていたあのマドンナだということに気がつくと思う。こういう情報を広めないで伏せたままにしておくのは、惜しいと思うのだ。


また、今回は番組の内容には手を触れずに、一字一句そのまま訳しているとスパイクは強調している。だからオリジナルをそのまま放送しているのだとばかり思っていたが、よく見ると、各々の「へぇーっ」で毎回パネラーが違う。オリジナルで一つの「へぇーっ」毎に違うゲストを呼んでいたという記憶もないから、これは編集してあるのだろう。確かに今見えている部分のセリフはほとんど全部逐語的に訳してはいるが、やはり内容自体は、これはアメリカ人向きではないと思われる「へぇーっ」は端折ってあったのだ。あるいは中味部分は削ってなくとも、パネラーのコメントをだいぶ削除してあるのだろう。


考えれば、元々1時間の番組が、「ヘイ!」では30分番組となっている。どこかを切らなければ収まらないのは明らかだ。となれば、当然真っ先に切られるのは、ほとんどがアメリカでは知名度のないパネラーのコメント部分だろう。道理で見ている時、オリジナルを見た時に較べてやたらとゲスト・パネラーが映る時間が短いような気がするなあと思ったんだ。番組冒頭で紹介もなかったし。しかもまったく映してもらえないパネラーもいる。ほとんどがアメリカ人にとっては未知の人間だし、この辺は、できるだけ差し障りない範囲で削除してしまえと思ったのはよくわかる。実は私にとってもその方がありがたい。


だいたい、日本のヴァラエティ番組を見る時、なにがうざいかって、あの耳障りなゲストのお喋りほどうざったいものはない。だいたいあの種のお喋りは、はっきり言ってまったく必要ない。軽い娯楽として番組を見ている視聴者が、肩の凝らないお喋りを聞いて楽しみたいというのはわからないではないが、それをまったく邪魔と感じる者もいる。もちろん私もその類いだ。ほとんどのこの種の番組は、そういったくだらないお喋りさえ端折ってくれれば、番組時間は半分で済む。視聴者は、そうやって節約した時間を利用して、気の入った仲間と本当に楽しいお喋りを楽しむことができる。


あるいはその分、番組プロデューサーは中味を倍にして番組としての内容を濃くすることができる。番組を見てそれこそへぇーっと感心したりするのは我々視聴者がすることであって、別に名前すら知らない二流の芸人の反応を見ても、こっちは楽しくもなんともないのだ。おかげで私は時々日系の貸しヴィデオで借りてきたテープを見る時は、常にリモート片手で、ほとんどそういったお喋り部分は早回しして飛ばしながら見る癖がついてしまった。「あるある」とか「スパスパ」なんかで、ゲスト出演者にも実際に実技をさせたり、番組の主旨内でそれぞれの話を聞く分にはまだいいが、だいたいゲストのいる日本の1時間ものヴァラエティは、見るたんびに余裕で30分番組になるなと思う。いずれにしても、1時間の「トリビアの泉」を30分の「ヘイ!」として編集し直したスパイクの判断は、まったく正しい。


「MXC」でだいぶ注目を集めることに成功したスパイクは、今回、「ヘイ!」を「日本で視聴率第1位のTV番組」として、かなり推して番宣していた。「ヘイ!」プレミア放送の週は、スパイクは毎日1本ずつ、都合5本の新番組を投入したのだが、吹き替えで、知名度のある芸能人はまったく登場せず、画面上には読めない文字が絶えず現れる外国産の番組が、堂々とその新番組群の一角を占めただけでなく、私の印象では、「ヘイ!」が最も推されているという感じを受けた。「MXC」が始まった時、ホーム・ページではタイトル名だけで番組の中味を知るよすががまったくなかったことを思うと、隔世の感がある。


もっとも、放送局が推しているのと、その他のマスコミや一般視聴者がどうそのことをとらえているかは別問題だ。驚いたことには、「ヘイ!」プレミア放送の際には、天下のニューヨーク・タイムズが番組評を載せていた。どちらかというとあんまり好意的とは言えない論評だが、基本的に外国産のTV番組がタイムズの批評欄に載る頻度がどのくらい稀なものであるかを知っている者にとっては、たとえ嫌われようが、これは一つの事件である。一方、業界誌のハリウッド・レポーターのレヴュウアーは、なかなか楽しんだようだ。いずれにしても、このように全国紙でも業界誌でもとりあげられるくらい、「ヘイ!」の注目度は高かったと言える。


ニューヨーク・タイムズのレヴュウ

ハリウッド・レポーターのレヴュウ


「ヘイ!」は来春からスパイクがアメリカ版の放送を予定しているが、当然ゲスト・パネラーの発言は大幅にカットして、中身を増やす方向で製作してくるだろう。さもなければどんなにアメリカにオタッキーな人間が多くとも、番組成功は覚束ないに違いない。逆に言うと、そういうよけいな部分をカットしたアメリカ版「ヘイ!」は、スパイクが意地を見せて金をかけて製作するなら、本家より面白くなる可能性はかなり高いんじゃないかと思う。もちろん一視聴者としてはそれが見たいのは言うまでもない。





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トリビアの泉   ★★★

 
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