放送局: カートゥーン・ネットワーク

プレミア放送日: 11/6/2005 (Sun) 23:00-23:30

製作: レベル・ベイス、ソニー・ピクチャーズTV

製作総指揮: アーロン・マッグルーダー、レジナルド・ハドリン

共同製作総指揮: ロドニー・バーンズ

製作: デニス・コーワン、カール・ジョーンズ、ブライアン・コーワン

クリエイター: アーロン・マッグルーダー

監督: アンソニー・ベル

脚本: アーロン・マッグルーダー、ロドニー・バーンズ

声: レジーナ・キング (ヒューイ/ライリー)、ジョン・ウィザースプーン (ロバート・フリーマン)、エドワード・アスナー (エド・ワンクラー)


物語: ヒューイ、ライリーの黒人の兄弟は、同じく黒人の祖父ロバートに連れられて、シカゴ郊外の中流以上の白人ばかりが住む保守的な町ウッドクレストに引っ越してくる。この町の創設者ワンクラーは自分の町に新しく越してきた人間が何者かを確かめに来るが、意外にもがちがちの右寄り頑固者ワンクラーは、これまたがちがちの偏見持ちの頑固者ロバートに誤った好感を持ってしまい、自分の豪邸でのパーティにロバート一家を招待する。ワンクラーの孫は兵役でイラクに戦争に行ったこともある、甘やかされて育てられたできそこないだったが、これまた上流社会から浮いており、むしろヒューイたちと話が合うのだった‥‥


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朝から晩まで一日24時間アニメーションだけを編成しているカートゥーン・ネットワークは、同様にアニメーション専門のトゥーン・ディズニーや、比較的その割合が大きいニコロデオン等と並び、アメリカTV界における重要なアニメーション供給源だ。


とはいえ基本的に子供が主要視聴者のディズニー、ニコロデオンと異なり、カートゥーンの場合、大人のアニメーション・ファンも多く見ており、つまりオタク層を相手とした癖のある番組や和製アニメの吹き替えが多い。特にアメリカで「アニメ」がどれだけ普及しているかの確認には、カートゥーンと、独自にアニメ普及ルートをとっているキッズ4エンタテインメントが重要な番組供給源の、土曜朝のFOXやWBのチェックが欠かせない。カートゥーンがパフィーを主人公とした「ハイ・ハイ・パフィー・アミユミ」を製作したのも、当然こういうアニメへの高い親和性という地盤が元々あったからという理由が大きい。


そのカートゥーンの特色がもろに出るのは、当然子供が寝静まって、オタク層が幅を利かせてくる深夜の番組時間帯にある。この時間のカートゥーン編成の番組、特に大人向けを意識した、夜11時から翌朝5時までの「アダルト・スイム (Adult Swim)」ブロックは、はっきり言って子供には見せられない毒の強い番組が多く並んでいる。別にアニメーションに特に興味があるわけではない私でも食指をそそられるような番組は、だいたいにおいてこの時間帯に編成されている場合が多い。


こういう、ターゲット視聴者層に合わせて似たような傾向の番組を揃えるブロック編成はカートゥーンの得意とするところであり、特に昔からのカートゥーン・チャンネル・ファンには、ティーンエイジャーを狙って編成されていた夕方の和製アニメ主体の「トゥーナミ (Toonami)」(たぶん「カートゥーン (Cartoon)」と「津波 (Tsunami)」の造語) ブロックは馴染みが深いだろう。最近では新しく「ミグジ (Miguzi)」という、こちらはまったく語源の予想がつかない、トゥーナミよりは若干幼い視聴者を意識したブロックが編成されている。


さて、「アダルト・スイム」だが、この枠も、かつてはかなりアニメがこのブロックを牽引していた中枢番組だったという記憶がある。現在でも看板番組は「犬夜叉 (Inuyasha)」だったりする他、「エヴァンゲリオン (Evangelion)」だとか「攻殻機動隊 (Ghost in the Shell)」等が何度も再放送されているなど、かなりアニメ浸透度は高い。その一方でアメリカ産のオリジナル番組も健闘しており、その中でもここ数年で最も話題になり、「アダルト・スイム」の名を広く知らしめたのは、「ファミリー・ガイ (Family Guy)」であるということに異論を挟む者はいまい。


「ファミリー・ガイ」は、元々は1999年シーズンにFOXで放送されたアニメーションであるが、2002年にキャンセルされた。しかし、そのオタク心をくすぐるひねったユーモアは、ネットワークのFOXではなく、カートゥーンでの再放送によってより多くのファンを獲得した。「ファミリー・ガイ」がカートゥーンにおいてどれだけ人気を博したかは、「アダルト・スイム」枠において「ファミリー・ガイ」が編成されていた時間帯が、裏番組のネットワークの人気深夜トーク・ショウであるジェイ・レノの「トゥナイト」や、デイヴィッド・レターマンの「レイト・ショウ」よりも高い視聴率を獲得したことからでもわかる。このことによって「アダルト・スイム」は俄然注目を集めることになった。因みに復権した「ファミリー・ガイ」は、現在ではまた古巣のFOXに戻って放送を続けている。


「アダルト・スイム」はその後もなかなか面白い大人向けアニメーションを編成しており、特にアニメーション版エログロ的感触の「スクイッドビリーズ (Squidbillies)」やストップ・モーション・アニメーション「ロボット・チキン (Robot Chicken)」あたりは、確かになかなか見る者を唸らせる。アニメーションと一口に言ったって、間口は広いということがよくわかる。そしてその「アダルト・スイム」枠において今回始まった新番組が、この「ザ・ブーンドックス」だ。


「ブーンドックス」は、元々は黒人マンガ家のアーロン・マッグルーダーが1999年から連載を始めた新聞用のコミック・ストリップである。これらのコミック・ストリップは一回につき数コマから10コマくらいで、同じページにいくつもの異なるコミックが載せられていたりする。因みに私がよく目を通すのはデイリー・ニューズの日曜版についてくる10ページ程度のカラー版で、TV番組同様、人気があれば作家を変えてでもいつまでも続いていくアメリカのカートゥーン界のこととて、いまだに「アニー」や「ピーナッツ」(再放送ならぬ再掲載だったりする) が連載されているのには驚かされもする。その中で「ブーンドックス」が異色だったのは、このコミックの主人公である10歳のヒューイと8歳のライリーの二人の黒人兄弟がかなり人種的偏見を持っており、そういう差別的意見を歯に衣着せずにセリフにするところにあった。


アメリカのこの手のコミックはシンジケート化されており、つまりまったく同じコミックが異なる新聞に載る。「ブーンドックス」の場合、全米で350紙以上の新聞に連載されているわけだが、その過激な内容のために、時として掲載を却下されることもあった。こういう過激さが逆に話題にならないわけがなく、「ブーンドックス」はアメリカ・コミック・ストリップ界の鬼子として、近年、非常に高い人気を博していた。そこにカートゥーンが目をつけ、TVシリーズ化したものである。因みに主人公のヒューイと弟のライリーの二人の声を吹き替えているのは、「レイ」のレジーナ・キングだ。


番組では冒頭、ヒューイが白人たちの集うパーティの席でマイクに向かい、「キリストは黒人だ、ロナルド・レーガンは悪魔で、政府は9/11について嘘をついている」と喋りだし、怖ろしいことを聞いた白人たちがパニックに陥って暴動に発展するという、人を食った出だしで始まる。また、アメリカのTV番組ではまずほとんど聞くことのない「ニガー (Nigger、黒んぼ)」という差別用語が堂々と使われる‥‥それも大量に使われるところがミソだ。


実際問題として、今ではニガーという単語はほとんど白人の間では用いられておらず、ほとんど死語といった印象がある (少なくとも私は白人がニガーと言うのを聞いたことがない)。一方、逆に黒人同士の会話では自虐的に多用され、要するに黒人が黒人に向かって、このバカ野郎的な意味合いでニガーと言ったりする。だから現在では特にニガーという単語が昔と同じように機能しているわけではないのだが、しかし、やはり歳とった白人がこの番組を見ると、腰を抜かしそうになるかもしれない。


「ブーンドックス」はそういう、意識してポリティカリー・インコレクトな路線を狙っており、その槍玉に挙げられるのは白人だけではなく、黒人だって有名人はかなり強烈に皮肉られたりする。このようにただ差別的なのではなく、白人にも有色人種にもどちらにも差別的であるところが逆に公平であるようにも見える。要するに、皆が胸のうちでは多少は感じている社会の矛盾に対する不平や不満、疑問や憤りをすぱっと言い切るところが人気に繋がっており、だからこそ黒人だけではなく、白人からも支持される。


しかし、こういう、多少なりとも人々の今の気持ちに乗っかった、気分を代表するような作品には、流行り廃りがつきものだ。私も最初「ブーンドックス」を読んだ時には、へえ、なるほど、なんて思ったが、最近はパワーが落ちているというか、特に面白いとも感じなくなった。要するに「ブーンドックス」のノリに慣れたからだろう。TV番組になって、実際に登場人物が「ニガー」なんて言っているのを聞くと、さすがにおおっ、てな感じにはなるが、すぐにそういうのにも慣れる。テンションを高めたままどこまで行けるか気になるところだ。


「ブーンドックス」は当初、10月から放送開始が予定されていた。ちゃんとプレミア放送日も発表になっていたのだが、結局延期された。自国では人件費が嵩むアメリカでは、近年、アニメーション製作は外国に発注することがよくある。「ブーンドックス」の場合は韓国で製作しているのだが、それが間に合わなかったらしい。オリジナルのコミックからしてそういう嫌いはあったが、TVの「ブーンドックス」も、絵柄にかなり和製アニメの影響が感じられる。コリアン・アニメーションだからそれも当然なわけだ。それにしても黒人の目から見た白人支配の現実を描く作品を、実は和製アニメの影響を受けている韓国人が作っていたのだ。資本主義は簡単に人種の垣根を超えるのだな、お金至上主義もたまには悪くないと思ってしまうのだった。





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The Boondocks

ザ・ブーンドックス   ★★1/2

 
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