放送局: サンダンス

プレミア放送日: 9/4/2004 (Sun) 23:00-1:00

脚本/監督: オリヴィエ・アサヤス

出演: コニー・ニールセン (ダイアン)、チャールズ・バーリング (アーヴ)、クロイ・セヴィニー (エリース)、ジーナ・ガーション (エレイン)


物語: パリの企業に勤めるダイアンは、世界を席捲する日本のチャイルド・ポルノ・アニメーションのウェブサイトであるデーモンラヴァーとの提携をまとめるために、上司のアーヴと共に日本を訪れる。アメリカのライヴァル企業から派遣されたエレインもデーモンラヴァーを虎視眈々と狙っており、なんとしてもそれに先んじる必要があった。しかしダイアンだけでなく、アーヴも、部下のエリースも各々がそれぞれの思惑を胸に秘めていた‥‥


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「デーモンラヴァー」はれっきとしたフランス製の劇場用映画である。しかしアメリカでは公開されなかった。もしかしたら私の知らない映画祭サーキットや、ごく短期間だけ一部地域で上映されたことはあるのかもしれないが、私の知る限り、少なくともこれまで一般上映されたことはない。つまり、私はこういう映画があることをまったく知らなかった。


そしたらこないだ、深夜、いつものようにTVのチャンネルをインディ映画専門のサンダンスに合わせ、それを横目でちらちらと見ながらコンピュータに向かっていたら、なにやら面白そうなのをやっている。それで、途中から仕事の方はほったらかして、腰を据えてTVの前に陣取って、真面目に見始めた。それが「デーモンラヴァー」だ。


「デーモンラヴァー」の何が最初そんなに気を惹いたかというと、画面に登場する日本、あるいはアニメであったことは言うまでもない。それがまた、ねちゃねちゃといやらしいロリータ・ポルノ・アニメで、その上、主人公が美形で知られるコニー・ニールセン、さらにはクロイ・セヴィニーやジーナ・ガーション等の、これまた癖のある美形女優まで登場してきた。ちょっと、なんだ、この映画、このこだわり具合、こいつはちょっとただものではない、というわけで、後半は非常に熱心に食い入るように見ていたのだった。


作品のオープニングを見逃しているという事実はあるにしても、「デーモンラヴァー」のストーリーはわかりにくい。というか、わざとそういうぼかした作りにしているようだ。最初の方こそ、企業スパイの暗躍を描くサスペンス・スリラーという手触りであったのが、後半の方では主人公のダイアンがいったいどこにいて、なぜそういう行動をとるのかがわからなくなっていく。そしてそれはダイアンだけでなく、他の登場人物も多かれ少なかれその行動規範が読めないため、まるで展開を把握できない。作品が現実と虚構、嘘と真実、正邪の境界をなくすところにポイントを置いていると感じられる節があるため、どうやらこれは意図的なものだろう。


そういう物語の作り方としてのひねった見所は多々あるが、しかし、なんといっても最大の見所は、少なくとも男性の私から見ると、ニールセン、ガーション、セヴィニーの競演にあるのは言うまでもない。この中では主演のダイアンを演じるニールセンが最も癖がなく、ごく一般的な意味での美人という感じがするが、それがガーション、セヴィニーという大いに曲者の二人に囲まれると、ニールセンまでもがなんか、一癖も二癖もある人間に見えてくる。実際、作品の中での役柄はそうであったりするのだ。


ニールセンは、圧倒的に「グラディエイター」で知られている、というか、これ以外のニールセンを知っている者はほとんどいないのではないかと思うが、私はニールセンを見ると、アイス・スケーターのカテリーナ・ゴルデーワを思い出してしまう。正面顔はそれほどでもないのだが、アングルによっては非常によく似ていると思う (カルガリ五輪のペア・スケートで他を圧倒したゴルデーワ/グリンコフ組も、既にゴルデーワは一線を退き、グリンコフはこの世の人ではなくなってしまった。ああ‥‥) とまあ、個人的に元々好感を抱いていたニールセンに、ガーションとセヴィニーという癖のある美人が絡むというこの展開、いいなあ。


こういうキャスティングだと、当然興味の中心は、果たして彼女らがいつ裏切るのか、どうやって相手の裏をかくのかという点に絞られたりするのだが、「デーモンラヴァー」では、ニールセンは、裏で何を考えているかわからないガーション、セヴィニーと丁々発止のやりとりを交わすだけでなく、実際にガーションとは髪をひっつかみ、殴り合う、殺意丸出しのキャット・ファイトまで演じてくれる。いやあ、やってくれる。こういうニールセンを見れるのは得した気分になるし、ガーションはこうでなくっちゃと思わせてくれる。実は私は監督のオリヴィエ・アサヤス作品はほとんど見ていないのだが、難解そうな作風の癖して、実はサーヴィス精神も旺盛だ。


また、それほど製作費が潤沢にあったようには見えない、わりとアート系の小規模作品ながら、本当に日本に来て撮影し、エログロのチャイルド・ポルノ・アニメも手を抜かずにちゃんと製作しており、おかげでこういう設定にありがちなチープさから免れている。私は一昨年、パリに一週間ほど休暇で訪れたのだが、日本のマンガ・コミックスを熱心に読んでいる若者をわりと見た。メトロのプラットフォームや郊外列車の中などでそれこそ一心不乱という感じで読み耽っており、マンガ文化はかなり若者には浸透しているようだった。実は文化的交流に関しては、日本はアメリカとよりもヨーロッパの方が近しいんじゃないかという感じがした。実際の話、ほとんど言葉の壁のないポルノに、さらに日本が誇るアニメが合体したチャイルド・ポルノ・アニメのアピール度は、アメリカのみならず、フランスでもかなり高かろう。そのため、フランスとアメリカで日本のチャイルド・ポルノの版権を奪い合うという設定にもほとんど無理がない。


また、「チャイルド」とか「アニメ」とかがつかない、ごく一般的なポルノでも、アジア製、特に日本のポルノはかなり注目度が高い。欧米のインターネットのポルノ・サイトでは、日本関係は別口で特集されてたりするし、こないだCBSの「レイト・レイト・ショウ」を見ていたら、話題がアジアのポルノにふられて、なぜアジアのポルノはアメリカのよりいいのかという話になっていた。なんだ、私は日本人だからアジア系の方がいいなあとは思っていたが、アメリカ人だって、結構ポルノはアジア製の方がいいと思っている者は多かったのだ。ゴージャスなブロンドねーちゃんたちは確かに眼の保養にはなるだろうが、色気というものは実はそれだけではない。アメリカ人もようやくそのことに気づき始めたか。


日本での撮影という点では、「デーモンラヴァー」の東京は、かなり「ロスト・イン・トランスレーション」に現れた東京と印象が似ている。つまり、日本人の目から見ると、まるで東京じゃないみたいだ。当たり前のことだが、日本人が感じる東京と、外国人が感じる東京は別のものだ。そのため、外国人カメラマンが撮る東京の風景を見せられると、こんな東京は知らなかったと驚くことになる。こちらがいつも見慣れている東京とは別の一面を切りとってくるのだ。確かに東京はアジアというよりも段々無国籍化しているような印象を受けるけれども、本当に、まったく別の国の都市のように見える。猥雑だが美しいなんて、たぶん、撮る者が持っていると思われる印象をちゃんと現前に提出されると、こちらとしてはただただ感心するばかりだ。


ハリウッド映画は普通、外国を描くことをあまり得意としておらず、そのことはもちろん日本も例外ではない。「ライジング・サン」や「ダイ・ハード」等を思い出してみればすぐわかるが、人を見ればすぐ反射的にお辞儀してしまうのが日本人だと思われるのは、結構癪に障る (確かにある年代以上の日本人はそうだったりするが。) リドリー・スコットの「ブラック・レイン」ですら上出来とは言い難く、作品の面白さはともかく、やはりあれは日本人の目から見たら、違和感を生じさせるのを免れ得ない。無論最近はそれも変わりつつあり、現代の日本が舞台ではなくとも、これまでハリウッドがどのように日本を描いてきたかを考えたら、たとえいくつかの瑕疵はあっても、「ラスト・サムライ」がどれだけ進歩しているかは一目瞭然だ。また、クエンティン・タランティーノような伏兵が搦め手から現れ、新たな日本を提供してくれるので、少なくとも状況は変わりつつある。


が、いずれにしても、新しい視点の導入という点では、ハリウッド映画よりも「ロスト・イン・トランスレーション」のようなインディ映画、「デーモンラヴァー」のような欧州映画の方が、ハリウッド映画よりフットワークが軽く、機動性が高いのは事実だろう。よく考えたら、一番最初にそういう日本および日本人を描いてくれたのは、まず誰よりも「二十四時間の情事」のアラン・レネと「不思議なクミコ」のクリス・マルケルという二人のフランス人だった。その後もヴィム・ヴェンダース等、やはりヨーロッパ出身の映画作家の方が、より日本を理解しているというか、少なくとも画一的ではない日本を提供している。タルコフスキーの「ソラリス」だって思い出す。さらに今週末からは、やっぱりフレンチのアラン・コルノーが東京を舞台に撮った「フィアー・アンド・トレンブリング (Fear and Trembling)」が公開される。うちの近くの劇場にも来てもらいたいが、単館でしか公開してないようだから見るチャンスはあまりないかもしれない。


こういう風に、見ながら色々と感じるところのある「デーモンラヴァー」は、なかなか楽しい深夜の一時を提供してくれた。普通、プレミア放送される劇場用映画は、だいたい午後9時台、遅くても10時には始まるのだが、「デーモンラヴァー」に限っては、TV初放送だというのに、始まったのは午後11時である。たぶんチャイルド・ポルノ・アニメの描写が、いまいちプライムタイムという時間帯にそぐわないという配慮が働いたのだろう。しかしおかげで、いつもはプライムタイムはネットワークを見ていて、11時以降になるとチャンネル・サーフを始める私が偶然目にする機会を得たのだから、当然許す。サンダンスとかIFCは、こういう発見があるからやめられない。






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Demonlover

デーモンラヴァー   ★★★

 
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