On Death Row   オン・デス・ロウ

放送局: ID

プレミア放送日: 3/9/2012 (Fri) 22:00-23:00

製作: ウェルナー・ヘルツォーク・フィルム・プロダクション、スプリング・フィルムズ

製作総指揮: デイヴ・ハーディング、サラ・コザック

監督: ウェルナー・ヘルツォーク

ホスト: ポーラ・ザーン


内容: 死刑囚にインタヴュウする。



Fatal Encounters   フェイタル・エンカウンターズ

放送局: ID

プレミア放送日: 4/9/2012 (Mon) 22:00-23:00

製作: ピーコック・プロダクションズ

製作総指揮: エリザベス・フィッシャー

ナレーション: ヴァレリー・スモールダン


内容: ある事件が起こった瞬間までをカウントダウンして再構成する。


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ID、すなわちディスカバリー・チャンネル傘下のインヴェスティゲイション・ディスカバリー (Investigation Discovery) は、チャンネル名が示唆するように、とある事件、犯罪、 並びにその解明、調査に主眼を置いたドキュメンタリー/リアリティ・ショウ専門チャンネルだ。2008年から放送が始まっており、いくつかの姉妹チャンネルのあるディスカバリー・フランチャイズの中で、最も若いチャンネルの一つだ。


特定のテーマ関連の番組ばかりを集めた専門ニッチ・チャンネルには、編成する番組がどれもこれも似たり寄ったりの番組になりやすいという弊害がある。意図的にそういう番組ばかりを集めているわけだから、それも当然だ。一方で、やはり特色ある番組、目玉番組を編成したいという気持ちも当然あるだろう。


現在IDが編成している番組というと、下記のようなものがある。


「ダーク・マインズ (Dark Minds)」犯罪作家とプロファイラーが事件を再構成する。

「デッドリー・ウーメン (Deadly Women)」犯罪を起こした女性

「ディスアピアード (Disappeared)」行方不明になった人物の系譜

「アイ・(オールモスト)・ガット・アウェイ・ウィズ・イット (I (Almost) Got Away With It)」もう少しで法の追っ手から逃げおおせそうになった犯罪者

「アイ・メアリード・ア・モブスター (I Married a Mobster)」ギャングと結婚した女性たち

「ナッシング・パーソナル (Nothing Personal)」請負殺人の実態

「スコーンド: ラヴ・キルズ (Scorned: Love Kills)」恋愛がもたらした犯罪

「ストーレン・ヴォイスズ、ベリード・シークレッツ (Stolen Voices, Buried Secrets)」殺された被害者の視点から事件を再構成する

「ウィキッド・アトラクション (Wicked Attraction)」犯罪を犯したカップル


どれもそれなりに独自性を出そうとしているのは認めるが、それでもどれも実際にあった犯罪の再構成という根幹の部分は変わりなく、こうやって一括りにして並べてみた場合、私の場合、興味を惹かれるというよりも、げっぷして興味を失ってしまう。とはいえIDは現在、それなりに安定した視聴率があるそうだから、固定視聴者もわりといるのだろう。


その中で、今回IDが編成した「オン・デス・ロウ」と「フェイタル・エンカウンターズ」には、ちょいと惹かれるものがあった。「オン・デス・ロウ」は、デス・ロウ、つまり死刑囚棟に収監されている死刑囚にインタヴュウするというもので、監督、および死刑囚にインタヴュウしている者は、ウェルナー・ヘルツォークだ。


ヘルツォーク、最近では「戦場からの脱出 (Rescue Dawn)」「グリズリーマン (Grizzly Man)」を撮ったあのヘルツォークが、今度は死刑囚にインタヴュウする4時間TV番組を撮ったと聞くと、これは確かにそそられる。これが通り一辺倒の番組になることはまずないだろう。


ヘルツォークがプレミア・エピソードでインタヴュウするのはジェイムズ・バーンズという60がらみの禿げ頭の男で、1998年、口論の挙げ句、スリーパーホールドで妻を絞殺してしまう。死体をクローゼットに隠し、今後を思案していたところ、妻の家族に挙動不審に思われ、警察に通報されて発覚した。外に出たら何人もの警官が自分に向けて銃を構えており、近くの家の屋根の上からはライフルが自分に照準を当てているのを見て、観念した。終身刑で服役していたが、その間にイスラム教に改宗、たぶんその教えによって、1988年にもう一人別の女性を殺害していたことを告白、その罪によって死刑判決を受ける。


ヘルツォークはバーンズに淡々とインタヴュウするのだが、ヘルツォーク自身はまったくカメラに映らない。カメラはずっと対象をとらえ続ける。こらがABCの「20/20」やNBCの「デイトライン (Dateline)」のようなネットワークのニューズ・マガジンだったら、必ずカメラが切り替わってインタヴュウアーもカメラがとらえるところだ。しかしむろん、ヘルツォークはそのようなネットワーク的な方便はとらない。自分がカメラに映るくらいなら、その分被写体をカメラに収めるべきだ。考えたら至極当然のことだ。


しかもたぶん、少数精鋭でカメラ1台だけを使って撮影しているせいもあるだろう、いったん構図が決まると、インタヴュウの間中、被写体をとらえ続ける。ほとんどズームもパンもない。途中で編集によってカットが入って別のシーンになるため特に気になるわけではないが、しかし、最初からカメラを動かすなんてことは一切考えていなかったようだ。これでカットが入らなかったら、まるでフレデリク・ワイズマンのドキュメンタリーになってしまうところだ。


番組はコマーシャルの直後に案内役としてポーラ・ザーンが出てきて、ちょっとしたコメントや付加情報を付け足す。とはいえ、それもなぜヘルツォーク本人がやらないのかと思ってしまう。ザーンは現在IDで「オン・ザ・ケース・ウィズ・ポーラ・ザーン (On The Case With Paula Zahn)」という自分の番組を持っているので、彼女がID番組に登場するのはわかるが、しかしなぜヘルツォーク本人ではダメだったのか。死刑囚にインタヴュウする番組でヘルツォーク自身のむさい顔が出てきたら、視聴者を暗くするだけだと思ったのかもしれない。


ところでバーンズは、幼い時に元軍人の父から虐待を受けていたことがわかる。やはり幼い時の経験というのは後を引くようだ。この話はバーンズの双子の妹から聞くのだが、彼女共々、かなり荒れた青春時代を送っていたことがわかる。妹自身、今でもドラッグやらなんやらのせいで保護観察の身で、自由に州外に出られない。


さらに驚くべきことにインタヴュウの最中、バーンズは迷宮入りとなっていたあともう二つの殺人事件も自分がやったものであることを告白する。たぶん、宙ぶらりんのままが嫌さに、早く刑を執行してくれるようこの機会を利用して告白したのではというが、しかし、それでも、なに、それ。くらくらする。あんた、これまでに4人殺しているのか。しかもそのうち2件はこれまで見過ごされていたのか。この国では犯人が捕まらない殺人事件がいったいどれくらいあるのか。見ているこちらまで動揺してしまう。結局新しく告白した2件の殺人は調査中とのことで、もしかしたらその調査の結果が出るよりも早く死刑執行されてしまうかもしれない。


死刑囚に関連した番組というと、真っ先に思い出すのは、IFCが放送した「アット・ザ・デス・ハウス・ドア (At the Death House Door)」だ。死刑囚というわけではないが、犯罪を告白する者をとらえたコートTV (現トゥルーTV (TruTV) の「コンフェッションズ (Confessions)」というのもあった。フィクションならハリー・ベリー主演の「チョコレート (Monster's Ball)」かスーザン・サランドン主演の「デッドマン・ウォーキング (Dead Man Walking)」、フィリップ・シーモア・ホフマン主演の「カポーティ (Capote)」といったところか。「グリーンマイル (The Green Mile)」なんてのもあった。


フィクショナルなドラマもそれぞれ記憶に残るが、「オン・デス・ロウ」や「コンフェッションズ」、「アット・ザ・デス・ハウス・ドア」みたいなドキュメンタリーの場合、映っているのが事実という認識が、どうしても見ている者になんらかの影響を与えざるを得ない。今TVに映っている者は、実際に人を殺しているか、またあるいは、あとしばらくしたら間違いなく死ぬのだ。しかも病気とかではなく、法の鉄槌という名目によって殺されるのである。映っている者のものの考え方が明らかにこちらの理解の範疇を超えているために、かなり居心地の悪い思いを味わうというか、ほとんど気分が悪くなる。


一方、「フェイタル・エンカウンターズ」の場合、犯罪が起きる瞬間までをドキュドラマとして再構成してカウントダウンするというもので、期待したものは、ミステリの倒叙法というか、「刑事コロンボ (Columbo)」みたいなドキュメンタリー・リアリティだ。事件が起きる瞬間に向かって話が加速する、みたいなものを期待した。


ところができあがったものは、まあ、単にドキュドラマとしてはちゃんと撮れており、クオリティとしてはそう悪くはないが、しかし、期待したほどドラマティックな展開ではなく、ただ事実をなぞっただけという印象の方が強い。被害者が殺される瞬間までをカウントダウンしているが、事件そのものはそれ以前から始まっている。そりゃあ生死が分かれる瞬間が重要なのはわかるが、どこかに何か置き忘れてきたような印象を番組から受けてしまう。










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On Death Row

オン・デス・ロウ   ★★★

Fatal Encounters

フェイタル・エンカウンターズ   ★★

 
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