最新実験を準備中だった宇宙ステイションを正体のよくわからない宇宙線が襲い、乗組員のリード (ヨアン・グリフィズ)、スー (ジェシカ・アルバ)、ジョニー (クリス・エヴァンス)、ベン (マイケル・チクリス) の身体がそのせいで突然変異を起こす。 スーパーパワーを手に入れた彼らはファンタスティック・フォーとしていわかに英雄扱いになるが、しかし、もう一人スーパーパワーを手に入れていた実験に出資していた企業のヴィクター (ジュリアン・マクマホン) には、他の考えがあった‥‥


__________________________________________________________________


「ファンタスティック・フォー」はマーヴェル・コミックの人気シリーズからの最新の映像化だ。とはいっても、「ファンタスティック・フォー」が「スパイダーマン」「X-メン」と肩を並べるほど世代を超えて圧倒的な人気や知名度があるわけではない。強いて言うならば、人気では一昨年の「デアデビル」辺りとどっこいどっこいというところか。それでもマーヴェルは今後も続々と自社製スーパーヒーローの映像化を予定しているようで、アメコミの裾野も結構広いようだ。


大ざっぱに言ってスーパーヒーローものは、「スパイダーマン」、「バットマン」のようにたった一人で悪者と退治する孤高のヒーローものと、「X-メン」、「ファンタスティック・フォー」のように、複数のヒーローが共同で悪に立ち向かうタイプの二種類に分けられる。主人公が一人の場合の特徴は、ヒーローという言葉が端的に示すように、なんといってもそのヒロイズムにある。実際には影になり日向になり主人公を助ける脇役がいるのが普通だが、最後の最後に喝采を浴びるのはスーパーヒーローただ一人である。


一方、複数ヒーローの場合は、いざとなった時に危険を分配できるという安全弁が設けられているが、一方でお手柄もまた分散される。普通、メンバーの一人一人は特別な能力を一つだけ持っており、その他のメンバーが弱点をお互いにサポートしあう。複数ヒーローものの場合、作劇術としては何人もヒーローがいる分、様々なストーリーを展開させやすいという利点がある。


「ファンタスティック・フォー」の場合、主人公が4人いるわけだが、ちょっと通常の複数ヒーローものと異なっているのは、そこにギャグが入っているという点にある。そもそもヒーローものは、本来持っている特質としてギャグは絡めにくい。ヒロイズムというものは元々笑いと根本的に性質の異なるものだから、これは当然だ。もちろんそのことを逆手にとってギャグ・ヒーローというものもこれまでに何度となく登場してきており、特に最近ではピクサーの製作するCGアニメーションにその方向性が端的に現れていると思う。とはいえ、ギャグにはパロディという要素が構造上不可欠であることを鑑みた場合、オリジナルのスーパーヒーローがいなければ、ギャグ・ヒーローだけでは世界は成り立たないだろう。


また、最後から最後までスーパーヒーローをギャグとして製作するか、あるいはギャグ的な要素をたぶんに加味した実質シリアスなスーパーヒーローものである場合もある。「ファンタスティック・フォー」の場合は後者であって、ギャグはあくまでもスパイスとして利用されている。ではあるが、面食らうのは、正体のよくわからない宇宙線によって突然変異を遂げる4人 (悪漢も含めると5人だが) が持つ特殊能力で、特にリーダー格のリードが手に入れる、身体をゴムのように伸び縮みさせることのできる能力には唖然とさせられる。


これって視覚的にはろくろ首か一反木綿であり、はっきり言ってスーパーヒーローというよりは「ゲゲゲの鬼太郎」の世界である。さらにマンガでは「One Piece」では主人公がやはりゴム人間だが、あれだけ絵にデフォルメが利いていると、最初こそ違和感も抱くが、すぐに気にならなくなる。しかし、実写でゴムゴム人間が主人公だと、格好いいとはどうしても見えず、実際にリードは同じ仲間であるはずのジョニーから気持ち悪いと言われたりする。さらにリードは研究一筋の、女性に対しては優柔不断な煮え切らない奴だし、これがスーパーヒーロー集団のリーダーか? さらには体中が岩石化したベンは、それが元で女房には去られてしまうなど、いいところがない。


一方で透明人間化するスーは、その能力を最大限に利用するためには服を脱がなければならず、もちろんこの設定がギャグに利用できるのは言うまでもない。一人人間トーチと化するジョニーは、視覚的な点から言えば最も印象的で、得していると言え、時が時なら、たぶんジョニーがリーダー格のヒーローとして設定されると思われるが、どちらかと言うとマイナス指向のリードが一応リーダーとして設定されているところが、現代的と言えるか。確かにおちゃらけたジョニーと対極に置くと、リードが大人と見えないこともない。


結局「ファンタスティック・フォー」は、最近のスーパーヒーローものとしては最も笑いに重点を置いており、結果として家族連れにはかなり受けがいい。私が見たのは公開してから既に3週間経ってからだったが、場内は家族連れでまだかなり混んでいた。登場人物の年齢が高そうだから「X-メン」みたいな展開ではなかろうと思ってはいたが、しかし、原作もこういうギャグてんこ盛りの内容なのだろうか。


また、期せずして作品には、エヴァンスを除き、現在のアメリカ、およびイギリスのTV界で活躍している (していた) 面々が揃っている。紅一点のスーを演じるアルバは、最近では「シン・シティ」に出てもいたが、やはり人が覚えているのはFOXの「ダーク・エンジェル」だろうし、ベンを演じるチクリスは、FXの「ザ・シールド」に主演中だ。リードを演じるグリフィズは、アメリカではA&Eの「ホレイショ・ホーンブロウアー (Horatio Hornblower)」シリーズ以外で彼を知っている者はほとんどいるまいと思われる。そしてFXの「ニップ/タック」に主演中のマクマホンがいる。こうしてみると、悪役を演じているマクマホン以外はTVでもかなりの確率で正義の味方を演じている (チクリスはどちらかと言うと悪徳刑事的役柄だが)。演出は「バーバーショップ」、「タクシー」とコメディ上がりのティム・ストーリーで、要するに最初からこういう路線を狙ってはいたわけだな。






< previous                                      HOME

Fantastic Four   ファンタスティック・フォー (超能力ユニット)  (2005年7月)

 
inserted by FC2 system