X2: X-Men United


X-MEN 2  (2003年5月)

「X-Men 2」だとばかり思っていた「X-メン」の続編のタイトルは、「X2: X-Men United」というのだそうだ。そんなこといったって、つい最近まではポスターにすら「X-Men 2」と刷られていたのに、なんでわざわざ直前になってタイトルを変える必要があるのか。確かに「ターミネーター」は「T2」とか「T3」とか呼ばれており、ただ「2」を後ろにつけるよりは、「X2」の方が、何かと今風で格好いいと思ったのかもしれないが、しかしいたずらに消費者を混乱させないでくれ。なんにせよ、「2」のつけ方で悩むよりも、「マトリックス: リローデッド」の方がよほど洒落てる「マトリックス」の方が、やはり一枚上手かも。


ホワイトハウスにテレポーテーション能力を持つナイトクロウラー (アラン・カミング) が現れ、間一髪で大統領は難を逃れる。この事件はミュータントに対して偏見を持っている旧人類に反感を抱かせるのに充分だった。事件の後ろには元軍人の謎の男、ストライカー (ブライアン・コックス) がいた。ストライカーはX-メンの首領、ゼイヴィア (パトリック・スチュワート) を操り、ミュータントをこの世から葬ろうと画策する‥‥


前作の最後でゼイヴィアにつかまって軟禁状態にあるマグニトに代わり、今回悪役ストライカーを演じるのは、ブライアン・コックス。彼はやろうと思えば「L.I.E.」で見せたような、もっと脂ぎった役も造型できるだろうが、今回それをやらないで、どちらかというとスマートな悪役にしたのは、多分ガキも多く見る作品ということを踏まえてという製作サイドの意向もあるだろう。しかしマグニトのイアン・マッケランにブライアン・コックスか。次作の悪役は今度はマイケル・ガンボンかアルバート・フィニーあたりが抜擢されそうな気がする。


ストライカーは元々はミュータントを人為的に作り出す実験に携わっており、誰あろうウルヴァリン (ヒュー・ジャックマン) はその実験によって生み出されたミュータントだった。ストライカーは現在はミュータントをこの世から葬り去ろうと考えているのだが、それなのに自分の部下にウルヴァリン同様の能力を持つミュータントのデスストライク (ケリー・フー) を置いている。そのあたりの矛盾をたかだか2時間の映画では説明できないのは痛いところである。これがコミックや小説ならばページを使ってストライカーの心理を説明できるが、映画では、ミュータントを憎んでいるはずのストライカーにデスストライクが唯々諾々と従っているのが納得しにくい。そのため、展開から言って、デスストライクは出てきた途端にあとで死ぬことを約束されているようなもので、フーはなかなか味を出しているのに、これは残念だ。


今回最もおいしい役をもらっているのがファンケ・ヤンセン演じるジーンで、前回では単なるお飾り以上のものではなかった反動か、今回はスクリーンに映る回数が多い。とはいえ、「サウンド・オブ・サイレンス」でのベッドの上で動けなかったヤンセンの方が色っぽかったなと思ってしまうのだが。しかし、ジーンは (多分) 本当はウルヴァリンに想いを寄せているのだが、いつの間にやらサイクロップス (ジェイムス・マースデン) と恋仲という設定になっている。しかし、このペアは、いかにもしっくりこない。ジーンとサイクロップス? まさか、と思ったものも多いのではないか。まあ、その後、やはり本命はウルヴァリンだったという伏線なのだが。


ヤンセンの次に役得だったのは、ミスティークを演じるレベッカ・ローミン-ステイモスだろう。セリフは少ないがマグニトの忠実な僕として、印象はいい。閉じる鉄の扉の向こう側に滑り込むシーンは、「シカゴ」で、舞台の上をすーっと滑っていったキャサリン・ゼタ-ジョーンズとほとんど同じポーズで、ああいうアクションの山場で決めのポーズが、ミュージカル/舞台での決めのポーズと同じであるということが、わりと決まってはいたがなにやらおかしかった。結局SFアクションもミュージカルも本質は同じであるわけだ。


ナイトクロウラーのアラン・カミングは、いつも通りのヘンにエキセントリックな役で、ああいう、ちょっと抜けているが人はよい、というところが定番になりつつある。本人は別に普通に喋る英国人なのだが、ブロードウェイ舞台の「キャバレー」といい、「ゴールデンアイ」といい、外国人の振りしてヨーロッパ訛りのある英語を喋るという役が多い。作品のオープニングでの、ナイトクロウラーのテレポーテーションを使ったアクション・シークエンスは、なかなか興奮させてくれる。


それ以外では、一吹きでぬるいビールをびんびんに冷やすアイスマン (ショーン・アシュモア) とか、身体が物体を通り抜けるという能力を持つため、ベッドと床を通り抜けて下の階に落ちてしまう女の子あたりの一瞬芸の方が、段々大きくなるX-メンの能力よりも印象に残ったりする。大技よりも小技の方が気になってくるのは、こちらが歳とった証拠か。いずれにしても、そういう小技にもちゃんと目配りしている証拠で、よく考えていると言えるだろう。


今回、前回に較べて出番の少なかったローグ (アナ・パクイン) は、次回でアイスマンとの絡みで活躍する場が増えるだろうというのは間違いない。なんでもかんでも氷にしてしまうアイスマンと、相手のエネルギーを吸い取ってしまうローグとの恋の成り行きは面白そうだ。ローグの相手は、キスすると段々精気を吸い取られて死にそうになってしまうんだからたまらない。この困難を乗り越えて二人は無事愛を成就することができるのだろうか。次回のポイントはここだな。


実は私は超能力とか超常現象だとかの類いはまるで信じてないため、本当はこの手の作品にはほとんどリアリティを感じない。リアリティを感じないならまだしも、くだらないなあと思うことの方が多いので、最近はあまりこういうスーパーヒーローもの、特にファンタジーは見ない。とはいえ、くだらないと思う以前にアクションや小技で視覚的にエキサイティングなものを見せてくれると、釣られてやっぱり興奮するので、それなりにわくわくするのだが、しかし、やっぱり地に足はつけてくれと思う。


例えばジーンが持つ特殊能力はテレパシーのはずなのだが、彼女は今回、迫り来るミサイルを誘導して自爆させるなんて力を使う。これもテレパシーか。マグニトと同じようなテレキネシスじゃないのか。それともミサイルの中のICの回路かなんかと同調して進路を誤らせたということか。彼女は最後なんて一時的にダムの決壊も止めたぞ。いったいどこがテレパシーなんだ。


もちろんそれなりに気を配っているのもわかり、自分が見えるところにしかテレポーテーションできないナイトクロウラーとか、火を自在に操ることはできても、火を生み出すわけではないというパイロの能力の弱点なんぞは、うまく理屈をつけていると思う。しかし、それでも火を火炎放射のように操るパイロの能力は派手で、X-メンの中でも異質に見える。最後に彼がX-メンを離れてマグニトと共に去っていったのは、ほぼ必然的な物語の要請だという気がする。


問題は、自在に身体を変化させて何者にでも化けられるミスティークと、目から光線を発射するサイクロップスで、ミスティークの変身能力はまだ身体の細胞の分子の配列を変化させて云々とか強引にへ理屈こねられそうだが、光線を発射するサイクロップスに活躍の場を与えるのは、ひどく難しい。彼が活躍すると、本当に別の次元の話になってしまうからだ。彼が今回出番が少なかったのは、当然だという気がする。実際の話、今回、自分の能力を一度なりとも見せる機会がなかったのは彼だけだ。彼の能力は、超能力というよりは怪獣映画で、ああいう能力は「ウルトラセブン」的な設定でないと、ほとんど説得力を欠く。そのため、彼はどんどん出番は少なくなっていくだろう。次回あたりではゼイヴィアの秘書的な役割で、ほとんどその能力を使う機会はなくなるんではないだろうか。やっぱり、あの変な眼鏡って格好悪いし。


だいたい、基本的に他のX-メンの能力は、内省的というか、自己完結する類いの能力で、受け身的な力を持つ者が多い (その究極の受け身の形のローグの能力が最も気になるのは当然で、最も派手で外向型のサイクロップスがどんどん話から捨てられていくのもこれまた当然だ。) そのため、アクション映画でありながら、それぞれが自身の能力を使う時は、ただでくの坊のように突っ立ってうんうん唸っているだけだったりする。天候を操って嵐を呼ぶストームが能力を使う時は、両手を持ち上げること以外のアクションはほとんどないし、ゼイヴィアにいたっては、椅子に座って歯を食いしばるだけで、世界中の人間を死に至らしめることができる。最も高い能力を持つ者ほど、生身のアクションとは無縁になっていくのだ。


そういうわけで、X-メンの中で、基礎体力以外では最も能力的には劣っているウルヴァリンが物語の実質上の主人公であるという点は、強調してもし過ぎることはないだろう。彼には、あのシャキーンという、物理的な鋼鉄の爪という武器と、類い稀なる運動能力以外、他に大した能力はない。しかも「X2」を見る限り、ウルヴァリンの鋼鉄の爪は、どうも生まれた時から授かった特殊能力ではなく、人体実験によって産み出されたものという感じもした。しかし、その最も劣っている者が話の核となるところが、物語としての「X-メン」の面白さと言える。やはり「X3」が成功するかどうかは、ウルヴァリンと、最も負の能力を持つローグをいかにうまく話に絡ませることができるかがポイントになるだろう。


監督のブライアン・シンガーは、「X-メン」と今回で、ハリウッドを代表するSFアクション監督の一人となってしまった。演出にセンスが求められるSFアクションは、若い人の方がうまく撮れるだろうというのはわかるが、こうなると、「ユージュアル・サスペクツ」や「ゴールデンボーイ」のような作品はもう撮らなくなってしまうのだろうか。「X2」はこれまでのところ大々的に成功しているから、「X3」があるのは火を見るより明らかであるわけだが、「ユージュアル・サスペクツ2」だってあってもいいぞともつい思ってしまう。



追記:

上でジーンの能力はテレパシーだと書いたが、実は彼女の能力はサイコキネシスで、テレパシーも使えるというのが元々の設定であるそうだ。一人一能力ではないわけか。ということは彼女は、X-メンのリーダー格でありながら自分の能力を使いこなせてないサイクロップスよりも、よほど高い能力の持ち主っぽい。そのサイクロップス、可哀想に「X2」では光線出す暇もなかったなと思っていたら、それもちゃんとあったそうで、どうも私の中では彼は既に捨てキャラになりつつあるために、彼に目が行っていない。すまん、サイクロップス。ところで原作では、ジーンはこの後、復活することになっているそうで、しかも聞くところによると、2度復活するということだ。あー、そうきたか。果たしてシンガーはどうするつもりだろう。もし復活することになったら、ヤンセンは出演をOKするだろうか。まあ、3年後の「X3」を楽しみに待とう。







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