アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




6. 英国製番組リメイクの氾濫


別に今に始まったことではなく、私も事ある毎に苦言を呈しているのだが、特に今年の英国製ヒット番組のアメリカでのリメイクの氾濫には、もう一度釘を刺しておいた方がいいように思われる。


「シェイムレス (Shameless)」ショウタイム

「ビーイング・ヒューマン (Being Human)」SyFy

「スキンズ (Skins)」MTV

「フリー・エージェンツ (Free Agents)」NBC

「プライム・サスペクト (Prime Suspect)」NBC

「ジ・Xファクター (The Factor)」


これらの番組はすべて、英国で放送され、ヒットした番組のアメリカでのリメイクだ。この中で「シェイムレス」と「ビーイング・ヒューマン」は、一応成功していると言える。「スキンズ」、「フリー・エージェンツ」、「プライム・サスペクト」は既にキャンセル済み、「Xファクター」は勝ち抜きリアリティで、一応継続が決まっている。


これらの番組を見る度に、そのほとんどがオリジナルをアメリカでも放送中か、見ようと思えばすぐ見れるものを、なぜアメリカでわざわざリメイクしないといけないか理解に苦しむ。しかもだいたいにおいて、リメイクはオリジナルに及ばない。


これが同じ英語圏でも、ほとんどアメリカでは知られていないオーストラリアの「ウィルフレッド (Wilfred)」(FX) だとちょっと微妙で、これだってオリジナルを放送してくれる方がいいが、まあ、リメイクでも許す。「Xファクター」のようなリアリティ・ショウも、まったく別番組になるので、これも構わない。まったく言語の異なるデンマーク製番組のリメイク「ザ・キリング (The Killing)」(AMC) とか、元はイスラエル産の「ホームランド (Homeland)」(ショウタイム) は、「キリング」のシーズン・フィナーレに頭に来ても、基本的に積極的に歓迎する。


しかし、チャンネルを替えればオリジナルが見れる今の英国もののリメイクを見ようという気には、これっぽっちもならないのだ。まったく番組の出来不出来に関係ない多くのリメイク番組の失敗は、私のように感じる者が多いことの証明だろう。どこから見ても英国英国したPBSのミニシリーズ「ダウントン・アビー (Downton Abbey)」がここまで成功したのも、これがアメリカ色のない完全な英国を舞台にした英国産の番組だからで、これをリメイクしてもしょうがない。それとも来年にはアメリカ版「ダウントン・アビー」が作られるのか。



7. ダラス、テキサス


前回挙げた「妻」たちを取り上げるリアリティ・ショウにも関係するが、今年は南部に住む人々 -- 特にリッチな人々に密着するリアリティ・ショウがいくつも製作された。テキサスやアリゾナ、フロリダ、ルイジアナ等、南部全般がその舞台だったりするが、圧倒的に多く選ばれた舞台がテキサスで、しかもその多くがダラスやその近辺だ。ブラヴォーの勝ち抜きのクッキング・リアリティの「トップ・シェフ」も、わざわざテキサスで収録されていたりする。


「テキサス・ウーメン (Texas Women)」CMT

「ビッグ・リッチ・テキサス (Big Rich Texas)」スタイル

「ドナ・デコレイツ・ダラス (Donna Decorates Dallas)」HGTV

「モスト・エリジブル・ダラス (Most Eligible Dallas)」ブラヴォー

「ジ・Aリスト: ダラス (The A-List: Dallas)」ロゴ

「トップ・シェフ: テキサス (Top Chef: Texas)」ブラヴォー


特にダラスに金持ちが多いというよりも、往年のTVドラマ「ダラス (Dallas)」の影響をいまだに引きずっているからという気がする。その「ダラス」のリメイクもTNTで製作中だ。ABCのダラス舞台のプライムタイム・ソープ「GCB」も控えている。ダラスのブレイクも間近、というか、ダラス住人にとっては、何を今さら、というところかもしれない。



8. 歴史ドラマの台頭


本当は中心になるのは「ロード・オブ・ザ・リングス (Lord of the Rings)」以来の中世 (もどき) ドラマのあの感じなのだが、実際に放送されている番組にはそれよりも古い時代も新しい時代もあるので、やはりここは歴史ドラマ、もしくはコスチューム・ドラマとした方がいいだろう。


新番組としては、ペイTV御三家のHBO、ショウタイム、スターズによるコスチューム・ドラマがこの中核だ。


「キャメロット (Camelot)」スターズ

「ザ・ボルジアス (The Borgias)」ショウタイム

「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones)」HBO


アーサー王伝説の「キャメロット」、ボルジア家の盛衰「ザ・ボルジアス」、伝記ファンタジー「ゲーム・オブ・スローンズ」と、史実だったり架空の話だったりあるいはその折衷だったりと違いはあるが、どれも中世的コスチューム・ドラマという点では一致している。新番組ではないが、スターズにはさらに昔の「スパルタカス: ブラッド・アンド・サンド (Spartacus: Blood and Sand)」もある。終わってしまったが、ショウタイムの「ザ・チューダーズ (The Tudors)」はこれらの番組の先駆的存在だった。


リールズで放送された「ザ・ケネディズ (The Kennedys)」は、中世ドラマではないが、やはり名のある一族の内紛やパワー・ゲームをとらえる話で、構造としては上記番組と軌を一にしている。個人的にはさらにこれらの番組群に、今年最も話題となったミニシリーズの「ダウントン・アビー」を加えたい誘惑を抑えきれない。人々は高貴な一族の葛藤、というか没落を見ることを渇望している。



9. 素手で野生動物を捕まえる


これは2011年の話というよりも、近年徐々にこういう傾向の番組が現れ始め、年末から2012年初頭にかけて花開いたブームという感じがする。今になって思えばその最初の兆しは、2006年にエイに刺されて死んだオーストラリアのクロコダイル・ハンターことスティーヴ・アーウィンによって既に形をとり始めていたという気がする。


そして昨年、ヒストリー・チャンネルの「スワンプ・ピープル (Swamp People)」がサプライズ・ヒットとなると、アメリカ南部のバイユーと呼ばれる湿地帯 (スワンプ) で、素手でワニと格闘する系の番組が次々と現れた。


さらに今年、ほとんどの場合において丸腰で野生動物や魚を捕まえるという番組が、アニマル・プラネットを中心にいくつも出現した。これらの番組の特徴として、結果としてほとんどオフ・ビートのギャグのようなノリになっていることが挙げられる。普通の人間なら素手でこれらの動物や魚、時には猛獣と対峙しようとはまず思わないだろうか、番組がそういうテイストになってしまうのはある意味しょうがない。この中では「ビースト・トラッカー」はわりとまともと言えるか? しかしすっぽんを素手で捕まえるのが最も得意という「コール・オブ・ザ・ワイルドマン」は、どう見てもギャグだ。本人のキャラクターからしてそうだし。


「スワンプ・ピープル (Swamp People)」ヒストリー

「スワンプ・ブラザーズ (Swamp Brothers)」ディスカバリー 

「スワンプ・ウォーズ (Swamp Wars)」アニマル・プラネット 

「ヒルビリー・ハンドフィッシン (’Hillbilly Handfishin’)」アニマル・プラネット

「コール・オブ・ザ・ワイルドマン (Call of the Wildman)」アニマル・プラネット

「ゲイター・ボーイズ (Gator Boys)」アニマル・プラネット

「スネイクマン・オブ・アパラチア (Snakeman of Appalachia)」アニマル・プラネット

「ビースト・トラッカー (Beast Tracker)」ディスカバリー

「マッドキャッツ (Mudcats)」ヒストリー



10. アメリカ中のヘンな人たち


アメリカは広い。その至るところにヘンな人たちがいる。そのことを思い知らせてくれる番組が次々と編成されたのも今年の特徴だ。その発端はやはりショウタイムの「ディス・アメリカン・ライフ (This American Life)」だろうと思うのだが、しかし、今年はそれに輪をかけて本格的にヘンな人たちをとらえた番組が次々と現れた。


「ストレンジ・デイズ・ウィズ・ボブ・サゲット (Strange Days with Bob Saget)」A&E

「ザ・ヴァイス・ガイド・トゥ・エヴリシング (The Vice Guide to Everything)」MTV

「パーマネント・マーク (Permanent Mark)」スパイク

「オンリー・アメリカ・ウィズ・ラリー・ザ・ケーブル・ガイ (Only in America with Larry the Cable Guy)」ヒストリー

「アウア・アメリカ・ウィズ・リサ・リン (Our America with Lisa Ling)」OWN


厳密には「ザ・ヴァイス・ガイド・トゥ・エヴリシング」は、アメリカに限らず世界中のヘンな人、ヘンな街、ヘンな場所、ヘンな商売を紹介するもので、特にアメリカにこだわっているわけではない。「パーマネント・マーク」は世界中のタトゥーに魅入られた人々を紹介するものだが、これもやはり期せずしてヘンな人たちの顔見世興行になっている。とにかく皆、一癖も二癖もあるキミョーキテレツな人々の集合で、これらの人々を見ていると、自分はまだまだ常識人と思うのであった。



番外: キム・カーダシアンとスヌーキ


もう、これは声を大にして言いたいのだが、別に本人になにがしかの才能があるわけでもなく、歌って踊れるわけでもなく、私個人の意見で言うとまったく美人のうちに入らないあんたたちの顔は、もう金輪際見たくない。ついでに言うと、キムのおっぱいはかなりの確率で詰めものされていると思う。しかしE!チャンネルはカーダシアン姉妹に密着するリアリティ・ショウの再放送の羅列でチャンネルが持っているところがあり、ところ構わずカーダシアン関係番組を垂れ流せば、MTVのスヌーキが中心人物のリアリティ・ショウ「ジャージー・ショア (Jersey Shore)」は、実は現在、ケーブルで一番人気の番組であり、その注目はエスカレートするばかりだ。


ただの出たがりのパーティ好きという人物が、なぜだか時流に乗って一番の人気者になってしまう。キム・カーダシアンのたった40日間の結婚離婚騒動が、それにまた拍車をかける。そんなの報道しなくてもいいってば。


ただし公平を期して言っておくと、あんなに化粧厚塗りのけばけばしいだけの人間と思えた二人だが、実は二人とも、化粧しないすっぴんが悪くない。なんかの芸能ニューズでたまたま見たスヌーキの素顔は、化粧後よりもよほど可愛くて、すっぴんの方がよほどいいと思った。そういう話を女房としていたら、彼女もたまたまTMZで流れていたキム・カーダシアンの素顔を見て、こっちの方がよほど可愛いじゃないかと驚いたそうだ。要するに彼女らは自分らの地味顔の素顔が嫌いで、だから派手派手しく厚塗りする。


とはいうものの、目立てばいいというもんじゃないだろうし、それにやはり彼女らが好きなこと言ってショッピングして噂話して時々喧嘩するだけという、そういう愚にもつかない番組を見るのにわざわざ貴重な時間を費やす気になぞ到底なれない。


とか思っていたら、「ジャージー・ショア」の最新シーズンが、私の住むジャージー・シティで撮影するというニューズが入ってきた。もしかしたらどこぞで撮影中のシーンに出くわすかもしれない。そしたらその部分だけ見てもいいかな。










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2011年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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