The X Factor   ジ・エックス・ファクター

放送局: FOX

プレミア放送日: 9/21/2011 (Wed) 20:00-22:00

製作: SYCO TV、フリーマントルメディア・ノース・アメリカ

製作総指揮: サイモン・コーウェル

ジャッジ: サイモン・コーウェル、ポーラ・アブドゥル、L. A. リード、ニコール・シャージンジャー、シェリル・コール (プレミアのみ)

ホスト: スティーヴ・ジョーンズ


内容: アメリカではFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」ジャッジでお馴染みのサイモン・コーウェルが英国で製作している勝ち抜きタレント発掘リアリティ・ショウ「ジ・エックス・ファクター」のアメリカ版リメイク。「アメリカン・アイドル」と異なる点は優勝賞金が500万ドルと超高額なこと、参加者が「男性」、「女性」、「グループ」、「30歳以上」と4つのグループに分かれ、それぞれにジャッジが専属でついてアドヴァイスを与えること、等がある。


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The X Factor


ジ・エックス・ファクター   ★★

昨シーズンからFOXの最大の人気番組、「アメリカン・アイドル (American Idol)」からジャッジ兼プロデューサーのサイモン・コーウェルが姿を消した。英国人のコーウェルは現地でもオリジナルの「Xファクター」や「ブリテンズ・ガット・タレント (Britain’s Got Talent)」のジャッジをしている。それなのにアメリカ版「Xファクター」のジャッジまでしたら、いくら時間があっても足りないだろう。これ以上「アイドル」のジャッジまでやってられなかっただろうというのはわかる。


一方、コーウェルは本当は「ブリテンズ・ガット・タレント」のアメリカ版「アメリカズ・ガット・タレント (America’s Got Talent)」で本当はジャッジをしようとしていたけれども、契約上の問題でできなかったということも聞いたことがある。いずれにしても超忙しいのは間違いあるまい。


英国では現在、「アイドル」の原型となった「ポップ・アイドル (Pop Idol)」は放送されていない。その代わりに「ポップ・アイドル」が進化した形で「Xファクター」が放送されている。しかしてアメリカでは「アメリカン・アイドル」と「Xファクター」が両方放送される。潰し合いということにならなくてもいいのかという懸念もあるが、きっと勝算があるんだろう。実際、今春NBCが放送した同類のタレント発掘勝ち抜きリアリティの「ザ・ヴォイス (The Voice)」はそれなりの成功を見た。市場は思ったよりも大きいのかもしれない。


先シーズンの「アイドル」ではコーウェルだけでなく、それまでジャッジを務めてきたポーラ・アブドゥルも辞めた。というかアブドゥルの場合はそれまでの度重なる失態や言動のせいで辞めさせられたという印象が強かった。それが「Xファクター」でまたコーウェルに拾われたわけで、まあ、参加者を擁護する参加者寄りのジャッジとしては確かにアブドゥルの味は捨て難いものがあった。コーウェルもこの辺でちょっと人情を見せたということか。


他のジャッジは黒人音楽プロデューサーのL. A. リードと、ポップ・シンガーのシェリル・コール。コールは英国のまたまた別のタレント発掘勝ち抜きリアリティの「ポップスターズ (Popstars)」出身だそうだ。海の向こうの番組についてはそう詳しいわけではないので、「ポップ・アイドル」以外にも同様の番組があることは知らなかった。おかげでむろんそのコールがデビューして在籍していたガールズ・アラウド (Girls Aloud) というグループも今回初めて知った。英国ではそれなりに知られた存在らしいが、英国でヒットしたからといって必ずしもアメリカでもヒットするとは限らない。特にこういうポップ系はそうだ。


それを考えると、最近はあまり聞かないが、英国版「Xファクター」の第3シーズンで勝ち、アメリカでもそれなりに知られているレオナ・ルイスは頑張っている。彼女の他には英国の「Xファクター」と「ポップスターズ」出身のシンガーは、「ポップ・アイドル」第1シーズンで勝ったウィル・ヤング以外聞いたことがない。まあそれを言うならアメリカの「アイドル」出身シンガーだって、一部を除いては今ではほとんど名を聞かない者の方が多い。


さて、そのコールだが、実は番組プレミア放送前から問題になっていた。きちきちの英国っ子であるコールは英国式アクセントが強く、実はかなりアメリカ人には何を言っているかわからないというのだ。実際、番組放送前にFOXの朝のローカル・ニューズの「グッド・デイ・ニュー・ヨーク (Good Day New York)」を見ていたら、芸能担当のジュリー・チャンが番組についてレポートしていて、コールが何言っているのか本当にさっぱりわからなかったと言っていた。


米語英語の違いはあるとはいえ基本的に同じ言葉であり、英国人だってだいたいの者はアメリカ風に発音できる。コーウェルが第一そうだ。FOXの「ハウス (House)」主演のヒュー・ローリーがいつぞやのエミー賞で英国風アクセントでしゃべっていたが、さすがにあれくらいアクセントが強いと聞き取りづらいが、しかし、通常はアメリカ式アクセントでもしゃべる。俳優なら誰でもだいたいできるだろう。


しかし俳優でもなんでもなくそういう訓練を受けたことがあるわけでもないコールのアクセントは、アメリカ人にはかなり聞き取りづらいものがあったようで、結果、コールはジャッジを降ろされた。番組では2時間のプレミア・エピソードのLAオーディションの最初の1時間出ただけで、後半では既にジャッジはニコール・シャージンジャーに代わっていた。


あまり巷でコールのアクセントの話ばかりが取り沙汰されるので、本当にさぞ聞きづらいのかと思っていたが、私の意見を言うと、特にそんなことはない。あれが聞きづらいならローリーの地のしゃべりなんて完全に外国語だ。要するに、慣れてないアクセントはすんなり耳に入ってこない。それでも、私に言わせてもらえれば、コールの英語よりも「ウィンターズ・ボーン (Winter’s Bone)」のオザーク訛りの方がよけい聞き取りにくい。


ま、確かに特に労働者階級の英国アクセントが外国人に聞きづらいのは事実ではある。私が大昔に大学卒業記念に生まれて初めて一人で海外旅行した時、ポルトガルのリスボンでたまたま一緒になったロンドン出身というむさい男が、「アイ・ウォズ‥‥」と何度も言うのがわからず、何度も聞き返して初めて「I was…」と言っていたのを知ってマジに驚いたことがある。


いつだったか、深夜トークの「レイト・レイト・ショウ (Late Late Show)」でホストのクレイグ・ファーガソンが、アメリカ人は英国アクセントをおしゃれと思っているんだ、私が新ホストに抜擢された理由もそれが大きいと言っていた。実際、アメリカでは英国風アクセントは知的と思っている者が多い。だいたいTVの勝ち抜きリアリティでジャッジに英国人が起用される場合が多いのは、そういう理由がある。因みに今回は、ホストのスティーヴ・ジョーンズも英国人だ。しかしそれとて、アクセントがきつすぎて何言っているかわからなければ意味がない。


コールの後釜として抜擢されたシャージンジャーは、プッシーキャット・ドールズの元リード・シンガーだ。こちらもコールと同じく元々はタレント発掘の勝ち抜きリアリティ・ショウ出身、というか、WBが放送したアメリカ版「ポップスターズ」出身だ。最近ではNBCの「ザ・シング-オフ (The Sing-Off)」のジャッジも担当していた。因みに「シング-オフ」は今シーズンからシャージンジャーの代わりにサラ・バレリスがジャッジを担当している。


鳴り物入りで始まったという感のあるアメリカ版「Xファクター」だが、これまでのところ、宣伝やセットに金と時間をかけ過ぎて、中身が伴っていないという印象の方が強い。特にそれを強く感じるのがジャッジ同士の掛け合い、というか文句の言い合いで、歌番組を見ているんだから、そういうつまらない仲間割れなんかどうでもいいから、参加者の歌を聞かせてもらえないかねと思ってしまう。


またその歌も、まだ素人に歌わせているんだから、セットや衣装、ステージング等の演出ばかりに気をとられ過ぎるのもなんだかなと思う。視聴者投票が始まる本戦になるとステージが大きくなるが、たぶん1コーラス目は歌いながらこちらに歩いてきて、2コーラス目はこういう振りをつけて、みたいな感じで指導を受けているんだろう、おかげで肝心の歌に身が入っていないのがありありだ。


普通に立って歌っている時はあんなにうまかったのに、これじゃ素人のカラオケにしか聞こえない。派手な衣装着させてバック・ダンサーを何十人もつければいいってもんじゃない。ブリトニー・スピアーズですら歩きながらじゃ歌えないのだ。歌のアレンジもいじり過ぎで、デビューすらしていない素人にあれこれ注文つけ過ぎだ。ほとんどの者がステージ負けしている。


ただし製作側もあまりステージングだけに気をとられて歌の方がおろそかになっているというのにすぐ気がついたようで、本戦が始まってからの第2回目では派手過ぎるステージングが是正され、参加者はあまり動き回らず歌に集中できるような演出になっていた。こういう反応の速さはさすがだと思う。


「Xファクター」は、「男性」、「女性」、「グループ」、「30歳以上」と4つのグループに分かれ、それぞれにジャッジが専属でついてアドヴァイスを与えるのが特徴で、今回、男性を担当したのがリード、女性がコーウェル、グループがアブドゥルで、30歳以上をシャージンジャーが受け持った。それぞれが3人 (グループ) ずつを自分がコーチした者の中から選び、その後の本選で計12人 (グループ) が会場で観客を前にパフォーマンスを行い、視聴者投票により毎回一人ずつ脱落する。


ただしグループは、本当はグループではなかった者が番組用に強引に一つのグループにまとめられたりしている。ちょっとこれはいただけない。付け焼き刃という感は否めず、かなり無理がある。多少歌がうまい者を10人まとめればいいってもんじゃない。自然発生的にリーダーが生まれる時間もなく、グループとしてのポイントが絞れていない印象はいかんともし難い。おかげで番組が本選に入って最初の回で、いきなりそのグループ、インテンシティが最後の2グループの一つになり、結局アブドゥルが彼らを落とさざるを得なかった。あんな意味のないことするからだ。


本戦第2回でもアブドゥルがコーチした黒人グループのザ・ステレオ・ホグズと白人女子4人のラコダ・レインが下の2グループになり、結局前回も下の2グループに入ったステレオ・ホグズが落ちた。個人主義のアメリカでは、人はグループより個人に投票するという感触が濃厚で、実力如何よりもグループは最初から不利という気がする。たぶんこの辺の視聴者の反応は、英国版とは大きく違うのではないか。


コーウェルは今回はその判断が疑問を差し挟まざるを得ない時がままある。特に解せなかったのが、明らかによく音を外すティアを最後の最後まで擁護していたことと、素質だけでなく外見も魅力的なケイトリンを最後の3人に選ばなかったことだ。まだ幼いレイチェルを選ぶなら、ケイトリンを選ぶべきだったと思う。今回のコーウェルはいつもジャッジ同士で言い争いをしているだけという印象が強く、ジャッジとしての務めはあまり果たしてないように感じる。


これまでで私のイチ押しは文句なしに14歳のドリュウ・リニーウィッツで、予選段階から彼女とケイトリンが双璧と思っていた。東欧系の名字がアメリカ人にはあまり馴染みがなくて発音しにくいからか、あるいはまだ冷戦の影響か、いつの間にか名字がなくなって、今では紹介する時にただドリュウとだけ呼ばれるようになっている。


他に優勝候補としては、30歳以上のグループに入っているジョシュ・クラチックとリロイ・ベルもいい線行くのではないか。というのも、今夏のNBCの「アメリカズ・ガット・タレント」で、並みいる強豪を押しのけて、一見ホームレスのレゲエのおっさん、実はフランク・シナトラ張りのクルーナーであるランドー・ユージーン・マーフィJr.が優勝したのを見たばかりでもあるからだ。


個人的には我が強すぎてあまり好きではない黒人のクソガキのアストロは、しかし、たしかにあの歳であれだけ歌えるのは少ないだろう。果たしてラップをオリジナルでなく他人の出来合いの歌を歌うことに意味があるのかと思っていたが、今回よく聞くとエミネムの歌だがところどころオリジナルの歌詞が挟まっていた。あれをアドリブでやっているとしたらすごい。文字通り成長期で、番組の回が進む毎に数センチずつ背が伸びて顔が変わっていくように見える。既に番組が始まった時からは別人だ。


「Xファクター」はそこそこの成績で既に来年第2シーズンの製作も決まっているが、視聴者数は「アイドル」の半分程度に過ぎない。私も正直言って、「Xファクター」よりは「アイドル」の方が面白いと思う。というか、これならまだNBCの「ザ・ヴォイス」の方が、「Xファクター」より面白い。


ただしまだまだ番組はよくなっていく余地を残しており、アメリカ向けにマイナー・チェンジを施しながら進んでいくものと思われる。とにかくジャッジ同士の罵り合いをまずなんとかしてくれ。ニューヨーク・タイムズが、ジャッジ同士のキャット・ファイトがなくなれば番組は見られるようになるかもしれないと書いていたが、まったく同感だ。あれをなくして番組を短くしてタイトにまとめるだけで、かなり見られるようになる。



追記: (2011年12月)

「Xファクター」の第1シーズン、優勝したのはいったんは落ちたものの、敗者復活みたいな感じでまた番組に戻ってきたメラニー・アマロ。わざわざコーウェルがマイアミの家まで行って再度番組復帰を要請した子が勝った。実はアメリカ人も結構判官びいきなところがある。でもまあ、私は今でもやはりドリュウかケイトリンが優勝すべきだったと思っているが。









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