Hillbilly Handfishin’   ヒルビリー・ハンドフィッシン’

放送局: アニマル・プラネット (AP)

プレミア放送日:  8/7/2011 (Sun) 22:00-23:00

製作: ハーフ・ヤード・プロダクションズ

製作総指揮: サラ・ヘルマン、アビー・グリーンスフェルダー、ショーン・ギャラガー

出演: スキッパー・ビヴィンス、トレント・ジャクソン


内容: オクラホマで素手でナマズをつかまえるという変則のハンドフィッシングに興じる者たちに密着するリアリティ・ドキュメンタリー。


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Hillbilly Handfishin’


ヒルビリー・ハンドフィッシン’   ★★1/2

時々、なぜ、どうしてこういう番組が存在するのかわけがわからないというタイプの番組に遭遇して、唖然とすることがある。単に前例がないという類いの番組なら、SF系にそれこそ掃いて捨てるほどそういう例はあるが、時に単純に、何、それと言って絶句するしかない番組も、ままある。あまりにもこちらの常識から遠く離れているので、一瞬どう反応していいかわからず固まってしまうのだ。むろん「ヒルビリー・ハンドフィッシン’」がその系列に属する番組であることは、改めて言うまでもない。


「ヒルビリー」とは、田舎者をわりと揶揄して指す言葉だ。ヒルビリー・ミュージックというカントリー系の音楽を意味する場合もあるが、通常、特に注釈なく使われる場合は、大方、南部の洗練されていない人間を侮蔑的に意味する場合が多い。


そのヒルビリーによる変則的なフィッシングに、「ハンドフィッシング」というものがある。文字通り、手づかみでする魚釣りのことだ。正直言って、水の中で手づかみで魚をとらえるというのは、普通、人間には無理だ。しかし相手がナマズだと話は別だ。ナマズは通常、川底の巣の中に隠れている。そこから顔を出す瞬間をとらえれば、人間が素手で捕まえることも可能なのだ。


ただし、もちろんナマズといってもピンきりで、体長10-20cmくらいのものから、大きなものは1m以上、体重200kgを超える場合もある。歯もあるから噛まれると痛いが、そこに強引に手を突っ込み、力任せに引き上げるのだ。それだって相手がでかければ、最悪そのまま水底に引きずり込まれて、こちらが溺れ死ぬということもある。


ミシシッピ川とかの南部の川は基本的に泥流で、透明度は低く、ほとんど底なんか見えない。危険度が高いから、だいたい二人一組で、一人が魚を釣り上げる方、もう一人はサポートに回る。ナマズを釣り上げるつもりで水底の穴の中に手を突っ込んだら、ワニや毒ヘビが出てきて噛まれたりして死亡した例もあるそうだ。


このハンドフィッシング、地方によっては「ヌードリング」とも呼ばれている。なぜヌードリングというのかは知らないが、番組を見ていたら、時によって紐を使ってナマズを引き上げており、その辺がヌードルを連想させるのかもしれない。


いずれにしてもこのフィッシング、時代に逆行して野蛮という印象は拭い難く、この行為を禁止している州もある。しかし伝統的にこの方法に親しんできた者にとっては、今さらそんなこと言われてもと思うだけだろう。そして、逆にこの野蛮さが受けて、ある種のスポーツとしてこれを試したいと思う者も少なからずいる。番組は、そういうスポーツ観光客にヌードリングをガイドするスキッパー・ビヴィンスとトレント・ジャクソンに密着する。


しかし、とにかくヌードリングなんて、アメリカ人にだって一般的に知られていないし、経験したことのある者なんて南部じゃなければほとんどいない。それでヌードリング初体験者は皆、最初、おっかなびっくりで腰が引けている。そりゃ生きているナマズなんて生まれてから一度も見たこともなさそうな奴らが、底の見えない川に首まで浸かって何が出てくるかわからない穴の中に手を突っ込むのだ。


それでナマズが顔を出したら口の中へ手を突っ込んで引きずり出せなんて、ちょっと度胸がいる。何かに触れたからがむしゃらに手を突っ込んだら、それがワニの口の中でなかったという保証はどこにもない。実際、ある女性なんか既に怖いのと興奮で泣いているし、シカゴから来た警官という若い男ですらびびっているのがよくわかる。人間の犯罪者を相手にいている方が楽と思っているだろう。


ヌードラーの後ろにはサポーターがおり、溺れたりしないよう支え、さらにその周りに他の者が三々五々散らばっているのだが、実はこの構図、かなり南部で川に入って行われるバプティズムの絵に近い。ヌードリングする者は時々顔を水の中に沈め、すぐ後ろでサポーターがそれを支える。彼らが普段着や上半身裸というような恰好ではなくて白い衣服を着ていたら、どこから見てもバプティズムにしか見えない。それが一転して、手の先にナマズをとっつかまえて飛沫を飛び散らせながら引き上げる。なんというか、とにかく尋常じゃない景色に呆気にとられる。本当に、なんだ、これは。


昨年の「アメリカTV界10大ニュース」でも書いたのだが、近年、アメリカでは野生の動物、猛獣、危険な毒性獣を捕獲するというリアリティ・ショウがよく製作放送されている。なかでも意外によく製作されているのがサカナ遭遇系の番組で、その中でも特に、巨大で獰猛なサカナに焦点を絞ったアニマル・プラネットの「リヴァー・モンスターズ (River Monsters)」の人気は高い。「ヒルビリー・ハンドフィッシン’」は、その一亜種と言える。アメリカ人にとって、サカナは捕獲して食べるものではなく、格闘してひれ伏させる闘争、もしくはスポーツの相手なのだ。









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