After Earth


アフター・アース  (2013年5月)

ウィル・スミス主演の夏の大型SF作品にしては、予告編に特に派手なアクションや戦闘シーンが見当たらない。しかもちょっと見ぬ間に大きくなった息子のジェイデンが出ている。自分が出ずっぱりの大型アクションよりも、息子の成長を優先して出演作を選んだようだ。いずれにしても夏の大作シーズンを代表する俳優のスミスにしては地味っぽい印象は強く、正直言って第一印象では特に惹かれない。 

  

そしたら、こないだニューズを見ていたら、「アフター・アース」プレミアのレッド・カーペットを中継しており、そこにスミス父子と共に並んで立っているのは、M. ナイト・シャマランではないか。なんということだ、これはシャマラン作品だったのか。シャマランがスミス父子主演で撮ったSFか。気にならないということもないかも。 

  

というわけで、先週から公開している「ワイルド・スピード Euro Mission(Fast & Furious 6)」を見るかと思っていたのだが、いきなり「アフター・アース」の方が気になり始めた。カー・アクションはアクションの基本と思っているので「F&F」シリーズは押さえておきたいとは思っているのだが、しかし基本はやはり実写で、CGが入るとカー・アクションもなんだか嘘くさくてつまらなくなる。 

  

特に近年の「F&F」はCGが入る割合が多くなってきており、どんどん現実離れしている。さらにあれはニューヨーク・タイムズだったかメトロだったかでちょいと目にした映画評では、今回の「F&F 6」はお笑いすれすれ、みたいな評され方をされており、これは私が求めている「F&F」ではないんだよなあという気持ちが強かった。それで今回、ついに「F&F」に見切りをつけ、「アフター・アース」を見に行くことにする。まあ「F&F 7」があるさ。 

  

さて、その「アフター・アース」、まず最初に気づくのはあっという間に大きくなったジェイデンで、「ベスト・キッド (The Karate Kid)」の時からさらに、「幸せのちから (The Pursuit of Happyness)」に較べると、ほとんど本人とは気づかないほど成長した。「ベスト・キッド」から3年、「幸せのちから」からだと7年、このくらいの歳のガキってのは本当に成長速い。前回見た時はまだ子供だったのに、今回は思春期に足を踏み入れた悩めるロウ・ティーン、そしてさらに公開に合わせたプロモーションでBBCの「ザ・グレアム・ノートン・ショウ (The Graham Norton Show)」にウィルと一緒にゲスト出演して父子でラップを披露、さすがに色んなところに才能有り余ってんだなという感じだ。それにしても実はウィルって親バカだ。 

  

一方、「アフター・アース」はそのスミス父子主演で、セットも映像もそこそこ金はかかっていそうなのに、地味という印象を受ける。その最大の理由は、登場人物の少なさにある。そういえばシャマラン作品で最もSF色の強い「サイン (Signs)」も、メル・ギブソン主演のエイリアン襲来ものといういかにもハリウッド向きの題材でありながら、実はエイリアンが都会を襲って破壊するというシーンは一つもなく、エイリアン襲来を登場人物5人で描いてみました、みたいな、破天荒と言えばこの上なく破天荒な常識破りの作品だった。 

  

それが今回は、本筋に入ると登場人物はさらに減る。アクションものなのに、出演する者の数がどんどん減ってきて、最終的にはウィル演じる父サイファと、ジェ イデン演じる息子キタイの二人だけになる。さらに本題は少年キタイのサヴァイヴァル成長ものであり、見守る父がいるとはいっても現実には怪我しており、ほとんど動くことすらかなわない。映画の後半は、キタイが一人出ずっぱりで作品を支えている。人間以外の変性した鳥や獣は出てくるが、CGの生物では重要なキャラクターと言うのも憚られる。つまり「アフター・アース」は、どれだけ人的に省力化して、なおかつ作品的に大きなSFを撮れるか試みた作品と言える。 

  

省力化というのはシャマラン作品にとって大きなポイントで、シャマランは常に最小限のインプットで最大限のアウトプットを得ることができるかということに最大の注意を払っているように見える。つまり、画面上によけいな夾雑物が入って語りたいことの焦点がぼけ、妨げられることをなによりも嫌う。その効率が高ければ高いほど、効果的なシーンとなって印象を残す。 

 

「シックス・センス (The Sixth Sense)」も「アンブレイカブル (Unbreakable)」「ヴィレッジ (The Village)」も、話としては実はとてもシンプルだ。そしてできるだけ登場人物は削りたいから「サイン」になる。「ハプニング (The Happening)」にはそこそこ人が集まるシーンもあるが、やはり後半どんどん人が減ってきて、いかにもシャマランらしい人の数が限られた一軒家が話の中心になる。いずれにしても、こういう自分の特性を生かすことがまったくできなかった「エアベンダー (The Last Airbender)」が失敗したのは、当然のことだった。 

  

その点「アフター・アース」は、シャマランらしいと言えば実にシャマランらしい。SFで はあるが、シャマランらしくホラー色が強い。怪我をしたサイファやまだ一人前ではないキタイがこちらを向いてクロース・アップになると、その後ろの空間に何かが突然出現しそうでどきどきする。一人はほとんど動けないし、もう一人はまだまだガキだ。スクリーン上の登場人物の後ろに見える空いた空間の、いかに も何かが潜んでいそうなスペースの作り方が絶妙だ。本当にシャマランってそういうイメージを喚起させるのがうまい。ホラーってのは見る者が勝手に自分の想像力で怖がるという部分が多いことが、シャマランを見ているとよくわかる。 

 

一方、では「アフター・アース」が興行的に成功しそうかというと、かなり難しそうという気もする。この手の大作に必須の、多少の派手さに欠けるからだ。玄人好みのピンポイントのさりげない演出のうまさは光っても、それだけでは不特定多数の老若男女の足を劇場まで運ばせることはできない。とはいえ、また「エアベンダー」みたいなのを撮っていたらどうしようという危惧もないこともなかったので、その点では安心した。シャマランには、ヘンに観客におもねろうとは考えないで、あんまり予算をかけない作品を自分の撮りたいように撮ってもらいたい。あんたは実は大作向きではないというのは、自分でもわかっているはずだ。 










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遠い未来。地球は人類の生存には適さない世界になっており、人類は他の惑星に移住していた。宇宙に広くその名を知られた将軍サイファ・レイジ (ウィル・スミス) には年頃の息子キタイ (ジェイデン・スミス) がいたが、キタイは父を尊敬し、父から愛情を受けたい一心で、一人ティームワークを無視して先走るあまり、将来の士官候補の選抜から漏れる。サイファと妻のファイア (ソフィ・オコネド) は キタイを慮って、サイファと一緒のフィールド・トリップに同行させる。しかし途中、隕石群に巻き込まれて事故が発生、二人とその他の乗組員を乗せた宇宙船 は地上に墜落する。キタイはシートベルトで固定されていたためほとんど無傷だったが、他の乗組員は全滅、サイファも大怪我をして動けなかった。自分たちの生存と場所を知らせるビーコンを作動させなければならなかったが、それは遠く離れた場所に墜落していた。キタイが一人で危険な場所に何ものの力も借りずたどり着き、ビーコンを回収して作動させることができなければ、二人が助かる可能性はなかった‥‥


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