The Pursuit of Happyness   幸せのちから   (2006年12月)

ほとんど必要のない医療機器のセールスマンであるクリス (ウィル・スミス) の家庭は、妻のリンダ (サンディ・ニュートン)、息子のクリスJr. (ジェイデン・スミス) を抱えて貧窮していた。クリスは最後の大逆転を期してストック・ブローカーのインターンに申し込むが、当然その時期の給料は出ず、しかも経験のないクリスが、倍率の高い本採用になる見込みはほとんどないと言ってよかった。そのうちにもさらに家計は圧迫し、ついにリンダは家を出て行く。クリス親子はアパートを追い出され、さらには移り住んだモーテルをも追い出され、寝る場所にも事欠くようになる‥‥


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信じられないことだがこの一と月の間に2度もじんましんを出してしまった。じんましんなんて、かれこれ20年以上も前の学生時代にあまりにも怠惰な生活に慣れすぎてボンカレーを3分間暖めるということすらせず、そのまま封を切ってご飯の上にかけて食べ、その結果身体中にじんましんが出て、かゆくてかゆくて死ぬほど苦しんだ時以来だ。


今回は時期的に外食が重なる時であり、最初はたぶん、どう見ても悪い油を使っているとしか思えない、天ぷらとは文字ばかりのへたくそなフライをチャイニーズのお店で食った時に出た。あんなべちゃべちゃな衣、日本でこれを天ぷらといって客に出したら3日で店は潰れるのは間違いなしなのだが、一応人のおごりだったので我慢して食べたのが悪かった。


さらにその後、そのじんましんがやっと引いて一息ついた直後に、今度はちゃんとした和食の店だが、たぶん天ぷらはアミーゴが揚げていると思われるくらいのレヴェルの店で、性懲りもなくまた天ぷらを食べ、しかもその日の夜はまた人のおごりで、かなり高いニューヨークでも注目の和食の店でディナーを食べ、こちらでは天ぷらではないが寿司やオイスター等の生食の魚を食った。そのためなんで出たのかはっきりとはわからないが、その夜、またじんましんが出た。


悪いことには、またこんなのが何日も続くのは嫌だと思って翌日すぐに医者に見てもらい、薬を処方してもらったのだが、それが大失敗だった。ただでさえアメリカの薬はアジア系の人間には強すぎたりするが、この医者の処方した薬がまさしくそれで、何も考えずに普通のガタイのいいアメリカ人と同じものを処方したんだろう、塗り薬は後で調べてみると強いステロイドで、塗った後、心臓がばくばくして夜寝られないし、飲み薬の方はこれまた身体に合わず、胃けいれんを起こしてしまったようで胃が引き攣るように苦しい。七転八倒して死ぬかと思ったが、これ以上医者に行こうという気にはまったくなれず、というかまったく部屋から出られなかった。


結局この状態から回復したのは単純に時間と自分自身の身体の回復力、女房の作ってくれたおかゆ等のおかげで、医者は信用するもんじゃないとつくづく思った。特にアメリカの医者は何か問題があると、その部所だか症状だかを一時的に強い薬で抑え、その隙に治すという方法をとりたがる。そのため薬の副作用に悩む者が後を絶たず、確かにそれが奏功する場合も多いが、外した場合、ダメージを受けるのはこちらだ。


前置きが長くなったが、要するに病み上がりの身体を休めるんじゃなく動かしてまで映画を見に行こうという気になったのは、逆に映画を見てリハビリしないとという気持ちが強かったためだ。選んだのがウィル・スミス主演の「幸せのちから」だったのは、もうあまりにも当然の選択としか言いようがない。レオナルド・ディカプリオとエドワード・ズウィックには悪いが、正直言って今は到底「ブラッド・ダイアモンド」を見る気分じゃないし、「アポカリプト」も先週見といてよかった。この状態で「アポカリプト」見たら、吐いてまた症状ぶり返してしまう。


「幸せのちから」は80年代初頭、妻に去られ、まだ幼い息子を抱えてほとんどホームレスになりながらも希望を捨てず、ストック・ブローカーとして成功した男を描く、実話を元にしたいわゆるドキュドラマだ。たぶんここかしこに誇張や省略が施してあるんだろうが、ハリウッド・ストーリーであり、ここでそれを責めるのは当たらない。こういう心も身体も弱っている時にこそこういう映画が必要なのだ。主人公のクリス・ガードナーを演じるのがウィル・スミス、その息子クリスJr.を演じているのが、スミスの実の息子のジェイデン・スミスだ。いつの間にやらウィルもこういう父親役がスムーズにやれるようになった。


いかにも第二の人生を進み始めた父と子を描く愛情/成功ドラマであるのだが、しかし、こういうのを鼻白むことなく最後まで見せることができるのはさすがハリウッドだ。正直言うとそこここに合点が行かないというか、なぜクリスが行動をとるのか、こういう展開になるのか納得し難いという点はないではない。私が最も不思議に思ったのが、インターンとしてディーン・ウィッターで働くクリスが無一文に陥った時に、それほど親しくないとはいえ、同僚 (とはまだ言えないかもしれない) にも上司 (には確かに言いにくいかもしれない) にもまったく援助を求めようとはしなかったことで、一見しただけでは、そのことを考えることすらしなかったように見える。黒人と白人という人種の壁のせいか、それともクリスの中に残っていた最後の矜持が自分は無一文だと皆に知られることを拒んだのか、その、今に見返してやるという気概が彼を駆り立てていたのか。でも、それでもあんたはいい。あんたの息子は腹を減らしてあんたのことを待っているという時、私ならプライドなんか捨てるな。


さらに、そこまで金がなくても、さすがに息子を会社には連れて行けないからクリスはJr.をデイ・ケアに預けてから出社せざるを得ないのだが、その金はいったいどこから出ているのか。まあ見ているとそこですら月謝を滞納してチャイニーズの経営者から嫌みっぽいことを言われていたりしていたようではあった。それに白人、どころかアメリカの黒人が利用するデイ・ケアに子供を入れられないから、たぶん最も月謝が安いチャイニーズのデイ・ケアに預けていたんだろう。


そうやってクリス親子がどんどんどツボにはまってにっちもさっちも行かなくなるからこそ話が面白くなるのは確かであり、どんどん感情移入もしやすくなる。ついにアパートどころかモーテルからも追い出され、行くところがなく駅のトイレの中で父子二人で一夜を明かすなんてシーンでは、私もつい二日前には同じようにトイレの中で便器を抱えたまま動けないという似たような状況だった (違うか?) と、思う存分感情移入して涙するのであった。


こういう実の親子共演映画というのは、これまでにもいくつかある。こないだエンタテインメント・ウィークリーをぱらぱらとめくっていたら、この種の映画のリストが載っていて、「ペーパームーン」のライアン・オニール、テイタム・オニールを筆頭に (クラシックだな)、「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリーとジョン・ヴォイト (ちょいと違うような気がする)、「黄昏」のヘンリー・フォンダとジェイン・フォンダや「グロムバーグ家の人々 (It Runs in the Family)」のカーク・ダグラスとマイケル・ダグラス (共に登場人物が成長し過ぎ) なんかが載っていて、そういやそうだったと思い出される。他にも「ランブリング・ローズ」のダイアン・ラッドとローラ・ダーンや「ウォール街」のマーティン・シーンとチャーリー・シーン、「シルヴィア」のブライス・ダナーとグウィネス・パルトロウなんてのがある。


結構意外なのは、「幸せのちから」や「ペーパームーン」のような本当に親とまだ幼い子供ではなく、親と子とはいっても、既に両者とも成長して大人になっているが性格の違い等でこれまで疎遠だったものが、あることをきっかけに再び心を通い合わす、みたいな作品の方が多いということだ。特に「幸せのちから」のように父親とまだ幼い息子を実の血縁で演じているのは、実はどうやら「ロッキー5」のシルヴェスタ・スタローンとセイジ・スタローン以外ないらしい。こいつはかなり意外だった。なんとなくもっとあるような気がしていた。


もちろん実の親子だからといって、そのことが作品にいい意味で反映するかは疑問であり、正直言って、親子が共演することの意味はないに等しいと私は思う。もし血の繋がりが演技に反映してくるのなら、ハリウッドがどこにでもごろごろいる親子俳優をほっておくはずがない。必ずしも親子共演が機能するものではないからこそ、最近の子供が出る映画は、それが女の子の場合、どれもダコタ・ファニングとエル・ファニングの姉妹が交互に出演しているのだ。逆に言えば、それをちゃんと機能させたウィルとジェイデンは、さすがに大したものだと思う。また、貧乏に疲れた女房のリンダを演じるサンディ・ニュートンも、「クラッシュ」での上流階級の女性とはまったく異なる一面を見せて見事。


これが初見となる監督のガブリエレ・ムッチーノはイタリア出身で、「ワン・ラスト・キス」はニューヨークでもそれなりに評判になった。ここではツボを手堅く抑えており、まるで昔からずっとハリウッドで作品を撮っている職人系の演出家みたいだ。ところでついに公開となるこれが最後の (本当か?) 「ロッキー」シリーズとなる「ロッキー・バルボア」では、またセイジは出ているのだろうか。そうするとこの一と月で父子共演映画が2本まとめて公開ということになる。実は隠れたハリウッド唯一の記録となるのは間違いあるまい。







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