Sunshine   サンシャイン2057  (2007年7月)

近未来、滅び行く太陽を再度活性化するため、太陽内に核を撃ち込むという使命を帯びて8人の宇宙飛行士がイカルス2号に乗り込み、宇宙に飛び立った。しかし太陽に近づいたイカルス2号に、7年前に同じ使命を持って旅立ったまま行方不明となったイカルス1号からの信号が飛び込んでくる。一方、トレイのミスによって船体に不祥事が生じ、イカルス2号は好むと好まざるとにかかわらず、イカルス1号とドッキングしてその装備を借用しなければならなくなる‥‥


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実はこの作品についてはほとんど前知識を持っていなかったのだが、新聞でふと目にした「サンシャイン2057」の宇宙船の中のミシェル・ヨーの写真を見て、おっ、と気になった。ヨーがスペースSFか、このキャスティング、なんか意外性あって面白そうだ。さらにレヴュウの見出しで、「エイリアン」の流れを汲むSFホラーという評され方をしていたので、ちょっと気になってさらに読み進めたところ、監督はダニー・ボイルだと知った。


ボイルか。こないだ見た「28週後」で、今回は演出は人に任せて本人はプロデュースに徹していたのを見て、なんで自分で演出しないんだろうと思っていたが、要するにこっちの方があったからか。いずれにしても「28日後」も「サンシャイン2057」もホラー系統で、今回は舞台も宇宙と、なんだか「トレインスポッティング」の世界からは遠いところに来てしまったという気がする。


イカルス2号は、衰えつつある太陽に核を撃ち込み、再び活性化するという使命を帯びて太陽に向け航行している。乗組員は各種スペシャリストの8人で、ヨーもその中の一人。さらに他にアジア系が二人いて、環太平洋系もいるが、この手の群像ものには必須の黒人がいないという変則キャスティングだ。おかげで冒頭の食事のシーンでは、いきなり乗組員は箸を使って食事している。船内食がアジア食か。和食の浸透というよりも、チャイニーズの世界進出の結果だろう。本当に近年は少なくともアメリカならどこに行っても必ずチャイニーズの店がある。既に街角のダイナーより、チャイニーズ・フードの店の方が多いに違いない。


その食事のシーンで、キャプテンと呼ばれているアジア系乗組員は、なんと真田広之ではないか。いや、びっくりした。口ひげ顎ひげを生やし、なかなか貫禄もついた。人類の将来を賭けた宇宙船のキャプテンかよ。すごいな。昨年、「上海の伯爵夫人」を見た時に、なかなか真田も頑張っているではないかと思ったが、アメリカ映画というよりもイギリス映画で頑張っているようだ。前回の舞台は上海、今回は宇宙と、次あたりこそヨーロッパかアメリカが舞台かと思っていた矢先にTVを見たら、コマーシャルで宣伝中の「ラッシュ・アワー3」に工藤夕貴と共に顔を出していた。


「ラッシュ・アワー3」はハリウッドも出資しているとはいえ基本的に舞台はパリのようだった。現在邦人俳優で海外でも活躍している者というと、当然真っ先に思い浮かぶのは渡辺謙だが、真田もいたか。本当に、真田ももうちょっと上背があったらと思わないではいられないが、しょうがあるまい。海外で英語も喋って活躍する渡辺と真田、それに英語はまるで喋らないくせにそれでも海外でも知られている役所広司の3人が、今の日本を代表する男優三羽烏ということになろうか。


私は近年、ホラーから足が遠ざかりつつあるのだが、その理由は、ただ過度に残虐になりつつあるだけの最近のホラーに、特に興味を覚えないからだ。怖いもの見たさという気持ちはまだあるが、痛いもの見たさという気持ちにはあまりなれない。一方SFの方も最近は特によく見ているわけではない。最近のSFというと、SFというよりもファンタジーになってしまって、公開されている作品に子供向けじゃないSFがあまりないからというのが最大の理由だ。その上、話の展開を聞いただけでその設定は納得できないと難癖つける気難しい観客になりつつあるので、やはりSFからも足が遠ざかっている。どうしても話を聞いた途端、そんなのあり得ないじゃないかと思ってしまうのだ。どう考えても理想的なSFファンではない。


実は「サンシャイン」もたぶんにその要素は満載で、この作品について前知識を持っていたら、見に行こうとは考えなかったかもしれない。だって、地球温暖化が口やかましく叫ばれている昨今に、「サンシャイン」は、太陽が死滅して地球が氷河期を迎えつつある近未来という設定なのだ。毎年毎年温室効果で地表の温度が上がり、北極や南極の氷が融け出し、地表が海水下に没する、なんて環境問題が近年の最大の話題である時に、いきなり氷河期を迎えつつある近未来、なんて話を聞いてもまったくピンと来ない。


そりゃあ太陽だっていつかは衰えて死滅するだろうが、それはあと何万年、何十万年か後の話だろう。少なくとも西暦2057年に太陽が死ぬ可能性はまったくないことだけは確実だ。せめて時代設定を近未来みたいな感じにせず、もっとずっと後の遠い未来の話にしてもらいたかった。最後に地上の人類がちらと映るのだが、彼女らが今風の服を着ていなかったりするだけで、少なくとも話の説得力は何割か増すのにと思ったりした。


宇宙船乗組員の使命は、太陽に接近し、中心部に核を撃ち込み再び活性化させるというものなのだが、その話が現実に可能性のある話かどうかは、かなり苦しいんじゃないだろうか。衰えたとはいえ表面で摂氏何千度はある太陽。それに接近するというだけでも大仕事であることは間違いない。それにできるだけ近づいて核弾頭を撃ち込むのだが、どれだけ耐熱仕様にして特殊シールドで保護していようとも、その熱に耐えられるものだろうか。船自体は耐えられても、中にいる人間は死にはしまいか。実際、宇宙服を着て船外作業をしている乗組員は、直接太陽の光に当たっただけで一瞬で消失してしまうのだ。しかし、いったいどういう種類の防御機構だから宇宙船本体だけは平気でいられるのか。


また、当然太陽内に撃ち込む核は中心に近ければ近いほど効果があるだろうが、太陽の中心って何百万度、弱っていてもその何分の一くらいかは保持しているだろうから、それでも最低でも何十万度はあるものと考えられる。どう考えてもそこに到達するまでに核爆弾そのものが消滅してしまうような気もするし、第一、このくらいの規模の世界で、核をぶち込むということで何かが変わるかというと、はなはだ心もとない。太陽の大きさをなめてんのかという気にさせる。などという疑惑が見ていながらちらちらと頭をかすめるのだが、では、そういう設定の信憑性のせいで作品がまったく面白くないかというと、そうでもない。こういうミッションは当然途中で何か失敗やら思わぬ妨害が入って思うように行かなくなるのだが、そういうストーリー展開としてはどう転んでいくのか先が読めず、結構熱中させる。


登場人物では、主人公は核の専門家のキャパに扮するキリアン・マーフィと言える。彼の仕事がミッションの成否の要だから、当然、他の乗組員も彼が最終的に仕事を遂行できることを第一に考えて行動する。地球上の家族が一瞬たりとも映るのもキャパだけだ。「28日後」の後、「28週後」には出ずに「サンシャイン」に出ているところを見ると、ボイルに気に入られたのだろう。


一方、ヨーと共に紅二点のローズ・バーンは、「28週後」でも主演級で出ていたことを考えると、撮影はバッティングしなかったようだが、それでもボイルはこちらの方だけに専念したようだ。まあ、撮影準備やポスト・プロダクションのことも考えると、到底二股は無理だったろう。メイスに扮するクリス・エヴァンスは「ファンタスティック・フォー」に続き、こちらでも正義の味方的役どころ。その他「ダイ・ハード4.0」にも出ていたクリフ・カーティス、「堕天使のパスポート」のベネディクト・ウォンらもいる。たった一人顔を知らなかったトロイ・ギャリティは、実はジェイン・フォンダの息子だそうで、血筋からいうと最も大物だった。


結局ボイルはここでも他の社会から途絶された一つのコミュニティのようなものを描いている。ボイルがこれまでに描いてきたものは、「シャロウ・グレイヴ」のようなコメディ系と、「ザ・ビーチ」-「28日後」-「サンシャイン」系統のシリアスな別世界ものに分けられる (まあ、これらはすべて原作/脚本にアレックス・ガーランドが絡んでいるから、感触が似てくるのは当然と言えるかもしれない。) 特に後者はホラーになったりSFになったりしても、ボイルがこれまで描いてきたのは、我々の住む社会とは別のルールが支配する、それ自体独立している一つの世界という点で共通する。どうも彼には桃源郷願望のようなものがあるようだ。一方で必ずと言っていいほど札束が絡むコメディ作品の数々は、そういう志向の現世的な裏返しの証明という気がする。


特に「サンシャイン」では最後に神まで絡んでくる。意外っちゃあ意外、なるほどといえばなるほどなのだが、この辺の受け止め方次第で作品はSFにもホラーにも見える。実は私の意見では、「サンシャイン」はなるほど最後は「エイリアン」的なSFホラーか「2001年宇宙の旅」かという感じにはなるが、それまでは次々と持ち上がる難題に乗組員が一丸となって対処するという点で、実は「アポロ13」か、多少古いが「宇宙からの脱出」を思い出した。つまり、アクションもの、スリル/サスペンスものとして見ても結構面白い。ストリートを歩いていると汗がだらだらと流れる酷暑の日に、冷房の効いた館内で (寒いくらいだった。作品の内容に合わせたのか) こういう地球氷河期ものを見るのもまたオツなものと思ったのであった。   







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