送局: ABC

プレミア放送日: 3/6/2006 (Mon) 22:00-23:00

製作: ドリームワークスTV、レネゲイド83エンタテインメント

製作総指揮: ダリル・フランク、ジャスティン・ファルヴィ、デイヴィッド・ガーフィンクル、ジェイ・レンフロー


内容: 身体に障害を持つ人々に、形成/整形を筆頭に内科/外科等、様々な現代技術最先端の手術を施す。


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アメリカTV界で数年前からちょっとしたブームになっているジャンルの一つに、人間メイクオーヴァーものというリアリティ・ショウがある。要するに痩せたい綺麗になりたいと思っている視聴者が、努力して痩せたり、あるいはてっとり早く整形手術によって理想の容姿を手に入れるまでをとらえる番組だ。


この手の番組を最も早くから放送していたのは、ケーブルTVのディスカバリー・ヘルス・チャンネルだろうが、このジャンルを確立した番組としては、ABCの「エキストリーム・メイクオーヴァー」を忘れるわけにはいかない。「エキストリーム・メイクオーヴァー」は今やこの手の番組の中心的番組として、「エキストリーム・メイクオーヴァー: ホーム・エディション」というスピンオフ番組ができるまでになった。


ネットワークでは、これを真似たFOXの破廉恥系勝ち抜きメイクオーヴァー「ザ・スワン」や、整形ではなく、本人の努力のみによって痩せさせ、その減量分の総量によって勝ち抜きを決めるというNBCの「ザ・ビギスト・ルーザー (The Biggest Loser)」なる番組まで現れた。こんな番組、全人口の4分の1くらいが肥満であると思われるアメリカ以外ではできないだろう。


ケーブルではまず、現在では下火になってしまったが、ブラヴォーの「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」、そのスピンオフの「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガール」が、まず知名度、浸透度では筆頭に挙げられよう。残念ながら「ガール」の方は、ほとんど鳴かず飛ばずでぽしゃってしまったが。E!の「ドクター 90210」は、ハリウッドの金持ち相手の整形外科医を追うリアリティ・ショウだが、この番組は今ではE!で最も人気のある番組の一つだ。そうそう、忘れちゃならないドラマのFXの「ニップ/タック」なんてのもあった。


今回、一応はこのメイクオーヴァー系の番組としてジャンル分けされるだろうと思われるABCの「ミラクル・ワーカース」は、実はそういう一般的な意味でのこれらのリアリティ・ショウとはいささか色合いが違う。なんとなれば「ミラクル・ワーカース」は、美容整形系のリアリティ・ショウというよりも、先天的/後天的になんらかの障害や疾病を持ってしまった患者に対して、現代の最先端の医療技術を処して治癒しようと試みる番組であるからだ。


そこには、確かに怪我や疾病等で外観になんらかの症状が現れてしまった者に外科手術を施すということも含まれるが、臓器に障害を抱える者や、ガン患者に対する治療、視力を失った者に施す手術等、もっと広い意味でのメイクオーヴァー・ショウだと言うことができる。あるいはこれをメイクオーヴァー・リアリティ・ショウだと言ってしまうと、怒られるかもしれない。「エキストリーム・メイクオーヴァー」をもっと拡大解釈し、さらに博愛主義的なテーマで製作しているのが、「ミラクル・ワーカース」だ。


特にこのうち外見の整形だけにこだわれば、「ミラクル・ワーカース」は、実は最近TLCで始まった「フェイスメイカーズ (Facemakers)」ともかなり印象が似ている。要するにこの2番組は、単に美しくなりたいと思う者たちではなく、病気や怪我のために顔や外見が一般人とは異なる者たちのために、援助の手を差し伸べるというのが番組の骨子だからだ。「エキストリーム・メイクオーヴァー」でも、そういう風に怪我等で傷を負った人たちが登場することもよくあったが、「ミラクル・ワーカース」、「フェイスメイカーズ」辺りになると、確かにエンタテインメント・ショウとは呼びにくい。


また、同じく最近TLCで放送の始まった「ハニー、ウイアー・キリング・ザ・キッズ! (Honey, We're Killing the Kids!)」は、肥満気味の子供たちが何十年後にはこんな顔こんな体型になってしまうというのをCGで予測描写させ、脅える家族たちに正しい食生活とエクササイズを習慣づけようという教育的効果を狙ったリアリティ・ショウである。エンタテインメントと教育番組の垣根はますます曖昧になりつつある。


さて、「ミラクル・ワーカース」の第1回では、12歳の時に投与されたペニシリンに対して強力なアレルギー反応を起こした結果失明してしまった、現34歳のトッド・ヘリテイジと、脊椎がずれた結果、車椅子状態を強いられている47歳の黒人女性ヴァネッサ・スローターの2例がとり上げられる。トッドには角膜の移植手術が、ヴァネッサには脊髄融合なる手術が施され、それなりに配慮はしてあるといっても、進行の都合上いくらかは術中の様子なども画面に映るわけだが、アップになった眼球の中に角膜を縫いつけた痕が見えたりするのは、かなり怖い。思わず目をつむったりする。


最終的にトッドは左目が回復して見えるようになり、生まれて初めて自分の息子と娘を目にすることができるようになった。娘なんてかなり可愛く、彼女を自分の目で見られることは何ものにも換えがたい体験であるに違いない。一方のヴァネッサも手術後しばらくして、杖は必要だが本当に久しぶりに自分の足で立って歩けるようになる。これまた夢のような体験であるだろう。番組はその後の回も、ほんの数年前には不可能だった最先端技術を用いて、患者たちに奇跡を起こす。要するに「ミラクル・ワーカース」を見ていて連想するのは、手塚治虫の「ブラック・ジャック」だ。


近年のABCが放送するリアリティ・ショウは、今回の「ミラクル・ワーカース」に限らず、こういう博愛主義的なテーマに則った番組が主体である。その傾向は既に「エキストリーム・メイクオーヴァー」に現れていたが、スピンオフ番組の「エキストリーム・メイクオーヴァー: ホーム・エディション」でこの傾向は決定的になった。この番組においては、明らかに逆境にいる者たちのためにTV局が家を建ててあげるというのが番組の方針になっている。


これ以外にも、妻を交換する「ワイフ・スワップ」、子供を躾け直す「スーパーナニー」のようなエンタテインメントの比重が高いリアリティ・ショウですら、同様の番組をFOXが製作した「トレイディング・スパウスズ」、「ナニー911」に較べると、ABC番組では明らかに道徳的な価値観に重きが置かれているのがわかる。このほど始まった、素人発明家発掘リアリティの「アメリカン・インヴェンター (American Inventor)」においてすら、この傾向は顕著なのだ。要するに発明のアイディアそのものではなく、その製品開発を考えるに至った参加者の背景こそが番組が注目しているものであり、かなりお涙頂戴的な要素も強い。


もちろん、親会社がディズニーであるABCがこのような家族向けリアリティにポイントを絞ることはわかるし、大多数の視聴者はそういうものも望んでいるだろう。しかし、例えばこういった番組に出て、基本的にTV局負担で手術を受けさせてもらったり家を建ててもらったりする視聴者の人選は、いったいどうやるのだろうという疑問は残る。実際、「エキストリーム・メイクオーヴァー」においては、病気の姉だか妹だかを番組で手術してもらうため、わざと彼女は醜いと痛罵していた肉親が、結局そこまでしたのに番組に選ばれなかったために、悲観して自殺するという事件があった。


「ホーム・エディション」では、昨年のハリケーン・カトリーナによって大被害を被ったニュー・オーリーンズ地域で家をなくした者のために新しく家を建て直してあげたりしていたが、そんなの、いったいニュー・オーリーンズ全域で家屋全壊の憂き目に会った者がいったい何万人いるから、そのうちのたった数軒だけを建て直すというのか。その選別の基準はいったいどこにある。その隣りの家もやはり全壊しているかもしれないのに、これでは向こう3軒両隣りの間にしこりが残るだけなのではないか。


「ミラクル・ワーカース」だって、そりゃこれまでつらい思いをしてきただろう出演者が全快したり治癒したりするのを見るのは感動的なものには違いないが、しかし番組に対しては、経済的な理由からそういった治療を受けられないその何倍、何十倍もの患者がきっと応募してきているに違いない。それがたぶん、絵になるかもっと感動的なものをという番組プロデューサーの判断により選別が行われ、ある者はやはり捨てられたまま置かれるのだ。


さらに「ミラクル・ワーカース」の場合、かなり難しい手術もある。したがって、それらの手術が100%成功する保証はどこにもない。実際、第4話に登場した56歳の女性プリシラ・ベノイトは、乳ガンのサヴァイヴァーなのだが、その時の化学療法等が原因で著しく心臓を損ねた。そのため完全に心臓を人工のものと取り替えるという大がかりな手術が施されたが、その甲斐なく死亡している。失敗した例でも放送する姿勢は偉いと思うが、現在ABCの番組HPを見てみると、彼女の例だけは削除されている。失敗した例であるから不適切みたいな気持ちはわからないではないが。


いずれにしても最近のABCのリアリティ・ショウを見て感じることは、実際に救われている者もいるだろうが、その後ろに控えているその何十倍、何百倍もの援助の手が差し伸べられなかった者の存在だ。救われない者がまったくいないよりはましなのだろうと思うが、それでもなんだかなあと思わざるを得ない。なにも偽善的とまでは言う気はないのだが、しかし、番組にピックアップされなかった、番組に出た何倍ものつらい人たちがいまだにいることを思うと、やはり諸手を上げて番組の姿勢を賞賛しようという気にはなれないのだった。まだ偽悪的な態度をとるブラック・ジャックの方に肩入れしてしまう。   






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Miracle Workers


ミラクル・ワーカース   ★★1/2

 
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