トレイディング・スパウスズ

放送局: FOX

プレミア放送日: 7/20/2004 (Tue) 20:00-21:00

製作: ロケット・サイエンス・ラボラトリーズ

製作総指揮: クリス・コーワン、ジャン-ミシェル・ミシュノー


ワイフ・スワップ

放送局: ABC

プレミア放送日: 9/26/2004 (Sun) 22:00 -23:00

製作: RDFメディア・プロダクションズ

製作総指揮: スティーヴン・ランバート、ジェニー・クロウザー、マイケル・デイヴィース


内容: 二組の家庭の妻を交換してみようというリアリティ・ショウ2種。


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物真似猿真似下品低俗悪趣味番組を作らせたらFOXの右に出る者はないのは、アメリカに住んでいる者なら誰一人知らぬ者のない事実である。とはいえ今夏、FOXが発表した2本のリアリティ・ショウの波紋は、米ネットワークの土台を揺るがせかねないほどの恥知らずとして、訴訟沙汰にまで発展した。


その2本、「トレイディング・スパウスズ」と「ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ」の何がそれほど問題になったかというと、実は、その2本共、FOXが製作を発表する前に、他のネットワークがまったく同様の番組の製作発表を既に行っていたところにある。FOXはその番組のアイディアを聞いて、これは使えると思ったのだろう、それらが放送されるよりも先に、自分らで勝手に同様の番組を製作して放送してしまったのである。


いくら生き馬の目を射抜くアメリカ放送界といえども、やっていいことと悪いことがある。いくらなんでも、これでは誰の目から見てもFOXのやっていることは剽窃、あるいは著作権侵害であって、犯罪だ。FOXは他のネットワークがヒット番組を製作したらすぐに同様の番組を製作して真似するなど、昔からあまり誉められないことを繰り返しているが、それにしても今回は一線を超えている。まだ一度も放送されていない番組のアイディアを先取りして先に放送してしまうというのは、いくらなんでも仁義にもとる行為であり、これまではまたFOXかと思いながらも無視してきた他のネットワークも、さすがに今回ばかりは腹に据えかねた。訴訟に発展するのも当然だろう。


さて、今回はその2本のリアリティ・ショウのうち、既にオリジナルと物真似版が放送済みの「トレイディング・スパウスズ」について書こうと思うが、この番組は、春にABCが製作放送を発表していた「ワイフ・スワップ」のパクリである。そしてついでに言うと、その「ワイフ・スワップ」ですら、ABCのオリジナルのアイディアではない。英ITVで放送され、人気を博した番組の権利を購入してアメリカでリメイクしたものだ。そしたらFOXが、ABCを横目に、はっきり言ってまったく同じ番組を、さも自分が思いついたアイディアであるかのように製作してとっとと放送してしまったのである。


私なんか、なんでこんなに恥知らずのことを平気でできるのか不思議でしょうがないが、それがFOXというチャンネルなのだ。本当にFOXって、ネットワークの鬼子である。FOXいわく、似たようなアイディアは絶えず色んなところから生まれているのであり、今回の事件は単なる偶然に過ぎないと、いけしゃあしゃあと弁明したが、そんなの信じる業界の人間がいるわけがない。本当にFOXの面の皮の厚さは大したものだ。


「ワイフ・スワップ」と「トレイディング・スパウスズ」は、読んで字の如く、二組の家庭の妻を交換してみようという試みをとらえた番組だ。ついでに言うとFOXの「トレイディング・スパウスズ」という番組タイトルは、妻ではなく部屋をとりかえっこして改装してみるというTLCの人気番組「トレイディング・スペイスズ (Trading Spaces)」のもじりであり、ここでもまた他人様の真似をしないではいられないというFOXの腐れ根性が顔を出している。


その「ワイフ」と「スパウスズ」であるが、実は、私は最初、「妻を交換する」という番組のアイディアを聞いて、えらく感心してしまった。さすがフリー・セックスの国だ、いきなり妻を交換して生活に新しい風を吹き込んでみたらどうなるかの実践を全国ネットで放送してしまうなんて。あわよくばカメラをベッド・ルームに持ち込んで、セックスしているところなんかも見せてくれるのかな、それとも両夫婦を交えての乱交にもつれこむのだろうかと、勝手に想像していた。だって、基本的にCBSの「ビッグ・ブラザー」なんて、視聴者の興味の焦点はまさにそこにあるわけだし、その他FOXがよくやるこの手のリレイションシップ系のリアリティ・ショウは、はっきり言って誰と誰がセックスするかで特に若い視聴者の興味を集めているのだ。「ワイフ」と「スパウスズ」も当然そういった番組だろうと私が早合点しても、別に責められまいと思う。


ところが「ワイフ」と「スパウスズ」は、実は妻を交換して新しいセックス・ライフを楽しもうという番組ではない。そうではなく、生活を仕切っていた中心としての妻という立場がまるで赤の他人と入れ替わった時、そこにどういう確執や争いが生まれるか、どういうふうに生活に影響を与えるかというのをとらえた番組なのだ。例えば「ワイフ」では、新しい妻は、まず一週間、交換先で元の妻がやっていた仕事をこなす。その後一週間、今度は自分のやり方で家庭のルールを決め、家族をそれに従わせるというのが番組の基本的な構造だ。たぶん、新しい妻は受け入れ先で、別に新しい夫とセックスしたりするわけではない。それどころか、環境の異なる世界からいきなり新しい世界に送り込まれてきた新しい妻に対し、夫や子供たちは、そして妻たちも、反発を感じるのが普通なのだ。これじゃセックスどころじゃないだろう。


つまり、「ワイフ」と「スパウスズ」は、共に妻を交換してみたらという番組のアイディアを煽っているが、これはミスリーディング、あるいは誇大広告も甚だしい。両番組共その本質は、「妻」ではなく、家庭の「母」を交換してみる番組なのだ。つまり、「ワイフ・スワップ」ではなく「マザー・スワップ」、「トレイディング・スパウスズ」ではなく「トレイディング・マザーズ」というのが、あくまでも正しい番組名であるべきである。まったく騙された。おかげでへんに楽しい想像をして損したじゃないか。


で、その両番組であるが、根幹のアイディアが同じであるため、一見して両番組の手触りがかなり似てくるのはしょうがない。結局、アメリカのある家庭の主婦をとりかえっこしてみようというアイディアは変わらないのだから、あまり変えようがないとも言える。実際、私が「スパウスズ」を何回か見た後で「ワイフ」のプレミアを見ている時、女房が、「スパウスズ」見てんの? と訊いてきたので、私は思わずにやりとしてしまった。つまり、一見しただけでは両番組に相違点はない。私だっていきなり番組の途中から見せられたら、どっちがどっちかなんてほとんどわからない。


それでも両番組で一線を画する違いというものはある。その最も大きな違いが、「スパウスズ」では前後篇合わせて2時間で一つのエピソードを構成しているのに対し、「ワイフ」は1時間で一つのエピソードを終わらせることにある。この違いによって、「ワイフ」の方がきびきびとまとまり、「スパウスズ」がなんか間延びしているような印象を与えることになった。別に「ワイフ」を見る前までは「スパウスズ」を見ていてスロウだなんて感じなかったが、「ワイフ」を見た後だと、はっきり言って「スパウスズ」はたるい。もっとテンポよく進んでくれないかと思う。


また、リアリティ・ショウは人選がすべてというのが私の意見だが、その人選においても、やはり「スパウスズ」よりも「ワイフ」の方ができがいい。例えば、「スパウスズ」のプレミア・エピソードでは、金持ちのナカムラ家と、あまり金がないビギンス家の妻 (母) がスワップされる。ナカムラ家 (たぶん日系2世だろう) の主は整形医であり、文句なしの豪邸に住んでいる。一方のビギンス家は、一応は自分の家もあるわけだし、決して貧乏というわけではないが、その内部は確かに豪勢とは言い難い。そのナカムラ家の白人のワイフ、タミーと、黒人一家であるビギンス家のワイフ、メラがその位置をとりかえっこするわけだ。


タミーは仕切り屋で、結構なんでも自分の思い通りに事を進めないと気が済まない。一方、これまで家事や雑事に追いまくられる生活を過ごしてきたメラは、何もしなくても快適な生活とやらに感嘆の声があとからあとから湧いて出る。もちろんその時は、私は番組を「マザー」を交換するものではなく「ワイフ」を交換する番組だと思っていたから、すごい、いきなり異人種間スワップか、特にナカムラ家は、これでアジア系の夫に黒人の妻となるわけで、うーん、うまく性交渉が持てるのだろうか、なんて考えていたから、翌週、その手の関係にはまったく触れないままこのエピソードが終わってしまった時は、正直言ってがっかりしてしまった。何、これ。つまんねー番組。


だいたい、誰でもガキの頃に一週間や二週間は親戚の家に預けられたり、泊まりがけで遊びに行ったりしたことはあるはずで、そうすると、どうしても違う家で最初は馴染めなかったものが段々打ち解けていく、みたいな経験はしているものと思うが、結局、「スパウスズ」と「ワイフ」がやっていることは、家庭の主婦を主人公にしてそういう実験をしてみたらどうなるか、みたいなものだ。そして私の意見は、だからそれがどうした、としか言いようがない。この一時の体験が、あんたの人生に大きな転機を与えるとは到底思えないし、周りの家族にとってもそうだ。せいぜい、自分の環境を見つめ直す、くらいの契機を与えてくれるのが関の山で、しかも、そんなことならできのいい小説や映画を見たり読んだりする方がよほど効果的だと私は思う。


とはいえ、ワイフをスワップする家族の環境が桁違いに違っていたりすると、それはそれで大きな衝撃を与える可能性もないではない。特に「ワイフ」の第2回を見ていて思ったのだが、そのエピソードでワイフを交換する家族は、一方がマンハッタンの高級コンドミニアムに住む超大金持ちのスポランスキー家で、たぶん旦那さんのスティーヴンはウォール街で働いているとお見受けした。3人の子供に4人の乳母がつき、当然ワイフのジョディは掃除洗濯等したことがない。彼女がやることは毎日ジムに通ってワークアウトをこなし、ボディ・ラインを保つこと、あとは運転手つきのリムジンで街に繰り出し、お洒落とショッピングを楽しむことくらいだ。炊事などこの7、8年間したことがないと豪語し、夜は自分と夫の二人きりでだいたいいつも外食、子供たちは乳母任せで別に食事している。


もう一方はニュージャージーの田舎でつましくその日暮らしをしているブラッドフォード家で、ワイフのリンは生活を切り詰め、毎朝5時に起き、薪を割り、学校の送迎バスを運転して家計を支えている。お化粧っ気などまるでないし、肌も荒れている。着ているものも、はっきり言ってみすぼらしい。この二人がいきなり居場所をスイッチしたのだから、これはやはりなかなか見物であるとは言える。


「ワイフ」では、場所を交換したワイフたちは、最初の一週間をその家のルールに則って過ごし、次の一週間を自分が決めたルールで過ごすという体裁になっている。そのためジョディは、たぶん生まれて初めてトイレ掃除なんかやらされる羽目になり、それに少しでも文句をつけると、夫のブラッドから、なんて自分勝手の役立たずなんだと罵られる。それまで人にここまで悪し様に言われた経験のないジョディは、一人、表に出て震える手で煙草に火をつけ、涙を流すのだった。一方、リンの方は、今度はスポランスキー家でやることが何もない。すべて賄いの者がいるからだ。そのためにかえってリンは落ち着けず、居場所をなくしていく。


後半の一週間は、そういう生活に馴染まない二人が、自分が考える方向に家族を進ませようと奮闘する。ジョディは、亭主関白で妻の仕事をちっとも手伝おうとはしないブラッドに対し、もっと妻に優しく愛情をもって接するよう要請する。リンはスティーヴンに対し、毎日もっと早く家に帰ってきて、子供たちと一緒にいる時間を作ることを要求する。ここでブラッドは、文句たらたら言いつつもジョディの仕事を手伝ってやるが、スティーヴンは、やってられるかとばかりに、すぐにリンのルールを無視して自分が思ったように行動する。いくら金を持っていようとも、この男、最低のやつにしか見えない。最初から、気に入らなければ自分の好きなように行動するつもりでいたんだろう。


それで結局、ジョディは自分が働き、料理をして家族と一緒に食事することも楽しいもんだと思うようになり、ブラッドもその仕事を手伝ってみて、もうちょっと妻に優しくせないかんなと少し反省してみたりなんかする。一方、リンは結局スティーヴンからほとんど協力を得ることができなかったため、居心地の悪い思いを味わったままで終わる。結果として、ジョディとブラッドはかなり自分の生活を見つめ直す契機ができ、これからの自分の人生に役立てることのできる機会を得たかもしれないが、リンにとっては、単に針の筵の二週間でしかなかった。スティーヴンにとっては、まったく意味のない二週間だったろう。リンのことを見下しているのがありありで、見ていて不愉快極まりない。少なくともジョディにはまだ、何かを吸収しようという姿勢があった。


「ワイフ」ではその他のエピソードでも、潔癖主婦と家の中でペットがウンチしてても平気な家庭の主婦とを交換したりしているが、確かにそれだと潔癖主婦は卒倒しかねないなと、思わずにやりとしたりする。また、他のエピソードでは、動物/ペット大好きな主婦と狩猟が趣味の一家の主婦とを交換していた。とまあそんな感じで、少なくとも「ワイフ」と「スパウスズ」においては、「ワイフ」の方が断然できがよく、面白い。最初、新し物好きの視聴者は、先に始まった「スパウスズ」も見ていたようであるが、「ワイフ」が現れた現在、「スパウスズ」の人気が落ちるのは目に見えている。まったくいい気味だ。他人のアイディアを盗んでいいとこどりだけしようなんて甘い考えを起こすからそういうことになるんだよ。ま、しかし、とはいえ「ワイフ」だって毎回見ようとは私はまったく思わないが。


また、家庭の一員の誰かを他の家庭の誰かと交換してみようという考えは、「スパウスズ」以外にも容易に類似番組の出現を予感させる。妻を交換するなら夫の交換があってもいいし、子供の交換があってもいい。それこそ犬と猫のペットを交換してみるだけでも、それなりに興味の尽きない番組ができ上がるのではないかと思わせる。実際、子供を、交換するのではなく、ここでは赤の他人にちょっと預かってもらうという番組「テイク・マイ・キッズ、プリーズ! (Take My Kids, Please!)」という番組が既に出現して、ケーブル・チャンネルのWeで放送中だ。しかし、妻と子供を交換してみるという番組が出ているのに、なんか、夫を交換してみるという番組が出てくる可能性はそれほどなさそうな気がする。結局、アメリカにおいても夫という存在は、家庭においてはどこでもそれほど大差ないか、あるいは、それほど家庭の中において影響力を持ってないのかもしれないという疑惑が頭をよぎるのであった。





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