ナニー911

放送局: FOX

プレミア放送日: 11/3/2004 (Wed) 21:00-22:00

製作: グラナダ・アメリカ

製作総指揮: ポール・ジャクソン、ブルース・トムス

出演: デブ、ステラ、イヴォンヌ、リリアン


スーパーナニー

放送局: ABC

プレミア放送日: 1/17/2005 (Mon) 22:00-23:00

製作: リコシェイ、チャンネル4

製作総指揮: ニック・パウエル、クレイグ・アームストロング

出演: ジョー・フロスト


内容: 子育てに手を焼いている家庭にプロフェッショナルのナニー (保母さん) を送り込んで、子供たちを教育し直す様をとらえるリアリティ・ショウ2種。


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FOXというネットワークがたいそう恥知らずであることは、アメリカに住んでいる人間なら誰でも知っている事実だ。だからFOXが編成するお下劣な番組に対しても、もう慣れっこになっていて、多少のことなら誰も驚かないし、またFOXか、と見て見ぬ振りをするだけなのがオチだ。しかし、昨年後半、FOXは、多少は寛大になってさえいる視聴者すら唖然とさせる本当に恥知らずな3つの大罪を犯した。


その3つの大罪とは、言わずもがなの他ネットワークのパクリ番組の連打である。まず、ABCの「ワイフ・スワップ」をパクった「トレイディング・スパウスズ」、次にNBCの「ザ・コンテンダー」をパクった「ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ」、そして今回のABCの「スーパーナニー」のパクリである「ナニー911」(ここはやはり「ナニー・ナイン・ワン・ワン」と発音してもらいたい) の、3本の、はっきり言って剽窃番組を乱れ打ちしたわけだ。


また、ここが精神が意地汚いことの証明でもあるのだが、FOXはこれらの3本の番組共、オリジナルの番組の放送が予定されていた日よりも早く、自分たちの番組を大慌てで製作して先に放送してしまった。同じ番組が2本並ぶなら、先に放送される方をついつい見てしまうのが視聴者の心理であり、そうなった場合、後から放送される番組が大いに不利であることは火を見るより明らかである。


こういうFOXのあさましい下衆根性に、普段なら多少のFOXのあざとさくらいなら黙って見逃す他のネットワークも、今回ばかりは腹に据えかねた。「トレイディング・スパウスズ」と「ネクスト・グレイト・チャンプ」に関しては、さすがに業を煮やしたオリジナル番組のプロデューサーらにより、既に訴訟沙汰になっている。一方、先にそれらの訴訟が起きてしまっていたからか、「スーパーナニー」のプロデューサーは別にとりたててFOXを訴えるということはせず、今のところ事態を静観しているようだ。


その「スーパーナニー」と「ナニー911」であるが、先に企画が発表になった「スーパーナニー」もABCのオリジナル番組というわけではない。この辺の展開は先の「トレイディング・スパウスズ」と「ワイフ・スワップ」との関係にそっくりだ。つまり、「スーパーナニー」も、「ワイフ・スワップ」同様、元々は英国で放送され、人気の出た番組のアメリカ版リメイクなのだ。「スーパーナニー」の場合、リメイクとすら言わないかもしれない。なぜなら、番組に登場する主人公、スーパーナニーのジョー・フロストは、英国版オリジナルにも登場しているスーパーナニーその人だからだ。つまり、「スーパーナニー」は「スーパーナニー」なのであって、実はオリジナルそのものであり、ただそれを今回アメリカで製作しているだけなのだ。


実際、「スーパーナニー」という番組の魅力や本質は、かなりの部分、主人公のナニー、ジョーに由来している。ジョーがおいたをする子供たちに向かって発する「You've been very very naughty: あんたはとても悪い子だわ」という決めゼリフは、NBCの「アプレンティス」で主人公のドナルド・トランプが追放する参加者に向かって発する「You're Fired: おまえはクビだ」と同様の番組キャッチ・フレイズとして既に定着しており、要するに、この番組、ジョーというキャラクターが番組にとってなくてはならない存在なのだ。


そのため今回アメリカで番組を製作するに当たってABCがしたことは、そのコーディネイトをしただけというのが本当のところだろう。オリジナルの「スーパーナニー」は英国の民放チャンネル4の製作であるため、アメリカでは見る機会がないが、たぶん番組としての構成はまったく変わっているまいと思う。実際の話、主人公のジョーはアメリカで「スーパーナニー」を撮った後、また英国に戻り、そこでまた本家「スーパーナニー」の次のシーズンを撮っているのだ。本人にとっては場所が変わっただけで、やっていることはまったく同じだろう。


そういう「スーパーナニー」に対し、アメリカでのリメイク権獲得競争で負けたFOXは、またもや恥知らずにも、まったく同様の番組をABCより先に製作して放送するという挙に出た。最近では私はFOXのやることにいちいち文句を言うのも面倒くさいと思うようになっており、ABCもたぶん似たような気持ちだったんだろう、勝手にやればとばかりにFOXを無視した。実際、番組としての魅力がナニーのジョーの実力如何にかかっている時、物真似番組がどこまで「スーパーナニー」に対抗できるかは疑問であり、ABCはその点、自信を持っていたようだ。


FOXの「ナニー911」も、基本的に番組の体裁は「スーパーナニー」と同じである。要するに、子育てに疲れきった夫婦の元に手慣れたナニーを送り込み、そこで数日間子供たちを教育し直すというものだ。「ナニー911」の場合は「スーパーナニー」と異なり3人の主要なナニーがおり、おばあちゃんのスーパーヴァイザーが、その家庭に最も適したと思われるナニーを一人派遣するというのが、FOXが新たに付加したちょっとした差異である。


ところでナニーというと、どうしても英国が本場と見られるのはどうしたわけだろう。ナニーというと、誰でも真っ先に連想するのは「メリー・ポピンズ」と相場が決まっており、なぜだかアメリカでは、一人前のナニーは皆クイーンズ・イングリッシュを喋るものと皆思い込んでいる。昔、厳格な教育で鳴らした英国で躾を担当していたナニーという職業の印象は、今でもちゃんと生きているのであり、従ってナニーは英国出身でなくてはならないのだ。いずれにしても、それだから当然英国出身の「スーパーナニー」のジョーだけでなく、「ナニー911」に登場するナニーも、皆クイーンズ・イングリッシュを喋るのはご愛嬌である。


さて、FOXは「ナニー911」を既に昨年末から放送している。そしてこの1月からABCの「スーパーナニー」の放送が始まったわけだが、ここで、実は意外なことが起こった。上にも述べたように、「スーパーナニー」は基本的にジョー一人の番組であり、彼女がいないと番組自体が成り立たない。それだからこそABCは、FOXが同様の番組を剽窃製作しても高みの見物を決め込んでいられたのだ。


そしたら、どうしてどうして、「ナニー911」も結構それなりの番組レヴェルに達しており、実はかなり面白い。それぞれのナニーもなかなか経験を積んだナニーと見えて、問題のある家庭に入り込んで、ちゃんと泣き喚くクソガキたちの躾を正し、家庭を正して帰っていく。最初に「ナニー911」を見てなるほどと思って、その後、ではオリジナルの「スーパーナニー」と、ではどこがどう違うのかと放送の始まった「スーパーナニー」を見ると、これが、実はもうほとんど一緒なのだ。もう、唖然とするくらいそっくりだ。


私の女房は以前FOXがABCの「ワイフ・スワップ」をパクって「トレイディング・スパウスズ」を製作した時、両者を混同していたのだが、今回もたぶんやるだろうなと思っていたら、案の定「ナニー911」も「スーパーナニー」も同じ番組だと思い込んでいた。しかし、実際の話、一見しただけでは両者の区別はほとんどつかないのだ。


今回は特に、2回で一つのエピソードを終える「スパウスズ」と、1時間で終える「スワップ」とも異なり、両者とも1時間で1エピソードを終える。そのため番組進行のスピードの差から来る微妙な印象の違いがない。最初から登場人物を知っていて見るのでなければ、誰だって絶対混同するに決まっている。それくらいよく似ている。特にジョーのキャラクターだけがずば抜けていいというわけでもなく、ナニーとしての特別の才能を持っているわけでもないのだ。「ワイフ・スワップ」と「トレイディング・スパウスズ」とでは、明らかに「ワイフ・スワップ」の方ができがいいと客観的に見ても思えるため、これなら「スーパーナニー」と「ナニー911」とでは雲泥の差があるに違いないと思ったはずのABCの思惑は見事に外れた。


これはABCも内心焦ったに違いない。ジョー一人におんぶにだっこだったはずの番組が、実は、ある程度のナニーとしての力さえあれば、そのくらいの番組は他のネットワークにだって作れてしまうことが証明されてしまったのだ。実際、両番組共、番組の構成はまったく同じであり、問題のある家庭にナニーが入り込み、子供たちと、あるいはその親とも諍いを起こしながら正しい躾の道筋をつけていくという根幹の部分には手を入れようがない。まあ、見た目がかなり似たようなものになることはABCだって覚悟していたとは思うが、内容のレヴェル、テイストまでがこう似通ったものになるとは予想もしていなかったに違いない。ABCが慌てふためいた様が目に見えるようだ。


とはいえ細かい点にまで目を配ると、「スーパーナニー」の方が金と時間がかかっていることがわかる。まず、「ナニー911」では、ナニーが問題のある家庭に滞在する期間は一週間であり、その間、ほとんど家の外には出ず、集中して子供たちを躾け直す。一方、「スーパーナニー」の方は期間は2週間と長く、ジョーが夫婦に指導を行った後、いったんその家庭を去って、設置してあるカメラで家庭の様子を窺い、新たに問題点を見つけるとまた戻ってきて新たに指導するということを繰り返す。


子供たちの素行をよく見るために、家族揃って近くのスーパーマーケットやモールにショッピングに出かけていってその様子を見たりするのだが、例えばそれだけでも、番組プロデューサーはそのスーパーやモールと交渉して番組撮影の協力を得ないといけないのはもちろんであり、当然時間と金と労力がよけいにかかる。家の外観を撮る時も、固定撮影の「ナニー911」に対し、「スーパーナニー」ではわざわざカメラをクレーンに載せて移動撮影をしている。細かい点ではあるが、こういう些細な点で、「ナニー911」は明らかに安い。


一方、最も目につく問題のある子供たちを見つけてくるという点において、「ナニー911」の方は力を発揮する。例えばあるエピソードでは、一つの家庭に養子でもらった双子の女の子、さらにその後に生まれた双子の女の子が二組、計3組6人の双子の女の子が毎日泣きわめいているという家庭が登場する。当然のように家の中は一時たりとも静かにならず、親が心の安まる暇なぞない。こういう問題のある家庭を次々と見つけてくる「ナニー911」の方が、確かにどちらかと言うとややドラマティックで、その分視聴者を獲得しやすいかもしれない。


おかげで既に英国でも知られている番組である「スーパーナニー」の方が、事前の知名度という点ではより高かったにもかかわらず、現時点での視聴率は、両番組はほとんど同じレヴェルで推移している。両者間で絶対的な差別化ができないからしょうがあるまい。実は、両番組における最も大きな違いは、番組が放送されている時間帯にあると言える。「ナニー911」は夜8時台、「スーパーナニー」は夜10時台の番組で、そのため「ナニー911」の視聴者層は、「スーパーナニー」の視聴者層に較べて若干若い。ABCとしては、視聴者を返せと怒鳴りたい心境に違いない。


とはいえ、今さらFOXを訴えようにも時宜を逸してしまった感は否めない。後悔先に立たずだ。しかし視聴者も、ここはオリジナルに敬意を表して「ナニー911」は諦め、「スーパーナニー」の方を見るのが視聴者の筋というもんだと思うんだが、アメリカの視聴者はそんなこと気にしない。というか、単純に一般の視聴者はそういった業界内部の話なんか気に留めてもいないだろう。そして自分が見たい時に放送している方を見る。こうやってアメリカ放送界の仁義なき戦いは続いていくのだった。





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ナニー911   ★★1/2

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