The Conjuring


死霊館  (2013年8月)

最初「死霊館」の予告編を見た時は、これ、どうしよう、本当に怖そうだ、見ようかどうしようか、迷った。エンタテインメントとして怖いのはいいが、精神の奥深くまで残りそうな本当に怖いのは、ちょっと近年はパスだ。スプラッタならまだしも、ただ痛そうなだけのホラーももちろん即刻却下で、だからジェイムズ・ ワンの「ソウ (Saw)」シリーズは当然見ていない。ジェット・ローラー・コースターにも乗りたいとは思わなくなったし、ま、これが歳をとるということか。 

  

一方、本当に怖い作品は、ホラー映画ではなく、人の心理を扱ったドキュメンタリーにある。正直言っていくらワンが怖い作品を撮ろうとも、「ソウ」はショッカー以上の作品足り得ず、「ザ・ブリッジ (The Bridge)」「ザ・ヒューマン・ビヘイヴィア・エクスペリメンツ (The Human Behavior Experiments)」 のような、本気で神経を蝕むような、背筋の底が冷える怖さは提供できない。それらは自分という存在の根底を揺るがすような、根源的な怖さがある。それに較べると、ホラー映画の怖さというのは、物語の上での怖さでしかない。とは思いながらも、一昨年のワンの「インシディアス (Insidious)」はそこそこ楽しませてくれたし、怖い話というのは、怖すぎるのは嫌だなと言いながらも魅かれてしまうのは事実であり、及び腰で劇場に足を向ける。 

  

予告編を見た時から感心していたのだが、「死霊館」は、主人公格の二人の女性、キャロリンとロレインを演じるリリ・テイラーとヴェラ・ファーミガが抜群にはまっている。ファーミガは今春のA&Eの「ベイツ・モーテル (Bates Motel)」で、こういう強迫症的な役が合うことを証明済みだし、テイラーも昔から思い込み型の役が多い。 

 

作品としてはこの手の作品の常として、次に何が起こるかとどきどきはらはらさせる前半部の方がホラーとしては怖がらせてくれるが、焦点が霊媒のウォレン夫妻に移る後半も、ファーミガが非常にはまっているために、飽きさせない。本当にホラー向きの顔をしている。 

 

「インシディアス」にも出ていたパトリック・ウィルソンも、ウォレン夫妻の片割れとしてファーミガの夫を演じている。因みに本編上映前の予告編では、来月公開予定の「インシディアス」の続編「インシディアス: チャプター2 (Insidious: Chapter 2)」を見せていたが、当然ウィルソンはそれにもまた出ている。それも演出はワンで、ホラーに忙しい人たちだ。しかし俳優はともかく、ホラー映画の監督作が2か月連続で公開されるなんて、ほとんど聞いたことがない。 

 

「インシディアス」では心霊現象を証明するため、ゴースト・チェイサーがおびただしい機器を家の至るところに設置していたが、実は同様のことを、機材は古臭い にせよ「死霊館」でもやっている。でも、なぜだかこの手の人間が出てくると、科学というより絵がギャグめいてくる。得てしてコメディ・リリーフ・タイプがこういう役を演じている場合が多く、要するにゴースト・チェイサーが実際に世間からどう思われているかを現している。「ゴーストバスターズ (Ghostbusters)」 の昔から、幽霊を追っかける者はまともな者扱いされてないのだった。いずれにしても、「インシディアス: チャプター2」でも、またゴースト・チェイサーが出てくることは賭けてもいい。 

 

5人の娘たちの中では、特に印象に残ったのが次女ナンシーを演じているヘイリー・マクファーランドと、三女クリスティンを演じたジョーイ・キング。マクファーランドはFOXの「ライ・トゥ・ミー (Lie to Me)」で主人公を演じたティム・ロスの反抗的な娘役だった。キングは先頃も「ホワイトハウス・ダウン (White House Down)」で、主演のテイタム・チャニングを食う演技をしているのを見たばかり。 

 

「死霊館」は現実に起こったことを題材にしており、ロード・アイランドにはその家がまだ残っているそうだ。ただし映画を見ればわかるが、「館」というほど大仰 なものではなく、手入れの行き届いてない単なる一軒家に過ぎない。経済的に裕福とは言えない一家が越してくる家なのだ。 

  

実はこの家には現在も住んでいる者がいる。ペロン家とはまったく縁もゆかりもない赤の他人で、その女性はその家に既に4半世紀以上住んでおり、曰くのある家だということも知っているが、これまでに何もヘンなことは起きてないと証言する典型的な現実主義者だ。 

  

ところが、これまでゴーストだとかそういうことには一度も悩まされたことのないというこの女性が、映画が公開されてからというもの、有名になったため昼夜を 問わず見物に訪れる物好きな者が後を絶たず、生活に支障が出て困るという談話がこないだニューズになっていた。夜中に怪しい奴らが勝手に人んちの庭を懐中電灯片手にうろつき回っているそうだ。確かにそちらの方が怖いかもしれない。心霊より生身の人間の方が厄介だ。 
















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1971年、ロード・アイランドの沼沿いの寂れた一軒家に、ロジャー (ロン・リヴィングストン) とキャロリン (リリ・テイラー)、それに5人の娘たち、アンドレア、ナンシー、クリスティン、シンディ、エイプリルのペロン一家が越してくる。補修の必要な家とはいえ、誰に気兼ねすることもない我が 家だ。娘たちはさっそく家の中でかくれんぼを始め、扉を塞がれた地下室を発見する。翌日から奇妙なことが連続して起こり始める。かくれんぼをすると誰もいないはずの場所から手を叩く音が聞こえたり、シンディが夜中に夢遊病でアンドレアの部屋で衣装ダンスに何度も頭を打ちつけたり、アンドレアが何者かに襲われ、キャロリンが地下室に閉じ込められる。ロジャーとキャロリンは著名な霊媒のロレイン (ヴェラ・ファーミガ) とエド (パトリック・ウィルソン) のウォレン夫妻に調査を依頼する‥‥


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