Testament of Youth


戦場からのラブレター (テスタメント・オブ・ユース)  (2015年6月)

先週見た文芸もの「ファー・フロム・ザ・マッディング・クラウド (Far from the Madding Crowd)」が結構面白かったから、というのも理由の一つ、「ジュラシック・ワールド (Jurassic World)」がまだ混んでいるからというのもまたもう一つ、そして最大の理由は「エクスマキナ (Ex Machina)」のアリシア・ヴィカンダーが主演しているということで、今週もまた英国が舞台の歴史ドラマ、「テスタメント・オブ・ユース」を見に行く。


原作はヴェラ・ブリテン著の自伝で、彼女が若かりし頃に、第一次大戦のために大きく人生を狂わされた顛末を描く。私は彼女の名も原作も知らなかったのだが、英国では反戦の教科書的位置づけであるらしい。


考えたら英国は、第一次大戦にも第二次大戦にも参戦している。一方で島国という地形上もあってか、爆撃されたことはあっても英本土が地上戦の舞台となったことはない。しかしかなりの戦死者は出している。


ということで、つい先頃見た「ザ・ウォーター・ディヴァイナー (The Water Diviner)」とも状況は似ている。両方とも、自分たちとは直接関係のない国同士の戦争に出兵し、痛手を負う。第一次大戦は第二次大戦に較べ、戦争ものとしては舞台となる機会は少ないが、珍しくも連続して第一次大戦が背景の作品が、間を置かずに公開されている。


「テスタメント・オブ・ユース」では、ヴェラの周りの男性は、父を除いて婚約者、弟、その友人が揃って志願して戦場に行ってしまう。愛国心に燃える、血気に逸る若者たちなのだ。思い立ったら居ても立っても居られない。ヴェラだって彼らに勝るとも劣らぬ若さと情熱に溢れた若い女性なのだが、しかしやはり女性が戦場で戦うという認識は、彼女ですら持ってなかった。それでヴェラは、自分にできることはなにかと考え、従軍看護婦としてヴォランティア活動に従事する。しかし戦争の現実は、理想や綺麗事だけで済まされるものではなかった‥‥


総じて第一次大戦は、現実はどうあれ理想に燃える若者たちが、ほとんどナルティシズムとロマンティシズムに突き動かされて戦争に自ら参加した場合が多いらしい。ヴェラの周りの若い男たちは皆そうだし、「ウォーター・ディヴァイナー」におけるラッセル・クロウの息子たちもそうだったに違いない。自分が国のために戦うというヒロイズムに酔って、本当の戦争の悲惨さ、残酷さに目を向けたり考えたりしない。若さの特権でもあり、未熟さでもある。


しかし既にこの時代の戦争は、戦士が名誉をかけて一対一で相手と対峙する決闘から、使い捨ての駒として長期の疲弊戦で泥にまみれ、名誉も尊厳もなく無駄死にする塹壕戦へと変化していた。彼らの多くは、自分たちのしていることが意味のないことだと死の真際に悟ることになる。


そして銃後には家族や恋人たちが残される。茨木のり子の「私が一番きれいだったとき」を思い出す。英国は戦争に負けたわけでもなく、戦場になったわけでもないが、自分が心を開いている男性が近くから皆いなくなってしまったら、やはりとてもふしあわせだろう。


ヴェラに扮するヴィカンダーは綺麗な英語を喋るとはいえスウェーデン人であり、その彼女がすこぶる英国人的な役を演じる。極めてエモーショナルな役柄で、人種国籍不詳で理想の美女を体現した「エクスマキナ」とはがらりと印象が異なる。「エクスマキナ」の人工的で完璧な美をとるか、「テスタメント‥‥」での熱情をとるか、悩むところだ。また、その容姿にばかり目が向かいがちだが、彼女はそのちょっとかすれたハスキーな声もとてもいい。しかもこないだNBCの「トゥナイト(Tonight)」にゲスト出演している時に思ったが、役者としての演技ではなく、普通に何気に喋っている時の声がとてもセクシーだ。


ヴェラの婚約者ローランドに扮するのが、キット・ハリントン。現在アメリカではHBOが放送する「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones)」のジョン・スノウ役で大ブレイク中。ヴィクターに扮するのが、NBCの「魔術師マーリン (Merlin)」でタイトル・ロールを演じたコリン・モーガン。あっと思わせられたのが、ついこないだ「キングスマン (Kingsman)」でいかにも今風の主人公の若者を演じたタロン・エガートンがヴェラの弟エドワードを演じていることで、いきなり売れっ子だ。こういう貴族階級的な役もできるのか。


ヴェラの父に扮するのはドミニク・ウエスト。ショウタイムの「ジ・アフェア (The Affair)」では思い切りよろめいていたが、ここでは謹厳実直な一家の長。母を演じるエミリー・ワトソンは、若い時の彼女こそヴェラの役を演じていても不思議ではない。演出はジェイムズ・ケント。


この映画はわりと遠目のクルマで30分ばかりかかる劇場で見たのだが、ニュージャージーで内陸側に30分も走ると、結構自然が残っている。その途中でポリス・カーと乗用車が路肩に停まってなにやら事情聴取みたいなことをしている。他にクルマも見えないから自損事故かスピード違反かなと思ったら、道の反対側で、たぶんそのクルマに撥ねられたと思われる仔ジカがヤギみたいな声で鳴いていた。なんとか頭だけはもたげてるが、身体は動かないらしい。たぶん助からないだろう。ここにもこれからという時に生を途中で断ち切られた生き物がいる。










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1914年英国。地方の上流階級に属するヴェラ・ブリテン (アリシア・ヴィカンダー) は、活発な弟エドワード (タロン・エガートン)、少し旧弊なものの考え方をするが家族思いの父 (ドミニク・ウエスト) と母 (エミリー・ワトソン) に囲まれてまずまず幸せに暮らしていた。しかしヴェラは一生を田舎で送りたいとは思わず、たとえ結婚しなくてもオックスフォードで勉強したいと思っていた。ある時エドワードの友人のヴィクター (コリン・モーガン) とローランド (キット・ハリントン) がブリテン宅を訪れて滞在し、自分同様文芸にも興味を寄せるローランドに、ヴェラは淡い恋心を抱く。渋る親を説き伏せ、オックスフォードの試験にも合格したヴェラだったが、折しもヨーロッパは第一次大戦の波が押し寄せ、英国もその例外ではなかった。愛国心に燃えるエドワードらは揃って志願し、前線に送られる。彼らの安否を気づかって居ても立っても居られないヴェラも、ヴォランティアの看護婦として一時学業から離れるが‥‥


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