The Water Diviner


ディバイナー 戦禍に光を求めて (ザ・ウォーター・ディヴァイナー)  (2015年5月)

ヨーロッパが戦場となった第一次世界大戦に南半球のオーストラリアが参戦していたというのは、受験勉強で世界史をとってなかったら知らなかったろうと思う。当事国者でもない限り、多くの者が知らないのではないだろうか。


ガリポリという地名を受験時以外にまた耳にしたのは、映画「誓い (Gallipoli)」の公開によってだ。「誓い」はガリポリというそのもののオリジナル・タイトルを持っていることからもわかるように、ガリポリの戦いをテーマにしている。とはいえ日本人にはまったく馴染みのない遠い他国の過去の戦争の話が日本でも公開されたのは、「ピクニック・アット・ハンギング・ロック (Picnic at Hanging Rock)」という印象的なタイトルを持つファンタジックな話を監督していきなり世界の一線に躍り出たピーター・ウィアーが演出し、そして「マッド・マックス (Mad Max)」によって、これまた世界のスーパースターの仲間入りをしたばかりのメル・ギブソンが主演していたからだろう。これによってガリポリというこれまた印象的な地名を覚えた日本人も多いに違いない。


私も視覚的には初めてこれでガリポリを知った。戦地というのはどの戦争であろうと悲惨なものだろうが、ガリポリも多くの死傷者を出した。オーストラリア-ニュージーランド連合軍で1万人の死者というのは、第二次大戦時の日本と較べると非常に大きな数字とは言えないが、歴史的に世界的な戦争とはほぼ無縁のオーストラリアにとっては、いまだに尾を引く戦争の痛手だった。だからこそまたガリポリをテーマに映画が作られる。


とまあ「ウォーター・ディヴァイナー」は、いかにもオーストラリア産の映画だ。たぶん「誓い」はウィアー演出、ギブソン主演で撮られていなかったら海外公開はなかっただろうが、同様に「ウォーター・ディヴァイナー」もラッセル・クロウ初監督・主演作でなければ、たぶんアメリカでは公開されなかったろうと思う。私の住むニュージャージーでもなんとか公開されたとはいえ単館扱いで、クルマに乗ってかなり遠くまで行かなければ見れなかった。


ここでクロウが演じるのは、ガリポリで3人の息子を失った父親ジョシュアだ。戦後何年か経ってもいまだガリポリの戦後処理は遅々として進まず、埋もれたり野晒しになったままの遺骨が至るところにあった。遺体の確認ができないため、自分の子供が死んだと確信が持てないまま日々を過ごす遺族も多かった。


ジョシュアと妻のエリザもそういう親の一組だった。遺体がないため子供たちは死んだものと諦める気になれず、さりとてその望みがほとんどないことも一方では知っている。そのやり場のない気持ちの板挟みになって、ついにエリザは心の均衡を崩して自殺する。


オーストラリアで、周りに何もないような荒野の中の一軒家で、池に入って自殺するというので思い出すのは、「ウォルト・ディズニーの約束 (Saving Mr. Banks)」のルース・ウィルソンだ。オーストラリアってのはどこにでもこういう溜め池があるのかと思ってしまう。まあ確かにちょっと内陸部に入ると土地はありそうだ。「ウォーター・ディヴァイナー」で投水自殺するのは、USAの「4400 (The 4400)」に主演していたジャクリーン・マッケンジーだ。


ジョシュアは心の整理をするためにも、息子たちの最期の様子を知るためにガリポリを訪れる。むろん一般人が足を踏み入れていい場所ではなかったが、波打ち際から動かないジョシュアに根負けした、現地処理を任されていた英国軍大尉のヒューズと元オスマン帝国軍大尉のベイは、ジョシュアを現場に案内する。


ジョシュアは、二本の針金のようなダウジング・ロッドを使って地中の水脈を探り当てるという特殊な技能を持つ、ウォーター・ディヴァイナーでもある。因みに英語ではこれをダウジングといい、ウォーター・ディヴァイナーというのは初耳だったが、調べてみるとちゃんと辞書にあった。英語というよりも豪語なんだろう。あるいは英国でも使われているかもしれない。ついでにディヴァイナーの邦訳は陰陽師ともなっていた。そうでしたか。


映画の冒頭でジョシュアはその技を使って井戸を掘り当てる。映画のタイトルにもなっているくらいだからその特殊技能が当然話に絡んでくるだろうと思っていたが、実はそんなことはない。ただし神がかるという意味でもあるディヴァイナーは、技というよりも超自然的なところに近いようで、ジョシュアはダウジング・ロッドを使わずとも息子のことを幻視する。


なるほどディヴァイナーは、オーストラリアではそういう風な位置としてとらえられているのだろう。ダウジング・ロッドに必ずしも頼る必要がないのだ。だから「ウォーター・ディヴァイナー」なのに冒頭以外では浜辺の一瞬を除いて話にほとんどダウジングが絡んでこない。こっちとしてはこれで息子の遺品を土の下から探り当て話が展開するものだとばかり思っていたが、彼がディヴァイナーということを一瞬見せさえすれば、オーストラリアでは人はわかってくれる。


こういう超自然的なもの、というか占いのできる者は、なにもジョシュアだけに限らない。ジョシュアがイスタンブールで投宿するホテルの女性オーナー、アイシ (オルガ・クリレンコ) は、どうやらジョシュアの行動をコーヒー占いで察知していたようだ。たまにはこういう能力で自分の将来の幸せを予感してもばちは当たるまい。











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ジョシュア・コナー (ラッセル・クロウ) の3人の息子は第一次大戦時にオーストラリアから参兵し、酸鼻を極めたガリポリの戦いで3人共消息が途絶えたままだった。終戦になっても遺体がないため墓を作ってやることもできず、息子たちの死をいまだに受け入れることのできない妻のエリザ (ジャクリーン・マッケンジー) は、ある日自ら池に身を投げる。守るものもなくなったコナーはせめて息子たちの骨を拾って供養しようとイスタンブールにやってくる。しかし当地でも戦後処理はやっと始まったばかりで、すべては雑然としていた。コナーは未亡人のアイシ (オルガ・クリレンコ) が経営する家族経営のホテルに投宿し、許可を得ないまま漁師に金を渡してガリポリに到着する。現地で指揮をとる英国軍のヒューズ大尉 (ジェイ・コートニー) は、コナーに根負けし、元オスマン帝国軍で現地に詳しいハサン・ベイ大尉 (イルマズ・エルドガン) を引き合わせる。ベイを通してコナーは、長男のアート (ライアン・コール) がまだ生きている可能性があることを知る‥‥


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