Ex Machina


エクスマキナ  (2015年5月)

たまたま日本人と思える女優が主演か重要な役で出ている作品のスティルを連続で目にした。菊地凛子がコーエン兄弟の「ファーゴ (Fargo)」に出てくる金が本当にあるものとしてその行方を追うという「クミコ、ザ・トレジャー・ハンター (Kumiko, the Treasure Hunter)」、藤谷文子が出演するミステリ・ドラマ「マン・フロム・レノ (Man from Reno)」、そしてこの「エクスマキナ」だ。


「エクスマキナ」にメイドのキョウコ役で出ているソノヤ・ミズノは、実はまったく知らなかったのだが、いかにも美形の日本人女性という感じだったので調べてみたところ、日英ハーフだそうだ。当然英語はぺらぺらだし (「エクスマキナ」では英語は喋れないという設定になっているが)、そのことはたぶん日本育ちでもスティーヴン・セガールの娘でもある藤谷にも言えるだろう。菊地も英語はわりかし行けるし、やっぱハリウッドに進出しようと思ったらまず英語をなんとかしなくちゃな、逆に日本人で英語しゃべれたらすごくチャンスだろうにと思うのだった。だから男優でハリウッドで活躍できているのは真田広之と渡辺謙ばっかしになっちゃうんじゃないのか。


一方、とはいっても「クミコ」も「マン・フロム・レノ」も、メイド・イン・アメリカの映画とはいってもインディ系だし、マンハッタンを中心とするニューヨークの一部のみで公開されており、私の住むニュージャージーにはいっかなやってくる気配がない。「クミコ」は来るかなと思ったんだが、どうやらそれも夢で終わりそうだ。「ファーゴ」の宝を探す日本人女性バウンティ・ハンター、めちゃそそられるんだが。


それでまあ、今週はジャパニーズ・フィーメイル・ウィークと勝手に命名して「エクスマキナ」を見に行く。むろんミズノが出ているから見るというわけではなく、単純に作品が面白そうだと思ったからなのだが。


ところでこの「エクスマキナ」というタイトルに聞き覚えがあったので、これ、メイド・イン・ジャパンのアニメーションに確かそういうのがあったよな、それをハリウッドが実写映像化したのかと最初思っていた。そしたらそうではなく、「ザ・ビーチ (The Beach)」等、元々SF色の強い作品を書く作家アレックス・ガーランドが脚本を書き演出するオリジナル作品である由。


要するに人間と同じように思考するようになったロボットを描く。ほとんどSFでは定番と言える設定で、「アイ、ロボット (I, Robot)」等、同系統の作品がいくつか思い浮かぶ。どちらかというと大型SFアクションになりやすい設定という印象があるが、今回は人里離れた山奥の要塞のような一軒家を舞台に、閉ざされた状況でのほとんど室内劇のような世界が展開する。


登場人物は基本的に厭世的な天才プログラマーのネイサン、彼の企業で働くケイレブ、ネイサンが作り上げた女性型ロボットのエヴァ、ネイサンの世話をしているキョウコの4人 (4体?) で、冒頭の企業内部で働く人々、ケイレブをネイサンの場所に運んできたヘリコプタのパイロット、エンディングを除けば、他にほとんど人は登場しない。4人以外にセリフがあるのはパイロットだけだ。


ネイサンは、エヴァを完璧な女性として作り上げようとしていた。ケイレブは、最初エヴァの完成度を確認するだけの役割りを与えられたに過ぎなかった。しかしある時、停電でネイサンの監視が行き届かなくなった瞬間に、エヴァはケイレブに秘密を打ち明ける。ネイサンは信用できないというのだ。さらにエヴァの所作の節々には、ケイレブを誘惑しようとしているような意図が感じられた。元々完璧な美を体現しようと製作されたエヴァは、人間の女性ですら持ち得ない魅力とエロティシズムを持っていた。そしてエヴァは自分の魅力を理解していた。


一方ネイサンは、そういうエヴァとケイレブとのやりとりを距離を置いて見ている。さらにほとんどしゃべることのないキョウコの存在が、逆に関心をそそる。いったい、ネイサンが本当に企んでいることは何なのか? エヴァは、キョウコは何を考えているのか? ケイレブはどう反応すべきなのか? 4者がそれぞれの思惑、企みを胸に秘めながら、物語は破局的なクライマックスに向かって加速する‥‥


二人しか登場しない女性が二人共かなりの美人であるため、男性の目から見ると単純にそれだけでも見飽きない。その絶世の美女がロボットなのだ。腕を外されたり足をもがれたり皮膚を剥いだりパワーをオフにされたりする。ほとんど倒錯的とも言える視覚体験をもたらせてくれる。実はエヴァ役のアリシア・ヴィカンダーもキョウコ役のミズノもバレエ経験者だそうで、二人ともかなりいい線まで行ったらしい。特にミズノのカラオケ・ダンスは必見で、次は是非ヴィカンダーと一緒に踊ってもらいたい。


その二人が脱ぐと、何がいいかって、大き過ぎないおっぱいがとてもよい。最近のアメリカでは胸はでかければでかいほどいいとカン違いしているような者ばかりで、しかも何を血迷ったか、当の女性ですらそう思っている節が窺える。そうじゃなくて、美というものはでかさではなくてプロポーションなのだよ、プロポーションの意味、わかってる? でかければいいんじゃないよ、と諭したくなるような者ばかりで、そのような時に、美の具現化であるエヴァやキョウコの胸が小粒で整っているのを見るのは小気味いい。ガーランドにすこぶる同意する。


一方、男性のケイレブを演じるドーナル・グリーソンは、多くの者が彼を見てエドワード・スノウデンを連想するんじゃないかと思う。頭はいいが独善的、みたいな感じがよく出て彼もいい。そしてネイサンに扮するオスカー・アイザックは、この1年かなり玉虫色、というか幅広い役柄を演じている。コーエン兄弟の「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 (Inside Llewyn Davis)」「ギリシャに消えた嘘 (The Two Faces of January)」「ア・モスト・ヴァイオレント・イヤー (A Most Violent Year)」、そして今回の「エクスマキナ」と、かなり芸幅広い。このくらいできないとエヴァを開発なんてできないのだろう。











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IT系企業で働くケイレブ (ドーナル・グリーソン) は、社内コンペティションに勝って、創業者の天才ネイサン (オスカー・アイザック) と一週間を共にする権利を獲得する。ネイサンは人里離れた山奥に最新設備を駆使した要塞のような家を建て、若くして隠遁していた。ケイレブはネイサンから、開発している人型ロボット、エヴァ (アリシア・ヴィカンダー) のアセスメントを頼まれる。若い女性の姿を模した自律型ロボットのエヴァは、自分で思考し、ケイレブの問いに受け答えした。ある時、停電でネイサンの監視がなくなった時、エヴァはケイレブにこの場所からの脱出を口にする。ネイサンは信用できないというのだ‥‥


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