Star Trek Into Darkness


スター・トレック  イントゥ・ダークネス  (2013年5月)

本当はアクション・ホラーっぽい「アフターショック (Aftershock)」を見ようとしていたのだ。南米チリで大型地震と囚人脱獄という事件に巻き込まれた者たちを描くサヴァイヴァルものらしい。近年、ホラーの新しい人材は中南米から現れるという構造が定着しつつあり、チリ出身の演出家のハリウッド・デビューということで気になった。 

  

ちゃんと出がけにヤフーで上映時間をチェックし、タイミングもあって今回は初めての映画館を選択する。確か昨年できた新しめのマルチプレックスで、機会があれ ば行ってみようと思っていた。新しい劇場の開拓は、私の場合、初めて行く土地の観光も兼ねている。快適な劇場体験ができると、その町の好感度もぐっと増す のは言うまでもない。 

  

それで早めに家を出て余裕で目的地に着いたのはよかったが、チケットを買おうとして電光掲示板を見ても、「Aftershock」の文字が見当たらない。なんで、と思って売り場の黒人のおねーちゃんに「Aftershock」やってないの? と訊くと、彼女はPOSをあれこれチェックして、残念だけどやってないと言う。なんで、ついさっきヤフーでここでやっているのを確認してきたんだけどと言うと、やってないものは やってない、どうすることもできないと言う。これ以上押し問答してもどうしようもなく、他に上映しているのはすべて見ようと思っているのは既に見たものばかりで、ほとんど狐につままれたような気分で劇場を後にせざるを得なかった。 

  

こういう時にデータ無制限のスマートフォンとかを持っていると、近くの他の劇場を探せて便利なんだが、私が持っているのはスマフォはスマフォでもプリペイド のタイプで、データ通信でインターネットを使ったりしたらいったいいくらになるのか想像もつかないので、怖くて使えない。ここは諦めて家に帰って仕切り直す。これだからニューワークってなんか印象よくないんだよな、さすが犯罪勃発率アメリカでも1、2を争うってだけあるよな、と、夜なら来る気になれないようなところで思わずふてくされる。 

  

とはいえ、そういうところでも昼なら他の町と変わらず、ちょっと中心部からずれると、アメリカではスラムから近い部分に多いスペイン語圏はスペイン語圏で も、中南米のスペイン語ではなく、ヨーロッパのポルトガル系統の、どちらかというと白人が多い地域があったりする。スーパーマーケットに入ると、こちらではまずお目にかかれないようなヨーロッパ・ブランドの缶詰めとかがあったりして、物珍しくてついつい長居する。今日は映画ではなく観光の日ということにしよう。 

  

家に帰って再度ヤフーだけでなくファンダンゴ等の映画上映時間専門サイトをチェックしても、やはり私が持っていた情報に誤りはなく、それどころか映画館自体のサイトでも「アフターショック」は上映されることになっている。それでも念には念を入れて劇場に電話してみた。その録音音声案内で初めて、「アフターショック」をやっているという情報がなかった。そしてその数日後にはネット情報も含めて「アフターショック」関係情報がすべて消えていた。 

  

要するに、なんらかの理由で急遽公開が中止に追い込まれたか、公開劇場数を縮小したものと見える。しかし特に事前に注目されていた作品でもないため、そうなっても特に誰も話題にしないということだろう。ここにちょっと気になっている人もいるんですけど。 

  

とにかくそういうわけで「アフターショック」を見ることはかなわず、出直して今度は「スター・ト レック」の新作、「イントゥ・ダークネス」を見ることにする。これならアメリカ中の映画館という映画館ほぼすべてで上映している。とりこぼしはあるまい。 しかし、初めての映画館、という気持ちに傾いていたため、なんかいつも通りにいつものマルチプレックスで、という気分になれない。それで行ったことのないわりと遠目の映画館をわざわざ探し出して、ドライヴ気分で出かける。 

  

グーグル+による評価だと、地域に密着している映画館ということで評判もなかなか悪くなかったのだが、そしたら本当に地域密着型という感じで、従業員がフレンドリーなのはいいが、スペースが思った以上に小さい。定員100人あるかないかというくらいの広さしかなく、むろんスクリーンもたいして大きくない。椅子からスクリーンまでも近過ぎる。その時点で既に「スター・トレック」を見る劇場として選んだのは失敗だったかなという思いが頭をかすめないこともなかった。マチネーにしても5ドルというチケットの安さに最初はお得感高しと思っていたのだが、その判断は早過ぎたようだ。 

 

しかも実際に上映が始まると、なんとスクリーンに白いスクラッチが上下に走り、気になることおびただしい。元々フィルムが傷ついていたのかそれとも映写機のせいか、いずれにしてもなんとかしてくれ、これじゃ5ドルでだって高い。 

 

という悪環境下での鑑賞だったにもかかわらず、実は「イントゥ・ダークネス」はなかなかできがよく、感心させる。演出のJ. J. エイブラムスの特色は、少なくともABCの「ロスト (Lost)」や「エイリアス (Alias)」等のTVシリーズ、および「ミッション・インポッシブル (Mission Impossible)」に関しては、筋を到底追えない捻った展開にあったりするが、前作の「スター・トレック (Star Trek)」や一昨年の「スーパー8 (Super 8)」等は非常にストレートな作りで、単純に誰でも楽しめるような娯楽作になっていた。一発勝負の映画だと、プロットよりアクション、エモーションを重視しているということか。 

 

また、そのことを「スター・トレック」においてより強く感じるのは、オリジナルのTVシリーズを濃縮して製作した過去の「スター・トレック」の映画シリーズが、色んなストーリーを詰め込み過ぎて、ほとんどわけがわからない境地に達していたこととも無関係ではない。 

 

TVの「スター・トレック」は、エンタテインメントでありながら深遠な哲学が盛り込まれているとして、トレッキアンというコアのファンを世界各地に生み出したクラシックSF番組だ。ただしその映画版は何十年分もの話を数時間でまとめようと話を詰め込み過ぎ‥‥というよりも端折り過ぎ、オリジナルのTVシリーズを見ていない者にとっては、なにがなんだかわけがわからない代物になっていた。 

 

特にそのことを強く感じるのが2作目の「カーンの逆襲 (The Wrath of Khan)」で、そもそものカーンの存在を知らないのに、その話の由来を端折っていきなり逆襲に転じるカーンの存在についていけず、とにかく消化不良だったという記憶しかない。お前、いったい何者だと思っているのに、その点についての説明がほとんどないのだ。おかげでアクション・シーンの描写にも気が入らない。アクションは敵味方やストーリーの裏付けがあってこそ迫力や意味が増すのであって、ただそれだけのアクションは、運動の美学がなくもないということはあっても、結局それだけでは後々まで記憶に残らない。 

 

たぶんそういうむず痒さをエイブラムスも感じていたことはほぼ間違いあるまい。今回はきっちりとカーンという人物像、由来、意図も描き込んで、その上話自体も (ほぼ) 単純明確化して話にめりはりをつける。これならTVシリーズを知らなくても充分楽しめる。さらにその話自体、うまくできているのだ。 

 

カーンを演じるのがベネディクト・カンバーバッチというのも、結構私のツボだった。カンバーバッチは、ハンサムというよりも、癖のある、という形容がぴったりの顔立ちで、そのいかにも英国人という顔でシャーロック・ホームズを演じた英BBC版の「シャーロック (Sherlock)」は、映画「シャーロック・ホームズ (Sherlock Holmes)」シリーズでホームズを演じるロバート・ダウニーJr.、CBSのアメリカ版TVシリーズ「エレメンタリー (Elementary)」でホームズを演じるジョニー・リー・ミラーとタメを張る‥‥というよりも、私の中ではカンバーバッチのホームズが最もポイント高い。 

 

ベネディクト・カンバーバッチというプチ・ブル的な名前がまたたまらない。ベネディクトというファースト・ネイムもそうなら、ラスト・ネイムはカンバーバッチだ。今時そういう名前を持つ者がいるのか。その、一見バランスを崩したハンサムという、矛盾した表現を受け入れる顔立ちのカンバーバッチが、無双の怪力男カーンを演じる。特に背が高いとも腕力があるとも思えないのに、これがまた微妙にアンバランスな魅力を発揮している。 

 

まったく話は変わるが、昨年の「裏切りのサーカス (Tinker Tailor Soldier Spy)」において、カンバーバッチが演じたギラムは、ゲイリー・オールドマン演じるスマイリーの使い走り的な印象が強かった。同様に、トム・ハーディ演じたリッキーも、格下の駆け出しのスパイでしかなかった。それがたった1年で、カンバーバッチもハーディもハリウッドで最も望まれる俳優の一人になっている。「裏切りのサーカス」は、本当に出演者という点では他に類を見ない豪華な作品だった。 

 

話を元に戻して、今回のシリーズ第2作目でカーンが登場するということは、オリジナルの映画シリーズの第2作目でカーンが登場したことと考え合わせると、エイブラムスは映画シリーズの全作作り直しを意図しているのだろうか。そう思って調べてみたら、映画シリーズでは第3作目となる「ミスター・スポックを探せ! (The Search for Spock)」は、「カーンの逆襲」で死んだスポック (忘れていた) を復活させる話で、ということは既に今シリーズは前シリーズから逸脱しており、これでは「ミスター・スポックを探せ!」のリメイクはまず無理だろう。とはいえ食わせ者のエイブラムスのことだからして、本当に作る気になったら、そういう障害はまったく平気で乗り越えてくることも考えられる。どういう枠組みになるか、既にもうちゃんとその辺りも織り込み済みかもしれない。 









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カーク (クリス・パイン) とスポック (ザカリー・クイント) は ある惑星に降り立っての調査中、不穏な者と見られ、原住民から追われる。その惑星は噴火のために滅亡する可能性があったが、身を挺して惑星を救おうとしたスポックを助けるためにカークはエンタープライズ号を出動させ、原住民を驚愕させる。そのことはルールに反しており、カークは規律違反として降格、パイク (ブルース・グリーンウッド) が再びエンタープライズ号の船長に任命される。時同じくしてカーン (ベネディクト・カンバーバッチ) が策を弄してスターフリートの基地を攻撃し始める。カーンはスターフリートの上層部が揃ったミーティングを襲い、パイクは死亡する。再びエンタープライズ号を任されたカークは、マーカス総督 (ピーター・ウェラー) の命を受けて、カークを抹殺するためにクリンゴンに向かう‥‥


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