Star Trek


スター・トレック  (2009年5月)

西暦2200年代、殉職した宇宙船船長の息子ジェイムズ・カーク (クリス・パイン) は、手のつけられない暴れん坊として成長していた。バーで女の子にドリンクをおごろうとして取り巻きの男たちと乱闘になるが、パイク船長 (ブルース・グリーンウッド) が仲裁に入る。パイク船長はジェイムズの父の英雄的振る舞いを説き、ジェイムズを仲間に誘う。翌日未明、建造中のエンタープライズ号を見にきたジェイムズは、スターフリートに参加することを決意する。同じ頃、幼い頃から優等な成績で学問を収めてきたスポック (ザカリー・クイント) も、エンタープライズの乗組員になるべく、スターフリートに参加してきていた‥‥


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実は先週から「X-メン」シリーズ最新作の「ウルヴァリン: X-Men Zero (X-Men Origins: Wolverine)」が始まっているのだが、どうも食指が動かない。先週、どうしても「路上のソリスト (The Soloist)」を見る気になれなかったのと同じように、「ウルヴァリン」も結構長い間予告編ばかり見せられて、食傷気味なのだ。ウルヴァリンの爪がシャキーン、おう、シャイニー、なんて、もうパロディにするのも飽きるくらい何度も何度も見せられた。予告編で見る限り、特にアクションがよさげにも見えない。


また、前回の「X-Men ファイナル ディシジョン (X-Men: The Last Stand)」の終わり方があまりにもB級だったので、かなりがっかりさせられたこともある。さらに先頃、ウルヴァリンは映像化に際してオリジナルのコミックよりも、これだけは例外というくらい格好よくなっていることを知った。元々コミックのウルヴァリンというのは猫背のように前屈みで背が低く、それを体現する身長180cm以上のヒュー・ジャックマンとは似ても似つかない。


自分が醜いというコンプレックスを逆にバネにして活躍するのがウルヴァリンであって、むしろ彼は負のヒーローだ。それをなんかいつも太陽が輝いているようなジャックマンが体現することは、かなり無理がある。むろん映画だからそれはそれでいいという意見も成り立つが、しかし私個人の意見としては、ますます見る気がしなくなった。


もちろん、こんなわからず屋の意見をほざくのは私くらいで、特にアメリカにおいては「X-メン」は人気がある。本当に、非常に人気があるのだ。これまで「X-メン」を見に行く度に初日は激込みで、切符が買えないことを繰り返している。これは「X-メン」、人気があるんだなとその時は思っているくせに、その次のヴァージョンが公開されると、その痛い目に遭ったのも忘れて今回は大丈夫だろうと高をくくって出かけ、また切符が買えないという学習能力のなさを露呈しているのだ。毎回毎回読みが甘かったと思わせられるほど「X-メン」はアメリカで非常に人気がある。


一方、私にとって現在の「X-メン」で最も魅力のあるキャラクターは、ウルヴァリンではなく、自分の意志に関係なく相手の能力を吸い取ってしまうという、アナ・パクイン扮するローグだ。彼女の能力こそ、作品に最もドラマティックな展開を持ち込むことのできるポイントだと思っていた。彼女に、さらに負のヒーローであるべきのウルヴァリンが絡むことこそが理想だ。そしたら今回は、ローグどころかこれまで登場したオリジナル・キャストはジャックマンを除いて誰も出ていないらしい。ま、今回はウルヴァリンの出生の秘密を描く話だろうからそれも無理ない話かとは思うが、それでもそれでほぼ見る気が失せた。


さらについでに復習の意味もあって、前回「ファイナル・デシジョン」を見た時に自分がなんて言ってたかと思って自分が書いたのをチェックしてみたら、その時既に「X-メン」に怒っていて、もう次の「X-メン」があっても見ない、と宣言していた。そうはいっても本気で面白そうなら平気で前言撤回して見るんだが、ここは3年前の自分の意見を尊重してパスすることにする。それでも、映画はむろん私の思惑なぞ関係なく今回も大ヒットしている。「X-メン」は実は「スーパーマン」よりも「スパイダーマン」よりも「バットマン」よりもアメリカを代表するスーパーヒーローのようなのだ。


いずれにしてもそれでほぼ必然的に今回は「スター・トレック」を見てきた。「スター・トレック」も「X-メン」同様、というかそれよりも古典的なSFアクションだ。TVシリーズをオリジナルに、映画も何本も製作されている。因みにTVシリーズとしてはオリジナル・シリーズの次に知られていると思われる「ザ・ネクスト・ジェネレーション」に主演していたパトリック・スチュワートは、「X-メン」ではX-メンを束ねるプロフェッサーとして登場している。実は今回の「X-メン」-「スター・トレック」対決において姿を見せないながらその両方に過去関係しているスチュワートが、裏のフィクサーらしい。いかにもそんなことやりそうなやつに見える。


その「スター・トレック」、過去TVシリーズも何度も放送されているだけでなく、映画だって何本も製作されている。TVのオリジナル・シリーズでウィリアム・シャトナーが演じたカーク船長とレナード・ニモイ演じるスポックは、いまだに「スター・トレック」というと人が思い出すクラシック・キャラクターだ。特にニモイの場合あまりにも印象が強烈で、その後何を演じようと人はスポックを思い出した。当たり役もいいが、あまりにもはまり過ぎるのも困りものという例だ。


一方、ここまで流通して歴史が長いと、その流れを理解している者はあまりいないと思われる。私も1960年代のオリジナルのTVシリーズは知らないし、映画化にしたって、あれはTVを補佐するみたいな印象が濃厚で、80年代から連続して製作された映画シリーズは、TVの方を知っていないとそれだけを見ても意味がよくわからず、あまり面白くなかったというのが正直なところだ。それで結局、私は「ジェネレーションズ」辺りからもう見るのをやめた。だって何言っているかよくわからず、話が繋がらないのだ。


むろんそれでもいわゆるトレッキアンと呼ばれる根強いファンは世界中に大勢おり、だからこそ何度も続編が製作された。かといって、それだけではそれ以上ファンを増やすことは困難だろう。今回、初心に帰ってそもそもの話の発端に遡る「スター・トレック」が製作されたのは、その辺に対する目配せもあると思われる。これで一からまた新しいファンを開拓することができる。


今回演出を担当するのはJ. J. エイブラムスで、なんでもトレッキアンを自認しているらしい。いかにもオタクっぽいエイブラムスがトレッキアンでも何の不思議もない。カーク船長に扮するのはクリス・パインで、いくつかの出演作があるようだが、新顔と言ってもいいだろう。スポックを演じるのはザカリー・クイントで、NBCの「ヒーローズ (Heroes)」の超能力者サイラー役で一気にブレイクした。こうやってちょっと耳を長くしてスポック役を演じると、ニモイが造型したスポックの延長線上に違和感なく収まっていることに感心する。


特にオリジナルを中心とするTVの「スター・トレック」シリーズが人気のある最大の理由は、深遠とも言えるその根本的な思想にあるらしい。だからこそ一度はまると離れられない根強い人気を勝ち得た。しかしエイブラムスは今回の「トレック」を、単純に話がわかりやすいアクション映画として製作している。これはエイブラムスが作る作品としては、ほとんど例外的な扱いだ。


だいたい近年のエイブラムス作品の特色は、映画の「MI3」にせよTVの「エイリアス (Alias)」、「ロスト (Lost)」、「フリンジ (Fringe)」にせよ、 一ひねりも二ひねりもひねってあり、陰謀渦巻く入り組んだストーリー、どんでん返しに次ぐどんでん返しというのは日常茶飯だ。昨日の敵は今日の味方で明日は敵でしあさってはまた味方というのは当たり前で、一度死んだ人間でさえそれが本当かどうかは確とはしていない。自分自身でどんな作品を作っているのか理解しているのかと疑ってしまうくらいだ。


特にエイブラムス作品では時間の概念がキー・ワードとなっており、登場人物はだいたいにおいて時間を飛ぶか、それが不可能な場合、記憶をなくすかいじられるかして時間の感覚が曖昧になったりする。一方で時間という概念を恣意的に操作できる場合、それが話に混沌をもたらすことは改めて言うまでもない。特に話の終わりを決めないで作り始めるTV番組の場合、ただ話がいたずらにこんぐらがってしまうだけという場合が往々にしてある。それが「スター・トレック」ではエイブラムスとしてはほとんど意外なくらいストレートなアクション主体の作品となっており、しかもわかりやすくてできがいい。TVと異なって話の枠組みを決めてから作り始める映画であり、スパイものの「MI3」とも異なるとはいえ、こんなのも撮れるのかと驚いたくらいだ。


一方、実は私は本心では、タイム・トリップと瞬間移動は、少なくともリアリティに重きを置く作品では禁じ手だと思っている。これを使えばほとんどどんな難問も解決できてしまうからだ。だから実は「ロスト」で登場人物が意識して狙った時代にタイム・トリップし始めた時には、思わずそれはないんじゃないのと唸ってしまった。タイム・トリップや瞬間移動を使ってどんな面白い話を作れるかがポイントのSFにまでこれらのギミックを使うなとは言わないが、 それでも「ロスト」のような一応リアリスティックな番組で狙って時間を飛ばれると、こいつは、なんて思ってしまう。


その点、スペースSF作品の「トレック」で時間を遡ったりしても特に違和感はないため、エイブラムス作品の特徴とも言えるタイム・スリップ、タイム・トリップが効果的に使用されている。ニモイの絡め方もなかなかうまかった。彼が出てきた時、ああっ、という不意をつかれた嘆声が場内のあちこちから上がったくらいだ。それにしても、やはりニモイ=スポックはトレッキアンの永遠のキャラクターのようだ。たとえ建て前上の主人公がカーク船長でも、「スター・トレック」の本質を担っている登場人物は、やはりスポックなのだと思われる。








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