Sicario: Day of the Soldado


ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ  (2018年7月)

2015年のドゥニ・ヴィルヌーヴ演出の「ボーダーライン (Sicario)」の続編が製作された。「ボーダーライン」以降、「メッセージ (Arrival)」「ブレードランナー2049 (Blade Runner 2049)」とSF路線にやや傾いていたヴィルヌーヴが、またお得意の重厚アクション・ドラマ路線に戻ってきたと束の間喜んだものの、調べてみると今回はヴィルヌーヴはまったく関係していない。どうやら「ボーダーライン」は雇われ監督に過ぎなかったようだ。それで次回作はとチェックしてみると、フランク・ハーバートの「デューン (Dune)」の映像化だそうだ。本当はSFの人間だったのか。 

 

それで今回は、アメリカではサンダンスが放送したイタリア製ギャング・ドラマ「ゴモラ (Gomorrah)」のステファノ・ソッリマが演出に起用された。出演陣も、前作の主人公を演じたエミリー・ブラントがいなくなり、裏主人公だったベニシオ・デル・トロ演じるシカリオ、こと暗殺者のギリックが前面に出てきた。実際の話、前作だってタイトルは暗殺者を意味する「シカリオ (Sicario)」だったのだから、主人公はギリックと言ってもいいはずだ。これは要するに、元々シリーズ化を考えていて、ギリックは第1作では顔見世をしたに過ぎず、第2作以降活躍するというラインが既に織り込み済みだったからかもしれない。 

 

話は冒頭、アメリカ-メキシコ国境を越えてアメリカに密入国する者たちを映し出す。トランプ政権ではメキシコからの密入国に厳しくなっており、彼らもパトロールによって発見される。しかしその中の一人はメキシコからよりよい生活を求めてアメリカに入ろうとしたメキシコ人ではなく、イスラム教徒であり、逃げられないと知ると、自爆する。 

 

同じ頃、カンサス・シティのグローサリー・ストアでも、イスラム教徒による自爆テロが起きる。彼らは正規に税関を通ってアメリカ入国しておらず、アメリカ-メキシコ国境から密入国していた。裏に手引きしているメキシコのドラッグ・カルテルがいるに違いないと踏んだアメリカ政府は、カルテル撲滅をグレイヴァーに指示する。手段は選ばない。グレイヴァーは再びギリックと接触する‥‥ 

 

まず、冒頭のテンションの高さ、特に大型グローサリー・ストアでの自爆テロのシーンは出色。最初から今回はヴィルヌーヴ演出ではないと知っていなかったら、今回もヴィルヌーヴ、やるな、さすがと思ったに違いない。その後も息をつく暇を与えぬテンションの高さで、目を逸らさせない。 

 

脚本は前回に引き続きテイラー・シェリダンだが、ここ数年でシェリダンは、「最後の追跡 (Hell or High Water)」「ウィンド・リヴァー (Wind River)」と、いきなりハリウッドの一線に躍り出た。「ウィンド・リヴァー」では監督もこなしている。どちらかというとヴィルヌーヴのテンションの高さというよりも、「ホスタイルズ (Hostiles)」のスコット・クーパーの骨太さの方に近いものを感じる。カナダ人のヴィルヌーヴとアメリカ人のシェリダンの差といったところか。そして今回の演出はイタリア人のソッリマだ。ある意味現代で最もアメリカ的な問題を、前回はカナダ人、今回はイタリア人が演出している。 

 

考えたら「ゴモラ」はイタリアン・ギャングの抗争の話、「ボーダーライン」はメキシカン・ギャングが大きく絡んでくる話だから、本質はあまり変わらないのかもしれない。だいたい、世界のどこかで起こっている問題は、多少形を変えてアメリカでも起こっている。アメリカで起こってないのは世界戦の地上戦と爆撃だけだが、トランプが世界相手に挑発を続ける現在、もしかしたら近い将来にアメリカが攻撃される可能性はゼロとは思えず、もしかしたら核が撃ち込まれるかもと考えると憂鬱になる。 

 

だいたい、「ソルジャーズ・デイ」では、自分たちの都合だけでメキシコのことはまったく考慮せず、メキシカン・カルテルの娘を誘拐し、対抗カルテルの仕業に見せかけてカルテル間の抗争を誘発して共倒れ、もしくはそれを理由に叩き潰すという言語道断の計画を実行に移す。それがばれてメキシコの警察が、彼らもカルテルに通じているだろうとはいえこちらに銃を向けると、逆に相手を皆殺しにする。いくらなんでもこれでは世論が黙っちゃいないだろうと作戦は反故となるが、しかし、こんな自分勝手な作戦が最初にGoサインが出て動き出したということ自体、唖然とさせられる。さらに、今のアメリカならやりそうだとわりと真実味があるところがまた忌々しい。 

 

因みに今回のオリジナル・タイトルは「Sicario: Day of the Soldado」で、「Soldado」はもちろんスペイン語で、「Soldier」を意味するが、もちろんそんな単語、調べるまでまったく知らなかった。しかし「Day」は英語だ。つまり本当なら英語タイトルは「Assassin: Day of the Soldier」、もしくはいっそ全部スペイン語で「Sicario: Día del Soldado」となるべきものが、英西混在のタイトルになっている。結構南部ではSoldadoもアメリカ人の間でも通じるのだろうと想像する。 

 

ついでに言うと邦題の「ソルジャーズ・デイ」は、これまた意図するものが「Soldier’s Day」なのか、「Soldiers Day」なのか、よくわからない。「Soldado」の複数形は「Soldados」だから、「ソルジャーズ」は複数形ではなく所有形の「Soldier’s」を意味しているものと思うが、オリジナル・タイトルが意図しているところから逸脱しているような気がする。 

 

「ボーダーライン」がシリーズ化を念頭に製作されているのは明らかで、今回の幕切れは次作へのつかみになっていた。今度はさらに3年後、リクルートした若いシカリオにバトンは受け渡されるのか。DCコミックスやマーヴェル・コミックスのスーパーヒーローものなんかより、こちらの方がよほど楽しみだ。 











< previous                                      HOME

カンサス・シティのグローサリー・ストアで自爆テロが起き、多数の死傷者が出る。イスラムの狂信者による犯行で、しかも彼らは船や飛行機ではなく、アメリカ-メキシコ国境から密入国していた。裏にメキシコの麻薬カルテルが絡んでいるに違いないと見たアメリカ側は、CIAのマット・グレイヴァ― (ジョシュ・ブローリン) に、どんな手を使っても構わないからこれ以上事態を悪化させるなと要請する。グレイヴァーは、かつて一緒に仕事をしたアレハンドロ・ギリック (ベニシオ・デル・トロ) と連絡をとり、メキシコのマタモロス・カルテルのボスの一人娘イザベラ (イザベラ・モナー) をさも対抗カルテルの仕業であるかのように誘拐し、カルテル同士の戦争を誘発させて自滅と撲滅を図る。しかし保護したかのように見せかけたイザベラをメキシコに連れて帰る途中、カルテルと通じているメキシコの警官と撃ち合いになり、全員射殺せざるを得なくなっただけでなく、どさくさにまぎれてイザベラを見失う。作戦は反故となり、多くを見過ぎているイザベラも抹殺する指令が降りるが、ギリックはそれを拒否し、再度イザベラをアメリカに連れて帰ろうとする。今やギリックはアメリカからもカルテルからも狙われる存在だった‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system