Hostiles


荒野の誓い (ホスタイルズ)  (2018年2月)

西部劇は日本の時代劇同様、近年は数は少なくとも絶えることなく製作されている。しかも淘汰されて本当に作りたい者たちが長年温めていた企画を精鋭で製作しているという印象が強く、数は少なくともできたものはだいたい秀作揃いだ。「ザ・ホームズマン (The Homesman)」然り「マグニフィセント・セブン (The Magnificent Seven)」然り。 

  

「ホスタイルズ」演出は「ファーナス/訣別の朝 (Out of the Furnace)」のスコット・クーパーで、これだってある意味西部劇だ。「約束の馬 (Broken Horses)」「最後の追跡 (Hell or High Water)」もそうだろう。その「ファーナス/訣別の朝」の骨太な切れ味を堂々とガン・アクションで再現する。これぞ西部劇の醍醐味。 

  

ブロッカー大尉 (クリスチャン・ベイル) はやがて退官を考える年齢に差し掛かっていたが、収監中だが病気で余命幾ばくもないネイティヴ・アメリカンのイエロー・ホウク (ウェス・スタディ) を、解放して故郷のモンタナで永遠の眠りにつかせてやるという話があり、その一行を率いるという指令が降りる。イエロー・ホウクを捕まえるのにどれだけの犠牲が払われたかを知っているブロッカーは最初その任を拒否するが、半ば脅されて強制的にその任を引き受けさせられる。 

  

ブロッカーはヴェテランから若手まで選別して小隊を組み、イエロー・ホウクと彼の家族の護送に当たる。間もなく一行は、家族をコマンチ族の一味に皆殺しにされてただ一人生き残った女性ロザリー (ロザムンド・パイク) に遭遇、見捨ててもおけず、ブロッカーはロザリーも一行に加え、旅を続ける‥‥ 

  

まず、小隊を組む面々がいい。最も腕の立つウッドソン (ジョナサン・メイジャーズ) は黒人だし、旧友のメッツ (ロリ・コクレイン) はブロッカーと共に戦ってきた仲だが、今ではかつて自分が殺したネイティヴに対する罪悪感に苛まされている。士官学校を卒業したてのキッダー (ジェシ・プレモンス) には経験を踏ませようという意図が見えるし、最も若いデジャーデンに至っては、まだ少年と言うしかない若さだ。因みにデジャーデンに扮するティモテ・シャラメは、こないだ「レディ・バード (Lady Bird)」で見たばかりと思っていたら、あの若さで「君の名前で僕を呼んで (Call Me by Your Name)」ではアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされていて、ただ者ではないことを証明した。 

  

彼ら以外にもスティーヴン・ラングやピーター・ミュラン、アダム・ビーチ等、癖のあるヴェテランが顔を出し、途中登場のベン・フォスターは、「最後の追跡」にも出ていたな、しかしそれよりかつて「3時10分、決断のとき (3:10 to Yuma)」で、やはりベイルと敵対していたのを思い出す。とにかく豪華な顔ぶれなのだ。 

 

一行は様々な敵や障害に遭いながら、目的地を目指す。メキシコと国境を接しているニュー・メキシコからカナダと国境を接しているモンタナまで。「ホームズマン」や「レヴェナント: 蘇えりし者 (The Revenant)」のように冬真っ只中という雪景色もよかったが、むろん赤茶けた荒涼した地肌が見えるニュー・メキシコも、ジョン・フォード以来の西部劇の定番だ。というか、どちらかというと、西部劇というとこういうモニュメント・ヴァリー的な背景を連想する者の方が多いだろう。それがモンタナという北部を目指すために、段々「シェーン (Shane)」みたいな緑豊かな高原のような世界へと変わっていく。 

 

「マグニフィセント・セブン」の項で、かつて映画批評家のポーリーン・ケイルが、「真昼の決闘 (High Noon)」で主人公のゲイリー・クーパーがヒロインのグレイス・ケリーに助けられるのを嘆かわしいと切り捨てていたということを書いたが、「ホスタイルズ」でも、ヒロインのロザムンド・パイクはライフルを持つ。「真昼の決闘」、「マグニフィセント・セブン」では彼女らは男たちを助けるためにライフルを持つという印象が強かったが、「ホスタイルズ」では、男たちを助けるという意味もあるが、それよりはむしろ、自分から相手に立ち向かうためにライフルを手にする。現代の視点から見た西部劇なのだ。 

 

しかし冒頭では、パイク扮するロザリーは一家をコマンチ族に皆殺しにされ、自分も死にかける。殺されるという恐怖と家族の死を目の前にして、ロザリー自身もあっちの世界に片足踏み入れる。演じているのがニコール・キッドマンと並んでオーヴァー・リアクションすれすれの女優の双璧パイクであるからして、かなり来ている。そしてもちろん、だからこそはまる。そしてその彼女が最後にはライフルを手にして銃口を男どもに向ける。ヒーロー役のブロッカーに扮するベイルは、沈思黙考型の受け身に徹して周りの世界に対峙する。 

 

かつては悪役の代名詞だったインディアン、ネイティヴ・アメリカンも、今ではそのように描かれることはない。既にジョン・フォードの後期には、ネイティヴは悪役一辺倒に描かれることはなくなっていた。そして現在は、ネイティヴの絵柄をチームのトレードマークに使うMLBが非難される時代なのだ。むしろ先住民族だった彼らを騙し、殺戮した白人の方に非があるというのは、現代の常識だ。ブロッカーもそのことに気づいているし、仲間だったメッツは、今では自責の念に押し潰されそうになってアル中廃人の一歩手前だ。そしてロザリーが銃口を向けるのは、自分たちの利権意識だけしかない白人だ。新しい時代の西部劇の佳作。 











< previous                                      HOME

1892年、ニュー・メキシコ。ジョゼフ・ブロッカー大尉 (クリスチャン・ベイル) は、獄中の身だが病魔に冒され余命幾ばくもないネイティヴ・アメリカンのイエロー・ホウク (ウェス・スタディ)  を、釈放して彼の故郷であるモンタナに送り届けて死を迎えさせるという任務を言いつけられる。イエロー・ホウクによって仲間を大勢殺され、捕まえるのにどんなに苦労したかを経験しているブロッカーはその任務を拒否するが、上司はこれは命令だとして半ば脅して強引に任務を引き受けさせる。旅を始めて間もなく、一行は夫子供をネイティヴ・アメリカンに殺された女性ロザリー (ロザムンド・パイク) に遭遇する。見捨ててもおけず、ブロッカーはロザリーも一行に加え、旅を続ける。しかしロザリーの家族を皆殺しにしたコマンチ族の一味は、ブロッカーらも虎視眈々と狙っていた‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system