Blade Runner 2049


ブレードランナー 2049  (2017年10月)

どうやら一般的に考えられているほどは、人類の科学の進歩のスピードは速くないらしい。というのも、今回「ブレードランナー 2049」を書くにあたり、あやふやな記憶を埋めるためにオリジナルの「ブレードランナー」の筋を確認していて、それが2019年の話だったことを知った。


2019年。もう目と鼻の先の話だ。しかしあと1年ちょいの間に、一見しただけでは人間と区別がつかないレプリカントが創造されている可能性は皆無だ。30年後の2049年でも、今回の「ブレードランナー 2049」に描かれているような世界になることはないだろう。かつて2001年に、「2001年宇宙の旅 (2001: A Space odyssey)」で描かれた世界にまだ全然遠いじゃないかと思ったものだが、未来SFは数十年ではなく、数百年のスパンじゃないととらえきれないようだ。


さてオリジナルの「ブレードランナー」は、レプリカントを狩るブレードランナーを描くという話自体も面白かったが、常に暗く酸性雨の篠つく、2019年のLAの造型のヴィジュアルも強く印象に残っている。当時私は、強力わかもとがなんのことか知らなかった。聞いたことがあるような気もするが、薬だったっけ? というくらいの知識しか持ってない者の前にあんな強烈な電飾がいきなり現れると、ここはLAか、それとも日本かと印象に残る。「ブレードランナー」演出のリドリー・スコットは、その後「ブラック・レイン (Black Rain)」で実際に日本でも撮っているから、以前に自身が大阪の電飾で強烈な体験をしたか、「ブレードランナー」の美術関係から日本の電飾に触発されたに違いない。この日本語電飾は、今回もある程度継承されている。


他にもまるで作り物めいたレプリカント、レイチェルを演じたショーン・ヤングの美貌、レプリカントの首領ロイを演じたルトガー・ハウアーの悲哀、そして誰もが話題にした、バック転してくるレプリカント、プリス (ダリル・ハンナ) の衝撃など、印象的なシーンはてんこ盛りだ。


後ろに下がって助走つけてバック転しながら迫ってくるというのは、体操の床運動で連続のバック転から大技に入ることを思えば、威力としては理に適っているとは言えるが、現実に格闘として効果があるかと問われれば、それはないだろう。バック転して来る間に、こちらにはかわす余裕が充分以上にあるからだ。バック転してきてフォード演じるデッカードに肩車になって首を太腿で絞めつけるというのは、お笑いになってもおかしくなく、実際後で皆であれはキョーレツだったなとお笑いのネタになったりしたが、視覚的インパクトは絶大だった。


一方、スコットが演出したもう一本のSFクラシック「エイリアン (Alien)」が、その後何本も続編が製作されるフランチャイズ化したのに、「ブレードランナー」は、完全版が製作されるなど本編自体には手が加えられても、いかにもありそうな続編がこれまで製作されなかった。話としては続編はいくらでも作れそうなのにだ。これは、やはりあのキッチュさも含め、作品は完結しているという印象を誰もが持っていたからだと思える。あのイメージを誰も壊したくなかったのだ。


その誰もが見たいと思い、やっぱり見たくないと思っていた「ブレードランナー」の続編が、ついに製作された。しかも演出はドゥニ・ヴィルヌーヴだ。昨年の「メッセージ (Arrival)」でヴィルヌーヴはSFも撮れることを証明していたが、よりにもよって「ブレードランナー」の続編か。失敗したらかなり叩かれるのは間違いない。それを考えるとよほど撮りたい思いが強かったんだろう。


そして「2049」は、充分成功していると言える。探索機スピナーやホログラムのジョイ (アナ・デ・アルマス)、その他の未来世界のイメージも素晴らしいが、アクションSFでありながら「メッセージ」同様全体に静謐感の横溢する演出は、やはりヴィルヌーヴだからこそできたという気がする。どちらかというと露悪的で、どう見せるかがポイントのスコットの「ブレードランナー」、どちらかというと想像力に訴えかけるヴィルヌーヴの「2049」、共にとてもよい。


嬉しかったのが、フォードが歳とったデッカードとして再び登場して、華を添えたことだ。フォードは昨年の「スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (Star Wars: The Force Awakens)」にも出てきて活躍したわけだが、出番が多くても、かつての大物に対する別れの手向け以上の印象を受けることはなかった。歌舞伎の見栄みたいなもので、あれはあれで楽しかったし、必要だったのだろうとは思う。しかし「2049」においては、フォードは話としても重要な役で登場し、ほとんど最後のおいしいところをさらっていってしまう。Kとしても本望だろう。



追記 (2017年11月)

私がこの項を書いてほとんど間を置かずして、バック転をするロボットが公開されて話題になった。身の丈2mを超えるかというロボットが、本当にバック転をする。見かけはどちらかと言うと「リアル・スティール (Real Steel)」のロボットで、まったく人間のようには見えないが、それでも、バック転をするロボットが本当に現れた。一見して人間のように見えるロボットより、バック転するロボットが先に登場するとは思ってもいなかった。「ブレードランナー」の世界に一歩近づいたようだ。












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ある時一人のレプリカントを処分したK (ライアン・ゴズリング) は、庭の木の根元に女性レプリカントの遺骨が埋まっているのを発見する。しかもこのレプリカントには出産した形跡が認められた。生殖能力はないはずのレプリカントがもし子供を産んだことが事実だとしたら、今の人類ならびにレプリカントの将来に大きな影響を与える。Kの上司のジョシ (ロビン・ライト) はKに秘密裏に追跡調査を命令する。一方、同様にこの話に興味を持ったレプリカント開発のウォレス (ジャレッド・レト) も、刺客のラヴ (シルヴィア・フークス) を差し向ける。Kはレプリカントの地下組織のマリエット (マッケンジー・デイヴィス) から接触される。どうやら事件はかつての伝説的ブレードランナーのデッカード (ハリソン・フォード) とレプリカントのレイチェル (ショーン・ヤング) に関係があるらしかった‥‥


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