Sicario


ボーダーライン  (2015年10月)

グーグルのオートマティックな検索機能は日に日に進化していて、知らず知らずのうちに慣らされていたりする。便利になることの方が多いが、時に小さな親切大きなお世話ということもある。私は映画の上映時間を調べる時は、ヤフー、IMDB、グーグル等を使うのだが、ヤフー、IMDBはともかく、グーグルで映画館名を検索してそこから上映中の映画を調べようとすると、私のiMacは主言語を日本語に設定してあることもあって、勝手に映画名を邦題で表示する。


そんなことをされても、こちらはニュージャージーで上映されている映画の時間が知りたいだけなのに、邦題を表示されても困る。映画館では英語のオリジナル・タイトルしか掲げてない。せめて単純にオリジナルをカタカナ表記するだけならまだわかるんだが。


今回、グーグルで普段よく行く映画館名から「Sicario」を探していて、最初それらしきものが見つからず、一瞬茫然となった。まさか、人が入らずもう公開が終わってしまったということはないだろうな、ドゥニ・ヴィルヌーヴの新作だぞ、絶対見るつもりでいたのに。


というわけで、今度は慌ててヤフーの映画欄をチェックして、ちゃんと「Sicario」がまだ公開中であることを確認する。その後グーグルに戻り、初めて「ボーダーライン」が「Sicario」であることを発見したのだった。「ボーダーライン」だったか。


そう思って他の映画もチェックしてみると、「The Martian」が「オデッセイ」というのは、まあこちらはなんとなくわかる。しかし、やはりタイトルを表記するのだったら「クリムゾン・ピーク (Crimson Peak)」とか「ブリッジ・オブ・スパイ (Bridge of Spies)」とか、基本的に音読みそのままの方がまだ使える。


考えると、基本的にアメリカ−メキシコ国境が舞台の「Sicario」で邦題が「ボーダーライン」というのは、わからないではない。しかしこちらでは、タイトルの「Sicario」はスペイン語でHitman (暗殺者) のことを意味するとやたらと宣伝しているので、「ボーダーライン」が「Sicario」だなんてまったく思わなかった。なんで邦題は「暗殺者」、もしくは「ヒットマン」じゃダメだったんだろう。既に似たようなタイトルを持つ作品が多過ぎると思われたとか。もしくは本当に「シカリオ」でも、雰囲気があっていいと思う。


映画でそのシカリオを演じているのは、ベニシオ・デル・トロだ。と、たまたまここをiPadで職場帰りのサブウェイの中で書いてたら、最初デル・トロが紅塩出るトロと変換された。なんとまあ旨そうな名であることか。これまでまったく気づかなかった。あんな顔で魚類か。しかし深海魚系の顔と言えなくもない。ああ腹減った。


もとい。タイトル・ロールを演じているデル・トロではあるが、とはいっても主人公は彼ではない。デル・トロ演じるアレハンドロは素性を隠したような形で、FBIからスカウトされたケイトをサポートするという役割りだ。終わりのないドラッグ・ウォーに業を煮やしたアメリカは、超党派的な措置で各所から人材をスカウトしていた。


リクルートされることにOKしたものの、上司のグレイヴァーはほとんど秘密主義で、ケイトの心中に頓着せず振り回す。西海岸に向かうかと思ったらいきなり国境越えでメキシコのカルテルの隠れ家の一つを急襲するなど、やっていることは命がけなのに、予定や事情はまったくと言っていいほど事前には知らされず、蚊帳の外だ。ストレスは溜まる一方で、憂さ晴らしに飲みに行って意気投合した男とアパートにしけ込むと実は男はカルテルの一員で、実はそれこそケイトが抜擢された理由だった。ケイトは敵をおびき出すための餌に過ぎなかった。


ケイトに扮するエミリー・ブラントは前回見た「オール・ユー・ニード・イズ・キル (Edge of Tomorrow)」では伝説的戦士ということになっていて、しかもそれが結構はまっていた。今回はリクルートされて右も左もわからない新人扱いだ。しかし考えると、それ以前のブラントは、「アジャストメント (The Adjustment Bureau)」「ルーパー (Looper)」等、自分ではまったく意図せずとも人類の将来の鍵を握る人物だった。今回も自分の知らぬところで、やはりカルテル壊滅の鍵を握っている存在で、いったんは史上最強の女性兵士として君臨したものが、今回は本家返りして、また環境に翻弄されながら、実は今後を決める最も重要な人物という役どころだ。意図して人類を外敵から守るのと、意図せずとも社会存続の鍵を握っているのと、どちらが強い存在なのだろうか。いずれにしても、常にブラントの存在が社会の大きな要となっていることは変わらない。


ところでブラントは、こないだ実生活ではパートナーのジョン・クラシンスキがプロデュースする、スパイクTVの口パク・バトル・リアリティの「リップ・シンク・バトル (Lip Sync Battle)」に出て、口パク勝負をしていた。人類の将来を担う者が、毛皮着て口パクでビッグ・ブラザーの「ピース・オブ・マイ・ハート」を歌い、そしてマイリー・サイラスの真似をしてハイレグ姿でレッキング・ボールに跨って歌うアン・ハサウェイを相手に完敗した。人類の将来を左右する者が、口パク・バトルで負けるか。人類最強の戦士が、「レ・ミゼラブル (Les Miserables)」の娼婦に勝てなかった。


シカリオであるアレハンドロに扮しているのがデル・トロだ。こちらは最近作は「エスコバル: パラダイス・ロスト (Escobar: Paradise Lost)」で、コロンビアのドラッグ王パブロ・エスコバルに扮していた。ブラントは、素人だろうと経験のある戦士だろうとだいたい常に法のこちら側、正しい側にいるのだが、曲者デル・トロの場合はもちろんそんなことは関係ない。ほぼ常に灰色、どころか、「エスコバル」の場合、はっきりとお前、黒という法の向こう側の住人だ。それでも家族や市民からは慕われている。要は力は持ったもん勝ち、正邪の概念は後付けに過ぎないということを、ここでもやっている。しかし、ああ、ブラントよりもデル・トロの方が目が離せないのだ。この世は正邪ではなく、絶対的な力か。










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FBIエージェントのケイト・メイサー (エミリー・ブラント) は、米墨国境付近を中心に密輸ドラッグの取り締まりに当たっていたが、ドラッグ戦争の勢いは、強まりこそすれ弱まることはなかった。ある時上司のジェニングス (ヴィクター・ガーバー) から呼び出しを受けたケイトは、たぶんCIAと思われる素性不明のグレイヴァー (ジョシュ・ブローリン) から、ドラッグを撲滅するという名目でリクルートされる。ケイトはコンサルトというアレハンドロ (ベニシオ・デル・トロ) と行動を共にする。アレハンドロはドラッグ王のディアズについて多くを知っていたが、アレハンドロ自身正体不明で、多くを語らなかった。同僚のレジー (ダニエル・カルーヤ) と共にバーに出かけたケイトは、そこでレジーの旧友のテッド (ジョン・バーンソール) と意気投合し、二人してテッドのアパートに帰る。しかしケイトはそこでテッドがドラッグ・カルテルと通じていることに気づく。窮地に陥ったケイトを救ったのはアレハンドロで、ケイトは、グレイヴァーやアレハンドロがすべてを知っていて、自分がテッドを罠にかけてディアズを捕らえるための餌として利用されたことを知る‥‥


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