リップ・シンク・バトル   Lip Sync Battle

放送局: Spike

プレミア放送日: 4/2/2015 (Thu) 22:00-22:30-23:00

製作: エイト・ミリオン・プラス・プロダクションズ、マタドール・コンテント

製作総指揮: スティーヴン・マーチャント、ジェイ・ピーターソン、ジョン・クラシンスキ

ホスト: LL・クール・J

コメンテイター: クリッシー・ティーゲン


内容: 口パク物真似バトル。


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Lip Sync Battle


リップ・シンク・バトル  ★★1/2

「リップ・シンク・バトル」の「リップ・シンク」とは、カラオケではなく、オリジナルのシンガーに合わせて口パクで歌う真似をすること。要するにエア・ギターならぬエア・シングだ。それを勝ち負けのバトル形式にしたのが、スパイクTVの「リップ・シンク・バトル」に他ならない。


リップ・シンクは元々、プロのシンガーが自分自身の口パクとして利用していた。ブリットニー・スピアーズが、踊りながらでは歌えないので、コンサートで自分の曲を口パクしていたのは有名な話だ。NBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」で、調子の悪いアシュリー・シンプソンが口パクでステージを行おうと思っていたところ、基本的にライヴでそういう経験のないステュディオ関係者が誤ったキューで録音を流してしまい、ステージではアシュリーは歌ってないのに歌が流れてきてしまったという事件もあった。


オバマ大統領の2度目の大統領就任式において、失敗の許されない舞台でビヨンセが録音に合わせて口パクで国歌を歌ったというのもあった。等々、口パクというのはネガティヴな印象がつきまとう。ほとんどの場合において、本当は口パクしちゃいけないんだが、窮余の一策で口パクにしたという印象が強いからだ。


しかし、ギターが弾けるわけでもないのにギター弾く真似のエア・ギターが芸として確立したように、口パクだって見方によっては楽しめる。シンガー本人が自分の曲を口パクするのはNGだが、赤の他人がプロの口パクをするのは、遊びであり、ひいては芸になり得るのだ。


そのことを実践して見せたのが、ジミー・ファロンがホストだった時代のNBCの深夜トーク「レイト・ナイト (Late Night)」だ。ゲストとして登場したジョン・クラシンスキとファロンとの間によるリップ・シンク・バトルは、その後、これを気に入ったファロンが定期的に行ってシリーズ化し、現在ファロンがホストしている「トゥナイト (Tonight)」にも引き継がれている。


特に「トゥナイト」になってからは、潜在的視聴者数が飛躍的に増えたこともあり、リップ・シンク・バトルもかなり注目されるようになった。ジョゼフ・ゴードン-レヴィットやポール・ラッドらが恥も外聞もかなぐり捨てて口パクする様は確かに笑えたが、しかし、評判になって一躍リップ・シンク・バトルをお茶の間に定着させたのが、エマ・ストーンによるDJ キャレドの「オール・アイ・ドゥ・イズ・ウィン (All I Do Is Win)」だ。


ラップ系はほとんど聴かない私にとっては初耳の曲だったのだが、オリジナルを知らなくても早口でラップをまくし立てるストーンはそれだけでもなかなか楽しめる。それにも増して効果的だったのが決め所でのカメラの切り替えで、それまでは単に口パクを楽しむだけに過ぎなかったリップ・シンク・バトルが俯瞰のカメラに切り替わった瞬間、手すさびの遊びから芸に昇華したと言える。事前に打ち合わせしていなければできないのはもちろんで、やる方もマジなのだ。


そのリップ・シンク・バトルを独立したTV番組として製作したのが、今回のスパイクによる「リップ・シンク・バトル」だ。元々のアイディアを出したクラシンスキが製作総指揮を務めており、一方、ファロンが番組第1回に登場してロックことドウェイン・ジョンソンと対戦する。


一人で2曲ずつ歌い、ステュディオの観客をより沸かせた方が勝ちだ。ジョンソンが歌うのがテイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ (Shake It Off)」と、ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ (Stayin' Alive)」、一方のファロンが歌うのが、ハリー・ベラフォンテの「ジャンプ・イン・ザ・ライン (Jump in the Line (Shake, Senora))」とマドンナの「ライク・ア・プレイヤー (Like A Prayer)」。強面のジョンソンがスウィフトの歌を歌うというようなミスマッチ的選曲は、もちろん受け狙いの意図的なものだ。この勝負は、衣装までセヴンティースでばっちり決めた「ステイン・アライヴ」が大いに盛り上がったジョンソンが勝った。


番組は第2回以降、コモン vs ジョン・レジェンド、アン・ハサウェイ vs エミリー・ブラント、アナ・ケンドリック vs クラシンスキ、テリー・クルーズ vs マイク・タイソンという風に、プロ・アマ、男・女、業界人・アスリート、関係なくバトルを展開する。因みにブラントはクラシンスキの奥さんであり、出演はその絡みだろう。タイソンが歌うローリング・ストーンズの「サティスファクション (Satisfaction)」にも大いに興味を惹かれる。しかしここでのショウ・ストッパーは、ハサウェイが歌ったマイリー・サイラスの「レッキング・ボール (Wrecking Ball)」だ。


ハサウェイはサイラスのミュージック・ヴィデオそのままのハイレグの衣装で登場しただけでなく、レッキング・ボール、つまりビル破壊用の大きな鋼球にまたがって揺られながら歌うというヴィデオの演出をステージでも採用、喝采を浴びた。「レ・ミゼラブル (Les Miserables)」でもわかるように元々ハサウェイの歌は玄人はだし、というか歌もプロであり、そのハサウェイがレッキング・ボールに跨ってマジでサイラスの真似をするのだ。これは本気で笑った。「リップ・シンク・バトル」は、まだまだ色々な可能性を秘めていそうだ。












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