Looper


ルーパー  (2012年10月)

今夏から「ダークナイト・ライジング (The Dark Knight Rises)」「プレミアム・ラッシュ (Premium Rush)」、そして「ルーパー」と出演作が続くジョゼフ・ゴードン-レヴィット、そして実は「ムーンライズ・キングダム (Moonrise Kingdom)」、「エクスペンダブルズ2 (The Expendables 2)」、「シャドー・チェイサー (The Cold Light of Day)」、「ルーパー」と、ゴードン-レヴィット並みかそれ以上に活躍しているブルース・ウィルスという、2大旬の俳優が共演する話題作が、「ルーパー」だ。 

 

西暦2074年、タイム・トラヴェルは現実のものとなっていたが、その使用は禁止されていた。しかしギャングたちは消したい者を処分する方法として、非合法でタイム・トラヴェルを利用、邪魔な者を30年前に送り込み、そこで死体を処分することで死体を安全確実に処分するというシステムを構築していた。 

 

2044年にその処刑兼死体処理係を受け持っていた一人が、ジョーだった。ジョーは指定された時と場所に赴き、ライフルを構えて未来からターゲットが送り込まれて今の場所に突然現れた瞬間にその者を射殺し、処分することになっていた。 

 

ルーパーと呼ばれる彼らの実入りはよく、享楽的な生活を送っていたが、未来の雇い人がルーパーとの契約を打ち切ろうと考えると、その時代のルーパー本人を過去に送り込んで、過去の本人が未来の自分自身を始末し、そしてループを断つことになっていた。 

 

ある時、ライフルを構えて指定された時と場所で待っていたジョーに、ついに未来のジョー本人が現れる。しかし現れるタイミングがいつもより多少遅れたため、虚を突かれたジョーは未来のジョーを殺し損ね、逃げられてしまう。未来の自分を殺すことは自分の将来を失ってしまうことに他ならなかったが、しかしその仕事をし損ねることは、ギャングから狙われ、現在の自分の死を意味していた。ジョーは未来のジョーを追う。 

 

実は未来のジョーは、未来においてギャングの手から逃げようと思えば逃げられたが、妻をギャングによって殺されたため、自ら率先して過去に戻り、過去の自分自身と相対して、妻を亡くすという未来を変えようとしたのだ。 

 

未来のジョーを追う現在のジョーは、その過程でシングル・マザーのサラと出会う。サラにはまだ幼い息子のシドがいた。シドはなんらかの理由で世界に現れてきていたテレキネシスを持つ新人類だった。未来のジョーのメモによると、彼らの存在は今後の世界の行方を変えるに足る大きな意味があるらしかった‥‥ 

 

未来の自分が現在の自分を殺しに来るとか、守りに来る、あるいは殺されるために時間を遡って来るなんてのは、SFではわりと使い古された手だ。タイム・トラヴェルものは、多かれ少なかれそういう時間の矛盾というテーマが常に変奏されて使用される。むろん「ルーパー」もその一ヴァリエーションだ。 

 

既にウエルズの「タイムマシン (The Time Machine)」の時代は遠い過去のものとなり、現代ではストレートなタイム・トラヴェルものは観客が飽きている。単純に未来の者が過去に来たせいで歴史が塗り替えられる、くらいのプロットでは観客が納得しない。「ターミネイター4 (Terminator Salvation)」「スター・トレック (Star Trek)」「メン・イン・ブラック3 (Men in Black 3)」と、年々タイム・トラヴェルものは段々ひねりの度合いを増している。近年のタイム・トラヴェル・ネタは、一度見ただけではわけがわからないというか理解できない領域に達しつつある。作る方も観客の予想の裏をかこうと必死だ。 

 

とはいえ、ひねりにひねりを加えて難解にすれば観客が納得するか、面白いものができるかというと、それはまた別問題だ。難しければいいってもんじゃない。とはいえ、誰でも結末が予想できるようなタイム・トラヴェルものほどつまらないものもまたあるまい。そのため、タイム・トラヴェルものは、作り手のセンスが如実に出る。頭のいい悪いではなく、これはもう、センスというしかない。意外性、伏線の貼り方、納得できる結末、そして「ルーパー」は、そのセンスのよさが満喫できる作品だ。 

 

脚本/演出は「ブラザーズ・ブルーム (The Brothers Bloom)」のライアン・ジョンソンで、そういえば「ブラザーズ・ブルーム」はストーリーというよりも、意匠やセンス中心でできていた作品だった。作品中の現在のジョーをジョゼフ・ゴードン-レヴィット、未来のジョーをブルース・ウィリスが演じている。ゴードン-レヴィットがウィルスの若い頃というのは最初無理があるかなと思ったが、わりとうまいメイクでそこそこ説得力がある。ゴードン-レヴィットも歳とると禿げそうだ。 

 

しかし今、最もタイム・トラヴェルものに肌が合っているのは、同様に旬の俳優だが、ゴードン-レヴィットではなく、「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 (Prince of Persia: The Sands of Time)」「ミッション: 8ミニッツ (Source Code)」という癖のあるタイム・トラヴェル/タイム・スリップものに出ているジェイク・ジレンホールだろう。一方で先週見た「エンド・オブ・ウォッチ (End of Watch)」みたいな、リアリティ命みたいな作品にも出ている。ただしさすがに今回は、ジレンホールだとウィルスの若い頃というのは違和感あり過ぎるか。 

 

また、「アジャストメント (The Adjustment Bureau)」ではどこでもドアで突然現れる場所に翻弄されたエミリー・ブラントが、今回は時間の網の目に絡めとられる女性サラを演じている。なぜだかブラントは、準主演級で出ていても、自分が何に巻き込まれているかを知らず、しかしそれなのに世界の将来は彼女如何にかかっているという、無知の全能者に近い存在だ。人は自分が何しているかもよくわかっていない女性に将来を託さざるを得ないらしい。人類の未来はブラントを説得できるかどうかにかかっている。











< previous                                      HOME

近未来。タイム・トラヴェルが発明されていたが、その利用は禁止されていた。しかしギャングたちは自分たちが消したい者を過去に送り込み、そこで処分させていた。ある日ある時ある場所に消したい者をタイム・スリップさせ、そこで待ち構えているルーパーと呼ばれる者が、ターゲットが現れた途端に射殺し、死体を処分していた。ルーパーとして生きているジョー (ジョゼフ・ゴードン-レヴィット) は多額の報酬を得て享楽的な生活を送っていたが、ある時、いつも通りに仕事をするべく約束の場所と時間で待っていたジョーは、そこに現れた男 (ブルース・ウィリス) を射殺しようとして、それが未来の自分自身であることに気づき、戸惑ったその一瞬の隙に男に逃げられる。男を見つけて殺せばそれは自分自身を殺すことになり、しかし仕事を完遂しなければ、いずれにしてもジョーはギャングたちから消されることを意味していた‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system