放送局: TLC

プレミア放送日: 4/13/2004 (Tue) 21:00-22:00

製作: BCII

製作総指揮: バド・ブラッツマン、サンドラ・グレゴリー

カー・デザイナー: チップ・フース

ホスト: クリス・ジェイコブス、コートニー・ハンソン


内容: 持ち主の知らない間に自家用車をメイクオーヴァーしてしまうリアリティ・ショウ。


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アメリカでは今、メイクオーヴァー番組というのが、一つの中くらいのブームとなっている。人なら人、家なら家に思い切り手を入れて作り変えてみようという主旨の番組で、人間メイクオーヴァー系では「エキストリーム・メイクオーヴァー (ABC)」「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ (ブラヴォー)」「ザ・スワン (FOX)」等、家屋メイクオーヴァー系なら「トレーディング・スペイシズ (TLC)」、「ホワイル・ユー・ワー・アウト (TLC)」「エキストリーム・メイクオーヴァー: ホーム・エディション (ABC)」等が、ヒット番組として確立している。


よく考えたらこの手のメイクオーヴァー系は、なにも対象を人と家だけに限るわけではない。それこそメイクオーヴァーを行う対象はなんだっていいのだ。それでもこれまでのメイクオーヴァー番組が基本的に人と家だけに対象を限ってきたのは、もちろん、それが最もドラマティックになるからに他ならない。つまり、人と家以外にそういうドラマを演出することのできる対象を見つけることさえできるならば、今後、新種のメイクオーヴァー番組も間違いなく登場してくるだろう。


と思っていた矢先に現れたのが、この「オーヴァーハウリン'」だ。「オーヴァーハウリン'」は、人でもなく、家でもなく、その人の所有する車をメイクオーヴァーしてしまおうという番組だ。メイクオーヴァーものとしての根底のアイディアとして最も似ているのは、同じくTLCが放送している「ホワイル・ユー・ワー・アウト」だろう。「ホワイル・ユー・ワー・アウト」は、本人のいないうちに、その当人の部屋なりサン・ルームなりをメイクオーヴァーしてしまうという番組だったが、「オーヴァーハウリン'」も、そういう、車のオーナーの知らないうちにメイクオーヴァーを施してしまう。


「ホワイル・ユー・ワー・アウト」の場合、その対象が家の一部であるため、当人の知らないうちに部屋を改装するには、その住人なりを一定期間、家から遠ざけておかなければならない。そのため、番組製作に当たっては、対象となる家の内部に、配偶者や子供たちといった内通者が必要になり、その協力を得て、部屋の持ち主を週末旅行に追い出したりし、その間に一気に改装を施してしまうのだ。


しかし「オーヴァーハウリン'」の場合、その対象は車だ。しかもどう見てもその改造には、少なく見積もっても一週間はかかる。もちろん、内通者の手引きによってオーナーを一週間旅行に行かせるのはできない相談ではないだろうが、その時にオーナーがその車に乗って旅行に出かけてしまったりしたら元も子もない。さらに、その時の演出ももうちょっとドラマティックにしたい。というわけで番組が選んだ方法は、いきなりどこぞのお役所関係の下請けみたいな振りをして現れ、本人の目の前で車をレッカー移動して持って行ってしまうというものだった。確かにこれをやられたら、車のオーナーがびびるのは間違いあるまい。


番組の第一回では、チェヴィの88年型ピックアップ・トラックを所有する青年マットに白羽の矢が当たる。番組撮影班は、早朝、まだマットが寝ている間にマットの家を訪れ、何食わぬ顔で裏で手引きをしているマットの父のジムの差し金により、自宅前に停めてあったチェヴィをレッカー車に乗せる。騒ぎに起こされ、寝ぼけまなこのパンツ一丁で外に現れたマットは、この車は違反常習車だという、レッカー車のドライヴァーに扮装した番組ホストの一人クリスに騙され、愛車が持っていかれるのをただ黙って見ているしかないのだった。


さらに念が入ったことには、サーチ&レスキューなんて警察関係者にも見えなくもない者まで番組の回し者であり、相談に行ったマットはクリスの写真を見せられ、この男は実はお尋ね者なんだよ、あんたの車は実は体のいい詐欺で盗まれたんだと、マットの一縷の希望も粉砕してしまうのだった。マットのチェヴィは、実は死んだ祖父の形見代わりでもあり、で、その車の価値はと訊かれ、「プライスレス (値段なんかつけられない)」と答えてうな垂れるマットの可哀想なこと。そのそばで実は事情を知っている父は、さも残念そうにマットをなだめたりなんかしているのだった。やるな、この父。


で、結局、マットのチェヴィは一週間の間に徹底的に改造を施され、新しく生まれ変わる。ヴォランティアで災害救助活動にも手を貸すマットのために、山道でも問題ないように車高を上げ、ぶっといタイヤをはかせ、牽引用のリールをとりつけ、ライトも強力になり、しかも荷台の下にプロフェッショナル仕様の救助用品一式を揃えたスペースなんてのがあって、お、なんか、確かにこいつはいいぞと思わせる。無論この改造は、マットがどんな車を欲しがっているかということを事前に父から話を聞いて、その意向に沿って改造してあるのだから、マットが喜ばないわけがない。


とはいえ、改造そのものはいいんだが、あの炎のカラリングって、なんとかならんものか。私から見ると格好よくもなんともないんだが。しかし、「ワイルド・スピードx2」でも、あんな感じのべたべたカラリングを施した車がフィーチャーされていたし、どうもあれって、アメリカ人の好みみたいだ。最後はこの作業が行われたガレージに、車見学という名目で連れてこられたマットが、生まれ変わった自分の車とご対面という筋書きで終わる。よかったね、マット、しかし、おまえ、「クール」以外の形容詞を知らんのか。


因みに番組のその他の回では、サーファーがボードを担いで海から戻ってくると、自分の車が忽然と消えていた、なんてシチュエイションもあり、それなりにおかしい。思わず笑ってしまう。だって、水着にあんなでかいボードを抱えたままで、車なしでいったいどうやって家に帰ればいいというのだ。もちろんその回では、77年型エル・カミノなんていう、私がは見たことも聞いたこともないやたらバカでかいアメ車 (だろうたぶん) を、当然サーフ・ボードを上に乗せても様になるように改造していた。


実は車版のメイクオーヴァー番組というと、TLCの姉妹チャンネルのディスカバリーが、2年も前から「モンスター・ガレージ」という番組を既に放送している。しかし「モンスター・ガレージ」が「オーヴァーハウリン'」と決定的に違うのは、「モンスター・ガレージ」では車を本来の用途とは異なったものに大改造してしまおうというところで、「オーヴァーハウリン'」のように車の性能を上げてチューンナップするのではなく、まったく別ものに生まれ変わらせるというところにポイントがあった。


「モンスター・ガレージ」はそれなりに面白い番組で、わりと固定ファンもいたが、「オーヴァーハウリン'」もそれなりの人気を集めそうな気がする。また、最近では、ディスカバリーの「アメリカン・チョッパー (American Chopper)」という、こちらはモーターサイクルのメイクオーヴァー番組が、これまた人気を集めている。元はと言えば教育/ドキュメンタリー専門の二つのチャンネルだが、現在ではこのようなエンタテインメント志向の番組の方が人気がある。もちろん面白ければ私は文句はない。


また、「オーヴァーハウリン'」とほとんど時期を同じくして、MTVも同様のカー・メイクオーヴァー番組の放送を始めている。「ピンプ・マイ・ライド (Pimp My Ride)」と題するその番組は、放送が若者向け専門のMTV、ホストがラッパーのイグジビットということもあり、それこそ黒人が好きそうなガンメタ・カラー、あるいはやはり炎のカラリング、車の中に直径30cmのラウド・スピーカーを装備するなど、ティーンエイジャーか黒人向けの改造で、はっきり言ってこれは、少なくとも見ている分には面白いが、自分の車の改造には役立ちそうもない。その点、どちらかというと「オーヴァーハウリン'」の方が、まだ少しは参考になる。いずれにしても、家、人間、車/モーターサイクルと続いてきたメイクオーヴァー番組のブームは、まだ当分続きそうだ。次はいったい何をメイクオーヴァーする番組が出てくるのだろうか。





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Overhaulin'

オーヴァーハウリン'   ★★1/2

 
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