Morgan


モーガン  (2016年9月)

「ザ・ウィッチ (The Witch)」で印象を残したアーニャ・テイラー-ジョイが人工生命体のタイトル・ロールを演じる「モーガン」、「ウィッチ」を見たのはたった半年前だというのに、いきなり少女から大人の女性になりかけている。このくらいの年頃の少年少女が成長するのは速いということは知っているが、それにしてもこの差はなんだ。身長20cmくらい伸びてないか。


むろん「ウィッチ」と「モーガン」で公開に半年の開きしかないとはいっても、実際の撮影が半年しか違わないということはないだろう。とはいえ、やはり成長の速さには驚かざるを得ない。「ウィッチ」ではまだ幼い妹弟たちの子守りをするロウ・ティーンのお姉ちゃんが、「モーガン」では、大人の気持ちを先読みし、行動を変えて周囲を翻弄するハイ・ティーンの女性だ。人の何倍もの速さで成長するという設定が嘘に聞こえないところがすごい。


それにしても「ウィッチ」では魔女、「モーガン」では人工生命体と、この歳で回ってくるのは非人間的キャラクターばかり。しかも次作はM.ナイト・シャマランのホラーだそうだ。また人間外生物を演じるのだろうか。末恐ろしい女優の誕生だ。


「ウィッチ」の時は思い出しもしなかったが、今回成長したテイラー-ジョイを見て真っ先に思い浮かんだのは、実は「スプライス (Splice)」のデルフィーヌ・シャネアックだ。考えればあれも人工生命体だった。二人が似ているかと問われると、特にそうとも思えないんだが。


「スプライス」では生まれてきたドレンは人として完全ではなかったが、モーガンは美形の部類に入る。ドレンを世に送り出したエイドリアン・ブロディとサラ・ポーリーは、ほとんど親と変わらぬ愛情をドレンに注いでいた。これが人として美しいモーガンならなおさらだろう。


人里離れた山奥で人知れず研究所があるという設定では、今度は思い出すのは昨年の「エクスマキナ (Ex Machina)」だ。そこでも研究されていたのは人工生命、というか、人工知能のエヴァで、やはり人間ではない。人に知られずこっそりしている研究ってのは、やはりどうも疚しい。なんかあると外部には知らせず内々で臭いものには蓋をしてなんとかしようとするし。


ところで作品タイトルはテイラー-ジョイ演じる「モーガン」だが、主人公はモーガンではない。その人工生命体モーガンの精査のために派遣された調査員のリーだ。モーガンが職員の一人を攻撃して大怪我を負わせたため、企業は研究を続ける是非、つまり将来カネになるかどうかの判断のためにリーを派遣する。リー一人が部外者であり、何も知らない。観客はリーと同じ立場で事態を掌握する。


一方これまで研究に携わってきた人々は全員モーガンを自分の娘のように思っており、モーガンの保護者のように振る舞う。果たしてリーは敵なのか信頼できるのか、注意深く観察する。決して居心地がいいわけではないが、それでもリーは業務を遂行しなければならない。


演じるのはケイト・マラで、どちらかというと線が細いという印象の方が強いが、「ファンタスティック・フォー (Fantastic Four)」のようなSFアクションにもよく出ている。「モーガン」でも結構アクション・シーンがあり、実際特に運動できるようには見えないが、その辺は演出と編集でうまく切り抜けている。アクションそのものより、凛とした佇まいの方が買われている。


そのマラが、同様に、というか、それ以上に人間でないくさいテイラー-ジョイを相手に回して丁々発止のやり取りをする。人間の感情や思い込みを読んで、表情を作ってうまく立ち回ろうとする人間でないモーガンと、彼女を相手に逆に表情を変えずに立ち向かうリー。演出のルーク・スコットはこれがやりたかったんだな。


ところで先週見た「メカニック: ワールドミッション (Mechanic: Resurrection)」で、タイの海沿いで隠れ家的リゾートを運営していたミシェル・ヨーが、ここでは研究の主任に扮している。どちらも人の目を避けるように暮らしているという点は同じか。たった一週間でまるで世界の裏表を行き来しているという感じ。


トビー・ジョーンズも先月、第二次大戦ドラマの「エンスラポイド (Anthropoid)」で運のない男を演じ、ここでもツキに見放される。よくよく不幸な星の元に生まれた運命のようだ。他にもブライアン・コックス、ジェニファー・ジェイソン・リー、ポール・ジアマッティと、実は何気に結構唸らせるメンツが出ている。皆人工生命体の創造に興味があるらしい。










< previous                                      HOME

人里離れた場所である企業の実験で人工的に生み出された生命体のモーガン (アーニャ・テイラー-ジョイ) は、人の数倍の速さで成長していた。研究施設の研究員の誰からも愛されて育つモーガンだったが、身体の発育に知能が追いついているわけではなく、ある時ふとしたことがきっかけで職員に襲いかかり大怪我を負わせてしまう。このまま実験を続けるべきかを判断するために、企業は調査員のリー (ケイト・マラ) を施設に派遣する。彼女の意見が研究の今後を決めるために、施設の職員は腫れ物に触るようにリーに相対する。一方モーガンは何事もなかったかのように生活していた‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system