The Witch


ザ・ウィッチ  (2016年3月)

「ザ・ウィッチ」は、スペシャル・エフェクツやいきなりのショッカーで怖がらせるホラーとは異なり、雰囲気、演出でじわじわと怖さを盛り上げて行くタイプの作品だ。その感じは予告編で充分伝わっており、こいつは本気で怖面白そうだ、これは見ないと、と思っていた。 
 
「クルーシブル (The Crucible)」とかでも描かれていたが、米北東部ではかつて宗教裁判、魔女狩りがあった。当時、人々が入植して間もない頃は、すべて人と家畜の手作業で何事も行わなければならず、夜明けと共に起きて働き、日が暮れると家に帰って寝るという時代が長くあった。基本的に自然は手つかずで、開墾されておらず、土地のことを知っている先祖もいない。何も知らない場所ですべてを一からやり始めなければならない時、そこにある種の畏怖譚やゴースト・ストーリーが生まれただろうということは容易に想像できる。人が敬虔であればあるほど、そこに魔女や幽霊の話も生まれる素地もある。 
 
主人公ウィリアムの一家も敬虔なクリスチャンで、朝夕の食事の時は一家揃って神に感謝の祈りを欠かさない。しかし頑固で自分の意見を曲げないウィリアムは、他の者を弾劾して逆に入植地を追われてしまう。今度こそ本当に、自分たちだけですべてを調達しなければならない。 
 
長女のトマシンは生まれたばかりの乳飲み子の世話をして親を助けていたが、ほんの一瞬目を離した隙に、赤ん坊がいずこへともなく姿を消してしまう。さらに一緒に森で行動していた弟のケイレブまでが、はぐれた後、尋常じゃない状態で戻ってきてそのまま寝込んでしまう。下の弟や妹たちはトマシンを魔女だと囃し立て、ウィリアムや母キャサリンまでもがトマシンを疑惑の目で見始める。キャサリンは精神の均衡を崩し始め、トマシンは自分の潔白を証明するために逆に弟妹を弾劾しなければならない。それは無論ある程度トマシン自身に対する心証を悪くする。敬虔な信心深い家族が、今や疑心暗鬼になってお互いを疑い始める。 
 
悪魔憑きのホラーというよりも、そういう心理的に追い詰められていく怖さの方がより怖かったりするが、ちゃんと超常ホラー的な部分もあったりする。いずれにしても、徐々に、着実に精神が蝕まれていく様を描いて、思っていた通りできがいい。かつての「ローズマリーの赤ちゃん (Rosemary's Baby)」のようなロマン・ポランスキーが撮っていたホラーと、スタンリー・キューブリックの「シャイニング (The Shining)」を足して割ったようなテイストと言うと、誉め過ぎになるだろうか。 


キャラクターも、信心深いがそれ故に普通の人たちとは異なったアクの強さが顔に出る、という感じがとてもよく出ていて、キャスティングの巧さにも唸らされる。主人公のトマシンに扮するアーニャ・テイラー-ジョイはモデル兼業だそうだが、そうそう、こういう癖のある美しいモデルって結構いると思わせる。なんとなくケイト・モスを連想させる。演出はこれが長編デビューとなるロバート・エガース。

 

一つネックだったのが、この作品、いわゆる擬古文というか、昔の英語の言い回しが多い。その次代の英国を引きずっている人々だからそれも納得だが、しかし、こういうのって、私のように英語がネイティヴじゃない外国人にとっては、ヒアリングが難関なのだ。ヴィジュアル媒体の映画で、しかも特にセリフが多いわけではないホラーだからなんとかなるが、セリフ劇だったらアウトだなあ。「クルーシブル」がとても聞き取りにくかったという記憶はないが、あれはもともと現代戯曲だから、セリフは今風だったんだろう。 











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17 世紀、ニュー・イングランド地方。ある一家は敬虔なクリスチャンであるが他の者と相容れず、宗教裁判によって入植地を追われ、さらに奥地に向かって進まな ければならなかった。一家の長ウィリアム (ラルフ・アイネソン) は謹厳実直ではあるが頑固で、妻のキャサリン (ケイト・ディッキー) は乳飲み子を抱え、長女のトマシン (アーニャ・テイラー-ジョイ)、長男のケイレブ (ハーヴィ・スクリムショウ) はまだティーンエイジャーでありながらなにかと働いて、赤ん坊や次男次女の面倒を見るなどして親を助けなければならなかった。しかしある時、トマシンが ちょっと目を話した隙に、赤ん坊が忽然と消えてしまう。その後森の中ではぐれたケイレブも異常な状態で見つかり、看護の甲斐なく息を引きとる。母も精神の 均衡を崩し始める。弟妹はトマシンが魔女のせいだからと言い、親までもがトマシンに疑惑の目を向け始める‥‥


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