今、TV・映画界は女性アサシン、もしくは女性アクション・スターが根付くか否かの線上にいるという感触が濃厚にある。 

 

ここ1、2年だけでも、「アンナ (Anna)」のサッシャ・ルス、「ザ・リズム・セクション (The Rhythm Section)」のブレイク・ライヴリー、「オールド・ガード (The Old Guard)」のシャーリーズ・セロン、「エヴァ (Ava)」のジェシカ・チャステインがいたし、TVでもBBCアメリカの「キリング・イヴ (Killing Eve)」のジョディ・カマー、スターズの「カウンターパート (Counterpart)」のサラ・セラヨッコ等、印象的なアサシンは、むしろ男性より女性の方が多いと言っていいくらいだ。 

 

その極めつけと言えるのが今回の「ガンパウダー・ミルクシェイク」で、女性アサシン母娘に彼女らを助ける女性3人組、ついでに彼女たちが守るのは、殺された男の一人娘という、もろ女性中心の布陣だ。対する男の敵チームはおマヌケ・トリオを中心に、医者やハンドラーまで単に金目当てやすぐに寝返るなど、信頼できないことこの上ない。 

 

だいたい、敵も仲間も重要な脇は3人くらいずつというのは、作劇術上、古今東西どこも同じだが、今回は話に絡む重要なキャラクターの敵役が男3人で、味方が女性3人だ。しかも男3人はいわゆる3バカで、使えるのか使えないのかわからない、どちらかというとコメディ・リリーフ的なキャラクターになっている。それに較べると味方の女性3人は正統的助っ人で、それなりの見せ場もある。女性主人公が母と女性3人の助けを借りて幼い女の子を守るというのが粗筋で、出てくる男は殺されるか裏切るかコメディ・リリーフでしかない。最後までいい思いをする男は出てこない。ここまで女尊男卑を徹底されると、それはそれで納得する。 

 

キャスティング上も、3バカ・トリオは知らない役者だが、女性トリオの方はアンジェラ・バセット、ミシェル・ヨー、カーラ・グジノと、どれもハリウッド大作主演級経験済みというキャリアがあり、既に男の3バカとは比較にならない。主人公の母親の伝説的女性アサシンに扮するのは、レナ・ヘディだ。正直言ってこれだけのメンツで守りを固められたら、攻める方もジェイムズ・ボンドやイーサン・ハントやジェイソン・ボーンが一致協力しないと到底太刀打ちできまいという気にさせられる。 

 

キャリア的に最も弱いのは、主人公サムに扮するカレン・ギランだろうが、話はその彼女の成長物語でもあるから、むろんそれはそれで構わない。それに彼女だって既にBBCの「ドクター・フー (Doctor Who)」のレギュラーだったり、「アベンジャーズ (The Avengers)」の一員だったりする。 

 

男性陣で最も知られているのは、サムのハンドラーに扮するポール・ジアマッティだろう。ハンドラーというのは実はなかなか難しい中間管理職で、上からの無理な注文と下からの自己チューでわがままな突き上げの板挟みになりながら、業務を遂行していなかなければならない。おかげでハンドラー職は労多くして功少なく、欲をかくと逆にしっぺ返しは容赦ないという、なかなか辛い立場だ。ジアマッティだとか、「エヴァ」のジョン・マルコヴィッチだとか、曲者がこの職種に多いのは当然だろう。 

 

果たして「ガンパウダー・ミルクシェイク」が続編も視野に入れて製作されたかは知らないが、やろうと思えば充分可能だろう。女性版「ジョン・ウィック (John Wick)」が充分狙えると思う。 

 

< previous                                      HOME

腕利きの女性アサシン、スカーレット (レナ・ヘディ) にはまだ幼い娘のサムがいたが、ある時大勢の追っ手に追われ、サムを残して何処へか去る。15年後、成長したサム (カレン・ギラン) は彼女自身も一人前のアサシンになっていた。ハンドラーのネイサン (ポール・ジアマッティ) の指令で組織から奪われた金の奪回に赴いたサムは、男を撃つが、彼は娘のエミリーを誘拐されてそうせざるを得なかったことを知る。サムはエミリーと共に行動し、組織の者を撃退するが金の奪回には失敗する。その中にはボスの息子がいたが、結局命を落とし、激昂したボスの命により、サムはお尋ね者となる。サムはネイサンの指示でエミリーを連れてセイフハウスに隠れ、そこで、これまで隠れてサムの様子を窺っていたスカーレットに再会する。3人は図書館で追っ手と戦うための武器を調達すると共に、かつての仲間であるアナ・メイ、マデリーン、フローレンスの協力を要請する‥‥ 

___________________________________________________________