The Rhythm Section


ザ・リズム・セクション  (2020年2月)

女性アサシン、もしくは女性スパイもの、あるいはもっと単純に女性が主人公のアクションものは、結構好みだ。昨年も「アナ (Anna)」「クロール (Crawl)」なんてのがあった。特に主人公が逆境に耐えて、何クソと泣きながら歯を食い縛っていたりすると申し分ない。 

 

要するに、今回主演のブレイク・ライヴリーが、「ロスト・バケーション (The Shallows)」でやっていたことだ。というわけで「リズム・セクション」は当然最初から気にかかっていた上に、予告編を見る限り、その私がライヴリーが気になるツボみたいなところが前面に押し出されている作りになっている。作り手も私同様、ライヴリーの魅力はこの辺にあると思っていることが窺える。 

 

今回ライヴリーが演じるのは、家族を飛行機事故で失った女性ステファニーで、すべてを一瞬に失ったステファニーは、その後、身を持ち崩して転落していた。そこへそれがテロだったと教える男が現れたために、復讐を決意するステファニーの行動を描く。 

 

お膳立てとしては特に可も不可もない。しかし今回、「リズム・セクション」が特に批評家から不評なのは、家族を失ってから娼婦に転落し、その後テロリストの存在を知って復讐を決意してから女性アサシンとして行動を起こすまでのスパンが短過ぎて、説得力に欠けるというところにあるようだ。 

 

その点は私もある程度同意せざるを得ない。特に、たとえ背水の陣で、何も失うもののないステファニーが捨て身でマンツーマンでアサシンのコーチを受けようとも、こう短期間でプロの男のテロリスト相手に格闘や銃撃で対等になれるかとは、どうしても思ってしまう。 

 

せめてステファニーが、学生時代に短距離で州記録を持っていたとか、体操の選手だった、くらいの含みがあれば、まだ少しはリアリティが増しただろうが、まったく過去に運動しているようには見えないいいとこのおねーちゃんが、いったん身体を売るまで身を持ち崩して、そこからテロリスト相手に殺し合いできるまで格闘技や暗殺術をマスターできるかというと、どうしてもそこは首を傾げざるを得ない。「アナ」の主人公の父は元軍人だし、「クロール」の主人公はオリンピックを目指す水泳選手だし、「蜘蛛の巣を払う女 (The Girl in the Spider's Web)」の主人公は普段からバイクを乗り回しているし、「レッド・スパロー (Red Sparrow)」のバレリーナというのも、運動神経は悪いわけがあるまい。 

 

それに対し、ステファニーに運動選手めいたところはない。あるいは、それを精神集中と徹底したトレイニングと克己心によってゼロからプロに成長するところにこそポイントがあったのかもしれないが、しかしそれが納得できるレヴェルに達しているかというと、やはりイエスと言うのは躊躇われる。いくら数か月徹底してトレイニングしたからといって、それに並ばれてしまってはプロの名が廃る。 

 

と、どうしても客観的に見ると弱い点が散見されるが、それでも個人的に言うと、私は充分楽しんだ。こういう話のポイントは、痛めつけられ、それに耐える主人公の描き方にあるが、そこはなかなかよく描かれていたと思う。ライヴリーは「ロスト・バケーション」で、極限まで痛めつけられながらも生還して印象を残した。要するにあの表情がここでも生きている。つまり、描きたかったのはむしろこちらの方だ。 

 

演出のリード・モラノは元々は撮影監督で、過去に「フローズン・リバー (Frozen River)」を撮っている。「リズム・セクション」で特筆すべきはタンジールでのほぼドライヴァー目線の長回しのカー・アクションで、こんな撮り方もできるのかと感心させられた。カー・アクションのファンは、このシーンだけでも見る価値あり。要するに女性監督が、女性が主人公のアクションを格好よく撮りたかったのが、「リズム・セクション」なのだった。 

 











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ステファニー (ブレイク・ライヴリー) の家族は飛行機事故によって全員死亡し、以来絶望したステファニーは、身を売る投げやりな生活に転落していた。そこに現れたジャーナリストのプロクターは、事故は実はテロであり、爆弾を仕掛けた者があるという。彼のアパートで様々な事実を突きつけられてこれがテロであることを確信したステファニーは、実行犯であるレーザを殺すためロンドン大学のカフェテリアに潜入するが、銃の引き金を引く決心がつかず、逆にレーザに反撃の機会を与えてしまい、プロクターは殺される。プロクターの記録から、情報源でスコットランドの山奥に隠れて暮らしている元MI6のボイド (ジュード・ロウ) の存在を知ったステファニーは、ボイドの元を訪れる。ボイドは渋々ながら、ステファニーをトレイニングすることに同意する。何も失うもののないステファニーは、短期間でスパイ/アサシンとして必要な様々な技術をマスターする‥‥ 


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