Crawl


クロール ―凶暴領域―  (2019年8月)

つい先頃、超大型のハリケーン・ドリアンがフロリダを直撃するのしないのという話になって、結局、上陸寸前に進路を北東に変え、去っていった。とはいっても被害がなかったわけではなく、それまでにバハマではすべての建物の90%以上に全半壊の損害を与え、フロリダには上陸しなくても東海岸のサウス・カロライナに上陸、それまでにかなり力は弱っていたとはいえ、それでも海岸部には結構の打撃を与えていた。 

 

「クロール」は、ドリアン並みのハリケーンがフロリダを直撃したという設定で、意図的にそういう時期を選んで公開しているだろうとはいえ、町中が水で覆われるという設定に、俄然信憑性が出たのは確かだ。ドリアンが「クロール」公開前に来てたら、人民の気持ちを忖度して公開延期になってたかなと、ふと考える。もしかして本当にフロリダに上陸していたら、あり得ない話ではなかったかもしれない。 

 

大型生物が人間を襲うという設定ですぐに思い出すのは、ちょい前になるが、SyFyがそういう設定のB級パニック・ホラーTV映画を毎週のように放送していた時期があり、その中にまんまの「メガ・パイソン vs ゲイタロイド (Mega Python vs Gatoroid)」という番組があった。主演はかつてのアイドル、ティファニーとデビー・ギブソンという珍品だった。 
 

近年ではそれになぜだか自然災害に乗じて大型生物が登場するという縛りが加わり、「シャークネード (Sharknade)」がフランチャイズ化した。ハリケーンや竜巻に乗じて凶暴化したサメが上陸して人間を食い散らかして、来た時と同様ハリケーンや竜巻と共に去っていく。パニック・コメディだが、近年、サメが近海に出没する件数が増え、その犠牲になる者もいるため、絵空事として一笑に付すという感じではなくなってきている。 

 

そしてまたまたアリゲイターだ。ワニにアリゲイターとクロコダイルという2種類があるのは知っているが、では違いは何かというと、すぐには答えられない。アシカとオットセイの見分け方というのも、気になって調べたりしたこともあるが、いつの間にか忘れている。アリゲイターとクロコダイルも同様で、別に近くにそういうワニが棲息しているわけでもないため、例えば顔の先端が尖っているのがxxで、平べったいのがxxという見分け方自体は知っていても、ではどっちがどっちかという一番重要なポイントを忘れている。役に立たない知識だ。 

 

答えを言うと、平べったい面をしている方がアリゲイターで、アメリカ南部に多く棲息しているのが、これだ。そしてそれよりも重要なのが、ではクロコダイルとアリゲイターとではどっちの方がより凶暴かという点で、実は、アリゲイターはクロコダイルほど好戦的ではないのだそうだ。時々巨大アリゲイターがゴルフ場をゆうゆうと横切っていくのがニューズになるのを見るし、PGAツアーでミシシッピやフロリダで開催されるトーナメントでは、ゴルフ場内の池からアリゲイターがを覗かせていたりする。わりと近くまで人が近寄っていたりしても、噛み殺されたという話は聞かない。近年、毎年確実に何件かはあるサメによる被害の話と較べると、やはり特に凶暴というわけじゃないんだろう。 

 

とはいえ、それだと話が始まらない。というわけで実はもしかしたら図体がでかいだけでわりとおとなしく、自分から人に危害を与えようとするわけではないアリゲイターを悪役にして製作されたのが、「クロール」だ。ハリケーンが来たせいで餌が流されたりして数日間何も食ってなく、そのせいで人を襲うというのは、ありかもしれない。 

 

実はこれを書いているのは、「クロール」を見て、その後バハマをドリアンが直撃した後だ。映画を見ている最中は、完全に町中が水没するのを見ても、単純にすごい特撮だな、くらいにしか思わなかったが、ドリアンのせいでほぼすべての建物が水に埋もれた映像を見せられた後ですぐ隣りのフロリダという設定の「クロール」を思い返すと、あれはあり得ない話じゃないなと、リアリティが増す。とはいえドリアンの後に「クロール」をエンタテインメントとして見る気になるかというと、それはまた違うような気がする。映画としては、無事公開されてよかったんだろう。 

 

こういうパニック・ホラーでは、主人公、しかも女の子の主人公がいかに痛めつけられるか、それをどこまで我慢するかの表情がキモだ。特に女性、女の子が一人で絶体絶命という状況に置かれて、必死にもがく時の迫真の表情が作品の成否を決める。近年では「ロスト・バケーション (The Shallows)」のブレイク・ライヴリーが思い浮かぶが、「クロール」ヒロインのカヤ・スコデラーリオも負けてはいない。襲われてできた傷があまりにも痛いので涙が流れるが、声を出すとアリゲイターに気づかれるので、懐中電灯を咥えながらも歯を食いしばって耐える。 

 

ところで、実は「クロール」を見に行ったのは、題材が面白そうと思ったというよりは、製作にサム・レイミの名を見つけたからだ。レイミ、あのかつてのB級ホラーの代名詞とも言えたレイミが、また初心に帰ってスプラッタ・ホラーを手掛けるのかと興味が湧いたからだ。実際にはレイミが演出しているわけではなく、プロデュースのみで、監督を務めているのは「ホーンズ (Horns)」のアレクサンドル・アジャだ。それでも確かに、ホラーではあるが捻ったユーモアも絡むレイミ的なテイストは随所に見られ、思わずにやりとしたり、また他のところではわかってはいても思わずわっと驚いて一瞬椅子から飛び上がってやられたと思ったりするなど、そこそこ楽しませてくれる。やっぱ一夏に一回はこういう納涼ホラーは欠かせんなと思うのだった。 











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フロリダ。水泳でオリンピックを目指していたがついに1位になることはなかったヘイリー (カヤ・スコデラーリオ) には、かつて自分をコーチしてくれた頑固だが娘思いの父デイヴ (バリー・ペッパー) がいた。今しもカテゴリー5という超大型のハリケーンがフロリダを直撃しようとしていたが、今では離婚して一人暮らしをしているその父と連絡がとれない。ボストンに住む姉も心配の連絡をくれる。胸騒ぎのするヘイリーは、危険区域のため警察が阻止するのを無視して、かつて住んでいた家を訪れる。その地下で、ヘイリーはアリゲイターに襲われて意識を失っている父を発見する。ヘイリー一人では父を運ぶことはできず、さらに、ハリケーンのせいで水位が上がり、水が入り込み出した地下に、新しいアリゲイターが侵入してくる‥‥ 


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