The Shallows


ロスト・バケーション  (2016年7月)

夏だ、シャーク・ウィークだ、というディスカバリー・チャンネルの宣伝に乗せられたわけでもないのだが、シャーク・テーマのサスペンス・アクションということで、「ロスト・バケーション」を見に行く。


スティーヴン・スピルバーグの「ジョーズ (Jaws)」を上回るシャーク・ムーヴィが簡単にできるわけがないのは、見る方も作る方も重々承知しているわけだが、それを知っていて尚かつシャークで押してくるからには、新たなギミックの付加やそれなりの自信があるからだろう。


あるいは、SyFyの「シャークネイド (Sharknado)」フランチャイズのような、その裏をかいたトンデモ系の作品という可能性もなきにしもあらずではあるが、TVならまだしも、金をとる劇場公開作品でそれをやったら血祭りに上げられることは目に見えているので、さすがにそれはあるまいと思う。散見する評もそこそこ好意的で、それなら、と思ったのだった。


今回のギミックというかポイントは、主人公がサメに襲われたせいで、岩礁に一人取り残されるというところにある。サメに襲われるのも怖いが、動けないまま餓死か溺れるのも怖い。わずか100mほど先は浜なのだが、地上で走ればせいぜい2、30秒、泳いでも数分の距離が、サメが近くを泳いでいるために絶望的に遠い。


というシチュエイションで思い出すのは、「ジョーズ」というよりも「オープン・ウォーター (Open Water)」の方だ。大海原に一人取り残される感覚は、太陽燦々と明るい陽射しの下であるだけに、逆により一層怖さが際立つ。私は南方の生まれで、ガキの頃の夏休みは、よく四方を海に囲まれた小さな島の祖母の家で過ごした。やることがないのでほぼ一日中海にいるのだが、遠浅の海の沖合いまでじゃぶじゃぶ歩いていくと、はっと気づくと潮が満ちてきていて、背が立たなくなって泳がないと浜まで帰れない。毎日海で遊んでいても泳ぎを正式に習ったことがあるわけではなく、我流だから適当には泳ぐけれども遠泳が得意というわけではない。浜はすぐそこのように見えるのだが、実は結構な距離がある。周りには見渡す限り人っ子一人いない。岩礁の上にとり残されたナンシーの気分がよくわかった。あれは本当に怖いのだ。私の場合はサメはいなかったけれども。


普段ならやって来ないというサメが沿岸の近くまで来ている理由は、餌となるクジラの死骸が漂流して来ていて、サメはそれを追っているからだ。以前PBSで、死んだクジラの死骸を解剖する「インサイド・ネイチャーズ・ジャイアンツ (Inside Nature's Giants)」という番組を見たことがある。映画でナンシーが、腐りかけてぶよぶよになったクジラの皮膚に思い切り手を突っ込んで引っかけ、海中に滑り落ちてサメに襲われないようにするという描写があるが、死んだクジラは本当にあんな感じで、しかも相当に臭いらしかった。ガスが体内に溜まって自然爆発することもあるらしい。さらに身体の大きなクジラには寄生虫が多く、解剖すると、にょろにょろとおえっと思える虫がうじゃうじゃ出てくる。そういう腐ったクジラの上でサメをやり過ごさなければならない。想像すると本気で吐き気が込み上げてくるので、見ている間中、考えないようにしていた。


ところでスペイン語が話せないナンシーは、地元の人間とたぶんグーグル通訳を使ってコミュニケイションを図る。ここであっと思わせられたのは、ナンシーがiPhoneを横にして、底の部分に向かって発声したことで、マイクが前面もしくは上でなく、まさか底に仕込まれているとは知らなかった。調べてみると私の持っているLGのスマートフォンもやはりマイクは底にあった。ヴィデオ撮影する時はどうしてもカメラ・レンズを対象に向けないといけないので、当然マイクも近いところに同じ向きであるものだとばかり思い込んでいた。マイクが底になければいけない理由があるのだろうか。


いずれにしても、スマフォに通訳機能があれば、確かに便利だ。ということで、私のスマフォにもグーグル翻訳をダウンロードして、日英で設定して、試しに、こんにちは、と吹き込んでみた。すると、翻訳された英語は「Today」で、そうじゃないだろ、それじゃ使えないだろ、と、次に、お帰りなさい、と言ってみると、今度は「Welcome back」とちゃんと訳してきた。ほう、と思って、今日は朝からムシムシして暑い、と言ってみたら、Hot and humid in the morning today、と返してきた。100%の精度じゃないが、これなら結構実用に使える。言葉の知らない外国の穴場に一人で行って、現地でコミュニケイトできる時代にはなってきているようだ。だからこそ単身行動してサメに襲われるなんて事態になるとも言える。便利にはなったが最後に自分の身を守るのは、やはりスマフォではなく自分自身の知恵と勇気と体力だ。










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母をガンで亡くした医者の卵のナンシー (ブレイク・ライヴリー) は、友人と二人でメキシコのほとんど知られていない秘密のスポットにサーフィンに訪れる。しかし羽目を外した友人は二日酔いで時間に遅れ、ナンシー一人がスポットを訪れ、サーフィンを楽しむ。しかし沖合いにはクジラの死骸が流れて浮いており、それに釣られて大型のサメも来ていた。サメに襲われたナンシーはほうほうの体で岩礁にたどり着いて、そこで一夜を明かす。浜を歩いていた酔っぱらいのおっさんも、親しくなった地元のサーファーもサメの餌食になった。ナンシーもここで短い一生を終えるしかないのか‥‥


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