キリング・イヴ (Killing Eve) 

放送局: BBCアメリカ 

プレミア放送日: 4/8/2018 (Sun) 20:00-21:00 

製作: シド・ジェントル・フィルムズ 

製作総指揮: サリー・ウッドワード・ジェントル、フィービー・ウォーラー-ブリッジ 

原作: ルーク・ジェニングス  

出演: サンドラ・オー (イヴ・ポラストリ)、ジョディ・カマー (ヴィラネル/オクサーナ・アスタンコヴァ)、フィオナ・ショウ (キャロリン・マーテンス)、ダーレン・ボイド (フランク・ヘイルトン)、オーウェン・マクドネル (ニコ・ポラストリ)、カービー・ハウエル-バプティスト (エレナ・フェルトン)、ショーン・ディレイニー (ケニー・ストウトン)、デイヴィッド・ヘイグ (ビル・パーグレイヴ)、キム・ボドニア (コンスタンティン・ヴァシィリエフ) 

  

物語: ウィーンでロシアの要人が暗殺される。セキュリティ・カメラの死角で一瞬のうちに行われた犯行はプロの仕業に間違いなかった。ロンドンのMI5のエージェント、イヴ・ポラストリは、これは女性暗殺者の仕事だと仮説を立てるが、オフィスにはそういう暗殺者の記録はなかった。殺されたロシア人と一緒にいたポーランド人のガールフレンドはロンドンに連れてこられるが、薬とアルコールと恐怖のせいで何を訊いても要領を得ない。たまたま夫がポーランド人で、ポーランド語のスラングでも解釈できたイヴは、手柄を立てようと上司の許可を得ずに勝手にインタヴュウを録音し、病院でさらに話を訊こうと先走るが、一瞬の差で関係者は皆殺しにされていた。イヴはMI5をクビになる‥‥ 


_______________________________________________________________

Killing Eve


キリング・イヴ  ★★★1/2

ABCの「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anatomy)」を辞めた後、しばらく名前を聞かなかったサンドラ・オーが、今度はロンドンのMI5のエージェントに扮するという。オーはあまりアクションやスリラーという印象がなかったため、結構意外に思った。 

 

オー扮するイヴはロンドンのMI5でアナリスト的な仕事をしている。要するにデスクワークで、身体を張った諜報活動に従事しているわけではない。多かれ少なかれCIAだろうとMI5だろうと、諜報機関とはそういうものだろう。だからいきなりカラオケ・パーティに繰り出して、翌日半分二日酔いで会議に遅刻なんて、いかにも普通のオフィス勤めみたいな失態を演じてしまう。一方で上昇志向もあるイヴは、ウィーンで起きたロシア要人暗殺事件の犯人は女性に違いないと直感、上司の許可を得ずに独自に調査を開始する。 

 

イヴの直感は的を得ていて、実際、暗躍しているアサシンは妙齢の女性ヴィラネルだった。ヴィラネルはかんざしのような暗殺器を武器に、ヨーロッパの各地で暗殺を請け負っていた。しかし彼女がロシア要人を暗殺した時に一緒にいたガールフレンドも始末しなかったことは、後々問題になる可能性が浮上してくる。ヴィラネルのハンドラーであるヴァシリエフは、ヴィラネルにガールフレンドを始末するよう命じる。 

 

イヴとヴィラネルは、ガールフレンドが収容されているロンドンの病院のトイレでニアミスする。イヴが鏡に向かって髪型を直している間に、ヴィラネルは易々と目的を達して姿を消していた。スタンドプレイが仇となったイヴはMI5をクビになるが、その夜、MI6のキャロリン・マーテンスが家を訪れ、暗殺者の正体を正確に予測したイヴに第2のチャンスを与える。イヴは偏執狂的にヴィラネルを追い、一方、ヴィラネルも自分の跡を確実に執念深く追ってくるイヴに個人的な興味を持つようになる‥‥ 

 

と、話自体まず面白い。特に女性アサシンというのは今シーズン、スターズの「カウンターパート (Counterpart)」でも登場して印象を残しており、旬のキャラクターのようだ。ただし「カウンターパート」のアサシン、ボールドウィンは、美形ではあるがシャープな印象で、時に男に変装して仕事を遂行する。 

 

一方「キリング・イヴ」の女性暗殺者ヴィラネルは、モデル体型のブロンドの美女で、機敏に動くこともできるだろうが、それよりもまったく人殺しには見えないという外見を武器にしている。誰も彼女を人殺しとは思わないから、易々と目的を達成できるというのはある。 

 

さらにヴィラネルは、情緒的にも独特で癖がある。プレミア・エピソードの冒頭、たぶん前夜、暗殺を果たしたばかりのヴィラネルはアイスクリープ・ショップで、母と一緒にアイスクリームを舐めている少女が気に入らず、店を出掛けにアイスクリームの器を娘の服にひっくり返す。そんなこと、怒った少女の母によって警察沙汰にならないとも限らず、そうなれば自分の素性がバレる可能性もあるのに、そんなこと気にしない。 

 

本拠のアパートはパリにあり、同じビルのテナントの老女が重いものを持ってやっとのことで階段を降りてくるのを見ても意に介さず、逆に毒づかれる。暗殺の仕事を持ってくるハンドラーのヴァシリエフを引っ掛けようと、死んだ振りしてみせたりする。仕事が終わった後、気分転換に男女をアパートに連れ込んで翌朝3人でベッドで死んだように寝ていて、ヴァシリエフが部屋に入ってきたことにも気づかない。 

 

要するにまるでプロらしくない。たぶんそのために彼女が危ないオーラを纏うことなく、一見してちょっとおつむの足りなさそうなブロンドの美形モデル以上には見えないことが、逆に彼女を一流の暗殺者に仕立てている。ヴィラネルがアスペルガー症候群である可能性はかなり高いと見た。 

 

ヴィラネルはそうやって失敗することなく数々の仕事を遂行してきたが、その仕事の痕跡から、これまでは露見することがなかった彼女の素性を予測した者が現れる。それがイヴだ。ヴィラネルの正体を見破り、今や彼女を追うことを専門に働くようになったイヴ、そして正体を見破られたことを察知し、逆に正体を見破ったイヴに興味を抱き、イヴを観察、暗殺しようとし始めるヴィラネル。番組は二人のイタチごっこの攻防を時にサスペンスたっぷりに、時に捻ったユーモアも交えて描く。 

 

オーがこれまでに演じてきたキャラクターは、だいたいにおいてキャリア重視の、上昇志向の強い女性だ。このことは「キリング・イヴ」にも言える。ただし「キリング・イヴ」においては、現実に中年に近くなってそのことにちょっとアブラの抜けた余裕や諦観、ユーモアといった味付けが加わり、それがキャラクターとマッチして、今までにない深みが出てきた。 

 

この程発表された今年のエミー賞ノミネーションで、オーは「キリング・イヴ」でアジア系女優として史上初めて主演女優賞にノミネートされた。番組を見る限りそれも納得だ。というか、オーが受賞する可能性は非常に高いと思う。ヴィラネルに扮しているジョディ・カマーもノミネートされていてもいいのにと思ったら、彼女は助演女優ではなくてオー共々主演女優として推挙されてノミネーションを逸したとのことだ。主演じゃなくて助演ならまず間違いなくノミネートされたと思うのに、惜しいことをした。 

 

他にもオーのポーランド人の夫役のオーウェン・マクドネルも非常にいい味出している。要するにこの番組、非常にできがいい。時にヴァイオレントでありながらユーモアも醸し出すこのテイストは、やはりヨーロッパが舞台だからだろうか。 











< previous                                    HOME

 
 
inserted by FC2 system