Fast and Furious 6


ワイルド・スピード EURO MISSION  (2013年6月)

実は「F&F6」、どんどん話や描かれ方がマンガ的になってきていて、評もお笑いに片足突っ込んでいるという評され方をしているのを見て、今回はパスしようと思っていた。当然ここはブラッド・ピット主演の大型アクション・ホラーの「ワールド・ウォーZ (World War Z)」を見に行くつもりだった。そしたらうちの女房が、「ワールド・ウォーZ」は私も見るけど今週は予定が入っていて行けないから来週一緒に行くから別のを見てと言う。それでいったんパスしていた「F&F6」が、再度候補として浮上してきたのだった。 

  

それにしても邦題では「F&F4」が「MAX」、「F&F5」が「MEGA MAX」と来て、さあ、今度はどうなるかと怖さ半分で期待していたんだが、「Euro Mission」とは肩透かし。ここは「Ultra SuperMAX」くらいは行って欲しかった。 

  

「F&F」がマンガチックになってきたのは、ほとんどCG技術の革新と軌を一にしている。CGだと現実にあり得ないアクションの描写が可能だが、クルマという普段我々が日常的に利用している物は、実はCGにはあまり適さない。007じゃあるまいし、クルマが空飛んだり水に潜ったりするのを見たいわけじゃない。我々が見たいのは手に汗握るカー・チェイスなのだが、実写だとありとあらゆるシチュエイションが既に存在しており、これという新たなアクションを作るのが難しい。 

  

「ボーン (Bourne)」シリーズがえらいのはそういう難しいことに毎回挑戦して毎回驚かせてくれたからなのだが、それだって一つの作品に1シーン程度だからできるのであって、クルマ・テーマで基本的にカー・チェイスで作品が成り立っている「F&F」で、いつもいつも印象的なカー・チェイスだけで作品を構成できるわけもない。それでCGを駆使して現実には到底実現不可能なアクション・シーンを作る。実際これまでに見たこともないアクション・シーンになるのは事実だが、それが面白いかどうかは別問題だ。 

  

この傾向が鮮明になったのは、ジャスティン・リンが演出し、舞台を日本に移した「Tokyo Drift (F&F3)」からだ。山の中を深夜ドリフトを駆使しながら2台のクルマが並走暴走するというのは実写撮影が難しかったのはわかるし、渋谷のスクランブル交差点を人の波をかき分けて爆走するというのも、実写では到底実現不可能だろう。CGを使わざるを得なかったというのもわからんではないが、しかし、そういう実写ではないシーンが印象に残ること、その上「3」では舞台が日本ということから来るキッチュなテイストが、シリーズに独特の展開を与えた。 

  

その後「MAX (F&F4)」ではクルマは山の採掘坑の中を爆走して、今度は「インディ・ジョーンズ (Indiana Jones)」のようになってしまうなど、どんどんファンタジー化する。さすがにお遊びが過ぎたと思ったか、「MEGA MAX (F&F5)」では南米を舞台にバディ・ムーヴィ化することで、やはり荒唐無稽ではあるが、それまでと較べるとリアルな方向に軌道を修正し、シリーズとしては最高の収益を上げた。 

  

そして今回の「6」だ。一応「5」で一つの区切りみたいなのはついていたが、それでも死んだはずのレティが最後に顔を見せるなど、まだまだシリーズは続いていくことを示唆していた。一方、「5」で登場したプロレスラーのザ・ロックことドウェイン・ジョンソンが「6」にも登場、レギュラーとなりそうで、そのこともシリーズが「5」から新しい方向に軌道転換したことを感じさせる。特に、大柄豪放のジョンソンの存在がシリーズに与えた印象の影響は小さくない。 

  

さらに今回、そのジョンソンの部下として登場するライリーを演じるジーナ・カラーノも、MMA出身のプロの格闘家だ。考えたら、プロレスはショウだ。いかにしてアクションを格好よく見せるかがプロレスの本質だ。そしてアクションを格好よくこなすことに関してはカラーノも人後に落ちないことは、「エージェント・マロリー (Haywire)」で既に証明している。ジョンソン、それにカラーノの起用は、シリーズがCGではなく実写路線に進むことの意図の現れか。 

 

という希望的観測が希望に過ぎなかったことは、実は既に証明されてしまっている。特にクライマックスの高架の高速道上での、戦車まで登場させてのほとんど引 力や物理法則を無視した強引なカー・アクションは、本当にマンガと言わざるを得ず、手に汗を握るというよりも、思わず苦笑する。 

 

さらに最後の滑走路でのカー/エアプレイン・アクションは、いたずらに長過ぎる。アクションを詰め込んだというよりも、これでは冗長に過ぎる。飛行機が離陸のために滑走路を走り出してから、延々と10分くらい離陸しないままアクションが続く。時速200kmで10分も走ったら既に30km超の走行距離だ。羽田から楽々と都心に到達してしまう。そんな長い直線距離を持つ滑走路なんて世界中どこを探してもない。 

  

こんなことを考えるのも、もっと話を締めてタイトにできるからで、例えば、同じようにクライマックスで延々と滑走路を走りながらアクションを繰り広げた「ダイ・ハード2 (Die Hard 2)」で、ブルース・ウィリスがもたつき過ぎると不満を口にする者がいないのは、当然観客が話に夢中になってそこに気づかないからだ。「F&F6」はそのレヴェルには達していない。 

 

演出のリンは今回が最後というのは決まっているそうで、確かにここら辺で最後にした方が本人のためにもフランチャイズのためにもよかろう。シリーズとしても本来なら明らかにここで打ち止めとなりそうなものを、なんと最後にはトーキョーでやり残した仕事があると、ハンを再度トーキョーに送り込んでしまうし、しかもそこに現れたのは、運び屋「トランスポーター (The Transporter)」のジェイソン・ステイサムだ。 

 

「トランスポーター」シリーズがまだ続いていたとは知らなかったが、クルマに的を絞った2大シリーズが、どうやらここに来て共闘を決めたようだ。それはそれで確かに興味を惹かれないこともない。最後にステイサムが登場するまでは、たぶん「F&F」シリーズを見るのもこれが最後だなと思っていたのだが、ステイサムが現れ、監督も代わってたぶん次から大きく様変わりするのであれば、新しい「F&F」に食指が動かないこともない。ステイサムが「F&F」を現実路線に引き戻してくれることを切に願う。 









< previous                                      HOME

元軍人のショウ (ルーク・エヴァンス) は、ロンドンを中心にヨーロッパで特殊車両を駆使して続け様に大きな事件を起こしていた。FBIのホブス (ドウェイン・ジョンソン) とライリー (ジーナ・カラーノ) はプロにはプロをと、レティの恋人だったドミニク (ヴィン・ディーゼル) に協力するよう話を持ちかける。死んだはずのレティ (ミシェル・ロドリゲス) が実は生きていて、ショウの片腕として働いているというのだ。ドミニクは世界中に散らばっていた元の仲間たちに召集をかける。既にミア (ジョーダナ・ブリュースター) との間に子供もできていたブライアン (ポール・ウォーカー) を筆頭に、いったんは引退していた仲間たちが、もう一度最後の花火を打ち上げるべく集結する‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system